誰がブラック労働を支えていくのか【国際】

誰がブラック労働を支えていくのか


 【出入国管理法改正と外国人労働者】
 日本はこれまで、日本国内で働ける外国人は高い専門性を持つ人に限定し、単純労働に就く労働者の受け入れを認めてきませんでした。しかし、空前の人手不足に悩む産業界などの要望のもと、2018年12月に出入国管理法が改正され、19年4月から外国人が日本国内で単純労働に就くことができるようになりました。日本政府の従来の姿勢を大きく転換させた出入国管理法改正の概要や課題、今後の見通しなどを調べてみました。

誰がブラック労働を支えていくのか - どのような制度か -
 外国人が日本で生活したり働いたりするためには、出入国管理法に定められた在留資格を取得しなければなりません。現在は「外交」「教授」「宗教」「医療」「研究」など28種類あり、それぞれの資格ごとに日本で行える活動や滞在できる期間が定められています。
 これまで日本国内で働くことが認められていた在留資格は、高い専門性を必要とされる医師や弁護士など17資格に限られ、短時間の訓練のみで働ける単純労働に従事することは認められていませんでした。しかし、近年では「技能実習」や「留学」などの在留資格で日本に滞在している外国人が、事実上単純労働者として企業に使われる実態が問題となってきました。
 今回の法改正では、単純労働に就く外国人労働者を、新たに設ける「特定技能1号」と「特定技能2号」という2つの在留資格で受け入れます。「特定技能1号」は、一定の知識や経験が必要とされますが、家族とともに来日することができない在留資格で、通算5年まで日本で働くことができます。
 「特定技能1号」より熟練した技能が必要で、家族の来日も可能となるのが「特定技能2号」です。「特定技能1号」での在留を経て、技能試験により与えられる在留資格です。
 すでに「技能実習」の在留資格によって日本で働いている技能実習生のうち、3年以上の実務経験をもつ人は、無試験で「特定技能1号」に移行できます。技能実習生以外に日本で働くことを希望する外国人のうち、日常会話レベルの日本語試験と技能試験に合格した人は、「特定技能1号」で来日して働くことができます。
誰がブラック労働を支えていくのか - 外国人労働者が支える日本 -
 少子高齢化が進む日本では、労働力として期待される15歳から64歳までの人口(生産年齢人口)は、1995年をピークに減少し続けています。2018年1月の時点での生産年齢人口は約7500万人ですが、25年には約7200万人、35年には約6500万人に減少する見込みです。しかも労働力不足はすでに深刻化しており、18年9月の有効求人倍率は、全職業の平均が1・5倍程度なのに対して建設業や介護は4倍を超え、飲食店などでのサービス業、金属材料製造業、清掃業なども、2〜3倍となっています。
 この労働力不足を補っているのが外国人労働者です。17年の外国人労働者数は127万人にのぼり、全就業者数の2%を占めています。12年には68万人だったので、約2倍の増加です。外国人労働者の3割が中国人ですが、ベトナムやフィリピンからの労働者が増えており、ベトナム人は12年とくらべると5倍に急増しています。
 外国人労働者の半数以上を、留学生と技能実習生が占めています。日本での勉強に加えて「資格外活動」として週28時間以内の労働が認められている留学生は、飲食店やコンビニのアルバイトの欠かせない戦力になっており、コンビニのアルバイトの20人に1人が外国人です。農業・漁業・製造業などの現場は、アジア諸国からやってくる技能実習生なしには成り立たなくなってきています。オリンピック景気でわく建設現場で働く外国人の7割、工場などの製造業で働く外国人の4割を技能実習生が占めており、広島県で漁業に従事する人の6人に1人が外国人です。
誰がブラック労働を支えていくのか - 「技能実習制度」で働いてきた外国人労働者 -
 今回の法改正で、在留資格に「特定技能」が新設されることで、単純労働への外国人労働者の受け入れが可能となりす。しかし、1993年に創設された技能実習制度により、すでに事実上受け入れがはじまっていました。国際貢献のために途上国の外国人を最長5年間受け入れ、日本の技術を学んで母国の発展に生かしてもらうという趣旨で創設されたこの制度により、18年の時点で77職種・28万人が日本で働いています。
 技能実習制度の創設には、バブル経済による人手不足が影響していました。好景気のなかで、若者が「きつい」「汚い」「危険」の「3K」と呼ばれた製造業で働くことを嫌うようになったため、産業界が政府に製造業などで働く外国人労働者の受け入れを強く求めたのです。しかし、外国人労働者の受け入れに消極的な世論もあったため、労働者ではなく実習生として受け入れるという建前で、外国人単純労働者を受け入れることになりました。また、90年の出入国管理法改正により、日系人の就労が解禁されたことで、自動車産業での日系人の就労が急増しました。一方、不景気の際にはいち早く雇い止めされるなど、雇用の調整弁として外国人労働者が利用されてきた現実も見過ごせません。
 技能実習生は、日本人より低い待遇で働いています。日本国内で働く労働者は、国籍にかかわらず日本の労働法規のもとで保護され、社会保険制度に加入し、日本人と同じ給料が支払われることになっています。しかし、実際には月給15万円を越える技能実習生はわずか1%程度で、ほとんどが最低賃金以下の給料しかもらえません。その上、休みのない長時間労働や違法残業の強要、賃金の未払いなどが相次いでいます。このため、技能実習生が職場から逃げ出す例も多く、13年からの5年間で延べ2万6000人が姿を消しました。

