日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生【科学】

日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生


今年の元旦に、「日本が作りだした113番目の元素が国際機関で新元素と認定され、発見者に与えられる命名権を獲得した」というニュースがかけ巡りました。新元素の発見はこれまで欧米が独占していましたが、アジアで初めての快挙です。「ジャポニウム」という名が有力候補に上がっていますが、来年の教科書には元素の周期表に日本初の新元素が登場します。改めて元素について考えて見ましょう。

日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生 - 元素と原子の違い -
 私たちの周りのものは全て、水素やヘリウム、炭素、鉄などの元素で出来ています。元素とはそれ以上細かく分けられない、モノを形作る基本的な粒である原子の種類を表したものです。
 分かりやすく言えば、物質を構成する基本的な要素の概念(表記)が「元素」で、実体(粒子)が「原子」です。
 「原子番号8番は酸素である」という時の酸素は元素のことで実体はありません。「水は水素2個(H2)と酸素1個(O)が結合したものです」という時の水素や酸素は原子のことです。
ちなみに、「空気中には酸素が含まれています」という時の酸素(O2)は分子を指します。
日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生 - 元素の種類は陽子の数で決まる -
 原子は中心に正の電荷を持つ原子核と、その周囲を飛び回って負の電荷を持つ電子からできています。原子核は正の電荷を持つ陽子と電荷を持たない中性子という粒で構成されています。原子核の中の陽子の数が原子番号で、これによって元素の種類が決まります。
 物質の中には陽子の数が異なるさまざまな原子が存在しますが、陽子の数が1個なら水素、2個ならヘリウム、6個なら炭素というように、同じ数の陽子を持つ原子(つまり同じ原子番号を持つ原子)は同じ元素というわけです。
 ただ同じ原子番号の原子でも、中性子の数が違うと陽子と中性子の数を合わせた質量が異なります。例えば質量1の水素と質量2の重水素の原子は構造が異なりますが、どちらも陽子の数が1個の水素元素「H」で表記します。原子番号が同一でありながら中性子の数が異なる原子を同位体(アイソトープ)といいます。  天然に存在するウランも質量の異なる234ウラン、238ウランなどの同位体があります。他に有用なウランの同位体として高速増殖炉で大量に生成するウラン232がありますが、いずれもウラン元素「U」で表記されます。
日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生 - ウランより重い93番以降は人工元素 -
 原子番号1番の水素から92番のウランまでの元素は自然界に存在しますが、93番以降のウランより重い元素は、天然には存在しない人工的に作り出された元素です。  現在118番までの元素が報告されていますが、元素を原子番号順に並べると科学的な性質が似ている元素が繰り返し現れます。周期的に変化する法則に従って元素を一覧表に配置したのが、18世紀にロシアの化学者のメンデレーエフが考案した「周期表」です。
 現在の周期表は、原子番号順に縦18列、横7行の表の中に元素が配置されています。横(行)の並びを「周期」、縦(列)に並んでいる元素を「族」といいます。  1族のアルカリ金属、2族のアルカリ土類金属、13族のホウ素族、14族の炭素族、15族の窒素族、16族の酸素族、17族のハロゲン、18族の希ガスを典型元素と呼び、その間の3から12族の元素を遷移元素と言います。そして、同じ周期の元素は類似した化学的性質を持っています。
日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生 - 日本が113番元素の命名権獲得 -
 これまでに114種類の元素に名前がついていますが、今回新たに原子番号113番をはじめ115番、117番、118番の4種類の新元素が認定されました。
 アジアで初めての発見となった113番の新元素は、理化学研究所の森田浩介氏(現・九州大学教授)らの研究チームが合成しました。埼玉県和光市の理化学研究所の仁科加速器研究センターで、2004年に原子核に陽子が30個ある亜鉛を陽子83個のビスマスにぶつけて核融合させる方法で実験しました。
 50兆回におよぶ衝突で1個の113番元素が合成され、続いて05年、12年にも成功して計3個を合成しました。ロシアとアメリカの研究グループも別の方法で113番を含む4つの新元素を合成したと主張しました。新元素を認定する「国際純正・応用化学連合」(IUPAC)と「国際純粋・応用物理学連合」(IUPAP)は、十分な確認作業を行った日本の研究成果を認めて、113番目の元素の命名権を日本が獲得しました。

- 欧米独占の構図に日本が風穴を開ける -
 新元素の発見では米国、ロシア(旧ソ連)、ドイツが熾烈な競争を演じてきました。1940年に米国が原子番号93のネプツニウムを見つけて以来、103番までの元素を連続で発見し、その後は旧ソ連と激しく競ってきました。80~90年代はドイツが107番以降を6連続で発見しました。
 冷戦終結後は米国、ロシア、ドイツが共同研究に移行し、日本は孤軍奮闘の形でした。113番の新元素発見は、欧米勢独占の構図に初めて日本が風穴を開けた歴史的な快挙といえます。
 原子核研究の一環である新元素の研究は核開発の技術が基礎となっているだけに、戦後米国と旧ソ連が国の威信をかけて激しく競り合ってきました。今回、日本の理化学研究所が、平和目的の研究で新元素発見にこぎつけた意義は大きいものがあります。


