変貌する中国【国際】

変貌する中国


 中国はここ10年の間に目覚ましい経済成長を遂げてきました。そして今年、国の経済力を表す国内総生産(GDP)で中国が日本を抜いて世界第2の経済大国に浮上することが確実となりました。長く深刻な不況に苦しむ日本、米国、欧州とは余りにも対象的な中国の躍進ぶりが目立ちます。21世紀は中国を主役としたパクス・シーナ(チャイナ)の時代となるのでしょうか。華やかな経済成長の一方で、中国は拡大する貧富の差、地域・社会的格差、環境問題、表現の自由や人権・知的財産権問題、少数民族問題など多くの課題を抱え、経済大国という光の裏面に暗い影を投げかけています。中国経済の現状と、内に抱えるさまざまな課題や今後の問題点を考えてみましょう。

変貌する中国 - 今、最も輝いている中国。空前の来場者でにぎわった上海万博。 -
 国の威信をかけて中国が熱演した2008年の北京オリンピック。世界が驚嘆した華麗な開会イベントはまだ記憶に新しいと思います。
 2年後の今年、空前のスケールで開かれた上海万博は、過去最高の来場者でにぎわいました。いずれも、中国が主役となる世紀の到来を予感させるものでした。
 それは、年率10%前後の高い経済成長を続ける、中国ならではの国家的大パフォーマンスだといえます。昨年8.7%の経済成長を果たした中国は、今年10.5%の二桁成長を打ち出しています。今最もエネルギッシュで輝いているのが、中国であることは間違いありません。
変貌する中国 - 今年中国は、国内総生産で日本を抜いて世界第2位の経済大国へ -
 一国の経済規模を示す国内総生産=GDP(名目値)で、中国は今年4-6月(第2四半期といいます)の合計が1兆3369億ドルとなり、初めて日本(1兆2883億ドル)を抜きました。
 予想では今年、中国はアメリカに次ぐ世界第2の経済大国になることが確実視されています。
 日本の10倍以上の人口を抱える中国が、経済規模で日本を上回るということ自体は、そうビックリすることではないかも知れません。
 たしかに経済の規模を表す国単位の国内総生産(GDP)では中国が日本を抜きますが、国民の豊かさを示す1人当たりの国内総生産(物価や為替レートの影響を除いた購買力平価べース)では、まだ中国は日本に遠く及びません。
 国際通貨基金(IMF)が推定した2010年の1人当たりのGDPを見ますと、日本が3万3478ドルで世界第25位。中国は7240ドルで第96位となっています。
 参考までに最も豊かな1位の国はカタール(9万149ドル)、2位がルクセンブルグ(7万9411ドル)、3位ノルウェー(5万2964ドル)と続きます。
 しかし、戦後の復興から奇跡といわれる高度経済成長を経て、世界第2位の経済大国に駆け上ってきた日本が、かつて途上国といわれてきた中国に追い抜かれたことに、時代の移り変わりを感じます。

