日本のエネルギー問題を考える【科学】

日本のエネルギー問題を考える


 【火力、原子力、再生可能エネルギーの課題と展望】
 昨年9月6日の北海道胆振東部地震で、道内全域が停電するわが国初のブラックアウトが発生しました。私たちの生活を支える電気の供給は、発電と消費の微妙なバランスのうえに成り立っています。その電気を生み出すエネルギーは、地球温暖化防止の時代背景から脱炭素へ大きくシフトを強めていますが、再生可能エネルギーの普及を巡る問題点も浮上してきました。
 発電時にCO2を排出しない原発の再稼働やその廃炉問題、放射性廃棄物の最終処分を巡る論議も盛んです。最適な電源構成(ベストミックス)が求められている今、日本のエネルギーの現状と当面する課題を考えてみました。

日本のエネルギー問題を考える - 再生可能エネルギーを主力電源へ -
 私たちの暮らしは石油やガス、電気などのエネルギーがなくては一瞬たりとも成り立ちません。日本は日常生活や経済活動に必要なエネルギー源の大半を海外からの輸入に頼っています。
日本の食料自給率は約38%で低いといわれますが、エネルギー自給率はさらに低く8・3%(2016年時点)に過ぎません。
政府は2018年7月に中長期を展望した「第5次エネルギー基本計画」を決定しました。地球温暖化防止に向けた国際社会の「脱炭素化」への動きをキャッチアップし、地政学的なリスクも含めて2030年、50年のロングレンジを見据えたエネルギー政策の基本となる指針です。
 とくにクリーンな自然エネルギーである太陽光や風力などの再生可能エネルギーを『主力(ベースロード)電源化する』ことを目指し、その割合を2016年度の約15%から30年度に22~24%に拡大していくとしています。
 また、原発比率も現在の約2%から30年度に20~22%に引き上げる方針です。一方、火力の比率は約83%(16年度)から56%(30年度)に抑え、バランスの取れた電源構成を目指しています。

- 30年度CO2排出量を13年度比26%減へ -
 今後の日本のエネルギー源を考える上で、地球温暖化防止に向けたCO2の排出量削減、「脱炭素社会」への転換が重要なポイントとなります。
 世界196カ国が加盟する気候変動に関する国際的枠組みであるパリ協定が今年から実施され、21世紀末までに世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1・5℃に抑える努力が始まりました。
 日本では中期目標として、2030年度のCO2をはじめとした温室効果ガスの排出量を、13年度に比べて26%削減するという目標を掲げています。
 このための具体策として政府は17年11月に、太陽光や風力、水力などの自然エネルギーやバイオマス、水素エネルギーなどを積極的に導入する「エネルギーミックス政策」を打ち出しました。

- 「エネルギーミックス」の実現がポイント -
 発電のためのエネルギー源の比率を示す電源構成比は、2016年度で火力83%(石炭33・3%、液化天然ガス40・4%、石油9・3%)、原子力1・7%で、水力を含めた太陽光、風力などの再生可能エネルギーの比率は15・3%に過ぎません。
 第5次エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーと原発の電源構成比をアップさせ、火力の比率を抑えるなど、多様な電源をバランスよく組み合わせる「エネルギーミックス」の実現がポイントとなっています。
 しかし期待の再生可能エネルギーは、現状ではエネルギーの安定供給やコストの面で多くの課題が指摘されています。
 とくに太陽光や風力は気象に左右されて電力の安定供給に難点があり、バイオマスや水素エネルギーの本格導入にはコスト面で大きなネックとなっています。

- 電気は需要と供給が一致の「同時同量」が原則 -
 昨年10月に再生可能エネルギーの普及が進む九州地区で、太陽光発電などによる発電を一時停止する「出力制御」が実施されて話題となりました。
 電気を安定して供給するには常に需要(消費)と供給(発電)を一致させる必要があり、このバランスを欠くと大規模停電が発生する恐れがあります。
 九州地区の出力制御は、全体の発電量が需要量を上回る見通しとなったための措置で、太陽光発電の一時停止に加えて火力発電の抑制が行われました。貯蔵が難しい電気は、常に需要と供給を一致させる「同時同量」の原則でやり取りされています。このため、電力の需給バランスをとって電力系統に流すための出力制御が不可欠となります。
 天候によって不安定な太陽光や風力による電力供給は、火力発電や揚水発電の調整によって全体の需給バランスを取っています。つまり不安定な発電量をカバーするため、別の電源や蓄電池などによる適切な「調整力」の実施が不可欠となります。電力システム全体の見直しや改革によって、広域的に電気を調達する仕組みが必要です。

