地方が主役の新しい国のカタチを考える【政治】

地方が主役の新しい国のカタチを考える


 東京への一極集中を是正して地方を活性化しようと、地方分権が声高に叫ばれています。地方のことは地方にまかせて、地域の文化、特性を生かした魅力ある地域社会を作ろうというのが地方分権の目的です。
 国と地方がお互いの役割分担を取り決めて、効率的で、バランスの取れた行政サービスを目指しますが、地方に権限が拡大するということは、責任も増大するということです。将来の道州制を視野において、「新しい国のカタチ」を考えてみましょう。

地方が主役の新しい国のカタチを考える 【地方分権型社会とはどんな社会?】
- 地方分権で、国から地方へ権限と財源が委譲する - 
 地方分権とは、一言でいえば中央集権的な全国一律の押し着せ行政から、地方の特性、自主性を尊重した地方分権型の行政に移行しようというものです。言いかえれば、国が持つ権限や財源を地方に移し、地方自治体と住民が協力して地域の実情に合った行政を実現することです。
 地方の行政サービスを、国がデザインした既製服から地域の特性に合ったオーダーメイドに変えようというのです。このため、国が持つ多くの権限が地方に移譲されますが、最も重要なのが税金の集め方や使い方についての権限です。行政サービスを行なうために、先立つお金(財源)に関する国と地方の権限を見直すことから地方分権の取組みが始まります。これを「税財政の見直し」といいます。
 民主党政権に代わって、国の出先機関の廃止や、国庫補助負担金、地方交付税、国と地方の税源配分、地方債の見直しなどが急ピッチで進むと見られます。

[国庫補助負担金]
 国が地方自治体と協力して事業をおこなうために支出するお金で、国庫補助金と国庫負担金があります。国庫補助負担金は国が使い道を指定して地方に配分されます。このため地方の自由度を高めるために削減が求められています。
[地方交付税]
 地方公共団体の規模や能力に応じて財源を調整するため、国が地方公共団体に配分する財源。地方財政の不足分を国が補うもので、使い道の指定はありません。地方財政を適切に反映した確実な保障が求められています。
[国と地方の税源配分]
 国全体の税の収入における国税と地方税の比率を言います。現在は国6に対し地方4の割合ですが、まずは5対5の実現を目指しています。
[地方債]
 地方公共団体が必要な資金を確保するため、債券を発行して外部からお金を調達すること。 

 税財政の権限が地方に移された場合、地方自治体は自分たちの権限と責任の下で規律ある健全な財政運営をしていくことが求められます。
 「財政は数字に凝集された住民の運命」ともいわれますが、地方自治体は、今まで以上に効率的な運営に努めると共に、住民も地方議会などを通じて財政運営を厳しく監視、チェックしていく必要があります。

[国税と地方税]
 所得税や法人税など、国に納める税金を国税といいます。住民税や自動車税など、地方自治体に納める税金を地方税といいます。
 国と地方の税収の割合は、おおよそ「国税6」に対し「地方税4」ですが、使われるお金は「国が3」に対し「地方が7」と逆転しています。
 つまり、地方では自分で集める「地方税」だけでは財源が不足するので、国から、地方交付税や国庫補助負担金の交付を受けているのです。
地方が主役の新しい国のカタチを考える - 明治の近代国家建設と戦後の経済復興は中央集権の賜物 - 
 江戸時代の幕藩体制は、江戸末期全国に276の藩があり、それぞれの藩は封建領主である藩主が年貢を徴収したり、訴訟を裁くなどの領国支配を行なっていました。
 その上に中央政権として将軍を頂点とする江戸幕府が存在し、各藩を監視し、外交や国防を担当する一種の地方分権型社会を形成していました。
 明治維新で、日本は中央集権国家に衣替えしました。中央に権力と資源を集中した日本は、列強に追いつけ追い越せと急速な近代化、富国強兵に突き進んでいきましたが、やがて第二次大戦で敗戦を迎えます。
 戦後混乱を極めた日本でしたが、荒廃した経済の建て直し、産業基盤の整備、未曾有の経済成長、技術革新など、欧米に追いつけ追い越せと必死で頑張ってきました。世界第2位の経済大国にのし上がった日本は奇跡の復興といわれ、戦後独立したアジアの新興国のモデルとなりました。
 これは、中央に権限を集中した永田町(自民党による長期の保守安定政権)と霞が関(中央省庁・自治体の安定した官僚システム)が両輪となった、国の強力なリーダーシップによる中央集権体制の成果といえるでしょう。

- 価値観の多様化で求められる個性的な地方行政 - 
 しかし、20世紀から21世紀に入って成長から成熟の時代を迎え、価値観が多様化し、個人単位、地域単位で行政に求めるものが大きく変化してきました。これまでのように、国が全国一律、画一的に枠組みを定めて指導する体制から、地方がそれぞれの個性を発揮した特色のある地域づくりを目指し、実情に応じた行政を主体的に行なう地方分権の実現が求められるようになったのでした。
 とくに、21世紀に入ってソマリア沖などで頻繁に発生するに海賊行為やアフガニスタン、イラクなどを中心に多発するゲリラ、テロ対策。核廃絶への国際的な取り組みや、国際金融システムの安定化、地球温暖化防止、国際資源開発競争など、複雑・多極化する国際社会の調整課題が増大してきました。

