「銃規制」に乗り出すオバマ大統領【国際】

 「銃規制」に乗り出すオバマ大統領


アメリカのオバマ大統領は1月13日、任期最後の一般教書演説を連邦議会で行いました。この中で、経済問題や環境問題、テロ対策などと並んで銃規制の必要性を強く訴えました。
 2013年のアメリカ疾病予防管理センターの統計では、自殺や事故を含めて銃による死亡者は年間3万3千人にも達しています。この数字はアメリカの交通事故死者に匹敵し、逆転する日も近いと予測されています。
 しかし、銃規制の前に「自分の身は自分で守る」という建国以来保持してきた伝統的精神が大きく立ちはだかっています。オバマ大統領が涙ながらに訴えた「銃規制」の行方を見守りたいと思います。

 「銃規制」に乗り出すオバマ大統領 - オバマ大統領任期最後の訴え -
【一般教書演説で「銃規制の強化」】
 アメリカのオバマ大統領は1月13日、アメリカ連邦議会の下院本会議場で、今後1年間の内政・外交の施策方針を示す任期最後の一般教書演説を行いました。演説を行う本会議場には、上下両院の議員、閣僚や最高裁判所の判事、軍幹部などが一堂に会し、全米に向けてテレビ中継されました。
 この中でオバマ大統領は、深刻な不況の克服やキューバとの国交回復、地球温暖化対策など大統領就任以降の過去7年の実績を強調しました。また、今後の重要課題としてISやアルカイダなどに対するテロ対策、TPP協定の早期発効への議会の協力などを求めました。そして、銃による犯罪から子供たちを守るため、銃規制の強化に取り組むことを表明しました。br>  一般教書演説が行われる下院の本会議場には、例年特別ゲストとして大統領が強調する政策に関係する人々が招かれます。今年は、銃撃事件で命を落とした犠牲者のための席として、ゲストが座る席の一つが空席となっていました。銃規制に対するオバマ大統領の強い思いが込められていました。

【大統領令で銃規制の強化へ】
一般教書演説に先立つ1月5日、オバマ大統領はホワイトハウスでのテレビ演説で、大統領令による新たな銃規制強化策を発表しました。大統領令とは、大統領が議会の承認や立法を経ずに、直接連邦政府や軍に発令する命令です。大統領令は、法律と同等の効力を持つものの、議会はこれに反対する法律を作ることで大統領令に対抗できます。
 発令された大統領令では、銃の販売業者や展示会やオンライでの銃の販売の業者にも免許取得を義務付け、購入者にも犯罪履歴の確認など身元調査の徹底を求めています。さらに、銃犯罪の取締り体制を強化し、銃による犯罪の減少を目指します。つまり、合衆国憲法修正第2条に定められた、銃を持つ権利は尊重するものの悪用に対しては厳しく取り締まるというものです。
 しかし、大統領と考え方を異にする共和党は大統領令に反発し、次期大統領選挙の候補者も大統領に当選するとオバマ大統領の政策を覆すと話しています。一方、民主党の候補者は銃規制強化を歓迎しています。
 オバマ大統領は演説の途中で、2012年のコネチカット州の小学校で起こった銃乱射事件に触れた際、涙を浮かべながら「犠牲になった子供たちのことを考えると、気が狂いそうになる」と語り、しばらく黙して涙を拭いました。この様子は各メディアを通じて全世界に発信され、銃規制にかけるオバマ大統領の強いメッセージとして伝えられました。

- 銃社会の背景に開拓精神が -
【アメリカの建国の歴史と「銃」】
 大航海時代にコロンブスが到達したのが西インド諸島です。後にイタリア人のアメリゴ・ヴェスプッチが、コロンブスが到達したのはアジアではなく新大陸であることを明らかにし、新大陸をアメリゴにちなんで「アメリカ」と名付けました。
 この新大陸にオランダ、スペイン、フランス、イギリスなどヨーロッパ諸国がこぞって渡り、植民地を作っていきました。これらの国々は植民地経営を巡って対立し、最後に勝利したのがイギリスです。イギリスは戦争にかかった多大な戦費を回収するため、アメリカに重税を課しました。住民はこれに反発し、初代大統領になるジョージ・ワシントンが指揮官となってアメリカ独立戦争が始まりました。
 1776年7月4日、独立戦争に勝利したアメリカは13の植民地代表によって独立を宣言しました。1787年には合衆国憲法が制定され、4年後の1791年に修正第2条が追加されました。修正第2条に「規律ある民兵は、自由な国家にとって必要であるので、人民が武器を保有し、携帯する権利は、これを侵してはならない」と記されています。この条文は現在も引き継がれています。
 今回のオバマ大統領の大統令では、「銃を持つ権利を尊重しつつ」、その悪用に対して強く規制するというものです。

