TPP 私たちの暮らしはどう変わる【国際】

TPP 私たちの暮らしはどう変わる


【21世紀型の巨大経済圏、TPPとは?】
 5年半におよんだ日米を含む12カ国による環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が昨年10月に大筋合意し、今年から関連法案の整備など発効に向けた具体的な作業が始まりました。貿易をはじめサービスや投資の自由化を進め、知的財産や電子商取引、労働・環境など幅広い分野で新しいルールづくりを目指します。TPPによって世界の総生産の約4割を占める巨大な自由経済圏が誕生します。私たちの暮らしにTPPがどう関わってくるのでしょうか。

TPP 私たちの暮らしはどう変わる - TPPは世界の総生産量の4分の1を占める -
 皆さんは新聞やテレビなどでTPPという言葉をよく目にしたことがあると思います。
 TPPを一口で言えば、日本や米国、オーストラリアなど太平洋を取り囲む12カ国が、輸入品に掛ける税金(関税)をなくすなど、国同士がより自由な経済活動を行うための共通ルールを定めた協定のことです。
 TPPに参加しているのは、日本、米国、カナダ、メキシコ、チリ、ペルー、ニュージーランド、オーストラリア、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、ベトナムの12カ国です。
 この12カ国の国内総生産(GDP)を合計すると約3100兆円にのぼり、世界の総生産の約4割を占める巨大な自由経済圏が誕生します。
 米国、カナダ、メキシコの3カ国からなる北米自由貿易協定(NAFTA)や、欧州28カ国が加盟する欧州連合(EU)の参加国のGDPの合計がいずれも全世界の25%程度ですから、TPPの規模がいかに大きいかが分かります。
TPP 私たちの暮らしはどう変わる - 価値観を共有する「21世紀型の経済連携」 -
 昨年10月に大筋合意したTPPで、どんなことが決められたのでしょうか。
 TPP交渉では、焦点となった輸入品にかける関税の撤廃や引き下げの基準ルールのほかに、20の分野にわたって様々な取り決めが行われました。
 公共工事の入札などで、外国企業と自国企業の差を付けないことや、外国企業への投資や工場、店舗などを海外に設置する際の規制を大幅に緩和することなどです。
 また、知的財産権の保護、労働や環境規制、水産資源の管理ルールなど、これまで世界貿易機関(WTO)の協定にはなかった新しいルール作りがなされ、TPPは単なる貿易の自由化ではなく価値観の共有をうたった「21世紀型の経済連携協定」といわれます。
TPP 私たちの暮らしはどう変わる - 日本の輸出は増え、海外製品は安くなる -
 貿易自由化に向けて輸入品にかかる関税はどうなるのでしょうか。
一般に関税というのは、外国から入ってくる商品に税金を上乗せして値段を高くし、国産品が市場で不利にならないように国内産業を保護する仕組みです。
 大筋合意したTPPでは、米国やオーストラリアなど11カ国は、日本から入ってくる工業製品や農林水産品にかけている関税を99~100%撤廃します。
 一方、日本が11カ国からの輸入品にかけている関税は、工業製品では100%、農水産品で81%、合わせて全品目の95%を撤廃します。
 TPPが発効すると、日本が得意とする自動車や電機、電子、機械などの工業製品は、貿易相手国でかけられていた関税がなくなるため価格競争力が高まって輸出が有利になります。
 一方、日本に入ってくる海外製品や農水産品のほとんどの物品にかけられている関税が撤廃されるため、消費者は輸入品をこれまでより安く購入することができます。

- 海外からの工業製品は100%関税撤廃 -
 日本は海外から6642品目の工業製品を輸入していますが、TPP発効と同時に繊維製品と石油、プラスチック原料などの関税が撤廃されます。現在の関税率は繊維の生地が1.9~14.2%、衣類は4.4~13.4%。軽油・重油・灯油などは最大7.9%。プラスチック原料は1.6~6.5%となっています。
 革製カバンやハンドバッグなどの関税率は8~16%で段階的に引き下げられ、発効から11年目に全廃されます。また、工場などで使われるエチルアルコール(関税率10%)、一部の揮発油(1㎘当たり2.7円)も11年目に関税がゼロになります。
 さらに16年目には毛皮や野球用グラブ(1.25~30%)、ゼラチン・ニカワ(17%)が全廃されます。
TPP 私たちの暮らしはどう変わる - 発効と同時に野菜や一部の果物の関税が撤廃 -
 農産物ではTPP発効と同時に全体の51%の品目の関税が撤廃されます。具体的にはトマトやネギ、白菜、ナス、ピーマン、カボチャなどの生鮮野菜にかけられている3%の関税が撤廃されます。果物ではマンゴー(関税率3%)、キウイ(6.4%)、メロン(6%)などが撤廃されます。
 また、日常的によく消費するジャム(関税率16.8%)やマーガリン(29.8%)、マヨネーズ(12.8%)、ビスケット(6%)、かまぼこの原料となる冷凍スケソウダラ(6%)などの加工食品の関税は、TPP発効後6年目に全廃されます。
 発効後11年目になると、リンゴ(関税率17%)、パイナップル(17%)、骨付き鶏肉(8.5%)、フローズンヨーグルト(26.3~29.8%)、うなぎ蒲焼(9.6%)、キャラメル(25%)などの関税がゼロとなります。
TPP 私たちの暮らしはどう変わる - コメ、牛肉など重要5項目は3割が関税撤廃 -
 関税が撤廃されることによって国内では輸入品が安くなる一方、海外では日本製品が安くなって価格競争力が増し、有利に販売することができます。
 もともと国際的に強い競争力を持つ日本の工業製品は、関税がなくなることでさらに海外市場で強みを発揮することになります。しかし、これまで政府の手厚い保護下にあった農業や畜産業は、貿易自由化で海外から安い農畜産物が入ってくると大きな打撃を受けることになります。
 このためTPP交渉では、貿易自由化によって農家に影響の大きいコメ、麦、牛肉、豚肉、乳製品、砂糖などの「重要5項目」については、全586品目のうち約3割に当たる174品目を対象に関税を撤廃するとしています。
 したがって、海外からの工業製品は100%関税が撤廃されますが、農産品全体の関税撤廃率は81%にとどまり、日本以外の11カ国の農産品の平均関税撤廃率98.5%を大きく下回っています。

