アメリカ大統領はこうして決まる【国際】

アメリカ大統領はこうして決まる


【米大統領選の仕組みと多彩な選挙活動】
 4年に1度、夏のオリンピックの年に約1年をかけて行われるアメリカ大統領選が真っ盛りです。国際社会に大きな影響を与える米大統領選に世界が注目していますが、その選挙の仕組みは大変複雑です。アメリカの大統領はどういったプロセスで選ばれるのでしょうか。全米が熱気に包まれる最大のビッグイベントである大統領選を探ってみました。

アメリカ大統領はこうして決まる - 大統領選は「予備選挙」と「本選挙」の2段構え -
 有色人種初の米国大統領として2009年1月に就任した民主党のバラク・オバマ大統領は、来年1月に2期8年の任期を終えます。憲法で3期目の就任が禁じられているので、現在新人候補同士で選挙が争われています。
 アメリカの議会は民主党と共和党の2大政党からなり、大統領も100年以上前からこのどちらかの党から選ばれています。
 アメリカ生まれで35歳以上。14年以上アメリカに在住すれば誰でも立候補資格があり、民主党や共和党の候補でなくても大統領になることは可能です。しかし、その場合は各州で一定数以上の署名を集めなければ候補者と認められません。
 現実的にアメリカの大統領になるには、共和党か民主党のどちらかの党から大統領候補に指名されなければなりません。そして党の指名を得るための選挙が「予備選挙」で、両党いずれかの候補者から大統領を選ぶのが「本選挙」です。

- 予備選挙で党公認候補を選ぶ代議員を選出 -
 米国の大統領選挙は前年の8月ごろに立候補者が出馬を表明して選挙運動がスタートします。今回の大統領選では民主党が6人、共和党は17人が立候補しました。予備選挙は今年2月1日のアイオワ州、9日のニューハンプシャー州を皮切りにスタートしました。
 党の指名候補を選ぶ予備選挙は州単位で行われますが、有権者が直接候補者を選ぶのではなく、自分が支持する大統領候補に投票してくれる「代議員」を選びます。
 予備選挙の方法は、有権者が投票所で投票する「予備選」と、支持者が一堂に会して挙手や話し合いで決める「党員集会」の二通りがあります。
 有権者が自分の支持する候補者に投票すると、各候補者はその得票数に応じて自分に投票してくれる代議員を獲得します。そして代議員は、党大会で党が指名する候補者を選挙で選びます。

- 民主、共和両党の代議員数と特別代議員 -
 予備選挙で選出される代議員の数は、共和党が2472人、民主党が4764人です。両党とも代議員は各州の予備選挙の結果に縛られる一般代議員(誓約代議員)と、自分の意思で自由に候補者が選べる特別代議員の2種類があります。
 この特別代議員は各州選出の上下両院議員、州知事、歴代の正副大統領、党幹部などからなり、民主党は4764人のうち713人(15%)、共和党は2472人のうち126人(5%)を数えます。多数の候補者が乱立して接戦にもつれ込むと、特別代議員の「不動票」が勝敗に影響します。

- ほとんどの州が得票に応じて代議員を配分 -
 代議員は予備選挙の結果に基づいて各候補に配分されますが、最も得票数の多かった候補者がその州に割り当てられた代議員を全て獲得する「勝者総取り」方式と、得票数に比例して代議員を獲得する「比例配分」方式があります。
 民主党は全ての州で比例配分方式を採用していますが、共和党は基本的には比例配分方式ながらフロリダ、アリゾナ、ユタ、サウスカロライナなどいくつかの州で勝者総取り方式を採っています。
 すべての州で予備選挙が終了して、最終的に最も多くの代議員を獲得した候補者が、7月下旬に開かれる党大会で党の公認候補に指名されます。
アメリカ大統領はこうして決まる - 本選挙で両党いずれかに投票する選挙人を選ぶ -
 大統領選挙の行方を占う大きな節目に「スーパーチューズデー」というのがあります。民主、共和両党が州ごとに開く予備選や党員集会が2月から3月にかけての火曜日に集中するので、その日をスーパーチューズデーと呼びます。
 ここでの勝敗が党の大統領候補指名争いの行方を大きく左右するといわれます。今回は3月1日の火曜日がスーパーチューズデーで、民主、共和両党とも全米11州(民主党はこれにアメリカ領サモアが加わる)で予備選挙が行われました。
 今回のスーパーチューズデーでは民主党のヒラリー・クリントン氏、共和党のドナルド・トランプ氏がともに11州のうち7州で勝利してリードしました。
 2月から始まった各州の予備選挙は6月まで行われ、共和党大会が7月18~21日、民主党大会が7月25~28日に開かれます。党大会では予備選挙で選ばれた代議員が集まって、党を代表する大統領候補を選びます。

