日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退【国際】

日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退


 【商業捕鯨再開と海洋生態系を考える】
 昨年12月、日本はクジラ資源の管理を行う国際捕鯨委員会(IWC)からの脱退を表明しました。今年6月末に正式に脱退し、7月から1988年以来約30年ぶりに商業捕鯨が再開されます。現在、日本は南極海などで科学調査を目的とした調査捕鯨を行っていますが、これまでIWCに商業捕鯨の再開を強く求めてきました。
 なぜ日本はIWCを脱退したのでしょうか。今後日本の捕鯨はどうなるのでしょうか。クジラの資源管理や海の生態系、日本とクジラの歴史的な関わりなど、捕鯨を巡る問題を考えて、みました。

日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退 - 戦後の食料難時代、鯨肉は貴重なタンパク源だった -
 クジラの肉(鯨肉)は第2次大戦後の食料難時代は貴重なタンパク源で、戦後の一時期日本人のタンパク源の約60%を鯨肉が占めていました。そしてクジラのベーコンや竜田揚げは学校給食の定番でした。
 日本の食卓から鯨肉が消えて久しく、現在では国内で消費される肉類620万3000トン(2016年時点)のほとんどは豚肉、鶏肉、牛肉で占められ、鯨肉はわずか3000トンに過ぎません。
 今ではおいそれと手の届かない高級品になってしまった鯨肉ですが、商業捕鯨が盛んだった1962年度は捕獲量が23万3000トンに達していました。今でも年配者の多くは鯨肉に一種のノスタルジアを感じています。
 1946年に世界のクジラの乱獲を防ぎ、クジラ資源の管理を目的とした国際捕鯨取締条約が締結され、48年に主要捕鯨国15カ国で国際捕鯨委員会(IWC)が発足しました。現在の加盟国は89カ国で、日本は51年に加盟しました。
日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退 - 70年代から反捕鯨国と捕鯨国の対立が激化 -
 IWCは国別にクジラの捕獲枠や、個体数が減少する鯨種の捕獲禁止措置を実施するなど、クジラの資源管理を強化していきました。
 この結果、アメリカやイギリス、オーストラリアなどが相次いで採算の合わなくなった捕鯨産業から撤退しました。一方で動物愛護や環境保護の観点から反捕鯨運動が活発化していきました。
 1972年に開催された国連人間環境会議で、「10年間の商業捕鯨禁止」が採択されました。IWCでは科学的根拠がないとして否決しましたが、これを機に反捕鯨国が次々とIWCに加入し、捕鯨国と反捕鯨国との対立が激化していきました。
 かつて捕鯨国だったアメリカやイギリス、オーストラリアなどが捕鯨反対に回ったことで、80年代からは反捕鯨国がIWCの多数派を占めるようになりました。
 そして1982年にIWC加盟国の4分の3以上の賛成によって商業捕鯨の一時停止が可決されました。この一時停止(商業捕鯨のモラトリアム)によって、86年から大型クジラを商業目的で捕獲することが中止され今日に至っています。