- 中央は国際案件、内政の多くは地方が担う役割分担へ - 
 このため、政府・中央の各省庁は、地方分権化を推し進めることによって、内政問題の多くの部分を地方に権限を与え、役割分担を押し付けることによって、国内問題に費やす負担を軽減し、国際問題、外交、安全保障などにより一層力を集中していこうという狙いがあります。
 さらに少子高齢化の進展で保健、医療、福祉、介護、生涯教育、保育、教育などの行政サービスで新しい仕組みづくりを地域主導で行なうことが急がれています。従来の中央集権型の行政システムではきめ細かく、地域の実情にあった的確な対応が難しく、ここでも地方分権化が急がれているのです。
 整理しますと、地方分権の確立を求める背景には、・中央集権型行政システムが制度疲労を起こしている・変動する世界の政治経済情勢とこれに対応した国際貢献、国際協調などの仕事が増大・東京一極集中の弊害と様々な格差の増大・個性豊かな地域社会の形成ニーズの高まり・少子高齢社会への抜本的な対応―が指摘されます。
 このため、地域住民と地方自治体が協力して、地方のことは地方で決定し、責任を負うという「地方分権型社会」の確立によって、現実的で、効率的なより質の高い行政サービスを実現していく必要に迫られてきたのです。

- 国と地方は上下、主従関係から対等、補完の関係へ - 
 ここで、政府の中央分権化への取り組みを振り返ってみましょう。平成7年度から12年度にかけて、政府は第1期地方分権改革を行ないました。それまで上下関係、主従関係だった国と都道府県、市町村の関係が対等・協力の関係に改められました。
 具体的には、都道府県知事や市町村長を国の地方出先機関とみなして事務を行なわせる「機関委任事務」が廃止されたのです。これによって、国は法律や政令によらなければ地方自治体に対して、要求や指示などができないことになりました。
 そして、平成16年度から18年度にかけて、「国庫補助負担金の改革」「国から地方への税源移譲」「地方交付税の見直し」の三つの改革を一体的に行なういわゆる『三位一体の改革』が行なわれました。
これによって約3兆円の税源が国から地方に移譲されましたが、分権型社会を目指す方策としてはまだまだ不十分な状態に終わっています。 
 地方6団体と呼ばれる全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国都道府県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村会議長会は、国に対して・地方の役割分担の増加に見合った税源を地方に拡大する・地方にできることは地方にまかせるため、権限と事務と財源を一体的に移譲する・国と地方の二重行政を解消して行政を簡素化する・自治体の自立と連帯を進める「地方共有税」を導入する―などの実現を強く求めています。 
地方が主役の新しい国のカタチを考える 【中央集権から地方分権、そして道州制】
- 平成の大合併で市町村は3232から1772へ - 
 地方分権型社会を強固に実現する新しい国の形として道州制が叫ばれています。底辺には「高齢化、人口減少が急速に進行し、八百兆円にのぼる巨額の長期債務を抱える国に、地方が政策的にも財政的にも依存する態勢がいつまで続くのか」という疑問と不安が渦巻いています。
 道州制とは、中央政府と47都道府県自治体という現在の二段階行政から、現在の都道府県よりも広い単位とする「道」または「州」(合わせて道州と呼びます)という新しい広域自治体を設置して、ほぼ自己完結的な行政を行おうという試みです。
 「平成の大合併」といわれた市町村合併によって、1999年に3232あった市町村が、2010年3月には1772まで減少します。この市町村合併によって地方行政体制が整備され、規模、能力が拡大しました。
 しかし、国民生活や経済活動が拡大し、環境問題や交通基盤整備など都道府県の壁を超えた広域的な行政課題が増加してきました。
 また、中国、アジア諸国が発展して経済力を付けてきて、海外の色んな国や地域とわが国の広域圏が直接結びつくケースも増大しています。
 これまでのように個々の都道府県が連携して取り組む手法では、機動力、推進力、瞬発力に欠けるところから、明治以来の都道府県単位の枠組みを考えなおす時期に来たといえます。都道府県に変わる新たな広域自治体=道州制の必要性が叫ばれるようになったのです。

- 地方分権は道州制導の中味を問うリトマス試験紙 - 
 道州制は、権限と財源を国から全国を9から13のブロックに区分した道州に移し、地域のことは地域で決める分権型社会の実現を目指します。道州制の導入によって、国の役割は皇室や外交、安全保障、通貨、司法などに限定されます。
 そして道州やその下部の基礎自治体と呼ばれる中核都市では、河川や道路、空港、港湾などの公共工事をはじめ、警察、科学技術・文化の振興、教育、消防、環境、都市計画、戸籍、福祉などの行政を担当します。政府は2018年までに現在の都道府県を廃止して、国、道州、基礎自治体へ再編を目指していますが、「小さな中央政府・地方分権国家」の形成は時代の趨勢でもあるといえるでしょう。
 ただ、政府主導の道州制に対して、地方自治体は一種の警戒心を抱いています。つまり、政府の道州制は県や市町村の大量削減という強力な中央集権の執行につながるのではという心配です。
地方が主役の新しい国のカタチを考える - 道州制は立法権を持つのか?日本はどんな形の国をめざすのか? - 
 また、道州制はどこまで地方に権限を委譲するのか。それにともなって、財源である税収をどういう配分で割り振っていくのかといったはっきりしたビジョンはまだ示されていません。最終的にどんな国の形を目指しているのか、というイメージが希薄なのです。
 現在考えられている道州制は、大きく三通りあります。一つは現在の都道府県を合併して広域行政権だけを与えるパターン。さらに、税金を集めたり、その使い方を決める財政運営の権限を与えるパターン。そして、法律を作り施行する立法権を与えるパターンです。
 立法権を持つ道州制は「連邦制」に近いものですが、本来中央集権を脱して、独立性を持った道州制を実現するには「立法権」を持つことによって、より地域の実情や政策目的に応じた制度設計が可能となります。
 道州制は単に行政区割りの変更ではなく、地方への権限、財源の委譲、地方分権改革が先決です。地方分権が実施されてこその道州制である―という視点をしっかり持って、将来の道州制のあり方を考えていかなければなりません。
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