火山大国日本が挑む噴火予知の今【科学】

火山大国日本が挑む噴火予知の今


【噴火を繰り返す日本やハワイの山々】
 2018年5月はじめにアメリカ、ハワイ島にあるキラウエア火山が噴火し、赤みを帯びた溶岩が流れる迫力ある映像が世界中に報道されました。ハワイ諸島は、世界有数の火山活動が活発なエリアです。このハワイ諸島と同じように、日本もまた国内に多くの火山をもつ世界屈指の火山大国です。キラウエア火山や日本の火山の状況、そして噴火予知の今に迫りました。

火山大国日本が挑む噴火予知の今 - キラウエア火山で94年ぶりに爆発的噴火 -
 キラウエアはハワイ語で「噴き出す」「まき散らす」といった意味を持っています。この言葉があらわすように、キラウエア火山は過去30年以上にわたって断続的に噴火を続けている地球上で最も活発な火山の一つです。
 2018年5月3日に、キラウエア火山で大規模な噴火活動が始まり、多くの住宅がマグマに飲み込まれました。この噴火活動にともないマグニチュード6.9という大きな地震も発生しました。ハワイ州はこの事態を受けて非常事態宣言を発令、近隣住民1700人に向けて避難命令を出しました。
 ハワイ諸島のマグマは粘り気が弱く、噴火する前にガスや水蒸気が抜けてしまい、爆発せずにゆっくりと流れ出る特徴があります。しかし、18年5月17日には火山灰が上空9100メートルまで吹き上がる爆発的噴火が発生、21日にも噴煙が2000メートルに達する爆発的噴火が起こりました。キラウエア火山でこのような噴火が起きるのは1924年以来です。
 今回の噴火によって地表に亀裂が走り、そこから流れ出たマグマや粉じんが海に流れ込んで有毒ガスが発生しました。水深60メートルあるハワイ州最大の淡水湖、グリーンレイクにもマグマが流れ込み、数時間で湖の水がすべて蒸発しました。
火山大国日本が挑む噴火予知の今 - ホットスポット上に位置するハワイ島 -
 ハワイ諸島は、8つの大きな島と100以上の小島によって構成されています。ハワイ諸島のある場所は、「ホットスポット」といって地下からマグマが上昇して噴火する場所に当たります。噴き出したマグマが火山をつくり、この火山によってハワイ諸島がつくられています。
 地球の中心には、ドロドロにとけた鉄やニッケルなどからできた「核」があります。核は岩石でできた「マントル」に包まれ、マントルの外側を「地殻」が覆っています。地殻とマントルの上部が合わさった岩盤を「プレート」といい、地表は数十枚のプレートの上にあります。
 ハワイ諸島は太平洋プレートの上にのっており、このプレートは南東から北西に向かって年間数センチずつ動いています。太平洋プレートの動きにあわせて島がつくられて移動しているため、ハワイ諸島の島々は北西から南東にかけて並んでいます。一番南東に位置し、一番若い島であるハワイ島は、今もホットスポットの上にあり、火山活動が活発です。
火山大国日本が挑む噴火予知の今 - 日本は111の活火山を有する火山大国 -
 過去1万年の間に噴火した火山か、噴火の証拠がなくとも、現在、盛んに噴気活動をしている火山を「活火山」といいます。アメリカ合衆国の活火山数は世界最多であり、キラウエア火山を含めて合計で174あります。日本には活火山が111あり、アメリカ、ロシア、インドネシアに次ぐ、世界で4番目の数になります。地球上におよそ1500の活火山があり、そのうちの約7%が日本にある計算になります。
 日本に活火山が多いのは、日本がユーラシアプレート、フィリピン海プレート、北米プレート、太平洋プレートという4つのプレートが複雑に絡み合う場所にあるためです。プレートには、上部に大陸がのる「大陸プレート」と、海洋底を構成する「海洋プレート」の2種類があります。これらプレートは1年に数センチずつ動いており、「海溝」と呼ばれるプレート同士がぶつかる場所で、海洋プレートは大陸プレートの下に沈み込みます。このときに海水がマントルにしみ込んで部分的に溶けることでマグマができ、マグマが地表に上昇していくことで火山が生まれます。

