混迷深めるEU(欧州連合)のゆくえ【国際】

混迷深めるEU(欧州連合)のゆくえ


【今年1月31日、イギリスがEUを離脱】
 EU(欧州連合)は、第二次世界大戦で荒廃したヨーロッパの復興を促進し、再び戦争を繰り返さないための枠組みを目指して発足しました。当初、フランスやドイツなど6か国でスタートしましたが、その後、数次の拡大を経て28カ国が加盟する大きな連合体へと発展していきました。しかし、今年1月31日にイギリスがEU史上初めて脱退することになりました。いまEUに何が起こっているのでしょう。なぜイギリスが脱退することになったのでしょうか。

混迷深めるEU(欧州連合)のゆくえ 【EU誕生から今日までの歩み】
- 第二次世界大戦の荒廃から復興へ -
 第二次世界大戦は国を挙げて戦う総力戦になり、欧州各国の国土は荒廃してしまいました。1950年にフランス政府はシューマン計画を発表し、フランスとドイツの対立に終止符を打つため、戦争関連資源である石炭・鉄鋼を共同管理し、これに他国も参加する欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)の設立を提案しました。この提案に基づき1952年、フランス、ドイツ(加盟時西ドイツ)、ベルギー、オランダ、イタリア、ルクセンブルグの6か国によってECSCが発足しました。
 1958年にはさらに領域を広げ、経済分野での統合を目指す欧州経済共同体(EEC)とエネルギー分野の共同管理を推進する欧州原子力共同体(EURATOM)が創立されました。1967年には、ECSC、EEC、EURATOMの3共同体の執行機関が統合され、欧州の平和確立と経済発展を目的とする欧州共同体(EC)が誕生しました。
混迷深めるEU(欧州連合)のゆくえ - ECからEUへと統合が拡大 -
 その後、1973年にイギリス、アイルランド、デンマークが加盟し、81年にギリシャ、86年にはスペイン、ポルトガルが加わるなど加盟国を増やします。そして92年、欧州連合条約(マーストリヒト条約)の締結によって、12カ国による欧州連合(EU)が創設されました。
 EUはECが進めてきた経済的な統合を基礎に、枠組みの拡大や拡充、外交や安全保障など政治的統合、経済通貨統合という3つの柱を構築し、欧州統合のさらなる発展を目指します。EUの設立後も加盟国は増え、95年の第4次拡大でオーストリア、スウェーデン、フィンランドが加盟。2004年の第5次拡大では、ポーランドやハンガリーなど東欧諸国10カ国が加盟し、2013年にはクロアチアが加わり28か国による連合組織へと拡大しました。
 EU加盟28カ国の2017年現在の総面積は、429万平方メートルで日本の約11倍、人口は約5億1200万人、加盟国全体のGDPは17兆3200億ドルです。これはアメリカに次ぐ世界第2位となり、国際社会に大きな影響力を及ぼす存在になっています。

- 単一通貨「ユーロ」を導入 -
 EUの創設で、加盟国の人々は自由に国境を超え、医師など専門職の資格も共通になりました。貿易にかけられる関税もなくなり、EU域内の経済活動は活発化していきました。そして何より大きな特徴は単一通貨「ユーロ」が導入されたことです。1999年にEU加盟11か国がユーロを導入し、現在では19カ国がユーロを使用し、ユーロ圏と呼ばれています。
 ユーロを使用することで、両替の手間や手数料が省かれます。また、お金の価値の差異による損得も生じないのでEU圏での経済活動に好影響を及ぼすだけでなく、圏外諸国との貿易で信用が向上するという利点もあります。
【暗雲が立ち始めたEUのゆくえ】
- 財政危機、難民流入などで揺らぐEU -
 2009年のギリシャの財政危機をきっかけに、スペイン、イタリア、アイルランドといった国々の財政危機が明らかになり、EU全体に金融不安が広がりました。ドイツなど貿易が盛んな国にはユーロ安が有利に働き、EU加盟国間の経済格差が拡大していきました。このため、比較的財政が安定しているドイツやフランスは、財政不安に陥った国に金融支援を行う一方、厳しい緊縮財政を課してユーロ危機に対応しました。しかし、緊縮財政による景気の低迷で、若年層を中心に失業者が増加し、EU全体に暗い影を投げかけました。
 さらに、シリア内戦による難民問題が追い打ちをかけます。2011年に起こったシリアの内戦は泥沼化し、400万人もの人が国外に脱出し、100万人を超える人が難民となってEUを目指しました。EUはアフリカや中東などからの難民も分担して受け入れていますが、経済負担や過激なイスラム教徒の流入に、加盟国の国民が不満を募らせるようになってきました。

