二院制のメリット・デメリット【政治】

二院制のメリット・デメリット


【二院制の意義、果たす役割を考えてみよう】
 昨年夏、第45回衆議院選挙で民主党が308議席を獲得し、日本で初めて選挙による政権交代が実現しました。そして、今年夏には参議院選挙が行われます。皆さんがこのハイ・スクール・タイムスを手にしている頃は、各政党が投票日を前にして、それぞれの政策を国民に熱く訴えかけている頃ではないでしょうか。
 日本の国会は「衆議院」と「参議院」の二院で構成されています。「立法府」である国会が、独立して活動する「議院」あるいは「議会」によって構成される政治制度を二院制と呼んでいます。2003年現在、世界で二院制を取っている国は、183カ国中68カ国(37.2%)ですが、先進国の多くは二院制を取っています。
 日本では「参議院」の役割について、良識の府といわれるものの実際は「衆議院のコピーだ」「独自性を欠いている」など、厳しい声が聞かれます。「二院制」の意義、「参議院」が日本の政治の中で果たす役割などについて考えてみることしましょう。

二院制のメリット・デメリット 【大日本帝国憲法のもと、二院制でスタート】
 日本は明治維新を経て、近代国家として生まれ変わりました。徳川体制を解体した明治政府は、自由民権運動などによって憲法制定に熱意を示し、1876年(明治9年)に元老院に憲法の草案起草を命じました。こうして憲法制定の一歩が踏み出されました。そして、ドイツのプロイセンの立憲君主制を参考に草案をまとめ、1889年(明治22年)に大日本帝国憲法(明治憲法)を公布しました。
 明治憲法では、法律を作る立法機関として帝国議会を置き、帝国議会は「衆議院」と「貴族院」からなる二院制となっています。「衆議院」は国民から選ばれるのに対し、「貴族院」は皇族議員、華族議員、それに勅任議員(学士院会員、多額納税者など)によって構成されていました。
 この貴族院が、今日の「参議院」のルーツといえます。明治憲法は、一度も改正されることなく、第二次大戦後の1947年5月に制定された「日本国憲法」の施行前
                                  日まで存続しました。

- 制限選挙から普通選挙へ - 
 帝国議会は「衆議院」と「貴族院」の二院で構成されていますが、現在の「衆議院」や「参議院」とは大きく異なります。
 明治憲法下の「衆議院」は、限られた国民から選ばれていました。投票できる人は多額納税者に限られ、女性はまったく含まれていません。このため、人口の1%くらいの人しか投票できませんでした。
 明治時代においては「女性は政治に関与すべきではない」とされ、治安警察法にも明記されています。婦人が参政権を得たのは、長い戦いを経て1945年(昭和20年)に実現しました。満20歳以上の日本国民が、すべての制限から解放され、普通選挙を行えるようになったのはこの時からです。


- 「貴族院」とはどんな組織? -  
  「貴族院」は貴族院令によって、皇族議員、華族議員、勅任議員で組織されています。このため、貴族院は当時の特権支配層を代表するとともに、天皇制を守るという役割を担ってきました。しかし、昭和に入って軍部が台頭し、2・26事件などによって政党政治は機能せず、議会政治も有名無実化して行きました。当然、貴族院もその存在意義を失ったことはいうまでもありません。
 現在の日本国憲法が1947年(昭和22年)に施行され、貴族院は廃止されました。新憲法のもとでも、現在のように二院制は維持されています。しかし、普通選挙で選ばれた議員によって「衆議院」「参議院」とも組織されるなど、その性格は明治憲法のもとでの二院制と大きく異なります。
二院制のメリット・デメリット 【「衆議院」と「参議院」はどこが違う】
 「衆議院」と「参議院」の一番大きな違いは、衆議院の任期が4年であるのに対し、参議院は6年と長いことです。さらに、衆議院は任期途中でほぼ確実に解散があるため、実質的な任期の差はさらに広がります。裏返せば「衆議院」の方が「参議院」よりも国民の声を敏感に反映しやすいということで、憲法では「衆議院の優先」という定めがあります。
 権限の違いとして、衆議院は内閣総理大臣の指名、予算の議決、条約の承認などについて参議院に優先します。法案については衆議院で可決し、参議院で異なる判断をしたとしても、衆議院で3分の2以上の賛成があれば法律となります。さらに、衆議院だけが持つ権限として内閣不信任決議を議決することができます。
 一方、参議院は6年の任期が保証されているため、民意を衆議院ほど意識せず、各議員が政治信条に基づいて時間をかけて議案を審議できるという特徴があります。

