日本版GPS4月からスタート【科学】

日本版GPS4月からスタート


【高精度位置情報で産業と暮らしが変わる】
 スマホやカーナビでおなじみのGPSは、人工衛星からの測位信号(電波)を使って位置情報を算出する測位衛星システム(GNSS)の一つです。GPSはアメリカのGNSSですが、昨年10月に日本は4基目となるGNSSを打ち上げ、今年4月から4基体制での運用が始まりました。日本自前のGNSSを準天頂衛星「みちびき」といいますが、日本版GPSともいわれます。米国のGPSと併用することで、これまで約10メートルの計測誤差は最少6センチと非常に高精度の位置情報が実現します。これによって車の自動運転をはじめ、農業や土木、物流、防災、スポーツなど幅広い分野で期待が集まっています。〝日本版GPS〟の運用で私たちの暮らしはどう変わるのでしょうか。

日本版GPS4月からスタート - GPSは現代社会を支える重要なインフラ -
 準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき」は、電波で地上の位置を計測するための測位衛星で、2010年に1号機が打ち上げられました。昨年6月に2号機、8月に3号機、10月に4号機が相次いで打ち上げられ、今年4月から4基体制で本格運用が始まりました。
 人工衛星からの測位信号(電波)を使って位置情報を算出する測位衛星システム(GNSS)は、ヨーロッパやロシア、中国などでも独自のものがあります。アメリカのGPS(全地球測位システム)は日本でも広く利用されて、測位衛星システムの代名詞的な存在となっています。
 もともとGPSは東西冷戦時代の1970年代に米国が軍事目的で開発したものですが、今ではカーナビやスマホなどで活用され、現代社会を支える重要なインフラの一つとなっています。
日本版GPS4月からスタート - 日本の「みちびき」はGPSを補完する -
 代表的な測位衛星システムである米国のGPSは、現在約30基が地球を周回して地球全域をカバーしています。しかし日本上空をいつも飛行しているわけではありません。
 日本から離れているとき電波は真上から届かなくなるため、高層ビル街の谷間や山間部では電波が遮られたり反射して位置情報の精度が低下して、測定不能になるケースが頻繁に発生します。
 「みちびき」は、日本の真上付近(準天頂)で飛行時間が長くなる準天頂軌道という特殊な軌道を採用しています。静止軌道を傾けたような楕円軌道と、アジア、太平洋の上空を8の字を描く軌道で周回しています。
 3基のみちびきが楕円軌道を周回し、8時間ごとにそれぞれの「みちびき」が高度3万9000キロの日本上空に位置して24時間体制でカバーしています。そして残りの1基が赤道上空の高度3万6000キロを回る静止軌道で、地上からは止まったように位置します。
 静止軌道の「みちびき」は、通信網が途絶しても被災者の安否や避難所状況などを防災機関に伝達できる機能を搭載しています。
日本版GPS4月からスタート - 誤差は10メートルから6センチへ精度が向上 -
 測位衛星から発する電波が、ビルや山などの障害物に反射すると誤差が生じる「マルチパス」が発生します。反射した電波が受信器に到達するまでの時間に遅れが生じると、その距離が誤差の要因となるのです。
 日本の「みちびき」はこうしたGPSの「マルチパス」を補完する衛星で、日本列島のほぼ真上(準天頂)を飛行する時間が長い特殊な軌道を周回して、GPSの空白を埋める役割を果たします。
 「みちびき」4基をGPSと一体で運用することによって、これまでGPSのみだと誤差が約10メートルあったものが、誤差6センチまで飛躍的に精度が向上します。
 政府は2023年には米国のGPSに頼らず、高精度の測位が常時可能になるみちびき7基体制での運用開始を目指しています。
日本版GPS4月からスタート - 自動運転システムや農作業の無人化に活躍 -
 位置情報の精度が飛躍的に向上することで、社会生活や産業活動に大きな変革をもたらすと見られています。当面最も大きな期待が寄せられているのが車の自動運転システムです。
 車線を変更したり対向車とすれ違ったりする場合は、センチ単位の精度で車両の位置把握が必要となります。これまでのGPSだけでは限界がありましたが、誤差を最小で6センチに抑えることができる「みちびき」4基体制の運用で、自動運転車の安全性能が一気に加速されることになります。
 また農業分野への活用にも期待が集まっています。総務省が日立製作所などと行った「準天頂衛星システム」を利用した無人トラクターによる精密農業の実験では、40センチ間隔で植えた稲の間を幅30センチのタイヤで無事走行して農作業ができました。政府は今後農作業の省力化、無人化を推進して、農家の後継者不足の解消につなげたいとしています。
日本版GPS4月からスタート - 過疎地や離島の物資輸送や自動運転除雪車に活用 -
 さらに経済産業省は、熊本県で小型無人機ドローンを使った離島への物資輸送実験を行いました。GPSと「みちびき」からの測位信号を受信し、高精度な位置決定を行うことで完全自律飛行による物資輸送に成功しました。
 定期航路が少ない離島や高齢化が深刻な山村などでは、日々の買い物がままならない〝買い物難民〟が増えています。経産省は「小型無人機で食料や医薬品などの運搬が可能になれば、離島が抱えるこうした問題を解決する糸口になる」と期待を寄せています。
 このほか国土交通省では、「みちびき」を利用して自動運転システムを取り入れた除雪車の実証実験を開始しました。除雪車に3Dマップなど高精度な地図を搭載し、車両位置を把握しながら除雪作業を行うものです。
 除雪車の操作には、積雪で見えにくい障害物の回避などに熟練した技能者が必要ですが、61歳を超えるオペレーターの比率が2割に達し高齢化に伴う人手不足が懸念されています。国交省では今春から歩行者が行きかう一般道路で実験を開始。現在除雪車は2人乗りがほとんどですが、将来的には1人乗りを目指しています。

