人類の歴史を伝える世界遺産【国際】

人類の歴史を伝える世界遺産


【貴重な建物や自然を守り続けるために】
 - 1972年のユネスコ総会で「世界遺産条約」が成立 - 
 地球上には、いつまでも残しておきたい貴重な建築物や美しい自然がたくさんあります。そんな、世界中の人たちにとって価値ある建物や自然を保護し守り続けようという取り組みが「世界遺産」といいます。
 世界の国々が足並みをそろえて「自然や建物を守ろう」と決めたのが、1972年の第17回ユネスコ総会。パリの本部に、世界各地の代表が集まり「世界の文化遺産および自然遺産に関する条約(世界遺産条約)」を成立させたことが始まりです。そして、20カ国が条約締結した1975年に正式にスタートしました。
 世界遺産の第1号は、1978年に登録されたアメリカのイエローストーンやエクアドルのガラパゴス諸島など12件(自然遺産4、文化遺産8)。日本は1992年に世界遺産条約を批准し、125番目の加盟国になりました。ちなみに2008年現在の条約締約国は185カ国になっています。

人類の歴史を伝える世界遺産  - ヌビア遺跡(アル・シンベル神殿など)の救済がきっかけ - 
 歴史的価値のある建物や自然を守ろうという機運が世界的に盛り上がったのは、1960年代から始まったエジプト・ナイル川流域のアスワン・ハイ・ダム建設計画です。アスワン・ハイ・ダムが完成すると、アル・シンベル神殿やイシス神殿など、ヌビア遺跡と呼ばれる古代エジプト文明の遺跡群が水没してしまうことになります。
 ユネスコでは、ヌビア遺跡救済キャンペーンを展開し、世界の60カ国の援助によって技術支援、学術調査を行いました。そして、遺跡内にあるアル・シンベル神殿の移築を行ったことが、世界遺産条約成立の大きなきっかけになりました。加えて、1972年にユネスコが「人間と生物圏(MAB Man and the Biosphere)」計画を発足させたことで、国際的に自然保護運動の気運が高まったことも見逃せません。
 このヌビア遺跡群は1979年に世界文化遺産に登録されています。
人類の歴史を伝える世界遺産  - 「文化」「自然」「複合」の3種類の世界遺産 - 
 世界遺産を決めるのは、国連の機関・ユネスコの「世界遺産委員会」。21カ国の代表が集まり、話し合って決めています。2009年6月現在、世界遺産の総数は890件で、この内訳は文化遺産698件、自然遺産176件、複合遺産は最少の25件となっています。日本は14件の遺跡が登録され、世界の遺産登録件数では15番目となっています。

 - 忘れてはならない「負の遺産」 - 
 世界遺産の中には、戦争や人種差別など人類が犯した悲惨な出来事を思い出させる遺産も登録されています。ユネスコには明確な定義はありませんが、一般に「負の遺産」と呼ばれています。「負」とはマイナスのイメージがあって、悲しい思いや悪い印象を抱きますが、人類のために忘れてはならない、人類のために残した方がいいと判断され、世界遺産に登録されています。負の世界遺産の例として次のような遺産が登録されています。
 日本の「原爆ドーム」は、人類史上初めて使用された核兵器の恐ろしさ、悲劇を後世に伝えるために世界遺産になりました。
 ナチス・ドイツがユダヤ人を大量虐殺した「アウシュビッツ強制収用所」も、戦争の恐ろしさ、人種差別の残酷さをこれからも伝え続けるために登録されています。
 さらに、奴隷貿易の拠点となった「セネガルのゴレ島」、奴隷交易港として機能した「タンザニアのザンジバル島」なども負の遺産として知られています。
 南アフリカの「ロベン島」は、人種隔離政策に反対した人々が収容された島として後世に伝えるために世界遺産になっています。
 多くの世界遺産が観光地化している今日、こうした負の遺産として人類が犯してきた悲惨な地域についても想いを馳せる必要があります。
人類の歴史を伝える世界遺産 【遺跡が世界遺産に登録されるまでに】
 - 世界的に「顕著な普遍的価値」を持つことが前提 - 
 世界遺産に登録するには、世界的に「顕著な普遍的価値」を持つことが前提になります。さらに、世界遺産委員会が定める世界遺産の登録基準の一つ以上を満たす必要があります。
 そして、世界遺産として将来にわたって継承していくための恒久的な保護管理措置が求められています。保護管理措置には、適切な立法措置、人員確保、資金準備、管理計画などが含まれます。

