AIの進化とわたしたちの未来【科学】

AIの進化とわたしたちの未来


【暮らしと働き方の変化】
 「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に、今は存在していない職業に就くだろう」(ニューヨーク市立大学キャシー・デビットソン教授)と予測されているように、AIによる技術革新は私たちの生活と労働を大きく変容させる可能性を秘めています。AIの活用例と将来予測をまとめてみました。

AIの進化とわたしたちの未来 - AI(人工知能)とは何か -
 AI(artificial intelligence)は人工知能と訳され、「人工的に作られた人間のような知能」と定義されています。 AIという用語が初めて登場したのは1956年のことですが、2000年代に入って機械学習やディープラーニングなどの新たな技術が開発されたことで、AIの研究と活用が急速に注目を集めています。
 すでにAIは私たちの生活に必要不可欠なものとなっています。身近なところでは、インターネットの検索エンジン、アップル社のSiri、迷惑メールフィルタ、グーグルの音声入力、掃除ロボット、ヒト型ロボットのPepperなどがあります。医療や金融サービスの分野では、AIによる仕事の代替が進んでいます。CTやMRIなどの画像診断を、医師にかわりAIが実施する施設も増えています。また、銀行や金融会社のコールセンター業務や、クレジットカードの不正利用の検知、投資信託などの金融トレードでは、ますますAIが活躍の場を広げています。学術研究の分野でもAIの活用が始まっており、NASA(アメリカ航空宇宙局)とグーグルの共同研究グループは、AIによる観測データ解析により太陽系外の惑星の発見に成功しました。

- AI発展の4段階 -
 AIはプログラムが処理することのできる内容によって4段階のレベルに分類されます。
 第1レベルは、単純な制御です。温度変化に応じて機能するエアコンや冷蔵庫などに使用されています。
 第2レベルは、推論と探索です。将棋のプログラムや掃除ロボットに使用されており、人間の能力を補完する役割を担っています。
 第3レベルは、機械学習です。機械学習とは、AIに人間が自然に行っている学習能力と同じくらいの機能を再現させようとする技術で、AIに大量のデータ(教師データ)を読み込ませて学習させています。グーグルなどの検索エンジンや、迷惑メールの振り分けなどに使用される技術です。
 第4レベルは、ディープラーニングです。ディープラーニングとは、特徴量(対象を認識する際に注目すべき特徴を定量的に表すこと)をAIが自ら習得して、機械学習以上の学習を行う技術です。人間の脳の神経回路の仕組みを模倣して開発された、ニューラルネットワークに基づいています。現状では、音声や画像認識、自然言語処理などに使用されており、最も技術開発が期待される分野です。

- ディープラーニング -
 ディープラーニングの開発は、AIの実用化を進める原動力となりました。機械学習とディープラーニングは、どちらもAIが学習する技術です。機械学習では、人間がAIの学習する内容を事前に設定しているのに対し、ディープラーニングは学習すべき内容をAIが自ら見つけ、学習を深めていくという違いがあります。ディープラーニングが開発されたことで、AIは「観察・判断・行動」という人間と同じような行動を自ら行うことができるようになったのです。
 しかし、AIがコンピュータである以上、AIをどのような分野で使用するか、あるいは使用しないかを決定するのは人間です。そのため、悪意をもった人間が社会に有害なAIを作り出す可能性もあり、AI利用に関する倫理的基準を設ける必要性が提起されています。2014年には、AI研究者の集まりである人工知能学会が倫理委員会を設置しています。
AIの進化とわたしたちの未来 - 少子高齢化・労働力不足の救世主 -
 少子高齢化により、日本の労働力人口は減少の一途をたどっています。2010年には6590万人であった労働力人口は、2050年には4438万人にまで減少すると予測されており、近い将来の日本では労働力不足が深刻化します。そのような事態を打開する重要な方法としてAIによる労働力の代替に大きな期待が寄せられています。
 最も実用化に近いのが、AIによる自動車・電車などの自動運転システムです。すでに多くの自動車会社が自動運転システムの開発に取り組んでおり、実証実験も始まっています。自動運転が可能となれば、恒常的な人手不足とドライバーの高齢化に悩む運送業にとっては大きな助けになります。
 医療の分野では、データ解析や画像診断をAIが行い、そのデータをもとに医師が病名の確定診断を行うことや、処方箋の調剤を行うことも考えられています。
 介護の分野では、介護ロボットの開発が本格化しています。ベッドから車椅子への移動などの移乗の補助、歩行など移動の補助、排泄支援、入浴支援、認知症患者の見守りなどを、AIを搭載した介護ロボットが担うことが期待されています。
 製造業の分野では、生産ラインをAIロボットに代替することで、完全な無人化が実現できるでしょう。
AIの進化とわたしたちの未来 - AIが導く出会いの場 -
 人や企業の出会いの場を作るマッチングの領域でも、AIが主流となるでしょう。すでに一部の企業が実施しているように、採用人事でもAIによる面接が行われるでしょう。人間が面接するよりも、AIが面接する方が先入観にとらわれない公平な判断ができると期待されています。
 「婚活」など見知らぬ相手とマッチングするアプリでは、すでにAIがマッチングを行っていますが、そのマッチングの規模が世界規模に拡大することも考えられるでしょう。自宅にいながら、自分の趣味や嗜好を入力すれば、地球の反対側に暮らす未知の人とマッチングするかもしれません。
AIの進化とわたしたちの未来 - AIは人の仕事を奪うか -
 このようにAIがさまざまな仕事を代替できるようになると、私たち人間の働く場は失われるでしょうか。人間よりもAIが行ったほうが速くて正確な仕事や、人件費の圧縮につながる仕事は、AIによる代替が進むでしょう。
 オックスフォード大学の研究チームが発表した「10~20年後になくなる職業トップ25」を別表に示しました。
 この表からは、膨大なデータを正確に取り扱うことが求められる仕事や、単純なオペレーター作業などがAIに置き換わると考えられます。すでに図書館の貸し出し・返却も自動化されています。銀行業務もAIによる代替が進んでおり、日本の三大メガバンク(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行)は、大規模な人員削減を始めています。
 これまでにも技術革新により、さまざまな職業がなくなってきました。映画が無声だった時代に映画のナレーションや台詞を語る活動弁士、電話をかけると手動で通話相手と回線をつないでいた電話交換手、書類をタイピングしていたタイピストなどです。しかし、IT技術の進展によってアプリ開発者などの仕事が生まれたように、技術革新が新たな仕事を生み出してきたのも事実です。
AIの進化とわたしたちの未来 - AIと共存する将来 -
 AIによる代替が進んでも、人間しかできない仕事は残ります。
 「10~20年後まで残る」と考えられている仕事に共通しているのは、他者との高度なコミュニケーション能力を必要とされる仕事や、その場に応じた柔軟な判断力が求められる仕事です。
 AIは、人間社会の常識や人間らしい柔軟な考え方を行うことは不得意なので、AIには肩代わりできない仕事を人間が行うようになるでしょう。

