宇宙の謎に迫る 世紀の発見を追う【科学】

宇宙の謎に迫る 世紀の発見を追う

 人類の夢とロマンをはぐくんできた宇宙。それは神秘的なイメージとともに、多くの謎をはらんだ未知の世界でした。その宇宙の神秘と謎が、今科学の手で一歩一歩
解き放たれようとしています。
 宇宙が膨張するスピードを上げていることが明らかになり、その謎の力として登場した暗黒エネルギーの正体を突き止める観測が始まりました。また、万物に質量を与える"神の粒子"といわれる素粒子「ヒッグス粒子」の痕跡が見出され、宇宙の成り立ちが明らかにされようとしています。
 わくわくする世紀の発見を追ってみましょう!

宇宙の謎に迫る 世紀の発見を追う - 宇宙誕生後、10の34乗分の1秒で宇宙は1000億光年の大きさに膨張 -
 まず宇宙の誕生はどんなものだったのでしょうか?
 素粒子物理学の「標準理論」などによりますと、宇宙は今から137億年前のビッグバンで生まれました。誕生直後の宇宙はとてつもない大量のエネルギーによって加熱された超高温・超高密度の火の玉でした。その中で光(光子)を含む大量の素粒子が生まれました。
 この素粒子には二つの種類がありました。ひとつは「粒子」で、もう一つは粒子と反応すると光を出して消滅する「反粒子」です。何らかの理由で粒子よりも反粒子のほうが10億個に1個ほど少なかったため、宇宙の誕生直後に反粒子は全て消滅して、わずかに残った粒子が現在の宇宙の物質の元になったといわれています。
 誕生直後の宇宙は「インフレーション膨張」と呼ばれる、猛烈な勢いで加速膨張していきます。それは10の34乗分の1秒、つまり1秒の1兆分の1の、そのまた1兆分の1のさらに100億分の1の間に、直径1ミリの物体が1000億光年の大きさに広がるすさまじいものです。それは微小なウイルスが一瞬にして銀河団以上の大きさになるような、想像を絶する瞬間膨張です。
宇宙の謎に迫る 世紀の発見を追う - 宇宙誕生1万分の1秒で陽子や中性子が。
                  3分46秒後に水素やヘリウムの原子核が -

 宇宙の誕生から1万分の1秒後に宇宙の温度は1兆度Cに下がって、物質の元となるクォークと呼ばれる素粒子が集まって陽子や中性子を作りました。
 さらに3分46秒経つと温度は9億度Cまで下がり、陽子や中性子が集まって、元素の中で最も軽い水素やヘリウムの原子核が生まれました。こうして星や銀河など宇宙を構成する物質が誕生していったのでした。さらに30万年後に宇宙の温度が3000度Cまで下がって電子が原子核に捉えられ、それまでくすんでいた宇宙空間が今のように透明になりました。これを「宇宙の晴れ上がり」といいます。
 そして誕生から10億年後までに銀河や銀河団が形成されたと考えられます。星が生まれてその中心部で核融合反応が始まることで、炭素や窒素、酸素といった重い元素が作られました。 星の爆発と共にそれらが宇宙空間にばら撒かれて、地球や火星などの惑星が形成されます。
 
- 70億年前から宇宙は膨張を加速。
                   米、豪の3学者が昨年ノーベル賞受賞 -

 これまでの宇宙論では、ビッグバンで誕生直後の宇宙は激しく膨張した後、膨張の速度がゆるくなって星や銀河が誕生して今の姿になったと考えられてきました。これを「インフレーション宇宙論」といいます。
 ところが米国とオーストラリアの3人の科学者が1998年に、「70億年ほど前から宇宙は膨張の速度を上げている。つまり加速しながら膨張している」という観測結果を発表して世界に衝撃を与えました。
 巨大な星が一生を終えるときに生じる超新星爆発が起こった時の光を50以上観測し、そこから出た光が徐々に弱まっていることから、宇宙が加速度的に膨張していることを明らかにしたのです。この3人の学者は、米カリフォルニア大学バークレー校のソール・パールマッター教授、米ジョンズ・ホプキンス大学のアダム・リース教授、オーストラリア国立大学のブライアン・シュミット教授で、2011年のノーベル物理学賞を受賞しました。

- 重力に逆らって加速度的に宇宙を押し広げる未知の暗黒エネルギー -
 加速度的に膨張を続ける宇宙は、今後どうなっていくのでしょうか。宇宙空間がスピードを増して広がることで、将来宇宙が縮んでつぶれるという心配はなくなりましたが、銀河と銀河の間がどんどん間延びし、銀河自身もばらばらになることが考えられます。
 さらに太陽系も形を保つことができず、地球も大気を剥がされ、全ての物質を構成する原子同士が超スピードで分離し、やがて空間も引き裂かれて宇宙は終わりを迎えることになります。
 東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)の村山斉機構長の報道談話によりますと、宇宙の終わりは最も早くて今から1000億年後と語っています。ところで、宇宙が加速度的に膨張しているということは、星や銀河などが互いに引き合う重力に逆らって、またそれを上回る強い力で宇宙を押し広げている巨大なエネルギーが存在していることになります。
 この未知の力、謎のエネルギーが「暗黒エネルギー」なのです。