- マルチGNSSで新しいスポーツ戦略を展開 -
 準天頂衛星みちびきは、スポーツ分野にも大きく影響していきます。すでにマラソンではGPSを内蔵した時計を使って、走った距離やコースを正確に把握したりしています。「みちびき」の本格運用で測位衛星システム(GNSS)を活用したサッカーやラグビーなど選手の詳細な挙動の分析や、コンディション管理などが進むとみられます。
 このほか「みちびき」を含むマルチGNSSのスポーツ分野での活用では、マラソンやランニングでの新しいコーチングやトレーニング。トレイルランなど山岳スポーツの安全性向上。さらに試合や練習中の選手のトラッキングを通じた戦略構築の活用-などが挙げられます。
 スポーツ界ではデータの収集が主眼となっていますが、「みちびき」とのマルチGNSSの活用によって詳細なトラッキングデータを基にした戦略分析が可能となり、コーチの意思決定や科学的な作戦立案に大きく寄与すると期待されています。

- 日本版GPSは安全保障面でも大きく貢献 -
 また、わが国自前の測位システムである「みちびき」は、高度に暗号化した特殊な測位信号を発信することで、テロなどの妨害電波や偽信号による攪乱を防止できるとしています。
 自衛隊は部隊運営のほか、ミサイルの精密誘導をはじめとした様々な分野でGPSを活用しています。北朝鮮のミサイルによる核攻撃の脅威が増す中で、敵基地攻撃能力を保有した際の攻撃手段となる米国の巡航ミサイル「トマホーク」も、GPSによる命中精度の向上を図っています。
 これに対抗して北朝鮮は、GPS妨害電波を繰り返し発信して、航空機や船舶の運航に広範囲で障害を与えているとされています。防衛省では、「みちびき」の信頼性が確立されればこうしたリスクは低減すると見ています。

【「世界の測位衛星システム」】
- 世界各国はGNSSの体制強化を進める -

 人工衛星からの電波を用いて位置を測定するシステムを総称してGNSS(全球測位衛星システム)と呼び、複数の衛星からの電波を利用することを「マルチGNSS」と呼んでいます。
 現在、全世界をカバーするGNSSとしては、米国のGPSのほかロシアのGLONASS(グロナス)、ヨーロッパのGalileo(ガリレオ)、中国のBeiDou(北斗)があり、地域的なものとして日本の準天頂衛星「みちびき」とインドのIRNSS(7基)があります。
 GPSは全31基、グロナスは全24基が配置されて全世界をカバーしています。ガリレオは現在18基が運用されており、2020年に全30基の運用が完成する予定です。また中国の北斗は、現在20基が運用されており、2020年に全30基の運用を予定しています。
 これらの衛星は、それぞれ特定の波長の電波を出しています。受信機は4つ以上の衛星からの電波を受信し、解析して位置を求めます。位置の求め方は、カーナビに代表されるように受信機単独で測定する単独測位と、既に位置の分かっている地点(既知点)との差によって位置を求める相対測位があります。 
 一般に単独測位は10m以上の誤差がありますが、相対測位では地殻変動のための最も精密な測量ではミリ単位の精度での観測が可能です。また、複数の種類の衛星からの電波を受信して解析することで、より高精度な位置の測定が可能となります。実際に測量では国土地理院が2015年に、GPSをはじめグロナスやガリレオ、準天頂衛星を組み合わせて測量できるように、マルチGNSS測量マニュアルを策定しています。近年、世界各国も測位衛星システム(GNSS)の運用を強化しています。

【「測位衛星システムのしくみ」】
- 得られるのは自分の位置と正確な時刻情報 -

 測位衛星によって得られるのは自分の位置と時刻情報です。準天頂衛星「みちびき」では、4基の衛星からの電波を受信して受信機と人工衛星との距離を測定し、この測距データをもとに位置と時刻を計算します。
 衛星から送信された信号には、送信した時刻の情報が入っているので、地上で受信した時刻との「差」が届くまでの時間となります。この時間を「電波伝播時間」といいます。この電波伝播時間に電波の速度(光の速度=毎秒29万9792・458キロ)を掛けて、人工衛星と受信機との距離を求めます。
 1基の人工衛星との距離を求めただけでは今自分がいる位置を特定することはできません。自分と4基の人工衛星との距離をそれぞれ計算して求めます。すると4基の距離が一つに交わる点が出てきます。これが測位衛星によって求められる今自分がいる位置になります。
 測位衛星だけに限らず、測位を行う上で最も重要なのが「正確な時刻」です。私たちはスマホのナビを利用する場合、人工衛星から電波が発せられた時刻を基に自分の位置を計算します。しかし電波は1秒間に約30万キロも進むので、わずか1マイクロ秒(100万分の1秒)の時刻のずれが300メートルの位置の誤差となってしまいます。
 逆にいえば、現在位置が300メートルの精度で得られるということは、100万分の1秒という精度で正確な時刻が認識できるということになります。GPSや「みちびき」の活用は位置を知るだけでなく、多くの地点で正確な時刻同期が必要な地震の震源地の精密な観測などに大変有効です。
 GPSには、セシウム原子時計とルビジウム原子時計が搭載されていて、その誤差は30万年に1秒以下といわれます。日本の準天頂衛星「みちびき」にもルビジウム原子時計が2台搭載されています。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について