先端科学研究が宇宙の謎に迫る【科学】

先端科学研究が宇宙の謎に迫る


【重力波観測、X線天文学、ニュートリノ振動】
 宇宙と物質の成り立ちについて人類の理解を飛躍させる新しい科学研究に期待が集まっています。「重力波観測」や「Ⅹ線天文学」、「ニュートリノ振動」などの先端科学研究が宇宙の生成や物理法則の謎に迫り、正体不明の暗黒物質や暗黒エネルギー、反物質といった宇宙の神秘の解明に挑んでいます。新たな天文学や物理学の道を拓く最近の研究成果を探ってみました。

先端科学研究が宇宙の謎に迫る - 「アインシュタインの宿題」を達成 -
 今年2月、米国の科学者が初めて宇宙から届く「重力波」の検出に成功したというニュースが世界を駆け巡りました。
 重力波はブラックホールなどの重い天体が激しく運動すると、周りの時空(重力場)が歪んで波のように光速で宇宙に広がる現象です。今からちょうど100年前にアインシュタインが一般相対性理論で予言しました。
 カリフォルニア工科大とマサチューセッツ工科大の共同研究チームが、米国の2カ所に設置した大型観測装置「LIGO」で、13億光年離れた重さが太陽の29倍と36倍の2つのブラックホールが衝突した時にできた重力波を観測しました。
 重力波による空間の歪みを捉える装置は、太陽と地球の距離(約1・5億㎞)が、水素原子1個分伸び縮みするごくわずかな変化を検知できるほどの高感度が求められます。
 「アインシュタインの宿題」と言われた重力波の検知が、21世紀の最先端科学技術によってはじめて達成されたのでした。
先端科学研究が宇宙の謎に迫る - 重力波の観測が新しい宇宙観をもたらす -
 ブラックホールは光速でも逃げ切れないほど重力が強いため、光や電磁波をのみ込んで直接観測することができません。しかしブラックホールからの重力波を観測できれば、ブラックホールの構造や内部の物質の動きなどを知ることが可能だといわれます。
 また、宇宙が誕生した直後の急膨張の時期に発生したと考えられる重力波(原始重力波といいます)を観測できれば、宇宙の初期の様子が解明されると期待されています。
 重力波を観測する「重力波天文学」によって、ブラックホールの誕生や星の一生の終わりである超新星爆発、非常に重い中性子星同士の合体といった宇宙の生成・進化の過程の劇的な現象を捉えることができ、私たちに全く新しい宇宙観をもたらすことでしょう。

- 未知の素粒子、ニュートリノ研究で相次ぎノーベル賞 -
 昨年、東京大学宇宙線研究所の梶田隆章所長が、ニュートリノに質量のあることを発見してノーベル物理学賞を受賞しました。ニュートリノ研究では2002年に小柴昌俊東大特別栄誉教授が、それまで理論上の存在だったニュートリノの観測に成功してノーベル物理学賞を受賞しています。
 物質を構成する最小の粒子を素粒子と言います。現在確認されている素粒子は、原子の中の原子核の中にある陽子や中性子を構成するクォークと電子の仲間であるレプトンに分類されます。どちらも6種類が存在します。このうちレプトンの中で電荷のない3種類(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)をニュートリノと言います。
 ニュートリノは厚さが1光年もある鉛を突き抜けるといわれ、検出が非常に難しく、02年に小柴教授が観測に成功するまで理論上の存在でした。

- 地下の観測装置でニュートリノの質量を発見 -
 ニュートリノは宇宙空間で光の次に多く飛び交っているといわれます。太陽など星の中心で起こる核融合反応や超新星爆発、地球の大気中や原子炉、地球の内部、私たちの体からも発生します。
 3種類のニュートリノは、飛んでいるうちにそのいずれかに形を変えていきます。この現象を「ニュートリノ振動」といい、ニュートリノが質量を持つことを示しています。
 東大宇宙線研究所の梶田隆章所長は、岐阜県飛騨市の神岡鉱山の地下1000メートルにある素粒子観測装置「スーパーカミオカンデ」で、宇宙から降り注ぐニュートリノを観測してニュートリノ振動を証明し、ニュートリノに質量のあることを発見しました。
 ニュートリノの研究は、1990年代以降に目覚ましい発展を遂げてきました。ニュートリノ研究は宇宙誕生の謎の解明に繋がると期待が集まっているのです。
先端科学研究が宇宙の謎に迫る - 宇宙誕生の謎に迫るニュートリノ振動 -
 宇宙が誕生した時、そこには宇宙エネルギーが充満していました。エネルギーは分離すると「物質」と「反物質」が同じ量だけ存在し、「物質」と「反物質」が融合すると、両者は再びエネルギーに戻って消失する性質があるといわれます。
 現在の宇宙空間で確認できているのは物質のみで反物質は確認できていません。反物質がなぜ消滅し、なぜ物質だけが残ったかという謎の解明にニュートリノ振動の研究が注目されています。
 ニュートリノ振動にはニュートリノと反ニュートリノ(ニュートリノの反粒子)の間に振動の違い(CP対称性の破れといいます)があり、これを追究することによって宇宙の成り立ちの謎の解明につながると期待されています。