- ポピュリズム(大衆迎合主義)が台頭 -
 ポピュリズムとは、既存のエリート層である体制側や知識人などに対し、一般大衆の利益や権利を優先する政治姿勢のことです。
 オランダでは、2017年3月の総選挙で反イスラムを掲げる極右政党「自由党」が勢力を伸ばしました。同じく4月に行われたフランス大統領選挙でも、過半数を獲得した候補者はなく、上位二人の決選投票となりました。結局、マクロン大統領が勝利したものの、決選投票に進んだ極右政党「国民戦線」を率いるル・ペン氏が34%もの支持を得ました。9月のドイツの総選挙でも、強硬な反移民政策を掲げる「ドイツのための選択肢」が大きく議席を伸ばしました。メルケル首相が率いる与党は第一党になったものの過半数に届かず、連立交渉が難航して長期にわたる政治的空白が生じました。2018年のイタリアの総選挙でも、ポピュリズム政党の「五つ星運動」の躍進が目立ちました。さらに、スペインでは17年10月にカタルーニャ州独立の是非を問う住民投票が行われ独立賛成が多数を獲得しました。
 第二次大戦の反省から誕生したEUは、加盟国を28か国に拡大・発展させて世界に大きな影響力を及ぼす連合組織になっています。しかし近年、EU内での経済格差の拡大や難民の受け入れ反対、ポピュリズムの台頭などにみられるように、これまでの結束に大きな亀裂が生じています。

【なぜ、イギリスはEUを離脱するのか】
- 「栄光ある孤立」が伝統的外交方針 -
 こうした中、イギリスが2016年6月のEU離脱を問う国民投票で、離脱賛成が反対を僅差で上回りEUを離脱するというニュースが舞い込みました。イギリスのEU離脱は「ブリテン(英国)」+「エグジット(離脱)」で、ブレグジットと呼ばれています。
 イギリスは1800年代の外交方針である「栄光ある孤立」にみられるように、伝統的にヨーロッパ大陸から一定の距離を取ってきました。EUはECSCの設立でスタートしましたが、当時のイギリスは旧植民地で構成するイギリス連邦を主要な共同体と見なし、アメリカと独自の関係を結ぼうとしていました。
 しかし、工業力などでEECに後れを取ったイギリスは深刻な経済危機に陥り、欧州との連携強化で経済の回復を図ろうと1961年に加盟を申請しました。しかし、イギリスが加わると背後にあるアメリカの影響力が強まるなどの理由で2度にわたって申請が拒否され、1973年にようやくEUの前身となるECへの参加が認められました。

- 離脱の最大の要因は移民や難民問題 -
 イギリスはECへの加盟で、欧州の広い単一市場に参加できるというメリットを得ましたが、99年に導入された単一通貨ユーロには参加せず、政治・経済的統合にも距離を置いてきました。
 しかし、2010年頃からユーロ危機の拡大や難民の流入が始まり、また、EU内では移動が自由なためポーランドやルーマニアなど旧東欧諸国からの移民も急増しました。多くの難民や移民の流入で、イギリス国内では仕事が奪われるとか社会保障費が圧迫されるなど、EUで得られる利益より負担が大きいとして、EU離脱を求める声が高まりました。イギリスが独自に難民や移民を規制しようとしても、EUのルールに合致しなければ認められません。
 キャメロン元首相は高まる不満に対し、EU離脱の是非を問う国民投票で勝利することでEU離脱派を抑え込もうとしました。しかし、国民投票の結果は、離脱1741万742票(51・9%)残留1614万1241票(48・1%)と離脱派が上回り、イギリスがEU加盟国の中で初めての離脱国になりました。

- 3度にわたってEU離脱延期 -
 国民投票後テリーザ・メイ氏が、故サッチャー氏以来二人目となる女性首相に就任し、離脱に向けた取り組みをスタートさせます。メイ首相は、離脱後のイギリスとEUの関係について、国民から不満の強い移民の流入などを規制する一方、モノやサービスなどについては改めて自由貿易協定を結ぶことを提案しました。しかし、EUはイギリスの都合の良い主張に強く反発して離脱交渉は難航します。
 さらに、イギリスのEU離脱は、EU加盟国のアイルランドと陸続きのイギリス領北アイルランドの間で新たな対立が浮上しました。メイ首相は、両国間に関税がない現在の状態を維持するため、離脱後もイギリスが関税同盟にとどまる可能性を残す離脱協定案をまとめました。しかし、イギリス議会は関税同盟に残ることは「EUの属国になる」可能性があると厳しく批判し、3度にわたる協定案は議会で否決されメイ首相は辞任しました。

- EUとの47年間の関係に終止符 -
 メイ首相の後を受け、19年7月に就任したジョンソン首相は、議会が承認しないなら「合意なき離脱」も辞さないと強気の態度を取りました。12月の下院総選挙で650議席中365議席を取り、ジョンソン政権がEUと結びなおした離脱協定案が議会の承認を得ました。
 そして20年1月31日、EUとの47年間にわたる関係に終止符が打たれ移行期間に入りました。期間内にEUと自由貿易協定の締結交渉を進めますが、交渉が難航すれば社会が混乱する可能性があります。懸案の北アイルランド問題について、ジョンソン首相はイギリス全体が関税同盟に残る可能性は否定したものの、北アイルランドだけは実質的に関税同盟に残すことを認めました。この判断のゆくえも注目されています。
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