- 常時監視が必要な50の活火山 -
 日本には、常に観測が必要な活火山が50あり、近年も私たちの記憶に残るような火山噴火が起きています。2013年には、小笠原諸島の無人島である西之島のとなりに、海底火山の噴火で新島ができ、新島が噴火で拡大し続けることで西之島を飲み込みました。西之島の噴火は2017年4月にも起こり、2018年2月に島の面積は2.72㎢となり、噴火前のおよそ9.4倍にまで成長しました。
 2014年9月27日には、長野県から岐阜県にまたがる御獄山で水蒸気噴火が起こりました。水蒸気噴火とは、マグマが地表まで上昇せず、マグマの熱で地表付近の地下水などの水分が沸騰し蒸発することで大爆発を起こすことです。噴火が起きたのは昼時で、山頂付近にはたくさんの登山者が昼食をとるために休憩していました。噴火で吹き飛んだ噴石(火山岩のかたまり)は
登山者に降り注ぎ、58名の死者と5名の行方不明者がでました。噴火は同年の10月まで続きました。
火山大国日本が挑む噴火予知の今 - 火山による災害は今年も起こっている -
2018年に入ってからも火山災害が起こっています。1月23日には、群馬県と長野県の境にある草津白根山で水蒸気噴火がありました。救助活動中に殉職した自衛隊員1人を含む、12人の死傷者が出ました。
 宮崎と鹿児島との県境にある霧島連山の中央部に位置する新燃岳でも、3月6日に爆発的噴火が観測されました。その後も断続的に50回以上もの爆発的噴火が起きています。新燃岳では、7年前に噴火活動が7カ月以上続いたことがあり、農業や観光業に影響を及ぼすことへの懸念が地元自治体を中心に広がっています。
 同じく霧島連山にあるえびの高原(硫黄山)でも、4月19日に小規模な噴火がありました。硫黄山が噴火するのは1768年以来で、250年ぶりです。噴火後、硫黄山近くを源流とする長江川の水が白濁し、大量の魚の死骸が浮かびました。宮崎県の水質調査では、最大で環境基準の約200倍のヒ素が検出され、鹿児島県との県境付近で長江川と合流する川内川でも強い酸性を示す数値が出ました。これを受け、両河川周辺の農家は稲作を断念せざるをえなくなりました。
 長年断続的に噴火を繰り返している鹿児島県の桜島でも、6月16日に火砕流が確認される大きな噴火がありました。桜島では、2018年に入ってからすでに362回もの噴火が起こっています(18年9月3日現在)。また、鹿児島県の口之永良部島でも噴火の可能性が高まっており、気象庁は噴火警戒レベルを避難準備が必要な4に引き上げました。

- 観測することから始まる噴火予知 -
 頻繁に噴火が起こる日本では、火山災害を減らすために噴火予知に取り組んでいます。また、桜島、阿蘇山、雲仙岳、草津白根山、有珠山の5カ所には大学の火山観測所があり、火山を観測することで噴火の仕組みや予知の研究をしています。
 火山の地下にはマグマだまりがあり、ここにあるマグマが上昇して地面が膨むことを「地殻変動」といいます。地殻変動を傾斜計やひずみ計などで観測することで、噴火の予知に関わる情報を得ることができます。近年では、人工衛星に搭載されたアンテナから電波を出し、地表からの反射波を計測して地形の歪を画像化する干渉SAR(合成開口レーダ)という方法でも観測が行われています。
- 情報を組み合わせて噴火を予測する -
 マグマが通る道を「火道」といいます。マグマは粘り気の強い液体なので、火道を通ったり、新しく火道をつくったりするとき、まわりの岩石を壊していきます。このときに「火山性地震」という地震が発生します。また、マグマの発泡や熱で地下水が沸騰することによって、周囲の岩石が震動することを「火山性微動」といいます。これら火山内部の震えを、地震計などで計測することも噴火予知につながります。
 さらにマグマがあると電気が通りやすくなるため、火山内部の電気抵抗を観測することでも、火山の状況を知ることが可能です。マグマが上昇してくると硫黄を含んだ火山ガスが吹き出るため、ガスの成分や量を調べることも、予知の手がかりになります。他にもいろいろな方法で情報を収集し、噴火の予知が行われています。

- 「ミュオグラフィ」による噴火予知 -
 近年では、宇宙線が大気中の酸素や窒素に衝突することでつくられる「ミュー粒子(ミューオン)」を、噴火予知に活用する研究が行われています。ミューオンは、極めて透過性が高い素粒子です。同様に透過性の高いエックス線は、人体の骨で止まることを利用して、レントゲン写真を撮影することができます。ミューオンも一部の岩盤などを透過しにくいため、その透過率の違いによって内部構造を画像化することができます。この可視可技術を「ミュオグラフィ」といいます。
 2006年に世界で初めて浅間山で、ミュオグラフィによる山頂火口の透視が行われました。これによって、浅間山の火道が固まったマグマでふさがれた状態になっていることがわかりました。09年に浅間山が噴火した後に、再度ミュオグラフィで透視したところ、固まっていた火口のマグマの一部が吹き飛んでいることが確認できました。ミュオグラフィで火山を定期的に撮影し、時系列に解析していくことで、目には見えない火山内部の状況がより詳しく把握できると期待されています。

- 噴火予知の現状と私たちにできること -
 2000年3月31日に起こった有珠山噴火では、火山性地震が急増したことから、3月29日に火山噴火予知連絡会が「数日以内に噴火する可能性が高い」と発表し、気象庁は緊急火山情報を発令して周辺住民1万6000人に避難指示を出しました。この2日後に有珠山は噴火しましたが、事前に避難ができていたため人的被害は出ませんでした。このように噴火予知の成功例はあるものの、時期、場所、規模、噴火タイプ、噴火の推移などを正確に予知することは、現在の技術では極めて困難というのが実情です。
 日本は世界有数の火山大国で、これまで予想もしない突然の噴火を経験してきました。噴火予知の発展に期待しつつも、まずは情報収集や避難場所の確認、非常用持ち出し袋の用意など、自分たちでできる備えを万全にすることが大切です。
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