外国人労働者が100万人時代に【国際】

外国人労働者が100万人時代に


 日本ではすでに人口減少が始まり、これに伴って労働力人口も減少しています。政府はこうした事態を受け、外国人労働者の受け入れ拡大の方針を打ち出しています。この政府の方針に「人手不足の解消」「人口減社会の切り札」などと歓迎の声がある一方、「外国人に頼るべきでない」「治安の悪化が心配」といった反対意見も聞かれます。 2015年10月現在、日本の外国人労働者は約90万8千人に達し、今後も増えると予測されています。日本における外国人労働者の問題を、歴史を踏まえながら考えてみました。

外国人労働者が100万人時代に 【日本は移民の送り出し国だった】
- 日本の海外移民はハワイから -
 日本で働く外国人労働者は、政府の高度外国人材活用策もあって毎年増え続け、2015年10月現在で約90万8千人になっています。このまま増加し続けると、100万人を超える日も近いと見られています。
 ところで、かつての日本は移民の送り出し国であったことを知っていますか。日本で最初の海外移民は、1868年(明治元年)に横浜在住のアメリカ商人ユージン・ヴァン・リードによる約150人のハワイへの農業移民です。20世紀に入るとアメリカ西海岸を中心に激増していきました。このため白人労働者を中心に、日本人に対する人種的偏見や安価な労働力によって職が奪われるとの恐怖心をあおり、日本人移民を排斥するようになりました。
 第1次大戦後は、日本人の移民制限の動きがさらに強まり、1924年の「移民法」の制定で日本からアメリカへの移民は禁止されました。
外国人労働者が100万人時代に - アメリカの移民禁止で南米にシフト -
 アメリカの移民法制定を受け、日本人移民はアメリカからブラジルなど中南米にとシフトしていきました。中南米諸国への移民は、1973年のオイルショック直前まで続きました。
 一般的に移民は経済水準の低い国から高い国へ職を求めて、あるいはチャンスを求めて移動すると考えられています。日本の移民の特徴は、経済的にある程度のレベルに達していたにも拘らず、日本より貧しい途上国へ移民を送り出していたことです。
 この背景として、経済的な要素は勿論ですが、それとともに国の過剰人口対策があげられます。国は公的機関などを通して移民を組織的に形成し、多くの移民を相手国に送り込んだのです。また、満州の植民地経営のために、困窮した農民を中心に開拓団を組織して満州の各地に送り出しました。移民先での厳しい労働や生活環境の激変に耐え、現地で経済的・社会的基盤を確立していきました。しかし、中には受け入れ先の調査が十分に行われないまま移民先を斡旋され、現地で非常に苦労した移民も数多くいました。
 ドミニカに集団移住した人たちは、日本政府が事前に説明した土地とは違う荒地に移住させられ、生活は困窮の一途をたどりました。このため日本政府に対して損害賠償を求め、2006年に和解が成立して特別一時金が支払われました。他の移住先でも見込み違いから苦労した例が報告され、満州開拓民が厳しい自然環境下での労働や終戦時に経験した苦労は周知の通りです。
外国人労働者が100万人時代に - 高度経済成長を支えた人的資源 -
 戦後、日本は急速な復興をとげ高度経済成長をはたしました。高度経済成長によって労働力の需要が高まり、海外への移民の送り出しは消滅していきました。
 急速に進む工業化は大量の労働者を必要とし、地方から都市部を中心とした工業地帯に労働者が移動し、日本全体の生産力を高めていきました。1960年代から約20年にわたって行われた中卒者の集団就職は、まさしくこの典型といえるでしょう。
 日本独特の労使関係が成立したのはこの当時です。企業は安定した労働力を確保するために長期安定雇用を保証し、労働者は企業内での昇進を目指しました。この結果、企業と労働者が一体となって働き、業績を高めるという日本独特の雇用関係が生まれました。この日本型雇用形態が、高度経済成長を支えた要因の一つともいわれています。
 同じく戦後高度経済成長を経験したドイツやフランスでは、労働力の需要増に対して外国人労働者の導入で対処しましたが、経済成長が鈍化するにつれて外国人労働者問題に悩まされることになりました。

