天皇の皇位継承をめぐる論点を探る【歴史】

天皇の皇位継承をめぐる論点を探る


 【男系天皇と女系天皇、女性宮家を考える】
 「令和」への御代替わりとともに、天皇の皇位継承をめぐる論議が盛んです。戦後に制定された現行の皇室典範では皇位継承者を「男系の男子」に限定し、女性皇族は結婚と同時に皇族の身分を離れることになります。この二つの規定によって皇族が減少して公務を担うことが難しくなるという懸念と、将来皇位の継承者が不在となり、皇統が途切れるのではという不安があります。
 このため女性宮家の創設や、女性天皇の実現、さらには女系天皇の容認などの論議が盛んです。皇位継承の在り方をめぐる論点を検証してみました。

天皇の皇位継承をめぐる論点を探る - 女性皇族は結婚後皇籍を離脱し公務の担い手が減少 -
 上皇・上皇后は天皇在位中に年間300件以上の公務を行っていました。現在は天皇・皇后をはじめ秋篠宮皇嗣ご夫妻、眞子内親王、佳子内親王、常陸宮ご夫妻、高円宮妃殿下などが公務を分担されています。
 現行の皇室典範では、女性皇族が結婚すると「皇籍離脱」して皇族ではなくなるため、公務を担えなくなります。
 上皇・上皇后を除くと現在の皇室には天皇の外に15人の皇族がおられます。そのうち未婚の女性皇族は6人で、愛子内親王以外の5人は成人されており、結婚による皇籍離脱が考えられる世代です。
 相次いで女性皇族が皇室を離れる事態が続くと、各種団体の名誉職、行事への出席など皇族が受け持つ公務の継続が難しくなることが予想されます。

- 将来男系男子の皇位継承者が無くなる恐れも -
 皇室典範に基づく皇位継承資格を持つ男系男子は、第1位が皇嗣の秋篠宮殿下、2位が秋篠宮ご夫妻のご長男の悠仁(ひさひと)さま、3位が天皇の叔父の常陸宮さまの3人です。
 さらに将来悠仁親王が即位されるころには、公務の担い手たる宮家は時とともにさらに減少するばかりではなく、悠仁さまに後継男子が生まれなければ、男系男子に限定された皇位継承者が無くなってしまう恐れが出てきます。
 男系男子に限った皇位の継承が危ぶまれる事態を避けるため、皇室典範を改正して将来にわたって皇位継承の安定を図るべきだという議論は以前から政府内でありました。

- 女系天皇の実現に繋がる女性宮家創設 -
 女性皇族が宮家の当主として結婚後も皇室に残って公務を担えるようにする「女性宮家」の創設や、父方の系統に天皇を持つ男系男子だけに限っている皇位継承資格を、女性や女系の皇族の子孫にも拡大することを検討すべきだという意見があります。
 女性宮家の創設は、眞子さまや佳子さまなど、父方が皇族である「男系」の女性皇族が新たに宮家を創設し、民間の男性を婿に迎え入れることを意味します。これが現実のものとなれば、皇室の歴史上初めて民間出身の男性が皇族の身分を取得する可能性が出てきます。
 そして、その子や孫が将来の天皇となった場合、父方が皇族である「男系」が皇位を継承する原則が崩れ、その子や孫が男性であったとしても、母方が皇族である「女系」天皇が誕生することになります。 つまり女性宮家の創設は、一代限りという制限がない限り女系天皇の実現に繋がる可能性があります。
天皇の皇位継承をめぐる論点を探る - 皇位継承争いを避けるため暫定的に女帝が誕生 -
 これまでわが国の126代の天皇のうち、「八方十代」の女帝(女性天皇)が存在しました。「八方十代」というのは、譲位後に再度即位(重祚といいます)した女帝を含めて八人の女性天皇が十代の皇位に就いたということです。
 まだ皇位継承の制度が整っていなかった飛鳥時代から奈良時代にかけて、暫定的に六方八代の女帝が即位しました。
 例えば最初の女帝は、敏達天皇の皇后だった推古天皇(在位592-628)で、夫の敏達天皇が崩じた後に即位した弟の用明天皇が間も亡くなり、続けて即位したその弟の崇俊天皇は暗殺されました。
 政治混乱の中で皇位継承の争いを避けるため、推古天皇が初の女帝として皇位に就きました。
 二番目に女帝となった皇極・斉明天皇(同一人物)も皇位継承の争いを避けるために再度皇位に就きました。

