いま「ウクライナ」で何が起こっている【国際】

いま「ウクライナ」で何が起こっている


 ウクライナでは2014年2月、親ロシア派のヤヌコビッチ政権が親ヨーロッパ派の反政府運動によって崩壊しました。これに反発したロシアは、3月にクリミア半島を併合しました。さらに、ウクライナ東部でも親ロシア派の住民がロシアを後ろ盾にして諸都市を占拠してロシアへの編入を求め、ウクライナ軍と武力衝突を繰り返してきました。国連の調査によると、この武力衝突で6000人以上が犠牲となり、約150万人もの人が故郷を追われたとのことです。
 今年2月に停戦協定が結ばれましたが、今後の推移については予断を許しません。再び大きな武力紛争が起これば日本にも影響が及ぶため、ウクライナの動向を注意深く見守っていく必要があります。

いま「ウクライナ」で何が起こっている - ウクライナという国の歴史 -
 東スラブ人が4~6世紀に現在のウクライナの地に移動し、8世紀後半にキエフ・ルーシ(キエフ大公国)が成立しました。1240年にモンゴルの来襲でキエフは崩壊し、東スラブ人はロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人に分化していきました。
 14世紀にはリトアニア大公国やポーランドの領土に分割されました。そして、18世紀後半にロシア領になるものの、1917年に独立を宣言する中央ラーダ政権が成立し、ウクライナ人民共和国が誕生しました。この年、ソビエト政権も成立し、約3年にわたるウクライナとソビエトとの戦争が起こります。その結果、1922年にソビエト社会主義共和国連邦が成立し、ウクライナはソビエト連邦の構成国の一つとなりました。そうした中、1986年にウクライナ北部にあるチェルノブイリ原子力発電所で事故が発生し、現在でも大きな影響を及ぼし続けています。
 ソビエト連邦が1991年に崩壊し、ウクライナはキエフ・ルーシ以来最大の領土を持つ国家として独立しました。ウクライナの面積は、日本の約1・6倍の60万3700平方㎞で人口は約4500万人です。このうち、77・8%がウクライナ人、ロシア人は17・3%、そのほかベラルーシ人、モルドバ人、クリミア・タタール人などが暮らしています。
いま「ウクライナ」で何が起こっている - 政府と親ロシア派の路線対立 -
 ウクライナは独立後、隣接する東ヨーロッパとロシアとの均衡策を模索します。ウクライナの西部には広域経済圏を目指すヨーロッパ連合(EU)構成国が立地し、東部には石油や天然ガスなどの資源大国ロシアが控えています。ウクライナは農産物には恵まれていますが資源は乏しく、エネルギー資源の多くはロシアに依存してきました。
 このため、ウクライナ東部に多く居住するロシア系住民の間ではロシアとの関係強化を望み、親ヨーロッパ派の多い西部ではEU加盟を模索していました。このように、ウクライナは独立後から国境を接する東ヨーロッパ(EU)とロシアとの間にあって、これらの国々とどのように関わるのかという議論が交わされてきました。この路線対立が、今回のウクライナでの武力紛争に繋がっていきます。

- 今回の武力紛争が起こるまで -
 2004年の大統領選挙で、親ロシアのヤヌコビッチ首相に対して親欧米派のユーシチェンコ元首相が挑みました。ヨーロッパ連合に加わるか、エネルギーで依存しているロシアとの関係強化を重視するのかという二者択一を迫られた激しい選挙戦の結果、ヤヌコビッチ氏の勝利が発表されました。しかし、選挙に不正があったとして、ユーシチェンコ候補の支持者が抗議運動を展開しました。この時、抗議運動を行った市民がオレンジをシンボルカラーとしていたために「オレンジ革命」といわれています。この結果、再選挙が行われユーシチェンコ大統領が誕生しました。
 ユーシチェンコ大統領は、言論の自由など民主化を進めたものの、度重なる首相の交代といった内政の混乱、また外交面でもガス供給問題、ロシア黒海艦隊、NATO加盟などでロシアとの関係が悪化していきます。そして、2010年3月の大統領選挙では、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が誕生しました。
いま「ウクライナ」で何が起こっている - ロシアがクリミア半島を併合 -
 ヤヌコビッチ大統領は就任後、ロシアから経済支援を受けるなどロシア依存を鮮明にしていきます。そして、2013年11月にEUと結ぶ予定だった連合協定を中止したことで、親ヨーロッパ派を中心とした大規模な反政府運動が起こります。2014年の2月、反政府勢力は大統領府を占拠し、ヤヌコビッチ大統領はロシアに逃亡して政権は崩壊しました。逃亡後、野党はトゥルチノフ祖国党副党首を最高会議議長兼大統領代行に選出し、EU加盟を目指すことを明確にしました。
 しかし、ウクライナを自国の勢力圏と考えるロシアはこれに強く反発、ウクライナ南部のクリミア半島に武装集団を送り込んで制圧し、軍事的圧力のもとで住民投票を行いました。ロシアのプーチン大統領は、住民投票で約9割もの賛成を得たとして2014年3月にクリミア半島の併合を決めてしまいました。
 クリミア半島は、かつてロシア領だったこともあってロシア系住民が多く、ロシア海軍の基地も置かれていました。また、クリミア半島の保養地ヤルタは、太平洋戦争の末期にルーズベルト、チャーチル、スターリンが第二次世界大戦の戦後処理や、戦後の国際秩序の確立などを話し合ったヤルタ会談でよく知られています。