- 日本、87年から調査捕鯨を開始 -
 日本は1987年に南極海での商業捕鯨から撤退し、クジラの生息数などを調べる調査捕鯨を開始しました。調査によって得られたクジラ肉は有効利用することになっていて、食用として一部市場に供給されています。88年には大型のクジラを対象とする商業捕鯨が、沿岸海域を含めて全面禁止となりました。
 日本の調査捕鯨に対して反捕鯨国は、「調査捕鯨は商業捕鯨の隠れ蓑だ」として批判を展開し、過激な反捕鯨団体のシー・シェパードなどによる妨害行為が激しくなり、国際世論も捕鯨に対して厳しくなっていきました。
 日本には鯨肉を食べる習慣があり、捕鯨が伝統的な文化となっている地域もあります。クジラ文化を継承するためにも調査捕鯨は重要な役割を担っていますが、クジラを「保護すべき野生動物だ」とする反捕鯨国には理解を得られていません。
 日本の捕鯨に強硬に反対しているアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドは、日本に牛肉を輸出している国だということも留意すべきでしょう。
日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退 - 日本は商業捕鯨の再開を目指してIWC脱退を決意 -
 IWCは、シロナガスクジラやザトウクジラなど大型のクジラ13種類の資源管理を担っています。しかし加盟89カ国のうち、捕鯨支持国41カ国に対して反捕鯨国は48カ国で優位に立っています。
 反捕鯨国は環境保全や個体保護に偏った主張を繰り返し、IWC内部での議論は科学的データや客観的事実に基づいたものとはいえず、捕鯨支持国との間で感情的対立を強めていきました。
 また、重要案件の決定には4分の3以上の賛成が必要なため、IWCが「機能不全」に陥っているとして、商業捕鯨の再開を目指す日本はIWCからの脱退やむなしとの結論に達したのでした。
 昨年9月ブラジルで開かれたIWC総会で、日本は資源が豊富な種類のクジラに限って商業捕鯨の一部再開と、3分の2から過半数を原則とする決定手続きの緩和を提案しましたが否決されました。
 政府は日本の食文化を支えてきた商業捕鯨が今後も受け入れられる見通しが立たず、これ以上IWCにとどまる意義は薄いと判断して脱退を決めました。

- 環境保護団体のシー・シェパードが調査捕鯨を妨害 -
 日本が実施してきた調査捕鯨は、クジラの生息数や生態などの科学調査を目的とした捕鯨で、1987年から南極海で、94年からは北西太平洋でも行ってきました。
 1頭1頭のクジラからそれぞれ100項目以上の科学データを収集していますが、その分析結果は、毎年国際捕鯨委員会(IWC)科学委員会に報告され高い評価を得ています。
 南極海での調査捕鯨に対しては2005年以降、環境保護団体のシー・シェパードが妨害行為を繰り返しています。また、オーストラリアは日本が行っている南極海での調査捕鯨は国際捕鯨取締条約違反として、国際司法裁判所(ICJ)に提訴しました。
 2014年3月に国際司法裁判所は、南極海での日本の調査捕鯨は「科学的調査に当たらない」として停止を求める判決を下しました。日本は1年間中止しましたが、規模を縮小して再開しました。

- 「捕鯨産業の発展」を目指すIWCが〝機能不全〟状態 -
 かつて捕鯨国だった欧米諸国は、クジラの油(鯨油)獲得を目的にナガスクジラ、マッコウクジラなどの大型鯨類を乱獲して生息数を激減させました。クジラを食物と見ていない欧米先進国では、「なぜ日本人はクジラを食べるのか」という疑問を抱いています。
 反捕鯨国の捕鯨反対理由は、①商業捕鯨を再開すれば再びクジラは絶滅の危機に瀕する②賢い神聖なクジラを捕獲することは倫理に反する③クジラを食用とする理由がない④クジラの捕殺方法が残酷で動物愛護の精神に反する―などです。
 もともとIWCは「クジラの利用と保護」を目的に捕鯨国が集まって設立され、条約の文言には「捕鯨産業の秩序ある発展を可能にする」とあります。
 しかし現実には多数派を占める反捕鯨国の科学的根拠に乏しいクジラの保護一辺倒の主張に押されて、「捕鯨産業の発展」をうたった条文そのものが守られていません。IWCは捕鯨支持国と反捕鯨国との激しい対立で深刻な機能不全に陥り、重要事項は何も決められない状態が続いていました。