- 二院制がとられている理由は? - 
 二院制が取られる理由は、国の将来を左右する外交問題、国民生活に大きな
影響を及ぼす法律や予算を決めるには、一つの場で議論するだけでなく、同じテーマを別の場で改めて慎重に議論するためです。つまり、行政の監督や法律案を、二院でダブルチェックしようというものです。二つの院があることで多くの国民の声を聞き、国政に反映できるという利点があります。
 衆議院議員と参議院議員は、国民の多様な意見を反映させるため、後で紹介するように異なる選挙方法で選ばれます。衆議院は短期間に国民の審判を受けることから、時に多数の横暴に走ることが心配されます。参議院は、各議員が政治信条に基づいて時間をかけて審議し、衆議院の暴走を監視する役割を担います。「良識の府」あるいは「再考の府」と呼ばれてきたのはこのためです。
 しかし、現状は衆議院とほぼ同じ政党で構成され、無所属の学識経験者などはほとんどいません。このため、「参議院無用論」が一部で取り沙汰されているのです。

- 二院の判断が異なるねじれ現象も - 
 反面、双方の対立が激化して議会が混乱するおそれがあり、結論を得るまでに時間がかかり過ぎる心配があります。この結果、国民にとって必要な法案が行きづまるという短所も持っています。
 日本の国会を例に考えてみましょう。民主党政権の誕生以前は、自民党と公明党の連立政権が衆議院で多数を占めていましたが、参議院では過半数に達していません。この結果、衆議院と参議院で議案に対する判断が異なる、ねじれ現象をしばしば起こしました。
 二院で慎重な審議を行うことは二院制の利点ですが、互いの主張が対立して国会が混乱し、スムーズな審議ができないという問題が起こります。また、国民の真意がどこにあるのかの判断も困難になります。衆議院の優位はあるものの、これを押し通すと収拾のつかない事態が予想されるとき、衆議院を解散して国民に意見を求めます。
 二院制は、このように互いに補完しあう関係であるとともに、対立して混乱を招くこともあるのです。
二院制のメリット・デメリット 【一院制の国が多いが、先進国の多くは二院制】
 世界では、二院制を取っている国より、一院制の国の方が多数を占めています。これは、第二次大戦後、アジアやアフリカなどで多くの独立国が誕生し、これらの国々の多くが国の規模や財力を考えて一院制をとり入れたからです。一院制は議員数も少なくてすみ、国の骨格となる法律や予算審議などをスムーズに行えるため、新興国に合致した制度だったようです。
 先進国の中にも、スウェーデンやニュージーランドなど一院制をとる国もありますが、多くは二院制をとっています。主要国首脳会議(サミット)参加8カ国(アメリカ、フランス、イギリス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシア、日本)は、すべて二院制となっています。

- 世界にはさまざまな二院制がある - 
 二院制にもさまざまな形があり、類型ごとに分類すると3つに大別することができます。まず、イギリスに代表される貴族院型二院制、アメリカやドイツが採用する連邦型二院制、そして、イタリアや日本などの民選議員型二院制があります。

[貴族型二院制]
 二院制の始まりは、14世紀のイギリスで貴族を代表する院と市民を代表する院ができたのが始まりです。上院(貴族院)は代々受け継がれる世襲貴族、聖職者の遺族、学者などで構成され、内閣が決定し、国王が任命します。現在は形式的な存在に過ぎず、国民に選ばれた議員で構成する下院(庶民院)がすべてに優先し、首相は下院の党首が就任します。
 明治時代の大日本帝国憲法下の帝国議会での「衆議院」と「貴族院」の関係がこれに類似しています。

