ポピュリズムの台頭で試練に立つ民主主義【国際】

ポピュリズムの台頭で試練に立つ民主主義


 【冷戦終結30年。世界は新たな秩序を模索する】
 元号が「令和」に変わった今年は東西冷戦が終結して30年の節目を迎えます。ポスト冷戦30年の現在は、かつて世界の警察を標榜した米国の影響力が低下し、独裁体制を強める中国、ロシアの覇権的な外交戦略が際立ってきた時代といえます。さらに英国の離脱によるEU(ヨーロッパ連合)の先行きは不透明で、国際情勢は混沌としています。
 とくに中東やアフリカからの難民受け入れを巡って自国ファースト、反EUを唱えるポピュリズム政党、右派勢力の躍進が顕著で、リベラル(自由主義)的価値観や国際協調に逆行する動きが強まっています。トランプ大統領が唱える「アメリカファースト」に象徴されるポピュリズムの政治潮流が欧米を席巻する今日、近代民主主義は大きな試練を迎えたといえるでしょう。

ポピュリズムの台頭で試練に立つ民主主義 - 冷戦の終結後間もなく社会主義体制が瓦解 -
 東西陣営を分断していたベルリンの壁崩壊に象徴される、旧ソ連とアメリカの冷戦が終結して今年は30年になります。
 第2次大戦後の世界は、アメリカを中心とする資本主義陣営(西側)と、旧ソ連を盟主とする社会主義陣営(東側)が対立してきました。相互の陣営が持つ膨大な核の抑止力によって〝熱い戦争〟の勃発を防ぐという異常な〝冷戦時代〟が40年以上も続きました。
 その後社会主義の行き詰まりや膨大な軍事費の重荷から両陣営が歩み寄り、1989年12月にアメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領と、ミハイル・ゴルバチョフソ連共産党書記長の歴史的な首脳会談で東西冷戦の終結が宣言されました。
 その後ソ連の社会主義体制が崩壊してロシアとなり、東側陣営に属していた東欧諸国も相次いで社会主義体制が瓦解し、「冷戦終結で世界は平和になる」と人々は期待を膨らませました。
ポピュリズムの台頭で試練に立つ民主主義 - 独裁色を強める中国、ロシア。欧州では極右が台頭 -
 しかし冷戦終結から30年を経た今、世界はアメリカ、ロシア、中国の大国間に新たな対立が生まれ、戦争のない世界を目指してきた試みは重大な岐路に立たされています。
 強権的な政治を進めるロシアのプーチン大統領や中国の習近平主席は、無期限ともいえる長期政権体制を固め独裁色を強めています。
 東ヨーロッパではポーランドやハンガリーなどに独裁的な強権政治が出現し、西ヨーロッパでも極右政党の躍進が目立っています。
 東南アジアでもタイで軍政が復活し、強権的な支配を強めるフィリピンや、なかなか民主化が進まないミャンマー。さらに中央アジアのアフガニスタンは親米政府に対抗するターリバーンやアル・カイーダなどのイスラム原理主義、イスラム過激派ゲリラが30年以上にわたって内戦を続けています。
 「アメリカファースト」を唱えるトランプ大統領に象徴されるように、自由と民主主義の最先端を走ってきた米国や西欧で、ポピュリズムの台頭によって国際協調に逆行する「自国第一主義」の国家主義、ナショナリズムの風潮が勢いを増し、今自由主義、民主主義が厳しい試練の時を迎えています。

- 大衆の不満や感情を巧みに糾合するポピュリズム -
 ここ数年よく聞かれるポピュリズムとはどういうものでしょうか。ポピュリズムは「大衆迎合主義」と訳されたりしますが、もともとは支配階級やエリート層に対抗しながら、一般大衆の不満や願望を重視して聞き入れる思想や政治体制を指す言葉です。
 一時的な感情や空気によって政治的態度を決めてしまう大衆の意思を重視し、そうした人々の支持を集めるやり方で政治的基盤を築いたり、政治目的を達成する手法をポピュリズムと呼びます。
 ポピュリズム政党は、大衆の不満や怒りを糾合する形で現状の社会(政治)体制を否定し、その打破を訴えます。目的の遂行や宣伝活動では、一般市民の権利や利益、感情や思惑をことさら強調したり、不安や脅威を煽って自らの政治運動に巻き込んでいきます。

- 欧州で難民受け入れ反対のポピュリズム政党が躍進 -
 ポピュリズムの風潮は、難民、移民問題を契機に欧州諸国で一気に盛り上がりを見せました。中東やアフリカからの難民受け入れに積極的だったドイツでは、2015年に大量の難民流入が始まり、3年間で難民申請者は140万人以上に達しました。また年間200億ユーロ(2兆5200億円)以上と推定される膨大な難民対策費用が国民の負担となっています。
 こうした難民受け入れに反対する右翼ポピュリズム政党の「ドイツのための選択肢(AfD)」が、2017年9月の総選挙で12・6%の得票を獲得して第3党に躍進しました。
 その後も州議会選で与党のキリスト教民主同盟は大敗し、同党を率いるアンゲラ・メルケル首相は2021年の任期満了で首相の座を降り、政界引退に追い込まれることになりました。