- ウクライナ東部でも軍事衝突 -
 昨年4月には、親ロシア派がロシアへの編入を求めてウクライナ東部のドネツク州、ルハンシク州の複数の都市を占拠しました。これに対してウクライナ政府は軍を派遣し、大規模な軍事衝突に発展しました。 ロシア政府はロシア軍の関与を否定していますが、実際にはロシアの民兵が親ロシア派に加わり、戦車や対空砲などの大型兵器も持ち込まれて軍事衝突は激化していきました。
 こうした中、7月にドネツク州の親ロシア派の支配地域にアムステルダム発クアラルンプール行のマレーシア航空機が撃墜され、乗客乗務員298人が死亡する事件が発生しました。欧米諸国は親ロシア派がロシア製の地対空ミサイルで撃墜したと見ていますが、ロシアは強く否定しています。また、撃墜地区を支配する親ロシア派は国際調査団の活動を妨害したり、遺品や遺体の一部を持ち出したりしたために国際的な非難を浴びました。

- ロシアに対して経済制裁を発動 -
 こうした事態を受け、EUやアメリカはロシアに対して経済制裁に踏み切ります。ロシアのソチで6月に開催が予定されていた主要国首脳会議(G8サミット)は、ロシアを除く7か国がボイコットし、ブリュッセルでG7を開催しました。この結果、G8体制は崩壊し、今後はG7として機能していくことになりました。このようにウクライナでの内戦は、欧米とロシアの関係をソビエト崩壊後、最悪の事態へと進めていきました。
 一方、ロシアは対抗措置としてウクライナの天然ガスの代金未払を理由に、天然ガスを提供するパイプラインを停止しました。このパイプラインは、ウクライナを通過してドイツなどヨーロッパ各地に供給されているために大きな影響を及ぼします。
 ウクライナでの内戦は、国内での親EU派と親ロシア派との対立にとどまらず、欧米とロシアという大国間の勢力争いに発展していきました。しかし、対立が長引くことはどちらの陣営にとっても得策ではなく、停戦に向けた取り組みも進んでいきます。

- ベラルーシの首都ミンスクで停戦合意 -
今年2月12日、ベラルーシの首都ミンスクでドイツ、フランス、ロシア、ウクライナの4か国の首脳会議で停戦に合意し、15日から実施されました。実は、昨年6月と9月の二回にわたってウクライナ政府と親ロシア派との間で一時停戦に合意していたのですが、数日後にどちらともなく破られたという苦い経験があります。
 今年に入って親ロシア派の攻勢が目立つようになり、事態を危惧したドイツのメルケル首相などの外交努力が実ってミンスクでの停戦協議となったのです。新たな停戦合意は、2月15日からの停戦の他、前線から重火器の撤去、停戦監視、恩赦や捕虜の交換、外国軍と傭兵の撤去、新憲法の制定などとなっています。
 ウクライナという国は、日本人にとってあまり馴染みがない国かも知れません。しかし、ウクライナの内戦が拡大すれば、日本にも大きな影響を及ぼします。ロシアとは北方領土問題やシベリア開発など多くの懸案を抱えており、現状のままでは今後の日ロ外交の悪化が心配されます。ウクライナ情勢の今後の推移を注意深く見守っていく必要があります。
いま「ウクライナ」で何が起こっている 【知っていますかチェルノブイリ原発事故】
 2011年3月11日の東日本大震災に伴って発生した津波で、東京電力福島第1原子力発電所は原子炉圧力容器の破損といった大事故を起こしました。そして大量の放射性物質を大気中に放出し、現在でも住民の避難や立ち入り制限など周辺地域に大きな影響を及ぼしています。
 この福島第1原発事故を大きく上回る史上最悪の原発事故が、1986年4月に旧ソビエト(現ウクライナ)のチェルノブイリで発生しました。チェルノブイリ原子力発電所4号機で、運転休止中の原子炉で電源喪失を想定した実験を行っていたとき、炉心が溶解して大爆発を起こしました。この爆発で、原子炉内の放射性物質が大量に大気中に放出されました。放出された放射性物質の量は11エクサベクレル、広島に投下された原子爆弾の400~500倍といわれています。
 大気中に放出された放射性物質は、ウクライナだけでなくベラルーシ、ロシアなどヨーロッパ全域に飛散し、約8000キロ離れた日本でも、野菜や水、母乳などから検出されました。放射線被ばくによる死者は、調査手法や調査範囲によって異なりますが、数万人にも達すると推測されています。
 爆発事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機は、放射能の放出を防ぐために石棺で覆われました。しかし、事故から約30年が経過した現在、石棺の老朽化で崩壊の危険性やひび割れで地下水の汚染が心配されています。このため、新たな石棺の建設がウクライナ政府の手で進められています。しかし、完全に封じ込める道筋はまだ明確になっていないのが実情です。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について