- 原発再稼働、期間延長には厳しい審査 -
 東京電力福島第1原発事故直後、ほとんどの原発が稼働停止となりました。その後、エネルギーミックスの観点から、発電時にCO2を排出しない原発の再稼働が注目を集めてきました。
 現在わが国には57基の原発があり、高速増殖炉のもんじゅ、高速実験炉の常陽などを含めると全国で59基を数えます。
 わが国の電気エネルギーの原発依存度は、2011年3月の東日本大震災の直前には30%近くに達していました。震災に伴う福島第1原発の事故の後、日本の原発は順次停止して一時原発は稼働ゼロの状態になりました。
 原発を再稼働するには、地震や津波対策などを強化した新規制基準に基づく原子力規制委員会の厳しい安全審査に合格しなければなりません。これまでに15基が合格し、19年2月現在関西電力や九州電力などの5原発9基が再稼働しています。
 また原発事故を契機に原発の運転期間は原則40年と定められ、1回に限って最大20年の延長を認めています。19年2月現在、関西電力の高浜1号・2号機、美浜3号機の計4基の運転延長が認められています。
日本のエネルギー問題を考える - 原発は本格的な「廃炉の時代」を迎える -
 稼働40年の期限までに再稼働の安全審査や、運転期間延長の審査に合格できない原発は廃炉となります。日本の廃炉作業は2009年から始まりました。最近では今年2月に九州電力の玄海2号機の廃炉が決定しました。8年前の福島第1原発事故のあと廃炉が決まったのは、廃炉作業中の福島第1原発を除いて7原発11基です。
 また、廃炉中、検討中のものを含めると、19年2月現在で原発の廃炉は総計で11カ所24基にのぼります。 原発は原子炉圧力容器の中で核燃料に核分裂反応を起こさせ、これによって発生する膨大な熱で水を水蒸気に変え、タービンを回して発電します。
 原子炉や配管などは長年大量の放射線や高温にさらされ、少しずつ経年劣化していきます。次代のクリーンエネルギーを標榜して1960年代から全国に立地した原発の多くが40年を経て、今後本格的な「廃炉の時代」を迎えることになります。
 そして原発の廃炉に伴う最大の課題が、放射性廃棄物の最終処分場の選定です。

- 日本の原発政策の根幹は核燃料リサイクル -
 原子力発電所で使い終わった使用済み核燃料には、再利用が可能なプルトニウムやウランが含まれています。これを再処理工場で取り出し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料に加工して再び核燃料として使用する核燃料サイクルが、日本の原子力政策の根幹をなしています。
 核燃料サイクルには、既存の原発(軽水炉)で利用する「プルサーマル」と、高速増殖炉といわれる特殊な原子炉を使う方法があります。
 ただプルサーマルは原発の再稼働が遅れているため進んでおらず、「もんじゅ」や「常陽」の高速増殖炉もトラブルが相次ぎ、安全性やコスト面で計画が頓挫しています。
 廃炉に伴う高濃度の放射性廃棄物は、地下深くの安定した岩盤に閉じ込め、人間の生活環境から隔離して処分することにしています。この処分方法を「地層処分」と言います。
 日本では、特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律(最終処分法)で、地下300メートルよりも深い地層に処分することが決められていますが、現在最終処分地は決まっていません。
日本のエネルギー問題を考える 【北海道のブラックアウト】

- 需給バランスが取れず、発電所は連鎖的に停止した -
 昨年9月6日午前3時8分ごろ、北海道胆振地方中東部(新千歳空港の南東方向)を震源とする最大震度7の地震が発生し、地震の規模を示すマグニチュードは6・7と推定されました。
 地震の影響で道内全ての火力発電所が運転を停止し、北海道全域の約295万戸が停電するいわゆるブラックアウトが起きました。前例として1977年のニューヨーク大停電が有名ですが、北海道で発生したブラックアウトは日本で初めてです。
 地震発生時、道内の電力需要(310万kW)の約半分を賄う震源地に近い北海道電力苫東厚真発電所(火力3機合計で出力165万kW)が停止し、その瞬間に道内の電力供給が一気に半分に落ち込んで、道内はドミノ倒しのように停電が広がって北海道全域がブラックアウトしました。
 電気は貯めることができません。常に需要(電力の使用量)と供給(発電量)を一致させなければなりません。今回のように需要は変わらないのに発電所が停止して供給がとどこおると、他の発電設備が過負荷の状態になり電気の周波数が低下します。
 各地の変電所は周波数の低下を検知すると、停電が広がって通電事故を防止するため電力系統を遮断します。他の発電所も周波数の低下を検知すると自動的に停止して電力系統から自らを切り離します。
 こうして苫東厚真発電所の周辺部から周波数の低下が広がり、発電所は連鎖的に停止してブラックアウトが発生したのでした。
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