「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか?【国際】

「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか?


【2014年、外国人旅行者が1300万人を突破】
 街を歩いていると、外国人旅行者の姿をよく見かけるようになりました。2014年に日本を訪れた外国人旅行者は1300万人を突破し、2015年はさらなる増加が見込まれています。外国人観光客の受け入れは、少子高齢化や不況の影響により国内での消費が低迷している日本経済を活性化させる方法として注目を集めています。

「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか? - 日本に来る外国人旅行者は大きく増加 -
 21世紀に入ってから、日本を訪れる外国人旅行者の数は年々増加の一途をたどっています。グラフを見てみると、2003年に500万人程度であった訪日外国人旅行者の数は、2014年には1300万人を突破しており、この10年あまりで倍以上に増加していることがわかります。この旅行者の数には、仕事で日本を訪れた外国人も含まれていますが、これほどに外国人旅行者の数が増えたのは、観光目的での旅行者数が激増していることが大きく影響しているのです。
 このような外国人旅行者数の激増は、アジアからの旅行者が、この10年あまりで3倍以上に増えていることに支えられています。日本から遠いヨーロッパやアメリカからの旅行者数がなかなか増えないなか、日本のお隣の韓国・中国・台湾からの旅行者はもちろん、この数年は、タイやシンガポールなど東南アジア諸国からの旅行者が急速に増加してきています。
「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか? - 「ビジット・ジャパン事業」と「観光立国推進基本法」 -
 この10年で、訪日外国人旅行者の数が倍増したのは、2003年に日本政府が旗振り役となって官民共同ではじめた「ビジット・ジャパン事業(訪日旅行促進事業)」による成果といってよいでしょう。
 バブル経済(1986~91年)の崩壊は、長く続く日本経済の低迷をもたらしました。とくに1990年代の後半は、銀行や大企業の倒産も続き、「就職氷河期」と呼ばれるように、高校や大学を卒業したばかりの若者がなかなか仕事につくことができないほどの不況が続いたのです。しかも、80年代の円高の時代に製造業が多くの工場を海外に移転させていたため、国内で雇用をつくりだすには製造業にかわる新たな産業が必要になっていました。
 そこで、日本経済の低迷を救う新たな産業として観光に注目した日本政府は、日本がもつ観光資源としての魅力を世界中に発信し、訪日外国人旅行者数の飛躍的増加をめざそうと「ビジット・ジャパン事業」を始めることになりました。この事業は、とくに中国・台湾・韓国などアジア諸国に日本の魅力を売り込むことで、アジアからの訪日旅行者の激増に大きく貢献したといえます。
 2006年に制定された「観光立国推進基本法」は、21世紀の日本経済の中核を担う産業として、観光の振興に取り組むという政府の方針を具体化したものです。2008年には、「観光立国推進基本法」の実施を担う省庁として観光庁が設置され、観光庁を中心に官民一体となった訪日旅行者の誘致が進められることになったのです。

- 「観光立国」の推進は日本経済再生の切り札 -
 日本が「観光立国」を目指した理由としては、次の3つがあげられます。①観光客受け入れによる経済効果 ②新興国の旅行需要の拡大 ③地域の活性化です。
 経済効果とは、訪日旅行者による日本国内での宿泊や交通機関の利用、そしてショッピングなどでなされる多額の消費で、国内消費の低迷を補うことができるということです。2014年4月の消費税の8%への増税も影響して、国内消費は冷え込んでいますが、2014年10月から訪日旅行者の消費税を免税としたこともあって、訪日旅行者による消費はますます拡大しています。
 新興国の旅行需要の拡大とは、とくにアジアを中心とした新興国で、海外旅行を楽しむ余裕が生まれてきたことです。高度経済成長をとげたかつての日本でも、東京オリンピックが開催された1964年に海外旅行が自由化されて、観光目的で海外に渡航できるようになりました。当時、憧れの旅行先はハワイでした。アジアの新興国は、高度経済成長期の日本と同じように、外国に憧れ、海外旅行を楽しむようになっています。
 地域の活性化とは、以前のような有名観光地を順番に回る、という受け身の観光から、地域の自然環境や歴史・文化を積極的に学ぶ体験型観光へと、観光のあり方が大きく変化していることが影響しています。農業体験や酒蔵巡り、スポーツイベントなど体験型観光は、地域に滞在して行われることが多いために、旅行者と地域に暮らす人々との交流が生まれるなど、単なる消費にとどまらない地域の活性化を促すことができます。なかでも、少子高齢化にともない人口が減少している地域では、産業も流出して雇用の場が失われ、さらに人々が出て行くという悪循環のなかにあるため、体験型観光は地域に雇用の場を生み出すという意味でも、ますます重要さを増しているのです。
 では、日本を訪れる外国人旅行者は、日本のどんなところに魅力を感じてやってくるのか見てみましょう。
「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか? - 欧米からの旅行者が再発見した日本文化 -
 『ロンリープラネット』という英語の旅行ガイドブックを知っていますか。世界一のシェアを誇るこのガイドブックの日本案内は、有名観光地だけではなく、日本人でもあまりなじみのない隠れ家的観光地も紹介しているため、とくに欧米からやってくる訪日旅行者から絶大な支持をうけています。群馬県の秘湯・宝川温泉は『ロンリープラネット』に掲載されたことで、多くの訪日旅行者が殺到する人気スポットとなり、海外の著名人も訪れるようになりました。
 また、平安時代以来の伝統をもつ仏教寺院が多くある和歌山県の高野山も、欧米からの旅行者の人気が高まっています。2004年に世界遺産に登録されたことをきっかけに、高野山は海外にも知られるようになり、2013年には5万人をこえる訪日旅行者が高野山に宿泊して、座禅体験などをしています。
 日本文化の象徴である温泉や寺社仏閣は、私たちにとってはごく身近なものであり、あらためてその文化的価値を考える機会はあまりないでしょう。けれども、異なる文化圏からやってきた外国人にとって、日本文化との出会いは新たな発見に満ちています。訪日旅行者が抱く日本文化への関心を通じて、わたしたちも日本文化の価値を再発見できるのかもしれません。