- この10年、深刻な不況に苦しむ日米欧。この間中国は高い経済成長を続ける -
 中国は、10年前の1999年の時点では、日本の4分の1の経済規模(GDP)にすぎませんでした。ところが、この10年の間に中国は年率10%前後という高い成長を続けて、ついに日本を抜いて世界第2位の経済大国に躍り出ました。
 しかもこの10年の間、欧米や日本ではずっと景気の悪化が続き、国の経済はゼロ成長、あるいはマイナス成長を続けていました。
 とくに、一昨年秋の「リーマンショック」と呼ばれる世界を襲った金融危機の影響で、日本や欧米先進国の景気は一層悪化しました。
 世界の商取引の代金決済の中心となる基軸通貨であるドルの値打ちが下がり続け、アメリカ経済は出口の見えない不況に包まれています。
 日本はもっと深刻です。長期の円高が続いて輸出産業が大きな打撃を受け、国の内外でモノが売れず経済活動が縮減(しぼんでしまうこと)するデフレ不況に陥っています。
 モノが売れませんから企業経営は苦しく、賃金は下がり、失業者は増え、深刻な就職難、雇用不安が広がっています。将来に希望がもてない閉塞感が社会全体を覆って、国民の政治への不満、不信感が高まっています。
 世界の経済が低迷を続けている中で、どうして中国だけが10年もの間高い経済成長を続けることができたのでしょうか。
変貌する中国 - 自動車産業も日本を抜いて中国が世界一。中国は「世界の工場」に -
 中国経済の躍進ぶりは国内総生産(GDP)だけではありません。製造業の総合力評価ともいわれる自動車産業では、昨年中国の自動車生産台数が1379万台を記録し、日本の793万台を抜いて世界一となりました。
 皆さんの身の回りにあるオーディア製品や携帯電話、ゲーム機、家電製品、衣料、スポーツ用品、生活雑貨品などを見てください。ソニーやパナソニック、任天堂、米アップル社、ミズノといった世界的なトップブランド製品もその多くが「メイド・イン・チャイナ」です。
 世界の市場で激しい価格競争を繰り広げている日本や欧米先進国は、とくにここ10年から20年の間に、争うように中国に工場を進出させてきました。理由は、中国の安い人件費と豊かな労働力を活用して、少しでも製品のコストを下げようというものです。
 繊維製品から鉄鋼、機械、家電製品、食品、自動車、IT(情報技術)関係のハード・ソフトまで、あらゆる分野の工業製品、生活用品が中国で生産されるようになりました。
 そうです。中国国内には世界各国から多くの投資(お金)が集中し、工場や倉庫などが建ち並び、「世界の工場」として経済活動は非常に活発となりました。
 中国で生産された製品は世界中に輸出され、貿易によるお金が中国に集って、中国経済はさらに拡大し好景気が続いていったのです。

- 中国はドイツを抜いて世界第1の輸出国。世界の工場から世界の市場に -
 日本貿易振興機構(ジェトロ)がまとめた「2010年版ジェトロ世界貿易投資報告」によりますと、09年の世界全体の貿易額(輸出ベース)は前年に比べて過去最大の23.0%も減少して、12兆2950億ドル(約1045兆円)となりました。
 ところが中国は、世界の輸出全体の10%近くを占め、これまで輸出額トップだったドイツを抜いて世界第1位の輸出国となりました。
 世界の工場を標榜(ひょうぼう)する中国は世界最大の輸出国となり、世界中からお金が入ってきます。この結果人々の所得は増大し、購買力が増えて家電製品や自動車など消費活動が活発となりました。
 中国で生産される高額の家電やIT製品、自動車などが、中国国内でどんどん消費され、今や中国は単なる生産拠点ではなく、消費する場、つまり市場(マーケット)として育ってきたのです。
 中国でモノが売れる。モノが売れずに不況に苦しんでいた日本や欧米の企業が、「最後の市場」といわれる中国に、争ってモノを売り込んでいきました。スーパーやコンビニ、飲食店やファッション産業なども中国にどんどん出店しています。
 急成長を続ける中国の企業が、日本や欧米の企業を買収することも珍しくなくなりました。最近では、日本の有名なアパレル会社のレナウンが、中国企業に買収されて傘下に入りました。 

- 世界中から中国にお金が集まる。輸出に有利に働く人民元の実質固定相場制 -
 世界中から中国への投資が一段と活発になり、今中国は空前の好景気に沸き立っています。
 高速道路網や高速鉄道網などの産業基盤の整備も進み、中国経済は過熱気味とも思われる成長を加速させています。
 人民元の実質的な固定相場制も、中国の輸出促進に有利に働いています。
 ドルをはじめ、日本の円や欧州のユーロなど世界の主要な通貨は、経済の実態に応じて外国通貨と交換する場合の価値が変動する「変動相場制」を採用しています。
 中国の通貨である人民元は固定相場制を採用し、外国通貨に比べて価値が低く設定されています。このため、輸出代金支払いを自国通貨よりも価値の高い外貨で受け取るために、より多く儲かることになります。
 2005年に一定の範囲で変動させましたが、実際には固定相場と変わりはありません。
 戦後しばらくは日本も、1ドル=360円という固定相場の時期がありました。現在は円高で1ドル=85円前後ですから、かつて円は非常に安かった、つまり値打ちが低かったのです。 
 これは、まだまだ弱かった日本の経済を保護し、輸出産業を拡大して日本経済を強くするための措置でした。
 自国の通貨の価値が低く、他の外国の通貨に比べて安い(外貨の値打ちが高い)と、外貨で支払われる輸出代金の価値が高いので、輸出は非常に儲かるというわけです。
 外貨に比べて中国の人民元も完全に変動相場に移行することによって、はじめて日本や欧米諸国と並んで本当の経済の実力が試されることになります。
変貌する中国 - 1978年、計画経済から自由主義経済へ大転換。
                   小平の改革・開放経済が始まる -

