ソマリア沖で、いま何が起こっているのか!!【国際】

ソマリア沖で、いま何が起こっているのか!!


 世界地図を開いて、ソマリアを探してみましょう。アフリカの東海岸に位置し、インド洋に突き出た「アフリカの角」と呼ばれる半島の周囲を占めているのがソマリア民主共和国。このソマリア沖で近年、海賊が頻繁に出没し、世界海運の脅威となるとともに国際問題にも発展しています。
ソマリア沖は、スエズ運河からアデン湾を通りインド洋に通じる海上の大動脈で、世界中で年間2万隻を超える船舶が往来しています。このうち日本船舶は約2300隻にも達し、貿易立国日本を支えています。日本から遠く離れ、あまり馴染みの無い地域かも知れませんが、海賊問題で揺れるソマリア沖の動向を決して見逃すことはできません。

ソマリア沖で、いま何が起こっているのか!! 【ソマリア沖に海賊が出没する背景は?】
 - 無政府状態にあるソマリアという国 -  
 海賊を取り締まり処罰するのは、海賊が属する当事国のソマリアです。例え、公海上で起こった海賊事件であっても、彼らが寄港地とするソマリアの政府が責任を持って対処しなければなりません。
 しかし、現在のソマリアには、国土を実効的に統一支配する政権がなく、無政府状態が続いています。海賊問題を複雑、かつ深刻にさせているのは、こうしたソマリアの現状に起因しています。統一政府が存在しない理由は、現在でもソマリアは「内戦」状態にあるからです。

 - 植民地政策の影響が今も残るアフリカ大陸 - 
 アフリカ大陸は、19世紀から20世紀にかけて、西洋列強の植民地政策に翻弄された歴史があります。植民地の宗主国は、自国の利益の追求をはかり、現地の人々の意向などを全く無視して植民地政策を推進してきました。
 現在のソマリア領地は、19世紀後半から北部はイギリスの植民地、南部はイタリアの植民地になっていました。そして、一時期統合した時代などを経て、第二次世界大戦後は両地区ともイギリス、イタリアから独立し、統合してソマリア共和国が誕生しました。
 独立したソマリアは、今度は東西冷戦の影響を大きく受けます。親米政権が支配する隣国エチオピアと、ソビエトに傾くソマリアが対立し、1969年にクーデターを起こし実権を把握したモハメド・バーレ将軍は、社会主義国家を宣言し、国名をソマリア民主共和国に変更しました。
 ところが、1973年にエチオピアでは、ハイレ・セラシエ皇帝の退位で急転直下、社会主義国家建設を目指すことになりました。一方、ソマリアでは、エチオピアの政権転向が影響してか、従来の親ソ路線を捨て、新米路線を取るという驚くべき事態が発生したのです。

 - 国際社会にも見放され、無政府状態に - 
 両国は対立を深めるとともに、エジプト国内にいるソマリ族による分離独立運動の高まりを受け、1977年に戦争状態に突入しました。いわゆる「オガデン戦争」と呼ばれるものですが、ソマリアは敗北を喫しました。結果、ソマリアは深刻な政治・経済的混乱を深めることになったのです。さらに、国内での氏族対立も激化し、内戦状態となりました。
 国際社会もこうした混乱を見捨てるわけにいかず、国連を中心に食料などの援助活動を展開するとともに、PKO部隊による軍事介入にも踏み切りました。ところが、現地で激しい抵抗を受け、1995年に国連のPKO部隊は撤退し、ソマリアは完全な無政府状態のまま今日を迎え、国際社会からは見放される結果となりました。
 このような、ソマリアの国内状況を背景に「海賊」問題を考えないと、その本質を見逃す恐れがあります。
ソマリア沖で、いま何が起こっているのか!! 【「海賊」の正体は漁民?】
 - ここ数年、急増する海賊被害 - 
 ソマリア沖の海賊が、国際海事局に報告されたのは2000年に入ってからのこと。2005年以降は急激に多発し、海賊が出没する海域も沿岸から390海里と遠方に達するようになりました。
 襲われる船舶も貨物船、旅客船、それにタンカーなど多岐に渡り、大型船も目立つようになりました。ちなみに、2007年に約50件だった海賊被害件数が、2009年には約110件にも跳ね上がり、インドネシアとマレー半島の間に横たわるマラッカ海峡の海賊が、沿岸諸国の取り締まり強化で減少する反面、ソマリア沖の海賊の被害件数の急増が注目されます。

 - 世界経済にも大きな影響が! - 
 海運会社や荷主、船員などにとって、海賊から如何に逃れるかが緊急の課題。一番安全な方法は、この危険な海域を通過しないことです。ソマリア沖を避け、アフリカ南端の喜望峰を回ることで、安全にインド洋に出ることができますが、日数や燃料費が余分にかかり、現実的な対応とはいえません。経済事情という現実的な問題の前に、危険を承知でこの海域を航行しているのが現状です。
 現在、人質になっている船員は600人近くに達し、身代金の交渉が行われているそうです。このため、船員がソマリア海域を通過する船舶への乗船拒否、保険料率の引き上げなど、国際海運業界に大きな影響を及ぼすとともに、世界金融危機に端を発した世界経済にも影響があると心配されています。