- 宇宙の大半を占める未知の暗黒物質、暗黒エネルギー -
 私たちが天体望遠鏡(可視光)や電波望遠鏡(電波)などで観測できる宇宙の物質は、宇宙全体の約5%程度にすぎないといわれます。
 大きな重力を持つ正体不明の暗黒物質(ダークマター)が宇宙の27%を占め、68%はこれも得体の知れない暗黒エネルギー(ダークエネルギー)で満たされているといわれます。
暗黒物質は光や電波などの電磁波を放たないため観測することができません。しかし、銀河運動などの観測を通して、見えない暗黒物質の引力が影響していることが分かってきました。
 138億年前に宇宙はビッグバンによって誕生し、膨張を続けていますが、その膨張スピードはますます加速していることが分かっています。
 宇宙の内部には引力を持つ天体がありますが、この引力に打ち勝って宇宙が膨張スピードを加速するには、宇宙空間を広げようとする強い力(斥力「せきりょく」といいます)が無くてはなりません。その斥力の根源が暗黒エネルギーだと言われていますが、その正体は分かっていません。

- 地下で、宇宙で暗黒物質を観測 -
 東大宇宙線研の梶田所長によるニュートリノ質量の発見は、これまでの素粒子の標準理論に本質的な見直しを迫り、新しい物理学の扉を開いたといわれます。これまで謎とされていた暗黒物質解明への期待を抱かせます。
 スーパーカミオカンデと同じ神岡鉱山の地下に、東大宇宙線研究所の暗黒物質検出装置「XMASS」があります。マイナス110℃の液体キセノン約800㎏を用いて、2010年から暗黒物質の直接観測を行っています。暗黒物資の候補とされるニュートラリーノなどの未知の粒子が、キセノンの原子核に衝突した際に発生する微弱な光を検出して、暗黒物質の正体を探ります。
 また、国際宇宙ステーション(ISS)でも、高エネルギー電子・ガンマ線観測装置「CALET」を搭載し、宇宙から暗黒物質の観測を目指します。 さらに欧州では、スイス・ジュネーブの欧州合同原子核研究機構にある世界最大の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で、暗黒物質の候補となる未知の素粒子の生成を進めており、暗黒物質の解明に向けた研究が行われています。

- X線観測で本当の宇宙が見えてくる -
 私たちは宇宙の星から届く可視光を天体望遠鏡で観測して宇宙のイメージを膨らませますが、可視光ではなくX線を観測すると全く異なった宇宙が見えてきます。
 X線は数百万℃から数億℃の超高温のプラズマや高速で走る粒子から放出されます。宇宙の物質の8割はプラズマで占められ、X線を放出しています。
 宇宙からのX線は、地球上の大気に吸収されて地上にはほとんど届きません。このため地球を回る衛星にX線観測装置を搭載した「X線天文衛星」によってX線観測を行っています。
 「X線天文衛星」で、はるか遠くの銀河団やブラックホール周辺のガスから飛来するX線を観測して、宇宙の成り立ちや宇宙全体の活動を探ります。

- X線天文衛星が宇宙の活動を探る -
 宇宙のX線観測は約50年前から始まりました。世界最初のX線天文衛星は1970年にNASAが打ち上げました。日本は79年に初のX線天文衛星「はくちょう」を打ち上げ、X線を出す新たな天体8つを発見しました。
 その後「てんま」「ぎんが」「あすか」「すざく」と次々X線天文衛星を打ち上げました。3代目の「ぎんが」は、地球から17万光年離れた大マゼラン星雲の超新星爆発の痕跡を捉えることに成功しました。5代目の「すざく」は、6500万光年離れたおとめ座銀河団を観測し、鉄や硫黄などの割合が太陽系惑星とほぼ同じであることを突き止めました。
 今年2月に打ち上げられた6代目の「ひとみ」は航行トラブルを起こして4月末に運用を断念しました。現在、米NASAの「チャンドラ」、欧州宇宙機関(ESA)の「XMM-ニュートン」のX線天文衛星がX線観測を担っており、2028年に欧州チームが新たなX線天文衛星の打ち上げを予定しています。

【スーパーカミオカンデ】
先端科学研究が宇宙の謎に迫る - ニュートリノ研究で宇宙と物質の謎解明へ -
 ニュートリノなど素粒子の観測装置「スーパーカミオカンデ」は、岐阜県飛騨市の神岡鉱山の地下1000メートルにあります。総工費約100億円をかけて1996年に完成しました。 
直径40メートル、高さ40メートルの水槽に5万トンの水をためています。内側に 直径50センチの「光電子増倍管」が約1万1000本取り付けられていて、宇宙から降り注ぐニュートリノが水の分子と反応して生じる「チェレンコフ光」という微弱な光を捉えます。
 現在は約300キロ離れた茨城県東海村の研究施設「J—PARC」で、ニュートリノを人工的に飛ばしてスーパーカミオカンデでとらえる「T2K」実験などが行われています。
 現在、より巨大な「ハイパーカミオカンデ」の建設計画が進行中です。直径74メートル、深さ60メートルの水槽を二つ並べた構造で、合計の水の量はスーパーカミオカンデの10倍に当たる52万トンです。2026年に完成を目指していますが、ここでは「なぜ宇宙に物質が存在するのか」をテーマに、物質と反物質の謎を解くカギとなる「ニュートリノのCP対称性の破れ」現象などの観測を目指します。
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