走りだした未来のクルマ、「自動運転車」【科学】

走りだした未来のクルマ、「自動運転車」


【自動運転車は交通事故を防止できるか】
 交通事故を未然に防ぐ〝未来のクルマ〞自動運転車が実用化に向け動き始めました。すでに危険を察知すると自動的にブレーキがかかったり、ハンドル操作や加速・減速など複数の操作を自動的に支援する機能を搭載した車が実用化されています。近い将来、人が運転操作から解放される完全自動運転車が実現すれば、交通事故は無くなるでしょうか。また、バスやタクシー、トラックなどの交通体系や物流、介護、救急搬送などはどう変わっていくのでしょうか。開発が進む自動運転車の現状と将来を展望してみました。

走りだした未来のクルマ、「自動運転車」 - 交通事故原因の9割がヒューマンエラー -
 わが国の交通事故件数は2004年の95万2720件をピークに減少していますが、それでも2016年中には49万9201件の交通事故が発生し、死亡者数は3904人、負傷者数は61万8853人にのぼります。
 一方、社会の高齢化が進む中で交通事故の高齢者の死亡件数は増大の一途をたどっています。交通安全白書(平成29年版)によりますと、2016年のドライバー10万人当たりの死亡事故件数は75歳未満が3.8件だったのに対し、75歳以上の高齢者は8.9件と約2.3倍にのぼっています。
 政府は第10次交通安全基本計画(平成28年度~32年度)で、東京五輪が開催される2020年までに交通事故死者数を2500人以下、負傷者数を50万人以下とし、世界一安全な道路交通の実現を目指しています。
 交通事故原因の9割がヒューマンエラーによるものといわれ、改めて自動車の安全機能の強化が叫ばれています。人が運転操作から解放される自動運転が100%普及すれば、理論上年間約45万件の交通事故が減る勘定になります。
 これは全国であまり自動車が普及していなかった1952年(昭和27年)当時の事故件数(5万8487件)のレベルまで下がることになります。

- 交通事故防止に期待が高まる自動運転車 -
 昨年4月、経済産業省は自動ブレーキを搭載した車を安全サポート車(セーフティ・サポートカー)と定義し、国産自動車の自動ブレーキの搭載率を2015年の約45%から、20年までに90%以上に引き上げる目標を掲げました。より安全な車が求められる中で、一日も早い開発、普及が待たれるのが「未来のクルマ」といわれる自動運転車です。
 GPS(衛星利用測位システム)やカメラ、各種のセンサー、AI(人工知能)を駆使して周囲の状況をコンピューターが認識し、ハンドルやブレーキ、アクセルを自動制御する自動運転車に交通事故防止への期待が高まっています。
 それでは自動運転車とはどういうものなのでしょうか。現在どこまで開発が進んでいて、ヒューマンエラーを防ぐ安全な車としていつ実用化されるのでしょうか。
走りだした未来のクルマ、「自動運転車」 - 「認知」「判断」「操作」の作業を機械が行う -
 自動運転を一口で言えば、ドライバーの様々な運転操作を人間の代わりにシステム(機械)が行うことです。自動運転の基本的な仕組みは、「認知」「判断」「操作」の3つの処理を機械が連動して行うことです。
 まず「認知」は、周囲の状況を検知することで、ミリ波レーダーや赤外線レーダー、カメラなどで周辺を監視します。ドライバーの「眼」に当たります。
 次いで「判断」は、検知によって得た情報から車をどう動かすかを意思決定することで、ドライバーの「頭」に当たります。この判断は機械学習(ディープラーニング)によるAI(人工知能)の活用によって、人よりもすばやく最適な判断を下します。
 そして「操作」は、認知と判断の結果をもとに自動的に車の運転を行うもので、ドライバーの「手足」ということになります。「認知」「判断」「操作」の間をつなぐ伝達をスムーズに実現するために、従来のワイヤ(電線)に代わって電気信号に置き換えて制御する「バイワイヤ」が導入されます。
走りだした未来のクルマ、「自動運転車」 - 5つのレベルに区分される自動運転 -
 現在多くの車種には、危険を察知すると自動的にブレーキがかかる「衝突被害軽減ブレーキ」や、高速道路などで前を走る車を追随して自動で速度などを制御するACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)といった運転支援システムが導入されています。これらは将来の自動運転に繋がる技術と言えます。
 一口に自動運転と言っても、システム(機械)が介入する度合いによっていくつかの段階に区分されます。
 自動運転技術のレベルは、現在米国のモビリティ専門家による非営利団体のソサエティ・オブ・オートモーティブ・エンジニアズ(SAE)が制定した、レベル0~5の段階表示によるものが多く用いられています。
 レベル0は従来通り運転車が全ての運転を操作する完全手動の車を指します。レベル5はあらゆる状況下で完全自動運転するもので、その間に4つの段階があります。

- 本格的な自動運転はレベル3から -
 自動運転のレベル1は運転支援の段階です。事故が起きそうな状況を車が察知して自動的にブレーキが掛かる機能や、車間距離を一定に保って自動的に定速走行するACC(定速走行・車間距離制御装置)」などの機能がこのレベルに分類されます。
 レベル2は部分運転自動化の段階で、ハンドル操作と車の加速・減速など複数の運転を自動的に支援します。ただその場合もドライバーはしっかりと周囲の状況を確認する必要があります。
 そしてレベル3が条件付き自動運転の段階で、システムが運転してくれる本格的な自動運転になります。周りの状況を認識しながら車が自動的に運転してくれますが、緊急時はドライバーが対応することが条件です。また、交通量が少ない場合や、天候や視界が良好で運転しやすい環境が整っていることなどが前提となっています。
 レベル4は高度自動運転の段階で、ドライバーがいない状態で自動的に運転します。ただ気象状況など走行環境によっては運転できないこともあります。
 そしてレベル5は完全自動運転の段階です。どのような条件下でも車が自律的に自動運転してくれます。
 現在実用化されている自動運転はレベル1~2の段階です。レベル1に分類される自動ブレーキは、軽自動車を含めて多くの車に搭載されています。