- 制度実施後の課題 -
 出入国管理行政を管轄する法務省は、18年度から「特定技能1号」での受け入れを見込む34万5000人の外国人労働者のうち、半数近くは技能実習生から移行するとしています。技能実習生の多くは、人口減少が進む地方で、日本人が働きたがらない農業・漁業・製造業などの重要な担い手となっていますが、技能実習制度では認められていなかった転職が、「特定技能」では認められることになるため、地方から都市への労働者の流出が危惧されています。
 「特定技能1号」の人に求められる日本語能力のレベルも不透明なままです。とくに、介護の現場では、高齢者の安全に配慮するためにも、高齢者や同僚との意思疎通が欠かせず、介護特有の用語も使われます。08年から二国間経済協定でアジア諸国から受け入れた介護職は4302人にとどまり、17年からはじまった在留資格「介護」と介護分野での技能実習でも、習得を必要とされる日本語のハードルが高く、あわせて約430人しか受け入れることができていません。高齢化が進む世界で介護人材の需要は高まっており、賃金水準の高い欧米に人材が集中しています。日本の外国人労働者の待遇の劣悪さは、外国人労働者を送り出すアジア諸国でも知られており、優秀な人材があえて日本を働き先に選ばない例も増えてきています。

- ドイツの外国人労働者と「移民」問題 -
 世界で最も外国人労働者数が多い国がドイツです。ドイツは1950年代から、イタリア、トルコ、旧ユーゴスラビアなどから積極的に単純労働者を受け入れ、現在355万人の外国人労働者が暮らし、生産年齢人口の24%を外国人労働者が占めています。ドイツのほかフランス、イギリスなど外国人労働者が多い国と比べると、日本や韓国などの外国人労働者数はまだ圧倒的に少ない人数にとどまっています。
 外国人労働者を受け入れ、その定住化をはかってきた「移民」先進国ドイツですが、60年代にトルコ人労働者を受け入れた際にドイツ語教育を行わなかったため、ドイツ社会になじめない人びとの社会的孤立が進みました。その反省から、現在では単純労働者でなく職業訓練を受け、ドイツ語を話せる高度人材の受け入れに方針を転換しています。
 ヨーロッパでの外国人「移民」受け入れは、宗教の違いによる対立や人種差別も引き起こしています。とくにシリア内戦による難民がヨーロッパに殺到した15年以降、人種差別による犯罪(ヘイトクライム)が多発しており、「移民」先進国ドイツでも外国人排斥を掲げた極右政党が勢力をのばし、国会で94議席を獲得して第3党になっています。
誰がブラック労働を支えていくのか - 「移民」を世界に送り出してきた日本 -
 戦前から戦後にかけての日本は、多くの日本人を移民としてアメリカやブラジルに送り出してきました。
 アヘン戦争(1840-42年)で、清(現在の中国)がイギリスに負けて東アジアの海賊禁圧や密貿易防止政策が崩壊すると、中国沿岸部から多くの中国人が単純労働者としてアメリカに渡り、大陸横断鉄道などの現場で働きました。増えすぎた中国人を排除しようと制定された「中国人移民排斥法」により中国人がアメリカで働けなくなると、かわりに日本人がアメリカに渡って単純労働につき、今度は増えすぎた日本人排除のため制定された「排日移民法」により、日本人はブラジルに渡って農園などでの単純労働につきました。
 こうしてアメリカやブラジルに渡った人びとは、文化の違いや外国人への偏見に苦しみながら低賃金で働きました。その子孫が、日系人として現地社会で重要な役割を果たし、日本との架け橋となっています。

- 外国人労働者が背負う「ブラック労働」 -
 外国人労働者の多くは、日本人が働きたがらない職場で低賃金の重労働を担い、わたしたちの生活は外国人労働者が生み出すサービスや製品に大きく支えられて成り立っている現実があります。外国人労働者を受け入れるより、まず日本人の就労を保障すべきとの意見もあります。しかし、外国人労働者と同等の低賃金の重労働を日本人がやりたくないために、外国人労働者が必要とされているのです。低賃金や長時間労働などの職場環境を変えない限り、外国人労働者頼りの現実は変わりません。将来への希望を抱いて働きにやってきた日本で、過労により病気になったり心を病んだりして、15年度からの3年間で少なくとも69人の技能実習生が命を落としました。
 長時間労働による自殺報道が相次いで「ブラック労働」が問題となっています。「働き方改革」が進む日本で、外国人労働者が製造業やサービス業での「ブラック労働」に従事していることも、今回の法改正とあわせて考えなければならない大切な課題です。
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