地方分権と 効率的な行政をめざす 道州制とは?【政治】

地方分権と 効率的な行政をめざす 道州制とは?

 東京一極集中の弊害や地域格差の是正、地方分権の確立など様々な期待を込めた道州制が、構想の段階から実現に向け具体化へ動き出そうとしています。大阪府と市の二重行政の無駄を無くそうと橋下徹大阪市長が打ち出した「大阪都構想」が、新たな引き金となって地方自治体の在りかたを巡る論議が活発です。道州制で私たちの暮らしや社会の仕組みはどう変わっていくのでしょう。

地方分権と 効率的な行政をめざす 道州制とは? - 現在の47都道府県から9~13の州に列島を再編成 -
 2008年3月末に政府は「道州制ビジョン懇談会」の中間報告をまとめ、同年5月下旬に日本経団連が「自立した広域経済圏形成に向けた提言」を発表して道州制への議論が高まりました。
 その後、民主党への政権交代や、東日本大震災、原発事故など国を挙げての災害復興などで、道州制論議は継続課題になったようです。しかし、大阪維新の会を率いる橋下大阪市長の「大阪都構想」を契機に、地方自治体の在り方を抜本的に見直す動きが活性化し、究極の地方の形といわれる道州制が改めて注目されています。
 現在の47都道府県を9〜13の道州に分ける道州制は、今の都道府県の形が出来上がった明治21年(1888年)以来の大改革となります。

- 特色ある地方のバランスの取れた発展が狙い -
 戦後の復興から高度経済成長を遂げてきた日本は、政治、経済、文化の中心である東京に、人、モノ、金、情報が一極に集中していきました。
 半面、地方は過疎化し、地域間格差は拡大する一方です。それは産業、経済、教育、文化、福祉、環境、医療、雇用、財政、行政サービスのすべての分野において「東京の一人勝ち」といわれる現象に現れています。
 地方がそれぞれの文化的、歴史的特性を生かし、きめ細かく高度な行政サービスを住民が受けるためには、東京(中央政府)への権限と財政の一極集中を是正し、ある程度地方に権限を持たせた地方分権が不可欠といわれます。
 このため、中央集権の弊害を取り除き、新しい国のかたち、将来に希望と夢の持てる新しい国づくりの切り札として道州制の導入が待たれているのです。

- 道州制導入の議論は50年以上も前からあった -
 日本に道州制を導入しようという論議はかなり以前からありました。高度成長期の1960年代に、人口の大都市集中で、大都市圏と地方との所得や生活基盤格差の増大から、その是正策としていくつかの県が合併する道州制が考えられました。
 ただ、池田隼人内閣の所得倍増計画や、田中角栄内閣の日本列島改造論に代表される地方への交付税や補助金の拡大投入で地方が息を吹き返したため、いつの間にか道州制論議は下火となったのです。
 ところが、80年代に入って国鉄→JR、専売公社→たばこ産業、電電公社→NTTなど国有企業や公社の民営化、地域分社化が進みます。1989年から92年にかけて政府の臨時行政改革審議会が、都道府県の広域連合や道州制の検討を答申したあたりから道州制論議が再燃してきたのでした。

- 地方にもっと権限を!道州制は地方分権がベース -
 94年には地方自治法が改正されて県の広域連合が制度化されましたし、国会でも地方分権の決議が採択されるなど、一気に道州制論議が高まってきました。そして2004年の地方自治法の改正で、都道府県の合併が申請によって可能となりました。
 こうして2006年に政府の地方制度調査会が「道州制のあり方に関する答申」を行なって、都道府県の廃止と道州制導入を打ち出し、9道州、11道州、13道州の3つのケースを示しました。
 最近になって道州制論議が地方自治体で再度活発になってきました。政府の財政難から地方交付税や補助金が削減され、緊縮財政で公共工事が大幅にカットされるにつれて、「国の財政運営のしわ寄せはご免だ。地方にもっと権限を」というのが再燃してきた率直な理由といえるでしょう。
地方分権と 効率的な行政をめざす 道州制とは? - 地方分権、地方への権限の委譲が本来の道州制の精神 -
 一口に道州制といってもさまざまな論議があります。政府主導の道州制導入に、地方自治体は一種の警戒感を抱いています。政府が中心になって打ち出している道州制は、単に地方自治体を統合し、行政の広域化によって県や市町村の大量削減をはかるもので、逆に中央集権の強化につながると批判しています。
 国の行政機関や財源の一部を地方に委譲するという、具体的な地方分権のビジョンが見えないといった意見も多くみられます。
 道州制というのは、政府による地方のコントロールではなく、地方への権限委譲、住民主導の地方分権改革が先決というわけです。単なる都道府県合併による形の整備では、本来の道州制の精神、地方のための道州制という趣旨が本末転倒になってしまうというのです。