- 一国の科学技術の優秀性を証明 -
 国際機関が正式に元素と認定しますと、新元素を作りだした(発見した)研究グループに命名権が与えられ、元素周期表に新たな名前と元素記号が書き加えられます。
 理化学研究所が発見した原子番号113の新元素は、陽子の数が113で、周期表ではアルミニウムなどと同じ13族に位置付けられます。陽子と中性子の数を合わせた質量数は278で鉄の約5倍。不安定で寿命は1000分の1秒以下と短く、科学的な性質は分かっていません。
 新しい元素の発見は私たちの社会生活に直接影響を及ぼすものではありませんが、万物の生成をひもとく普遍的な価値があります。一国の科学技術のレベルの優秀性を証明する誇るべき歴史的成果だといえます。
 ノーベル化学賞を受賞した野依良治博士はかつて、「新しい元素の発見は科学者にとってオリンピックの金メダル以上の価値がある」と話しています。

【幻の元素「ニッポニウム」】
 今から約100年前に日本で新しい元素が発見され、「ニッポ二ウム」と命名されました。 東北帝国大学教授の小川正孝(後に総長)が新鉱物のトリアナイト中で発見した新元素で、1908年に英国の化学雑誌「ケミカルニュース」で第43番目の元素として発表されました。
 当時大きな反響を呼び、1909年のローリング周期表には元素名「ニッポ二ウム」、元素記号「Np」と掲載されました。
 しかし、後に新元素「ニッポ二ウム」は原子量の判定を誤り、間違って原子番号43として発表されたことが分かりました。
 1937年にアメリカの物理学者エミリオ・セグレが加速器を使って43番元素を作りだし、47年にテクネチウム(Tc)と命名され、「ニッポ二ウム」は幻の元素となりました。  小川正孝が実際に発見したのは、テクネチウム(Tc)と化学的性質が似ている原子番号75のレ二ウム(Re)であることが後に判明しました。当時、X線分光装置が手に入らず、正しい測量ができなかったため、誤って43番元素として発表したのでした。小川正孝が発見した幻の元素「ニッポ二ウム」の研究資料は、2013年3月18日に日本化学会の「化学遺産」に登録されました。

【「元素探求の歴史」】
 物質の根源となる成分を元素といいますが、古代から「万物は根源となる究極的要素から成る」という自然観がありました。
 古代の中国では木・火・土・金・水の5つを元素と考え、これを「五行」と呼びました。また古代ギリシャでは、火、土、水、空気の「四元素説」があり、アリストテレスは、これに「温・冷」「乾・湿」の4つの性質を与えて元素が成り立つと考えました。
 18世紀後半になってラボアジェが後に化学の革命と言われる「質量不変の法則」を提唱すると共に、元素を「それ以上分けることができない物質」として定義し、33の元素が載った表を発表しました。
 19世紀に入ると、英国のドルトンが「物質にはこれ以上分解できない基本粒子が存在しこれが原子である」と唱え、物質を構成する最小の粒子を「原子」とする概念が広く支持されるようになりました。
 以来、化学ブームが巻き起こって新元素が次々に発見され、1869年までに元素の数は64個まで増えました。
 1869年にロシアのメンデレーエフが提唱した元素周期表では、原子番号82の鉛(Pb)まで掲載され、1871年に発表した第2周期表には天然で最も重い原子番号92のウラン(U)がすでにありました。
 1930年代に加速器が登場し、ウランより重い元素を人工的に作りだすことが可能となりました。戦後は米国、ソ連(ロシア)、ドイツが新元素発見にしのぎを削ってきました。
日本で初めての新元素「ジャポ二ウム」誕生 【「宇宙と元素の生成」】
 宇宙はおよそ137億年前に、爆発的な膨張(ビッグバン)と共に誕生したといわれます。誕生直後の宇宙は高温下で光から素粒子のクォークや電子ができ、クォークはさらに陽子や中性子になります。宇宙誕生から1秒後に最初の元素「水素」ができ、3分後に水素から2番目の元素「ヘリウム」が生まれたといわれます。
 宇宙には銀河が無数に存在しますが、宇宙誕生から5億年後に最初の銀河ができたと推測されています。銀河では水素でできた星間ガスの中から星が誕生します。生まれた星の中心部で温度が1000万℃に達すると、水素原子同士が核融合して「ヘリウム」が生まれます。
 さらに、ヘリウム原子が核融合して「炭素」や「酸素」が生まれ、星は次々と元素を作りだし、やがて星の内部で原子番号26番の「鉄」までが作りだされました。
 鉄の元素ができた星は超新星爆発を起こして粉々に砕け散り、内部の元素は分子ガスとして宇宙空間に拡散し、新しい星や惑星の形成の素となります。こうして星の誕生と死、核融合と超新星爆発が繰り返され、その過程で生成された原子はやがて太陽系や地球、そこに生息する生物の体を形成していったと考えられています。  元素の分布は宇宙の進化の痕跡を残したものだけに、元素を手掛かりとした宇宙の現象や進化の研究が盛んに行われています。
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