 - 漁民が武装し、海賊に変身 - 
 世界中を不安に落とし込んでいる海賊ですが、その正体はソマリア沖を漁場とする漁民だというから驚きです。
 ソマリア人は、本来魚をあまり口にしない民族で、漁師が獲った魚は輸出品として海外に輸出され、貴重な外貨を稼いできました。ところが、1990年以降、ソマリアは無政府状態になり、ソマリア沖の豊かな海に外国の漁船が領海侵犯して操業しても取り締まることができなくなりました。このため、ソマリアの漁民は自らに力で漁場を守るため、武装化していったのが海賊の始まりです。
 国内が内戦状態のため、容易に武器を入手でき、さらに身代金を手にすることで装備を充実させるという悪循環を招いていると指摘されています。

 - ソマリア沖海賊の特徴 - 
 ソマリアの海賊の特徴は、身代金のみを目的にしていることです。数隻の漁船やボートに乗り込み、目的の船舶を襲い船員を人質に身代金の交渉を船主と行います。時には数ヶ月の交渉も珍しくありません。なぜ、このように手間のかかる手法を取るのでしょうか。
 ソマリアが内戦状態にあり、無政府状態のため、海賊は国の軍隊や警察の追及を心配することなく、現金を奪うまで粘り強く交渉できます。また、積荷や原油を奪おうとしても、沿岸に適切な荷揚げ場やクレーンがなく、例え奪ったとしても売り捌くノウハウを持っていません。このため、身代金を奪い、貧困から抜け出すことが大きな目的になっています。
ソマリア沖で、いま何が起こっているのか!! 【動き出したソマリア沖の海賊対策】
 - 国連でも海賊撲滅に乗り出す - 
 国連のPKO軍が1995年にソマリアから撤退し、国際社会は混乱が続くソマリアを見放した形になっていました。しかし、世界各国は、海賊の襲撃によって船舶の運航に障害をもたらすことは、世界経済にも影響を及ぼしかねないとしてさまざまな対策を打ち出しています。
 国連では昨年6月、安全保障理事会で14カ国が共同提案した「国連安保理決議1816」を採択し、各国の船舶の安全運航を守るために領海内での警備を認めたり、アデン湾に「安全航行帯」を設け、各国が共同して警備することを取り決めました。このように、世界全体で海賊撲滅に取り組むことになりました。

 - 日本も海上自衛艦2隻を派遣 - 
 現在、ソマリア沖に軍艦を派遣して海賊対策にあたっている国は21カ国に上っています。アジアでも中国、韓国、シンガポールなど多数の国が軍艦を派遣し、日本も3月14日に海上自衛艦「さざなみ」と「さみだれ」の2隻が警備のために出港しました。
 しかし、現在の法律ではさまざまな問題を含んでいます。自衛隊を海外に派遣し、警備にあたるわけですが、海賊が出現し武力を行使した時、海上警備行動として何処までやれるのか?自衛隊には違反行為をする人間の逮捕権がなく、同乗する海上保安庁の保安官が担当します。また、外国の船舶が襲われたときの対応など多くの問題を抱えたままの出港となりました。
 政府は自衛艦での海賊の取り締まりという新しい事態に機敏に対応できる、新しい法律の成立を目指して国会審議に入っています。この推移を注意深く見守りたいものです。

 - 国際化によって船舶の権利関係も複雑に - 
 日本船舶の被害と紹介しましたが、船舶の所有・運行などに関して複雑な権利関係があります。各種報道を注意深く見ていると、日本ではなくパナマやリベリア船籍の船と紹介されることがあります。これは、船主が自分の船を税率の低い国のものにすることで、税金を節約しようというもので「便宜置籍船」と呼ばれています。さらに、税金対策とともに、乗組員の人件費も抑えることができ、船主にはありがたい制度になっています。
 しかし、海賊などの問題が起こると、最終的な責任はどこにあるのか、不幸にして身柄を拘束されたとき、身代金の支払いはどこが行うのかなど多くの問題が発生します。船の実質的な所有者、所属する国籍、船員の国籍、さらには積荷の所有者など、海運業界の国際化は著しいものがあり、トラブルが起こると収拾が困難な場合が増えています。
ソマリア沖で、いま何が起こっているのか!!  - 国連をはじめとする国際社会の取り組み - 
 国連安保理事会では昨年6月、人道支援物資の輸送と通商航路の安全確保のため、国連憲章第7章に基づいて加盟国の海軍艦艇に、海賊行為を阻止するため必要な措置を取る権限を認めました。
 また、国際海事機関(IMO)でも、ソマリア沖の海賊の脅威に対応するため、国際社会やソマリア暫定政府に対し、拘束している船舶・乗員の早期解放、領海内への立ち入り、海賊に対する必要な司法措置などさまざまな要請を行っています。
 海賊という犯罪に対して力で対応するとともに、無政府状態のあるソマリアに対してさまざまな支援・援助を通して海賊の完全撲滅を国際社会は目指しています。
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