- 税率、警察、広域公共工事など地方の権限を強化 -
 2018年までに現在の都道府県を廃止し、国、道州、基礎自治体へ再編する、という道州制導入へのスケジュールが2008年の政府中間報告で出されました。当時、座長を務めた江口克彦氏は、「道州の区分は単なる道府県の合併ではなく、日本全国を白地図にして線引きしたい」とコメントしています。
 そして、道州制の権限として①大型河川や広域道路、空港や港湾整備といった広域の公共工事②科学技術や文化の振興、大学以上の高等教育③経済・産業振興の政策④雇用対策⑤災害復興、危機管理(警察)⑥教育・福祉医療などの基準策定や市町村間の財政各位差の調整などを挙げています。 
 また、道州や基礎自治体に独自に税金や税率を決める課税自主権を与え、国に支配、拘束されず立法権や行政権を備える、という地方の権限強化をうたっています。
 一方、国の役割は、皇室や外交、安全保障、通貨、司法などに限定し、道州の中核となる基礎自治体は、消防・救急、社会福祉、産業廃棄物の処理、環境対策、小中・高校教育、都市計画・下水道、戸籍など地域に密着した対人サービスを行なうとしています。

- 理想は道州間で住民への行政サービス向上を競う -
 道州制の導入は、日本の国の形を中央集権体制から地方分権体制へ大転換を図る歴史的なプロジェクトといえましょう。
 日本経団連では、道州制へのプロセスとして、まず①地方分権改革の断行②国の地方分支局要員定数の大幅削減③地方交付税・国庫補助金改革④地方公共団体の行政能力強化⑤電子行政・電子社会の構築の加速⑥国の資産・債務の縮減などの改革を急ぐべきだとしています。
 一般に道州制の導入による地方のメリットとして、①道州間でより住民本位の善政の競争による地方の発展促進が期待できる②広域的な完結性をもった経済構造が実現し、海外との連携強化が図れる③住民本位の効率的・効果的な行政と責任ある財政運営ができる④地域の歴史性、文化的特性を尊重した地域特性を大いに発揮できるなどが強調されています。

- 地方独立国が集まったドイツ、州政府が連邦政府を支えるアメリカ -
 日本の道州制導入で、常に比較される海外の例としてドイツ連邦とアメリカ合衆国が挙げられます。
 現在のドイツは16の州に分かれていますが、歴史的にザクセン、ハノーバー、バイエルンなど多くの地方独立国が割拠していました。187
1年にプロイセンの主導でドイツが統一、ドイツ帝国の誕生となったわけですが、もともと地方の独立性が高く、各州は自己完結性が強く、職住接近が主流となっています。生活も仕事も同一地域のため、地域社会への愛着は強固で、歴史的文化性をとくに尊重する土壌があります。
 一方、アメリカはもともと移民国家であり、独立以来まず州ありきの連邦制の合州国(合衆国)です。50の州は、それぞれ強い権限を持ち、各州が集って連邦憲法を決め、中央政府が機能しています。
 ドイツもアメリカもまず地方ありきの歴史性を持っています。

- 小さな中央政府=(イコール)地方分権国家は時代の流れ -
 わが国は、大和朝廷によって6世紀には統一政権ができ、645年の大化の改新、701年の大宝律令などに代表されるように、古代においてすでに中央集権的官僚制国家が誕生しています。いわゆる律令国家がそれです。
 鎌倉幕府の開設で、武家による封建体制によって地方分権が進み、それは戦国大名国家、徳川幕府の幕藩体制に名を変えて明治の統一政府まで続きます。
 明治新政府は、古代の律令国家への先祖返りといった体裁をとって再統一を図ったわけです。以後の目覚しい近代化の歩みは歴史の示す通りです。
 地方分権、道州制への移行は、少子高齢化、グローバル化の進展を背景に、ますます熱をおびてくると思われます。時代の流れということがいえるかもしれません。
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