- 女性天皇の全員が天皇の皇女つまり男系 -
 江戸時代に859年ぶりに誕生した女帝の明正天皇(在位1629-1643)、最後の女帝となった後桜町天皇(同1762-1770)は、共に幼くして即位した男子天皇の成長を待つ形で暫定的に即位しました。
 女性天皇の全員が天皇の皇女つまり男系で、男系男子に皇位が継承されるまでの中継ぎだったとの説が有力です。このように女性天皇は歴史上複数いても、母方が皇族である「女系天皇」はいなかったのです。
 男性皇族が減少する中、2005年11月に小泉政権の時に設置した「皇室典範に関する有識者会議」が、女性皇族や女系にも皇位継承を認める報告書をまとめました。
 翌年の06年9月に、秋篠宮家に悠仁さまが生まれたこともあって、その後議論は沙汰やみとなっています。

- 戦後、GHQの意向で11宮家、51人が皇籍離脱 -
 皇族で宮号を持つ家を「宮家」といいます。現在、秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮家、高円宮家の四家があり天皇家を支えながら皇室の公務を担っています。
 歴史を振り返りますと、皇位継承者を確保するため南北朝時代に伏見宮家が創設されました。江戸時代には伏見宮家、桂宮家、有栖川宮家、閑院宮家の4家が世襲親王家となりました。
 明治時代になって新たな宮家の創設が相次ぎましたが、戦後の1947年に連合国軍総司令部(GHQ)の意向で、11宮家が廃止され51人が皇籍を離脱しました。
 そして、現在の宮家では秋篠宮家と常陸宮家にしか男性皇族がいません。
天皇の皇位継承をめぐる論点を探る - 古来天皇は「祭り主」としての権威的存在 -
 それでは皇統はなぜ男子(例外的に男系女帝が存在)が原則だったのでしょうか。古代の一時期を除いて、歴代日本の天皇は政治権力を持たず、自らを守る直属の軍隊も保持していません。
 平安時代から明治までの1000年以上皇居として機能していた「京都御所」は、敵の侵入を防ぐ石垣や堀、見張りのための櫓や敵を迎え撃つ砦などはなく全くの丸腰です。それ以前の「平城京」や「藤原京」も同様です。
 歴代天皇は君臨して国民と対立関係にあったのではなく、国産み以来の祖廟(祖先の霊)を祈り、国家の安寧を願う「祭祀(さいし)」を司る「祭り主」としての権威的な存在でした。そして古来「祭り主」であるため、天皇は男系男子が継承してきたともいわれます。