- アジアからの旅行者が求めているもの -
 経済成長を続けるアジアからやってくる旅行者は、LCCなどの格安航空便を利用して、とくにショッピングを楽しみにして日本にやってきます。アジア各国で人気の高い日本製の家電製品や薬・化粧品は、為替相場での円安や外国人旅行者への消費税免税制度などの恩恵もあって、アジアからの旅行者に飛ぶように売れています。
 中国の旧正月である「春節」の大型連休を迎えた今年の2月中旬は、とくに中国からの観光客が日本に押し寄せました。百貨店やドラッグストア、大型家電量販店などでショッピングを楽しむ様子が、新聞やテレビで連日報道されたことは記憶に新しいでしょう。
 また、意外なことに、私たちにはおなじみの「100円均一」のお店にも、多くの観光客が押し寄せました。ちょっとした雑貨や化粧品だけではなく、傘や靴下、下着までも買える「100円均一」のお店は、外国人にとっても楽しい場所なのです。
 それだけではありません。とくに中国の富裕層は、高度に発達した日本の医療に信頼を寄せており、日本に滞在してがん検診や人間ドックを受診する人が増えています。観光やショッピングに加えて、このような日本ならではの付加価値のあるサービスを提供することで、より多くの観光客を集めることができるのです。
 実際に、長野県などでは、雪合戦やそり遊びを楽しめるスペースを拡張したスキー場が、東南アジアなど雪の降らない国々からの観光客の評判を呼んでおり、多くの家族連れ観光客が泊まりがけで雪遊びを楽しんでいます。
 このように、日本に暮らす私たちにとってごく当たり前の日常の暮らしも、外国人観光客にとっては魅力あふれる観光資源になっていることがわかるでしょう。
「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか? - 日本の人気は世界でどのくらい? -
 とはいえ、旅行先としての日本の人気は、実はそれほど高くはありません。2013年の外国人旅行者訪問数を見てみると、人口6600万人(日本の人口のほぼ半分)のフランスが8300万人と圧倒的トップとなっています。アジアでは世界第4位の中国がトップ(5500万人)で、日本はタイ(2650万人)、韓国(1217万人)より下の世界27位(アジア8位)と出遅れているのです。
 2014年には訪日旅行者数が1300万人を突破したため、日本の順位はあがっているはずですが、それでも、トップクラスの国々とは大きな開きがあります。政府は、2013年6月に出した「日本再興宣言―JAPAN IS BACK」で、2030年に訪日外国人旅行者数3000万人を実現するとしています。これを本当に実現できるかは、より多くの外国人旅行者を受け入れるためのさまざまな施策の有効性にかかっているといってよいでしょう。

- 外国人旅行者を呼び込むために必要な施策は? -
 2014年6月、政府は「観光立国実現に向けたアクションプログラム2014」(アクションプログラム)を策定して、訪日外国人旅行者数3000万人実現に向けた具体的施策を打ち出しました。アクションプログラムは、官民一体となって日本の魅力をさらに発信していくことに加えて、入国ビザ取得要件の緩和や出入国管理の迅速化など、外国人旅行者の利便性の向上などを提言しています。
 とくに重要な点は、日本国内で外国人旅行者を受け入れる環境を整備するよう提言していることです。多くの外国人旅行者にとって日本語のハードルは高く、看板や案内標識の内容を理解することは困難です。さらに、タブレット端末などで情報を検索しようにも、日本国内では公衆無線LANやWi-Fiへのアクセスポイントが少ないため、インターネットに接続することすら簡単にはできないのです。そのような状況を改善するために、看板や案内標識の多言語化(英語・中国語・韓国語など)や公衆無線LANやWi-Fiへのアクセスポイント整備が急ピッチですすめられています。
「観光立国JAPAN」 日本経済回復の救世主となるか? - 日本のグローバル化のために -
 このように日本は、「観光立国」をめざして、訪日外国人旅行者の受け入れ拡大のために、さまざまな施策を実行しています。その成果もあって、訪日外国人旅行者数は着実に増え続けています。しかし一方で、80年代に急増した出国日本人数は、1990年代半ばから頭打ちの状況が続いています。
 豊かな日本で暮らしていると、わざわざ外国に出かける必要はないかもしれません。けれども、外国でさまざまな人や文化にふれる体験は、わたしたちの見聞を豊かにしてくれ、新たな物事の見方を示してくれます。
 この文章を書いている筆者は、20歳のとき旅したフィンランドの片田舎のバス停で出会ったひとりの男性のことが忘れられません。一見してアフリカ系とわかる彼は、片言の英語で、自分は内戦で荒れ果てたソマリアからフィンランドに難民としてやってきたばかりだと教えてくれました。遠い外国のできごとでしかなかったソマリア内戦の凄惨な現実を実感した瞬間でした。
 日本のグローバル化は、訪日外国人旅行者数3000万人の実現だけで可能なのではありません。私たちもまた外国に目を向ける必要があるのです。
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