- 外国人労働者が求められる時代に -
日本は1980年代後半から90年代初頭にかけてバブル経済期を迎えます。日本の貿易収支は毎年黒字を積み重ねて経済大国になっていました。このため日米間で貿易摩擦が深刻化し、1985年に先進5か国の蔵相会議で「プラザ合意」が締結され、円高・ドル安が誘導されることになりました。
 この結果、想定を上回る速さで円高が進み、日本は円高不況に見舞われました。政府は景気刺激策として金融緩和や公共事業への投資を拡大しました。こうした政策の結果、国内に資金があふれ、株式投資や不動産投機で景気が加熱しバブル経済を引き起こしました。
 経済活動は活気を取り戻し、企業は積極的に設備投資などを行い、工場はフル稼働して高まる国民の消費意欲に応えます。当時、「成長神話」なるものが生まれ、右肩上がりの好景気がいつまでも続くと信じられていました。このため、企業は更に過剰な投資、雇用の拡大に努めます。新卒者の採用試験では、早くから囲い込みが行われ、豪華な独身寮が建てられたのはこの時代です。それでも不足する人材について、海外の労働者の導入を真剣に検討するようになったのです。

【日本の外国人労働者の現状】
- アジアの国々から出稼ぎに -
 高度経済成長期からバブル期にかけて、日本は発展途上のアジアの国々の中で唯一経済的繁栄をなしとげていました。貧しい国の人々は外国で働くことを考え、労働力不足の国は外国人労働力を受け入れようとします。これが当時の日本とアジア諸国を巡る図式でした。
 日本には出入国管理規定があり、高度な専門的・技術的労働者は積極的に受け入れますが、単純労働者については慎重に対処しました。この結果、人手不足が深刻な中小企業などでは、観光目的で日本に来た外国人を不法労働と知りながらも就労させ始めたのです。
 また、この頃から日系人が日本へ流入し始め、日系人2世・3世へと引き継がれるようになりました。これらの人々は日本国籍を持っていたり、日本人と結婚して在留資格を持っている人が多く、国内でどのような仕事にも就くことができます。こうして外国人労働者は、不法滞在者を含めて増えていったのです。
 バブル景気は199
1年に終り、日本は長期にわたる経済不況に見舞われます。外国人労働者は、不況であっても外国人労働者を必要とする地域や職種があり、外国人労働者は幅広い地域や職種に分散されていきました。しかし、日本人が嫌う過酷な条件下での仕事が割り振られ、それに見合う賃金を得ることは出来ないという現実もあります。こうして日本人が嫌う仕事は、外国人労働者の独占的な職場となっていきました。
外国人労働者が100万人時代に - 日本で働く外国人労働者の内訳 -
 日本で働く外国人労働者はグラフに示した通りです。
 就労目的の滞在が認められている人は約16・7万人で、基本的に専門的・技術的分野に分類されます。身分に基づき在留する人は約36万7千人です。定住者や永住者、日系人や日本人と結婚した人たちです。これらの人は在留中の活動に制限がないため、さまざまな分野で活動できます。開発途上国への国際協力を目的とした技能実習生が約16万8千人。2国間協定(EPA)で、外国人看護師・介護福祉士候補など特定活動を行う技能実習生を約1万3千人受け入れています。そして留学生の資格で在留し、コンビニなどで週28時間を限度にアルバイトする約19万2千人の学生達がいます。
 国別では、中国(香港等を含む)、ベトナム、フィリピン、ブラジル、韓国、ネパールと続いています。