- 第4次産業革命 -
 第4次産業革命とは、18世紀末以降の水力や蒸気機関による工場の機械化である第1次産業革命、20世紀初頭の分業に基づく電力を用いた大量生産である第2次産業革命、1970年代初頭からの電子工学や情報技術を用いたオートメーション化である第3次産業革命に続く、新たな技術革新を指します。
 その特徴の1つ目は、IoT(モノのインターネット)およびビッグデータ(巨大で複雑なデータの集合)です。工場の機械の稼働状況から、交通、気象、個人の健康状況まで様々な情報がデータ化され、それらをネットワークでつなげてまとめ、これを解析・利用することで、新たな付加価値が生まれています。
 2つ目はAIです。コンピュータ自らが学習し、一定の判断を行うことが可能となっており、従来のロボット技術も、AIによりさらに複雑な作業が可能となっています。また、3Dプリンターの発展により、省スペースで複雑な工作物の製造も可能となっています。
 こうした技術革新により、これまで人間が行ってきた労働の補助・代替が可能になります。企業からみれば、これまでの生産・供給のあり方が大きく変化し、生産の効率性が飛躍的に向上する可能性があるほか、消費者からみれば、サービスを今までよりも低価格で好きな時に購入できるだけでなく、新しいサービスも享受できるようになることが期待されています。諸外国も含め、第4次産業革命の流れとしてすでに始まっている具体的な事例には、次のようなものがあります。
 1つ目は、サービスの生産・提供に際してデータの解析結果を活用する動きです。製造業者による自社製品の稼働状況データを活用した保守・点検の提供、ネット上での顧客の注文に合わせたカスタマイズ商品の提供、ウェアラブル機器による健康管理、医療分野でのオーダーメイド治療、独居老人の見守りサービスの提供などがあります。
 2つ目は、シェアリング・エコノミーです。インターネットを通じて、サービスの利用者と提供者をマッチングさせることにより、個人が保有する自動車、住居、衣服、技術などを他人に提供するサービスです。民泊などのさまざまなサービスが登場しています。
 3つ目は、AIやロボットの活用です。AIを使った自動運転の実証実験、AIを活用した資産運用、介護分野でのロボットによる補助などが始まっています。
 4つ目は、フィンテックの発展です。フィンテックとは、金融を意味するファイナンスと技術を意味するテクノロジーを組み合わせた造語で、ITを活用した金融サービス事業を指します。金融機関やクレジットカードの利用履歴をスマートフォン上で集約するサービスや、個人間で送金や貸借を仲介するサービス、AIによる資産運用サービスのほか、情報をAIで分析して信用度を評価することで、従来の銀行では貸出の対象とならなかった中小企業や消費者向けに融資を行うサービスが可能となります。
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