 - 各国の担当政府機関を通して申請 - 
 世界遺産リストへの申請は、各国の関係機関を通じて行われます。日本の場合、文化遺産候補は文化庁、自然遺産候補は環境省が主に担当します。これに文部科学省、国土交通省などで構成される世界遺産条約関係省庁連絡会議で推薦されます。
 推薦された世界遺産登録候補は暫定リストとして外務省を通じてユネスコに提出されます。暫定リストを受け取ったユネスコ世界遺産センターは、関係団体の現地調査を受けて登録推薦を判定し、世界遺産委員会で最終審議が行われ正式登録となります。
 このように、世界遺産リストへの申請は、各国の関係機関を通して行われます。ただ、地震などの不測の事態で緊急に登録する必要な認められた時は、個人や団体からの申請であっても受理されることがあります。
人類の歴史を伝える世界遺産 【世界遺産を巡るさまざまな問題も発生!】
 - 崩壊の危機にさらされる世界遺産 -  
 ユネスコで世界遺産が決められてから37年が経過しました。その間、自然災害、紛争、環境悪化、都市開発、経済問題などで崩壊の危機に直面している世界遺産も少なくありません。ユネスコでは、世界遺産条約に基づいて緊急の救済が必要な物件を「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録し、保護活動に力を注いでいます。
 現在、30件を上回る世界遺産が「危機にさらされている世界遺産リスト」に登録されているのが実情です。自然遺産では、アフリカの自然保護区が目立っています。地域紛争、密猟、人口増加などが大きな原因となっています。
 文化遺産でも「エルサレムの旧市街とその城壁」は民族紛争で大きく傷つき、アフガニスタンの「バーミヤン盆地の考古学遺跡」は、崩壊、劣化、盗掘などで危機にさらされています。また、ネパールの「カトマンズ渓谷」は、無秩序な都市開発が危機の原因です。
 ユネスコでは、専門家を派遣して修復に当たるとともに、資金的援助も行っています。
人類の歴史を伝える世界遺産  - 世界遺産の種類と地域の隔たり -  
 現在、世界遺産に890件が登録されていますが、内訳は文化遺産689件、自然遺産は176件、そして複合遺産は25件と種類によって隔たりがあります。また、地域的に見ると、ヨーロッパが圧倒的に多いことがわかります。
 世界遺産条約締約国186か国の中で、世界遺産に1件も登録がない国が38カ国に及びます。ユネスコはこうした事態を受け、内容・地域の偏りを直すため、文化的景観、産業遺産、現代建築なども登録していく方向で「顕著な普遍的価値」の見直しに着手しています。

 - 観光資源としての世界遺産の功罪 - 
 世界遺産に登録されると、大きく報道され観光客は急増します。人類が残してきた建物や自然をじっくりと目に焼き付けたいという願いは当然かもしれません。世界遺産は観光資源として当該地域の経済に寄与するという反面、保護し後世に残すべき世界遺産が汚染されるという問題が指摘されています。
 日本のランドマークともいえる富士山は、国の特別名勝にも指定されています。この富士山を、世界遺産に登録するという活動が展開されているのは当然かも知れません。しかし、観光客が今以上増えて、ごみの山になってしまうと反対している人も数多くいます。ユネスコ世界遺産センターの関係者からも、「環境保全対策に問題がある」と指摘され、現在でも世界遺産暫定リストに掲載されたままになっています。
 人類が営々と築き上げ、将来にわたって守り通そうという世界遺産の趣旨と、遺産を観光資源として地域経済に生かしたいという思惑が交錯しているのが現状です。
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