最後のスペースシャトル【科学】

最後のスペースシャトル


 アメリカの航空宇宙局(National Aeronautics and Space Administration NASA)は7月8日(日本時間9日未明)、フロリダ州ケネディー宇宙センターからファーガソン船長ら4人のアメリカ人が乗り込むスペースシャトル・アトランティスを打ち上げました。
 今回の打ち上げで、1981年の初飛行以来、30年に及ぶ宇宙開発の歴史に幕を閉じます。ケネディ宇宙センターの周辺には、今回が見納めとあって世界各地から約100万人もの人が最後の打ち上げを見守りました。世界中から関心を集めたスペースシャトルのこれまでの歩みを振り返ってみることにしましょう。

最後のスペースシャトル - 最高の技術を駆使して宇宙空間を往復 -
 スペースシャトルは、アメリカのNASAが宇宙輸送システムとして開発した有人宇宙船で、今から30年前の1981年に初飛行を行いました。スペースシャトルの目的は、軍事目的とともに宇宙空間での科学実験、新合金や新薬の開発、そして国際宇宙ステーション(International Space Station ISS)の建設などです。
 大きな特徴は、最大7名の宇宙飛行士の操縦室や居住区の他、胴体部分に大きな貨物室を持ち、ISSの建設資材やハッブル宇宙望遠鏡などの大型貨物を運ぶとともに、軌道上の衛星など宇宙廃棄物を持ち帰っています。
 さらに、コストの軽減をめざして、機体が再使用できるように設計されています。宇宙での作業を終え大気圏に再突入時、シャトルは大きな抵抗を受けて高温にさらされる一方、地表に近づくとグライダーのように滑空しながら速度を落として地上に舞い降ります。こうした相反する厳しい条件をクリアするため、300万個にも達する部品によって作られています。人間がこれまで製造した飛行体の中で、最も精密かつ複雑な機体であるといわれています。
最後のスペースシャトル - 135回の飛行で16カ国、355人が宇宙に -
 スペースシャトルはこれまで135回打ち上げられ、16ヵ国・355人を宇宙軌道に運びました。
 日本からは、1992年に初めて毛利衛宇宙飛行士がスペースシャトル・エンデバーで宇宙飛行したのを皮切りに、7名の宇宙飛行士が延べ13回の飛行を行なっています。これら宇宙飛行士は、宇宙空間での各種実験を行なうとともに、ISSでは最大規模となる実験棟「きぼう」の建設にも取り組み、2009年7月に完成させました。
 ISS計画は世界の15ヵ国が参画し、日本は実験施設「きぼう」の建設を行なうとともに、ISS補給機「こうのとり(H-Ⅱ Transfer Vehicle HTV)」で補給物資の運搬にあたっています。「こうのとりHTV」は鹿児島県の種子島からH-Ⅱロケットで打ち上げられ、ISSに食料や衣類、各種実験装置など最大6トンもの物資を送り届け、補給後は使用済みの実験装置や衣料品などを積み込み、大気圏に再突入して役割を終了します。
 このように日本の宇宙開発は、スペースシャトルに負うところが大といえます。 この間に蓄積した技術、国際宇宙開発といった貴重な経験を次代にいかに繋げるかが今後の大きな課題になっています。

- 空中分解、爆発という悲しい事故も -
 1986年1月、スペースシャトル・チャレンジャーが打ち上げから73秒後に爆発し、大西洋上で空中分解して7名の宇宙飛行士が命を落としました。この事故で、シャトル計画は32ヵ月にわたって中断し、再開するまでに実行すべき改善案が提示されました。チャレンジャーの事故は、安全工学や職場倫理の事例研究としてしばしば取り上げられています。
 2003年には、地球に帰還中のスペースシャトル・コロンビアが空中分解し、7名の宇宙飛行士が犠牲になりました。原因として発射の際、機体を守る断熱壁を損傷させたまま大気圏に再突入し、損傷個所が高温で破損したと見られています。
 この事故の影響で、チャレンジャーと同様にシャトル計画が2年以上にわたって中断を余儀なくされました。
最後のスペースシャトル - シャトルの引退は機体の老化とコスト高? -
 今回の打ち上げで幕を閉じることになった要因として、機体の老朽化と財政難に悩むアメリカの事情があります。計画当初、最高の技術を投入して宇宙との往復機を作り、年間50回もの打ち上げでコスト低減をめざしました。ところが、2回の惨事を経験したことなどで、複雑なシャトル本体や制御システムなどの整備に多額の費用が必要になりました。さらに、シャトルを含む総重量2000トンという巨大なロケットを打ち上げるのに巨額を必要とすることです。
 こうした中、ISSの建設が一段落したこともあって、アメリカは後継機の開発を断念したのです。アメリカは今後、月よりも遠い星をめざす新型ロケットの開発に乗り出す計画で、ISSへの往復は民間企業に委託する方針です。しかし、実現するまでかなり時間がかかりそうで、当面ロシアのソユーズがISSへの宇宙飛行士の往復を担当します。
 再使用を目的に作られたスペースシャトルは、コロンビア、チャレンジャー、ディスカバリー、アトランティス、エンデバーの5機。しかし、チャレンジャーとコロンビアの2機を事故で失い、最後まで残ったのは3機です。任務を終えたアトランティスを含む3機は、アメリカ国内の3ヵ所で展示されることになっています。
- ISSへの往復を担うロシアの「ソユーズ」 -
 ソユーズ宇宙船は、カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地からソユーズロケットで打ち上げられます。1967年の初飛行以来、ソユーズ宇宙船は改良を重ね、現在は2〜3人の宇宙飛行士が搭乗できる「ソユーズTMA」がISSとの往復に使用されています。
 ソユーズ宇宙船は2000年11月にISSに初めて宇宙飛行士を運んで以来、常にISSに結合されたまま、次のソユーズ宇宙船が到着するまで待機し、帰還に備えています。つまり緊急避難船の役割も果たしているのです。
 ISSにソユーズ宇宙船がドッキングするまでに2日間ほどかかります。しかし、地上への帰還は、3時間半ほどの短時間でパラシュートや逆噴射で減速しながらカザフスタン共和国に着陸します。
 すでに、野口聡一宇宙飛行士がソユーズ宇宙船に搭乗し、ISSで約半年間の任務を行ないました。今年6月10日には、古川聡宇宙飛行士がソユーズ宇宙船でISSに到着し、約5ヵ月半の長期滞在を開始し、現在各種実験に取り組んでいます。
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