- 宇宙の73%を暗黒エネルギー、23%を暗黒物質が占め、普通の物質は4%! -
 宇宙望遠鏡科学研究所のマリオ・リピオ博士は、加速膨張する宇宙は、「空中に放り投げた鍵が、速度を上げて天井に向かって突進するようなものだ」と述べています。
 重力に逆らって宇宙を押し広げる正体不明の未知の力、「暗黒エネルギー」の量は、宇宙を構成する物質の約73%を占めるといわれます。残りのうち23%を占めているのが、重力があるがその正体が謎に包まれて、「暗黒物質」(ダークマター)と呼ばれる物質です。つまり、夜空に輝く星や銀河、地球や私たち人間を含めた《普通の物質》の量は、宇宙全体の4%に過ぎません。いま、加速度的に膨張している宇宙の運命の鍵を握っていると考えられる、謎の「暗黒エネルギー」の解明が重要な研究テーマとなっています。
 わが国では、国立天文台と東大数物連携宇宙研究機構(IPMU)などが、ハワイ島にある「すばる望遠鏡」を用いて暗黒エネルギーの性質を調べるSuMIRe(スミレ)計画を今春からスタートします。
宇宙の謎に迫る 世紀の発見を追う - 素粒子に質量を与えて物質を生み出す〝神の粒子〟「ヒッグス粒子」 -
 ビッグバンで宇宙が誕生した直後の素粒子には質量がなく、真空を光速で飛び回っていました。しかし宇宙が生まれて1000億分の1秒後に、ヒッグス粒子が突然真空を満たして素粒子を動きにくくして質量が生まれました。
 質量というのはモノの動きにくさを表す量です。質量が大きい物体は重力も強く働くので、地上にもってくれば重いのですが、質量と重力はイコールではありません。しかし、モノに重さや質量がなければ地球も人も、宇宙のすべての万物はこの世に生まれようがありません。こうして質量を与えられた素粒子は集まって原子を作り、星や銀河を形成していくのです。
 素粒子に質量を与えて物質を作り出すヒッグス粒子は、万物を生み出すという意味で「神の粒子」とも呼ばれます。

- スイスの大型加速器で500兆回の実験データから
                        ヒッグス粒子の痕跡を発見 -

 ヒッグス粒子は、数ある素粒子の中で唯一発見されていない最後の素粒子といわれ、これまで理論上の仮定の存在でした。
 ところが昨年12月、欧州合同原子核研究機関(CERN)が大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使った実験で、宇宙空間の万物に質量を与える「ヒッグス粒子」発見の可能性を見出した、と発表して世界の注目を集めました。ヒッグス粒子発見の糸口を掴んだLHCとは、スイス・ジュネーブ郊外の地下100メートルに5500億円を投じて建設されたチューブ状の真空リングの装置です。長さは27キロメートルで、東京のJR山手線一周の8割に当たります。この真空リングの中で原子核の陽子と陽子を高速近くまで加速して正面衝突させ、宇宙誕生初期に似た環境を作り出します。そこでさまざまな粒子に混じって、100億回に1回ほどの確率で生まれるヒッグス粒子の痕跡を探索します。
 昨年10月末までに500兆回の衝突データを収集し、99・98%の確率でヒッグス粒子の痕跡を見つけました。明らかに存在を確認するには99・9999%の確率が必要といわれ、さらに今年一杯かけて実験を続けて完全な発見にこぎつけようとしています。
宇宙の謎に迫る 世紀の発見を追う - ハワイのすばる望遠鏡で暗黒物質を探査。宇宙の謎の解明に挑む -
 宇宙最大の謎とされる暗黒物質や暗黒エネルギーがどうして存在するのか、またその正体については何も分かっていません。
 先に述べたSuMIRe(スミレ)計画では、ハワイ島にある国立天文台の「すばる望遠鏡」に8億7000万画素の最新CCDカメラ「ハイパーシュプリーカム」を取り付けて、暗黒物質を観測し、暗黒エネルギーの時間変化を調べます。暗黒物質はその名の通り暗黒で見えませんが、暗黒物質の重力で遠くの銀河がゆがんで見える度合いを測定することによって観測します。
 神秘に覆われていた宇宙の謎は、こうした最先端科学技術によって一歩一歩明らかにされようとしています。将来、皆さんも宇宙の謎の解明に挑んで、さらに新しい扉を開いてください。
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