【調査捕鯨と商業捕鯨】

- 領海と排他的経済水域で商業捕鯨再開 -
 日本の調査捕鯨は2018年度には北西太平洋でミンククジラ170頭、イワシクジラ134頭。南極海でクロミンククジラ333頭を捕獲し、その肉は日本国内の消費に向けられました。今後IWCからの脱退によって日本は南極海や北西太平洋での調査捕鯨ができなくなり、日本の領海と排他的経済水域(EFZ)でのみ商業捕鯨を行うことになります。捕鯨対象はミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラの3種類となります。
 ただ日本はIWCから脱退しても、加盟している国連海洋法条約の第65条にある、「いずれの国も海産哺乳動物の保存のために協力するものとし、特に鯨類についてはその保存、管理及び研究のために適当な国際機関を通じて活動する」という求めに応じて、「オブザーバー」という形でIWCの総会や科学委員会に関わっていきます。そして将来的にはクジラの持続的利用という立場を共有する国々と連携して、IWCに代わる新たな国際的な枠組み作りを検討していく考えです。
 現在アイルランドやノルウェーは、異議申し立てや留保という手法によって、IWCの規定が適用されずに商業捕鯨を実施しています。IWCに加盟していないインドネシアも商業捕鯨を行っています。


【クジラと海の生態】

- クジラが食べる魚の量は、人間の漁獲量の3~5倍 -
 クジラは83の種類があり、資源のレベルは種類によって異なります。シロナガスクジラやセミクジラは資源量が乏しく保護が必要ですが、日本が調査捕鯨の対象としているミンククジラ、イワシクジラ、ナガスクジラなどは年々増加しており、非常に健全な資源状態にあることがIWC科学委員会で認定されています。とくにミンククジラは南極海に51万頭もいると推定され、増えすぎによって餌となるオキアミや魚が減るなどの影響がでています。
 全世界の鯨類が食べる海洋生物の量は年間2.5億トンから4.4億トンで、これは人間による漁獲量の3~5倍に当たるといわれます。日本近海で鯨類が、カタクチイワシ、サンマ、スケソウダラなど漁業の重要な魚を大量に捕食していることが、胃の内容物調査で明らかになっています。クジラは海の食物連鎖の中で最上位にある捕食者であり、様々な鯨種のクジラを一律に保護することは海洋生態系のバランスを崩すことにもなります。
 増えすぎた種類のクジラが食物連鎖のバランスを崩していることを精査し、科学的調査の裏付けによる適切な捕鯨は海洋資源保全に有効な手段だといえます。
 国際自然保護連合(IUCN)が昨年11月更新した、絶滅の恐れがある野生生物を掲載した「レッドリスト」では、ナガスクジラの個体数は1970年代からほぼ倍増して10万頭に達し、絶滅の可能性の高さを示す3ランクの位置づけ(ⅠA類・ⅠB類・Ⅱ類)で、これまでの2番目の「ⅠB類」から最も低い「Ⅱ類」に引き下げられました。
日本が国際捕鯨委員会(IWC)を脱退 【日本の鯨食文化】

- 古くから地域に親しまれてきた日本の捕鯨 -
 日本人とクジラの深い関わりは石器時代の遺跡をはじめ、伝統芸能、鯨の墓や碑、食文化として日本全国至る所に見受けられます。仏教の伝来にともなって、676年に「牛、鳥、犬、猿、猪の肉を食うなかれ」という禁止令が出され、「古事記」でもこれらの肉を食すべからずとの殺生戒があります。このため、当時魚の仲間と見られていたクジラを含む水産資源による食文化が発展しました。
 江戸時代になると、クジラ肉が庶民の食べ物として大量に出回るようになります。クジラ料理の大きな特色はどんな部分も見事に調理した点にあります。たとえば、大阪府の「ハリハリ鍋」、千葉県和田の「タレ」、全国的に普及した「くじら刺身」は赤肉です。北海道網走の「鯨汁」、本州西部の「コロ」は脂皮。全国的に普及した「おばけ(さらし鯨)」は塩蔵のひれ。北九州の「百尋」は小腸。さらに和歌山県太地の「エンバ」は歯茎、「袋わた」は肺。佐賀県の「松浦漬け」は軟骨といった具合に多彩な部位からなる鯨食文化を培ってきました。
 「鯨一頭で七浦が潤う」と言われたように、捕鯨産業は地域に大きな恩恵をもたらしてきました。同時に殺生を伴うため、全国各地でクジラの供養塔や墓、過去帳などがつくられて法要を営むなど、クジラの魂を供養する信仰や儀礼が行われてきました。
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