- 本選挙に向け民主、共和両候補が一騎打ち -
 民主、共和両党のそれぞれから指名から受けた大統領候補は、11月の第1月曜日の次の火曜日(今回は11月8日)の本選挙に向けて一騎打ちの選挙戦を繰り広げます。
 本選挙でも一般有権者は直接大統領を選出するのではなく、大統領を選ぶ「選挙人」を投票で選びます。
 選挙人は予備選挙の時の代議員と同じように、どちらの候補者を支持しているかを明らかにしているため、有権者はどちらかの党のグループに投票して間接的に大統領を選ぶことになります。
アメリカ大統領はこうして決まる - 1票でも多ければその州の選挙人を総取り -
 選挙人は全米で538人います。内訳は、各州に割り当てられている上院100人、下院435人の議員定数と同じ535人と、首都ワシントンDCに割り当てられた3人の計538人です。本選挙では過半数の270人以上の選挙人を獲得した候補者が当選となります。
 選挙人は州ごとに選びますが、選出方法は各州に任されています。ネブラスカ州とメーン州の2州以外は、1票でも多くの得票を得た候補者がその州に割り当てられた全ての選挙人を獲得する「勝者総取り」方式です。
 このため得票数が多いのに、選挙人の獲得数が少ないため大統領選に敗れたケースが過去4回ありました。2000年の大統領選では、民主党のアル・ゴア元副大統領が得票数で共和党のジョージ・W・ブッシュ前大統領を約50万票上回りましたが、獲得選挙人数で下回って落選しました。

- 現行の「選挙人制度」見直しは困難 -
 こうした事態を是正するため現在の選挙人制度の見直しを求める声もありますが、ハードルが高く実現は困難なようです。
 選挙人制度を変更するには上下両院議員の3分の2以上の賛成による発議と、全米各州の州議会で4分の3以上の承認が必要です。
 こうして各州から選出された選挙人は12月に大統領と副大統領の選挙を行い、翌年の1月6日に当選宣言がなされます。
 実質的な大統領選の勝敗は、選挙人を選出する11月8日の「本選」で決まります。そして大統領就任式が翌年の1月20日に行われ、次期の第45代アメリカ大統領が誕生します。

- 大統領公認候補は有権者が決める -
 アメリカの大統領選は有権者が予備選挙で「代理人」を、本選挙で「選挙人」を選ぶ間接選挙です。日本の首相は有権者が選んだ国会議員の中から選挙で選ばれるので、一種の間接選挙といえるでしょう。
 国会で多数の議席を占める党の代表が首相に選ばれますが、党内で話し合いや投票によって党の代表を選出する時点で実質的に首相が決まってしまいます。このため有権者が自国のリーダーである首相を直接選挙で選ぶ「首相公選制」導入の議論があります。
 アメリカでは民主党も共和党も、党公認の大統領候補をそれぞれの党を支持する有権者が予備選挙で決めていくので、政党と大統領がより身近な存在となっています。
アメリカ大統領はこうして決まる - 選挙活動を通して有権者が党の政策に影響 -
 アメリカの2大政党である民主党も共和党も党首はいません。政党運営も州単位の地方組織を代表する委員が合議制で行います。
 地方分権を基本としたアメリカの政治風土を反映したもので、民主、共和両党の全国委員会も、全国組織というよりは大統領選のサポート組織としての性格が強いようです。
 米大統領選には数百億円単位の資金が必要といわれます。このため候補者を応援する団体の寄付金をはじめ、候補者自身や支援組織が広く資金を募って選挙を戦います。資金が集まらず途中で撤退する候補者も珍しくありません。
 草の根のボランティア団体を中心とした長い予備選挙を通して政治参加する有権者が、政党の方向性や政策ビジョンに影響を及ぼしていくところに、アメリカの選挙デモクラシーの神髄を見ることができます。
アメリカ大統領はこうして決まる 「歴代の異色の大統領選」
- 1800年の大統領選が2大政党制の始まり -

 米国初の大統領選は1789年1月7日に行われました。当時から各州の代表者による選挙人制度を採用しており、1人が2票を投じて得票数の1位が大統領、2位が副大統領に選ばれました。この時大統領候補はジョージ・ワシントンただ1人で、69票を獲得して初代大統領に選出されました。
 1800年に連邦政府の強化と保護貿易を主張する連邦派と、自由貿易を唱えて農園主らが支持する民主共和派によって、2大政党制の始まりとなった大統領選が戦われました。現在の共和党と民主党はそれぞれ連邦派と民主共和派の流れをくんでいます。
 西部の開拓民から身を起こした民主党のアンドリュー・ジャクソンが、1828年の選挙で初の「庶民大統領」として誕生しました。この選挙では激しいネガティブキャンペーンが展開されました。民主党のジャクソンは「ロバ(まぬけ)」と揶揄され、後にロバは民主党のシンボルになりました。共和党は新聞の風刺漫画で描かれた「ゾウ」がシンボルの起源になっています。
 1960年の選挙で選ばれた史上最年少(43歳)の大統領がジョン・F・ケネディでしたが、歴代唯一のカトリック教徒の大統領としても知られます。そして有色人種初の大統領が2008年に就任した民主党のオバマ大統領です。
 さて次は米国初の女性大統領が誕生するのでしょうか。
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