- 外国人労働者に寄せる期待と課題 -
 政府は高度な技量を持つ外国人人材を受け入れることで、日本経済の活性化や国際競争力を高めようとしています。このため、在留期間を現行の最長5年から8年に延長することを検討しています。在留資格を延長すれば面倒な手続きの頻度が減り、日本で働く高度外国人人材の増加が見込めるからです。
 日本の大学への留学生も増えています。政府は留学生30万人計画を立て、英語だけで単位を取れるコースなど快適な学習環境の整備を進めてきました。少子高齢化の日本において、グローバル時代を支えるために、留学生は欠かせない存在と捉えています。各種調査では、留学生の日本での就職希望者は大学院生で約60%、学部生では70%に及びます。しかし、実際に就職したのは学部生で30%程度、大学院生では20%弱に過ぎません。その原因として、日本文化の理解や日本語の習得が困難なこと、大学で取得した専門知識を生かせる分野でないと就労ビザが認められないケースもあるようです。さらに、帰国して母国の発展に寄与したいという留学生も少なくありません。
 国際協力として実施している技能実習制度は、農業や建設業、製造現場などで貴重な労働力となっています。しかし、劣悪な労働環境などで実習者が不安定な立場に置かれることもあり、失踪などの問題が頻発しています。政府は実習生が安心して技能を身に付けることが出来るように、受け入れ期間を現在の3年から5年に延長し、不正防止策として監視機関の設置を検討しています。
外国人労働者が100万人時代に - 将来の労働問題と外国人労働者 -
 昨年9月現在、日本の完全失業率は3%、204万人の人が失業者となっています。一方では外国人労働者が流入し、不足する日本の労働力不足を補っています。この求人と求職のミスマッチの原因はどこにあるのでしょうか。
 高度経済成長期には、工場などでの単純作業が多く、数多くの労働者が必要とされました。しかし、現在では労働力の安い外国人労働者に代わっています。企業が求めるのは現場での労働とともに専門知識を持つ人材です。働く意欲や専門知識があっても、企業が求める専門分野と異なると上手くいきません。親の介護などで家から離れられず、転勤がある職場に就職することが難しい場合もあります。また、介護分野などでは多くの人材が求められているにも拘らず、報酬が極端に低く抑えられているケースもあり、こうした諸問題の解決が急がれています。
 政府は今後10年間を展望した成長戦略を打ち出し、厳しい国内雇用情勢に対してまずは若者の雇用、さらに女性や高齢者を労働市場に送り出す政策を総動員する方針です。外国人労働者については、日本経済の発展や国際競争力の強化という面での受け入れは強化するものの、単純労働者の受け入れは国内の労働市場や国民生活、さらに送り出し国などとの関係などから慎重に対処していくとしています。
 今後、労働力人口の減少は一層深刻さを増していくでしょう。こうした中、外国人労働者とどのように関わっていくべきか真剣に考える必要がありそうです。


《日本で就労する外国人のカテゴリー(総数 約90.8万人の内約)》
(1)就労目的で在留が認められる者 約16.7万人
(いわゆる「専門的・技術的分野」)
・一部の在留資格については、上陸許可の基準を「我が国の産業及び国民生活に与える影響その他の事情」を勘案して定めることとされている。

(2)身分に基づき在留する者 約36.7万人
(「定住者」(主に日系人)、「永住者」、「日本人の配偶者等」等)
・これらの在留資格は在留中の活動に制限がないため、様々な分野で報酬を受ける活動が可能。

(3)技能実習 約16.8万人
・技能移転を通じた開発途上国への国際協力が目的。
・平成22年7月1日施行の改正入管法により、技能実習生は入国1年目から雇用関係のある「技能実習」の在留資格が付与されることになった(同日以後に資格変更をした技能実習生も同様)。

(4)特定活動 約1.3万人
(EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士候補者、ワーキングホリデー等)
・「特定活動」の在留資格で我が国に在留する外国人は、個々の許可の内容により報酬を受ける活動の可否が決定。

(5)特定活動(留学生のアルバイト等) 約19.2万人
・本来の在留資格の活動を阻害しない範囲内(1週28時間以内等)で、相当と認められる場合に報酬を受ける活動が許可。

出典:厚労省
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