- 右翼ポピュリズム政党、極右政党が相次ぎ政権を担う -
 ドイツに代表されるように、大量の難民流入の影響を受けた国ではそれをきっかけに内向き傾向、自国第一主義の思潮が強まり、ポピュリズム政党が躍進しています。
 昨年4月にはハンガリーの国会選挙で右翼ポピュリズム政党の「フィデス・ハンガリー市民同盟」が第1党となり、得票率49・3%、議席総数199のうち133議席を獲得しました。
 しかも極右政党の「ヨッビク」が得票率19%を得て第2党となり、右翼ポピュリズム政党と極右政党を合わせて7割近い得票率となりました。
 またポーランドでは、4年前の総選挙で右翼ポピュリズム政党の「法と正義(PiS)」が460議席中、235議席を獲得して第1党となっています。
 フランスでは2017年5月に極右政党の「国民戦線」のマリーヌ・ルペン党首が大統領選の決選投票まで進みました。
 昨年3月のイタリア総選挙ではどちらもポピュリズム政党である「五つ星運動」と「同盟」が連立政権を樹立しました。いわゆるポピュリズム政権の誕生です。
 
- 英国のEU離脱は難民受け入れ問題が底流に -
 イギリスは2016年6月23日に行った国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を決め、今年いよいよ実行に移します。この背景には、一つの欧州を目指すEU圏からの労働者や難民が大量に流れ込んで、「仕事が奪われた」、「治安が悪くなった」というイギリス国民の根強い不満が底流にあるようです。
 このほか、スイス、オーストリア、イタリア、ラトビア、ノルウェー、ブルガリア、スロバキア、ギリシャなどで、「自国の利益優先」を掲げる右翼ポピュリズム政党が政権の一翼を担っています。
 アメリカ、中国、ロシアの大国の覇権争いは、世界が新しい国際秩序を模索する時代に入ったことを印象付けます。同時に欧米を中心に自国中心主義のナショナリズムやポピュリズムの潮流の拡大は、国際社会の政治状況が、先の見えない非常に不安定な状態にあることを示しています。

- ポピュリズムの対立軸に位置するリベラリズム -
 大衆迎合主義といわれるポピュリズムの対立概念として、リベラリズム(自由主義)がよく引き合いに出されます。リベラリズムとは一般的に、一定層の権威や権力による統制に対して一人ひとりの自己決定権を重視する思想や体制のことを指します。
 大多数の国民の意思を無視して一部の民衆の感情や想いに迎合するポピュリズムに対し、一人ひとりの意思を尊重するリベラリズムは相反する概念と位置付けることができます。
 一方、ナショナリズムとはどういうものなのでしょうか。ナショナリズムは民族主義、国家主義、国民主義などと訳されますが、国際主義やグローバリズムの反対軸に位置づけられます。現在では経済を中心としたグローバル化に伴う経済格差、地域間(国家間)格差に対する不満や先行きへの不安から、民族や国家の統一・結束・発展を第一に考える思想や運動を指します。
ポピュリズムの台頭で試練に立つ民主主義 - 行き過ぎたグローバル化に反発するナショナリズム -
 地球上を一つの共同体と見なし、世界の一体化を進める「グローバリズム」が21世紀以降の時代風潮とされてきました。
 多国籍企業が国境を越えて地球規模で経済活動を展開し、自由貿易や市場経済を地球上に拡大する思想がグローバリズムで、地球主義、全球主義ともいわれます。
 グローバリズムが国際社会全体の利益や効率を求める一方で、資源や経済力をはじめとした国家間の格差が拡大し、大国間の覇権争いによる強権的な現状変更に対して、国境や民族の内向きの結束を訴えるナショナリズムが台頭してきました。
 こうしたグローバル化の不利益を被った人々の意思が、英国のEU離脱や米国のトランプ大統領を誕生させたといわれます。
 とりわけ難民、移民問題で揺れる欧州で、ここ数年ナショナリズムを標榜する極右の台頭が目立ってきました。21世紀に入って急速に広がってきたグローバル化に対する強烈な揺り戻しだともいわれます。


【ポピュリズムとナショナリズムの融合】
- 新たな国際秩序の模索が始まる -
 ポピュリズムはもともと19世紀の終盤に、米国で貧しい農家を支持基盤に結成された人民党が、大企業や一部の富裕層への反抗を煽り、「政治は民衆の利益になるように行われるべき」と主張する活動で、これがポピュリズム運動の始まりといわれます。
 一方、「反グローバリズム」や「難民受け入れ拒否」を唱え、「自国第一主義」を主張する現代版ナショナリズムが勢いを増しています。そして「自国第一主義」のナショナリズムが、「大衆迎合主義」のポピュリズムと融合した右翼ポピュリズムの政治思潮が欧米を中心に台頭しています。
 SNS(ソシアルネットワーク)やIoT(インターネット・オブ・シングス)の進展をベースに人・モノ・金・情報のボーダレス化が進むにつれ、その反動として内向きのナショナリズムがポピュリズムと融合して新たな国際秩序を模索しつつあるともいわれます。
 「民意」と「大衆感情」の峻別は難しいですが、自立した民衆の意思を集約して政治行動に反映させる「民主主義」が、今大きな試練を迎えているといえます。
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