[連邦型二院制]
 二院制をとる多くの国が採用しているのが連邦型二院制。アメリカ、カナダ、オーストラリア、ドイツ、ロシアなどの国々は、州の力が強く中央の連邦議会に州の代表を送り込む必要があります。このため州の代表として上院がおかれています。
 アメリカを例に取ると、各州から2人選ばれる上院が連邦国家を構成する州や国を代表し、外交、防衛、通貨、条約承認や最高裁判事任命の同意など強い権限が与えられています。一方、下院は人口比によって選出され、国民全体を代表しています。

[民選議員型二院制]
 イタリアや日本のように、両院議員とも国民の直接選挙で選ばれ、二院に明確な区別がない国もあります。これらの国々は、日本に見られるようにしばしば「二院制」の存在意義が問われることになります。
 そのほか、スウェーデンやデンマークのように二院制から一院制に移行した国もあります。貴族制度がなくなったことや、国民負担の軽減を考えて一院制に変えたのです。
二院制のメリット・デメリット 【「参議院選挙」はこうした方法で行われる】
 参議院議員の定数は242人で任期は6年。選挙は3年ごとに半数ずつ行われるので、今回の選挙で新しく選ばれる参議院議員は121名です。選挙は、「選挙区選挙」と「比例代表選挙」の二つの方法を組み合わせて行われます。

[選挙区選挙:定数73議席]
 全国47都道府県が選挙区になり、人口によって定員が決められています。東京都選挙区の5名を最高に、3名、2名、1名の候補者を選びます。得票数の多い順に当選者が決まっていきます。
 選挙区選挙では、選挙区が都道府県単位であるため、他の選挙方法に比べて一票の格差が大きくなりやすく、たびたび違憲訴訟が起こされ定数配分の是正が行われてきました。ちなみに、1947年の第一回参議院選挙は、定数250議席で争われました。

[比例代表選挙:定数48議席]
 各政党が集めた票の数に比例して、それぞれの政党の当選者を決めるのが比例代表選挙です。各政党は、あらかじめ選挙管理委員会に候補者の名簿を届けます。しかし、当選順位は決めていないので、非拘束名簿と呼んでいます。
 選挙で投票者は、投票用紙に指示する「政党」、あるいは「候補者名」を記入します。開票では、政党名を記入したものと候補者名を記入した票も所属している政党の票として数え、各政党が集めた票に比例して当選者の数が決まります。当選者は、当選順位が決められていないため、個人の名前で多くの票を集めた人から順に当選していきます。

- 「衆議院選挙」は小選挙区比例代表並立制 - 
 「衆議院選挙」は、参議院選挙とは異なり小選挙区比例代表並立制で行われます。小選挙区比例代表並立制というのは、「小選挙区制」と「比例代表制」という二つの選挙を一緒に(並立)行うというものです。

[小選挙区:定数300議席]
 全国を300の選挙区に分け、一つの選挙区ごとに一人の議員を選びます。小選挙区選挙には、政党に所属していなくても「無所属候補」として立候補できます。

[比例代表制:定数180議席]
 全国を11のブロックに分けて180の議席を争うのが比例代表制。小選挙区選挙では候補者名を書いて投票しますが、比例区選挙では政党名を記入します。このため、政党に所属しないと立候補できません。比例代表選挙では、各政党はあらかじめ当選させたい人の名簿を発表し、獲得議席に応じて名簿順に当選させていきます。小選挙区に立候補している人を名簿に載せることもできます。
 小選挙区制では、当選者が一人であるため、多くの票をとっても僅差で落選することが考えられます。こうした候補者の声も国会に反映させるために比例代表制が設けられました。複雑な制度になっているのは、多彩な制度を組み合わせて国民の意見を幅広く取り上げていくためです。
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