- 「祭り主」としての天皇は男子が継承すべき -
 天皇が執り行う祭祀は皇居の中の宮中三殿(神殿、賢所、皇霊殿)で行われ、明治41年の皇室祭祀令で明文化されました。戦後、皇室祭祀令は廃止され、新憲法下では天皇家の私事として年間約20件近くの祭儀が行われています。
 世界には宗教的権威がいくつか存在します。カトリック教では歴代のローマ法王と枢機卿はすべて男性であり、チベット・ラマ教のダライラマ、ユダヤ教のラビ、イスラム教の神職なども男性でなければならず、その地位は男性によって継承されています。
 一方、欧州の君主国では、男女を問わず第一子を優先する「長子優先」が広がっています。英国では2013年の王位継承法改正で、男子優先から長子優先の仕組みに移行しました。
 しかし、神話時代に起源を持つ祭祀を司る天皇は「祭り主」としての性格上、「皇位の継承資格は男系男子でなければならない」という主張に結びつきます。
 皇位の継承が今後も男系男子でなければならないとすれば、女系天皇や女性宮家創設はこれに逆行する主張となります。皆さんはどう考えますか。
天皇の皇位継承をめぐる論点を探る - 皇室典範特例法と附帯決議 -
女性宮家創設など皇位継承を確保するための諸問題
 生前退位を可能にした2017年6月成立の「天皇の退位等に関する皇室典範特例法」では、新しい天皇が即位されたら安定的な皇位継承をするための検討をすぐに始めるようにとの「附帯決議」が盛り込まれています。
 皇室典範では男系の男子が皇位を継承すると定められており、令和元年5月以降皇位継承権のある皇族は、①皇嗣の秋篠宮さま②秋篠宮ご夫妻のご長男の悠仁さま③天皇の叔父の常陸宮さまの3人です。
 男系の男子とは父方が天皇の血を引く男子のことなので、天皇のご長女である愛子さまや秋篠宮のご長女である眞子さま、二女の佳子さまは男系ですが女性なので皇位継承権はありません。
 そうなると今後皇位継承権を持つ可能性があるのは、悠仁さまが結婚されてそのお妃から男子が生まれた場合に限られます。逆に言えば男の子が生まれなければ誰も皇位を継承することができなくなります。これが付帯決議で言うところの「皇位継承を確保するための諸問題」です。
 その有力な対応策の一つが「女性宮家の創設」です。現在の皇室典範を改正して男系女子でも宮家となって皇室に残れるようにするものです。
 女性天皇を認めれば、愛子さま、眞子さま、佳子さまも皇位継承権を持つことになります。いずれも男系の女性皇族なので、その場合に限って女性天皇が誕生することは過去にも例があり、それ自体は長い皇室の伝統に反することにはなりません。
天皇の皇位継承をめぐる論点を探る - 天皇陵の発掘調査 -
陵墓の静安と尊厳を保持しつつ学術調査に期待
 今年7月、「百舌鳥(もず)・古市古墳群」が、陵墓(りょうぼ)として世界で初めて世界文化遺産に登録されました。百舌鳥・古市古墳群は世界最大規模の「仁徳天皇陵古墳」(大山古墳)をはじめとする計49基で構成され、古墳時代最盛期の4世紀後半から5世紀後半に築造されました。
 世界遺産に登録された49基の古墳のうち29基が天皇皇族の墓として宮内庁が管理し、一般の立ち入りが禁じられ、真正性を実証するための学術調査が制限されています。歴代の天皇などが眠る陵墓の中には被葬者が学術的に証明されていないものも少なくなく、調査研究の必要性は高いのですが、宮内庁は「静安と尊厳の保持」を理由に内部への立ち入りを厳しく制限しています。
 現在宮内庁は全国899カ所の陵墓を管理しています。陵墓が皇室の祭祀(さいし)の対象であり、静安と尊厳の必要から立ち入り制限していますが、歴史・考古学関係団体の長年の要望に応じて、2008年に神功皇后陵に指定されている奈良市の五社神古墳墳丘で研究者の立ち入り調査を認めました。
 2016年春には、地元教育委員会や考古学者にも発掘調査への協力を要請する新方針が打ち出され、2018年に宮内庁と堺市が共同で「仁徳天皇陵古墳」の調査を行いました。ただ宮内庁が行う陵墓の調査は陵墓の保全のためというのが大前提で、学術目的の調査ではありません。
 研究者の団体では、陵墓は「国民全体の歴史的文化遺産である」と公開を原則とした調査活用を求めています。一方国民の中には、天皇陵墓はピラミッドや秦の始皇帝陵のように王朝が滅亡して完全に歴史遺跡となったものではなく、現在の皇室の「祈りの場」でもあり「発掘調査や公開は安易に行うべきではない」という意見もあります。
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