- ヒト、モノ、カネ、サービスの交流がより自由に -
 21世紀型の新しい経済ルールの構築を目指すTPPは、モノの関税だけでなくサービスや投資、労働の自由化を進め、知的財産や電子商取引、国有企業の規律、労働、環境規制など幅広い分野で21世紀型のルール作りを目指しています。
 例えば、TPPの参加国はどこでも自由に働けるようにビジネスマンの入国手続きを簡素化するとともに、強制労働や児童労働の廃止、雇用・職業差別の撤廃などについて自国の法律などで規定するとしています。
 このほか、外国企業だけに課せられていた投資規制を廃止し、サービス分野で外国企業を差別しない。金融機関に対して経営幹部の国籍や居住地を制限しない。著作権の保護期間を70年(日本は50年)に統一することなどを取り決めています。

- TPPのメリットと課題 -
■急がれる農業の体質強化とTPP発効手続き
 日本経済にとってTPPの一番のメリットは、関税の撤廃によって貿易の自由化が進み、日本製品の輸出額が増大するということです。経済のグローバルが一層加速して、政府の試算ではGDP(国内総生産)が10年間で2.7兆円増加すると予測しています。消費者にとっても海外製品が安く手に入るという利点があります。
 一方、関税の撤廃によって海外から安い農作物が流入し、日本の農業が大きな打撃を受ける心配があります。政府はTPPの締結で日本の農林水産物の生産額は3兆円程度減少すると試算しています。
 また、食品添加物や遺伝子組み換え食品、残留農薬などの規制緩和によって、食の安全が脅かされるとの懸念があります。
 これに対して政府は昨年11月の「総合的なTPP関連政策大綱」で、2020年に農林水産物・食品輸出を1兆円に拡大する方針を打ち出しました。農林水産業の体質強化や地方の中堅・中小企業の海外展開を支援するほか、輸入食品の監視指導体制の強化に努める方針です。
 TPPが発効するには参加12カ国が協定文書に署名した後、2年以内にそれぞれの国で議会承認など国内手続きを得なければなりません。2年以内にすべての国で手続きが終わらない場合は「GDPで全体の85%以上を占める6カ国以上の批准があれば発効できる」と規定されています。
 日米でTPP全体のGDPの約80%を占めるため、両国の承認が不可欠ですが、米国は今年から大統領選挙が本格化し、日本は夏に参院選を控えています。国内で農産物を中心としたTPPへの批判が高まれば国内手続きに手間取ることが考えられます。

- 貿易自由化と世界の広域経済圏 -
■TPPを基礎にFTAAPの形成目指す
 経済のグローバル化は、より自由な経済活動ができる環境を求めて貿易の自由化、経済連携の拡大を目指した広域経済圏の形成を加速させています。国と国が自由な経済活動を目指した協定には、大きくFTA(自由貿易協定)とEPA(経済連携協定)があります。
 FTAは2カ国以上の国や地域が、お互いの関税や輸入割当など貿易に関する制限(非関税障壁といいます)を撤廃あるいは削減を定めた協定です。関税や非関税障壁をなくすことで、締結国の間でより自由な貿易を実現し、貿易や投資の拡大を目指します。日本は多くの国々とFTAを締結していますが、現在はEPAの拡充に力を注いでいます。
 そのEPAは、自由な貿易を目指すFTAに加えて、ヒト、モノ、カネの移動をより自由に円滑に行えるようにするなど、幅広い経済活動の連携を定めた協定です。広域的なEPAの例として日本とASEAN(東南アジア諸国連合・加盟10ヶ国)地域全体との間で締結したAJCEP(ASEAN・日本包括的経済連携協定)があります。大筋合意したTPPも環太平洋諸国12カ国からなる大規模EPAなのです。
 EUは米国との間で環大西洋貿易投資協定(TTIP)を交渉中ですし、日本もEUとEPA交渉を進めています。さらにASEAN10カ国に、日本、中国、韓国、インド、オーストラリア、ニュージーランドの6ヶ国を含めた計16ヶ国による広域自由貿易圏の東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の交渉が大詰めを迎えています。
 日本や米国など21カ国・地域でつくるアジア・太平洋経済協力会議(APEC)は、近い将来アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の形成を目指しています。
 中国はRCEPを土台にしたFTAAPの枠組み形成を志向していますが、日本や米国はTPPを基礎にしたFTAAPのルール作りを目指しています。
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