 今の中国は中国共産党のみが政権を担う、事実上一党独裁の社会主義国家です。第二次大戦後、蒋介石率いる国民党軍と毛沢東率いる人民解放軍が国内戦を戦い、勝利した中国共産党が1949年に中華人民共和国を樹立しました。
 建国後の中国経済は計画経済が円滑に機能しませんでした。しかも1960年代後半から70年代前半にかけて、中国全土で巻き起こった「文化大革命」で国内は混乱し、農業や産業は疲弊して、中国経済は大きく後退しました。
 やがて 小平をはじめとした毛沢東が亡き後の指導者が、改革・開放政策を打ち出して社会主義計画経済から自由主義市場経済へ大転換しました。1978年12月のことです。
 80年には改革開放の象徴として初の「経済特区」が広東省の深 市に設けられ、外国資本の規制を緩和して海外企業を積極的に受け入れました。
 とくに90年以降は、中国の安くて豊富な労働力を求めて、日本をはじめ世界の主要企業が雪崩(なだれ)を打って中国へ工場進出しました。
 現在、日本の貿易相手国は米国を抜いて中国がトップを占めています。今や、生産拠点、マーケットとしての中国を抜きにして、日本経済は考えられなくなっています。
 しかし、今後も中国の経済成長は続くのでしょうか。何より政治的に社会主義体制の中国が、自由主義経済システムを維持していく上で矛盾や問題はないのでしょうか。

- 広がる格差、中国は最も不平等な国。人口1%に富の40%が集中する -
 この10年、中国は目覚ましい経済発展を遂げたものの、社会的、経済的格差は一層拡大しました。今中国は、人口のわずか1%に全国の富の40%が集中する、世界でも最も不平等な国のひとつに数えられています。
 現在中国では低賃金労働者や少数民族などによる年間推定10万件の集団抗議事件が起きているといわれます。人権抑圧や知的財産権の保護、そして何よりのまったなしの深刻な環境問題が指摘されています。
 中国はエネルギー消費の60%以上を、煤塵(ばいじん)や硫黄酸化物、窒素酸化物などの汚染物質を大量に排出する石炭に頼っており、世界で最も多く二酸化炭素(CO2)を排出しています。
 国際エネルギー機関(IEA)によりますと、中国は2009年に石油換算22億5000万トンのエネルギーを消費し、米国の21億7000万トンを抜いて今や世界第1位のエネルギー消費国です。
 最も懸念されるのは中国政府が環境破壊の実態を示す正確なデータを公表していない点です。干ばつや洪水、水質汚濁と水不足による疾病や環境汚染による被害状況の正しい実態把握がなされていません。

- 日本の優れた環境技術・経営ノウハウで日中が手を携えて持続的な発展を! -
 かつて日本はがむしゃらな経済発展の陰に、水俣病やイタイイタイ病をはじめ、大気汚染、土壌汚染、工場廃液やヘドロ、赤潮による河川や海洋の汚染といったさまざまな環境破壊や公害問題を起こしました。そして、その防止と修復、自然環境の保全に国を挙げて努力してきました。
 今日、環境問題を抜きにして経済を語ることができません。環境と経済の調和ある発展に、日本が培ってきたすぐれた環境技術や環境マネージメントのノウハウが、中国経済の調和のとれた持続的な発展に貢献できれば、と願わざるを得ません。
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