【「銃」とフロンティア精神】
戦いによって独立を勝ちとったアメリカは、フランスから破格の安値でミシシッピ以西のルイジアナ、1819年にスペインからフロリダを買収。1845年にはテキサスを併合し、翌年にはオレゴンを獲得して太平洋側に初めて領土を持ちました。さらに1848年のメキシコとの戦争に勝利して、カリフォルニアを獲得するなど支配地域を拡大していきました。アメリカは独立から僅かな期間で、領土を大きく拡大していきました。
 また、インディアンなどの先住民を西部の荒廃地に強制移住させました。道中、食糧不足や病気などで多くのインディアンは命を落とし、最後まで抵抗し続けたスー族も1890年に掃討されてしまいました。
 当時のアメリカでは、西部の開拓はアメリカの天命であり使命であるとして侵略を正当化しました。開拓地と未開拓地との間をフロンティアと呼び、開拓に挑む精神をフロンティア・スピリットとして奨励していました。
 このようにアメリカ建国の歴史は、闘いの歴史でもありました。このため、戦うための武器、銃に寄せる想いは人一倍強いものがあり、憲法に記された「自分で自分を守る」という精神が今日まで引き継がれているのです。
 「銃規制」に乗り出すオバマ大統領 - アメリカは世界一の銃保有国 -
【世界各国の銃の保有状況】
 スイスのジュネーブにある高等国際問題研究所によると、世界で確認されている小火器は8億7500万丁で、このうち警察や軍を除いた6億5千万丁を民間が保有しています。国別にみるとアメリカの民間保有数が2億7千万丁と圧倒的に多く、2位以下のインド、中国、ドイツ、フランスなどを大きく引き離しています。
 保有率でもアメリカは10人に9人と高く、2位以下を圧倒しています。世界全体の銃保有数は約7人に1人ですが、アメリカを除くと約10人に1人に下がります。また、毎年世界で製造される銃器約800万丁のうち、450万丁がアメリカで購入されています。
 少し古いデータですが、アメリカの民間人がいかに多くの銃器を保持しているかが伺える数字となっています。しかし、実際は各国当局が把握している数字を基にしているので、民間人が持つ銃器の数はもっと多いと予測されています。

【3万人を超える銃による死者】
世界一の銃保有国アメリカでは、銃による死亡者も多く、アメリカ疾病予防センターの2013年の統計では、銃による死亡者は3万3636人で、自動車事故で亡くなった3万3804人とほぼ同じです。もっとも、銃による死亡者のうち約3分の2は自殺者となっています。
 ちなみに、日本の2013年の自殺者数は2万7283人、殺人は342人、そして交通事故死者数は4373人となっており、日本の自殺者の多さが際立ちます。
 アメリカではオバマ大統領の演説にあるように、テロ対策を優先課題に掲げて莫大な予算が投入されていますが、2001年から2013にテロで死亡した人は3380人です。その間、銃で死亡した人は約40万5000人にも達しています。
 交通事故については各都市が「Vision Zero」を掲げ、一定の成果を示してきました。しかし、銃による死者数は年々増加しているのが実情です。

-銃規制に向けての取り組み -
【本格的な銃規制「ブレイディ法」】
銃の規制を打ち出したのは、オバマ大統領が初めてではありません。20世紀初頭のアル・カポネの時代から議論され、対策としてギャングが好むショットガンに高い税金を掛けたり、販売に制限が加えられました。ケネディ大統領やキング牧師が射殺された1960年代には、犯罪歴や精神障害がある人への銃の販売が禁止されました。
 こうした経緯を経て、1993年に「ブレイディ法」が制定されました。「ブレイディ法」とは、1981年のレーガン大統領暗殺未遂事件で、銃弾を受けて半身不随になったジェームズ・ブレイディ報道官から名付けられました。ブレイディ法の成立で、アメリカの銃規制が本格的に始まりました。ブレイディ法では、銃の購入に際して5日間の待機期間を設け、その間に購入者の犯罪履歴などの調査を義務づけました。また、危険度の高い銃器の輸入・販売も規制されました。  その後、銃規制を求める人たちは1999年に起こったコロラド州のコロンバイン高校乱射事件を契機に、銃規制をより強化する法案を提出しました。しかし、上院では可決されましたが下院で否決されました。
 そして、銃規制に消極的なブッシュ政権は、アメリカライフル協会(NRA)の主張に沿う形で、武器所有を国民の権利とする姿勢を前面に打ち出しました。

【銃規制が出来ない理由】
建国の歴史の項で触れたように、アメリカの国民には、自分たちが闘い自分たちの力で国を創ったという強い自負心があります。こうした自負心は現在も多くの市民に引き継がれ、憲法でも武器の保有を認めています。アメリカ国民には、他国民にはないマインドが引き継がれているのです。
 NRAの存在も見逃せません。アメリカに400万人以上の会員を持つNRAは、「銃が人を殺すのではなく、人が人を殺す」と主張する銃の愛好家団体です。しかし、実は多大なお金と票田を持つ政治団体でもあり、歴代の大統領はNRAの意向を無視できなかったのです。
 また、アメリカは世界の銃器メーカーの巨大市場になっているため、経済面でも銃器が規制されると国際問題に発展する可能性があるのです。この他、退役軍人会や映画産業なども銃器と深くつながり、銃社会アメリカを支える役割を果たしています。
 銃社会アメリカを考える時、市民が武器を手に戦ったアメリカという国の歴史を無視することはできません。しかし、力だけではなく法による秩序が求められる今日、オバマ大統領が打ち出した任期最後の「銃規制」が、今度どのように推移していくか注意深く見守りたいものです。
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