- レベル3の自動運転実証実験が全国で実施 -
 ハンドルの手放し運転で象徴される本格的な自動運転となるレベル3の実証実験が、全国各地で行われています。国土交通省は昨年9月から「道の駅」などを拠点に全国13カ所で、ドライバーがいない自動運転車に過疎地の住民や農作物などを運ぶ実証試験を開始し、2020年に実用化を目指しています。
 また、高速道路などで人が運転する先頭車に追随して、無人の後続車が列をなして走行する「後続無人隊列走行」が22年にも実現する見通しです。無人トラックのコンボイが活躍すれば、深刻なドライバー不足に悩む運輸業には大きな朗報となるでしょう。
 それでは日本の自動車メーカーの自動運転への取り組みはどこまで進んでいるのでしょうか。
走りだした未来のクルマ、「自動運転車」 - 20年にレベル3の自動運転実用化を目指す -
 2016年8月に、米フォード・モータースが21年までにドライバーが不要な完全自動運転車を量産すると発表して話題を集めました。
 日本では日産自動車が昨年10月に、高速道路での走行や駐車時の操作などを自動的に制御する電気自動車の「新型リーフ」を発売しました。今年高速道路で自動的に車線変更ができる自動運転を計画し、20年をめどにレベル3の自動運転車の実用化を目指しています。
 また、トヨタ自動車も20年までにレベル3の自動運転を高速道路で実現し、20年代前半にもAI技術を駆使して一般道路でレベル4の自動運転を実用化する方針です。
 ホンダも20年に、ドライバーの指示が不要な自動車線変更や、渋滞時にドライバーが周辺監視することなく自動走行する自動運転車の実用化を予定しています。25年めどにレベル4の高度自動運転の実用化を目指します。
 このほかマツダやスバルなども東京五輪が開かれる20年を視野に本格的な自動運転の実用化に向けた取り組みを進めています。
走りだした未来のクルマ、「自動運転車」 【自動運転車で変わる社会】
- トラック、バスのドライバー不足に大きな期待 -

 日本自動車工業会によりますと、交通事故による経済損失は年間約6兆円、交通渋滞による損失は約10兆円にのぼります。
 自動運転は自動車にとってこれからの注目技術ですが、すでに航空機では一般的に実用化されています。「オートパイロットシステム」といわれるもので、航空管制からの指示や気象条件などの外部環境、目的地情報などを設定すれば、巡航時に機体の姿勢を一定に保つだけでなく、視界の悪い際にも安全に滑走路まで誘導してくれます。
 パイロットが手動で行わなければならないのは離着陸のみで、その他はほとんどの段階で操縦の自動化が進んでいます。 
 自動運転はドライバーから運転という行為を解放することによって疲労やストレスを軽減し、事故防止につながるというメリットがあります。警察庁によりますと、居眠り運転やわき見運転、安全不確認といったドライバーの法令違反が原因の死亡事故は、全死亡事故の約9割を占めるといわれます。高度な自動運転車が実用化されれば、こうしたヒューマンエラーによる事故は大幅に削減されることでしょう。
 運送業界のドライバー不足が社会問題となっていますが、経費の約5割が人件費と言われるバス事業や、約7割が人件費のタクシー事業でも、ドライバーの高齢化と人手不足が深刻化しており、自動運転の実現を待望しています。すでにバスや宅配業界では自動運転を活用した実験に取り組んでいます。横浜市はDeNAとタイアップしてバスの自動運転事業に乗り出す方針で実証実験に入り、20年度以降に実用化を予定しています。

【自動運転で交通法規はどうなる】
- 自動運転社会を見越した交通法規を見直し -

 ドライバーが操作しなくても走行できる自動運転車の交通法規はどうなるのでしょうか。自動車に関する法整備で問題となるのが「ジュネーブ道路交通条約」と「道路交通法」です。ジュネーブ道路交通条約は1949年に採択された国際条約で、日本もこれを締結して64年から発効しています。
 それには「運行する車両には運転者がいなければならない(第8.1条)」と明記され、60年に施行された道路交通法にも、「車両の運転車はハンドル、ブレーキその他を確実に操作し…運転しなければならない」(第70条)と記されています。つまり現行の法規則ではドライバーによる運転が前提となっています。このため、運転操作にドライバーが部分的にでも関与しないレベル3以上の自動運転には新たな法規制の整備が必要です。
 またドライバーが運転に関与しないレベル4以上の自動運転車が事故を起こした場合、誰が責任を取り、賠償するのかという問題があります。現実的に考えれば自動車メーカーの責任が問われることになり、交通事故に備えて保険に入るのは車のユーザーではなく自動車メーカーという事になるかもしれません。
 政府は2025年に自動運転社会の到来を見越しており、ドライバーによる運転を前提とした現行の交通法規の見直し作業に乗り出しました。17年度内に完全自動運転の実現に向けた制度整備の方針(大綱)をまとめ、18年内に関連法の改正案を策定する方針です。
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