「新平和安全法制」を検証する【政治】

「新平和安全法制」を検証する


 集団的自衛権の行使容認や自衛隊の海外活動の拡大などを骨子とした新しい平和安全法制が成立し、戦後日本の安全保障体制は大きく転換します。新平和安全法制は、日本を取り巻く安全保障環境の変化に対応した抑止力の向上で戦争の防止を狙いとしています。一方で、恒久平和主義を定めた憲法第9条に反する違憲立法で、他国の戦争に巻き込まれる危険性が高まったと強い批判を浴びています。甲論乙駁の新平和安全法制を検証してみました。

「新平和安全法制」を検証する - 新平和安全法制とはどういうものか? -
 7月16日に衆議院、9月19日に参議院で可決・成立した新平和安全法制は、自衛隊法や武力攻撃事態法など既存の10本の法律を改正して一つに束ねた「平和安全法制整備法」と、他国軍の後方支援を随時可能にする新設の「国際平和支援法」で構成されています。
 新たな平和安全法制の最大の特徴は、集団的自衛権の行使を限定的に容認した点にあります。日本が直接攻撃されていなくても、同盟国や友好国が攻撃を受け、それが日本の存立を脅かすような事態(存立危機事態)に当たると認定された場合は、自衛の措置として必要最低限の武力行使ができるというものです。
 これまでの憲法解釈では、「わが国に対する武力攻撃」に対して自衛隊が自国を守るために、武力で反撃する個別的自衛権の行使を認めてきました。しかし集団的自衛権は国際法上の権利として保持していますが、その行使は憲法第9条に違反するとして認めていませんでした。

- 集団的自衛権の行使が容認される -
 集団的自衛権の行使が容認される事態を「存立危機事態」といいます。日本と密接な関係にある他の国に対する武力攻撃が発生し、「これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」に集団的自衛権の行使が容認されます。
 また、これまで自衛隊の行動が規定されていなかった「グレーゾーン事態」でも、今後は自衛隊が対応できるようになります。例えば、尖閣諸島のような離島に軍隊ではない武装集団が不法占拠し、警察力でただちに対応できない場合に自衛隊が出動して排除したり、外国の軍艦が日本の領海に侵入した場合に、自衛隊が出動して対処できるようになります。
 このほか、過激集団「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件のように、海外で日本人が危険にさらされた場合、相手国からの協力を得て自衛隊が武器を使
用して救出に向かうことが可能となります。
 これまで自衛隊が「脅威」に対応して活動する場所は「周辺事態法」によって日本周辺に限られていましたが、これを「重要影響事態法」に変更して地理的制限を撤廃し、他国軍への後方支援を世界中どこでも出来るようになりました。

- 自衛隊の運用に歯止めが効かなくなるのでは -
 新平和安全法制では、集団的自衛権の行使が容認されるのは存立危機事態に当たる「脅威」が発生した場合としています。
 政府は憲法解釈を見直して、①日本の存立が脅かされる明白な危険がある②ほかに適当な手段がない③必要最小限度の実力行使にとどまるという三つの要件(新3要件)を満たせば、存立危機事態と見なして集団的自衛権の行使が容認されるとしています。
 しかし、問題なのは「脅威」の度合いを客観的に判定する指標が明確ではないということです。時の政府が脅威のレベルを判断し、恣意的に自衛隊を動かす危険性を孕んでいるといえます。
 また、自衛隊が派遣される場合は「原則として事前に国会承認が必要」としていますが、一刻を争う緊急時には現実として政府の判断ひとつで集団的自衛権が行使されることになり、自衛隊の運用に歯止めが効かなくなるのではといった心配があります。
「新平和安全法制」を検証する - 他国の戦争に巻き込まれる危険性 -
 新平和安全法制では、重要影響事態や国際平和共同対処事態と呼ばれるような、武力行使が認められない状況下での自衛隊の活動も新たに定めています。
 重要影響事態とは、そのまま放置すればわが国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態を指します。また、国際平和共同対処事態とは、国際社会の平和と安全を脅かす事態のことで、いずれも自衛隊の後方支援を定めています。
 後方支援とは、国際紛争に対処する他国の軍隊に、戦闘地域から離れた場所で補給や輸送などを行うことです。戦闘行為が行われている現場では、後方支援は行わないとしていますが、戦時では戦闘正面(前線)と後方(兵站)は一体で区別がつきにくく、戦争相手国の攻撃の対象となり、戦争に巻き込まれる危険性は否定できません。
 また支援内容は、弾薬の提供や他国の兵士の輸送、戦闘作戦に参加する戦闘機や艦艇への給油なども含まれ、より自衛隊員のリスクが高まることになります。

- PKOで他国の部隊を「駆けつけ警護」 -
 日本は1992年にPKO協力法を制定して、紛争解決のために国連が行うPKO(国連平和維持活動)に参加しています。これまでにカンボジア、モザンビーク、アフガニスタン、イラク、ハイチ、東チモールなどの紛争地帯で難民救済などの活動を行い、現在も南スーダンで道路などのインフラ整備やソマリア沖の海賊対処活動を行っています。
 新平和安全法制ではPKO協力法が改正され、①紛争当事者間の停戦合意②紛争当事者の受け入れ合意③中立的立場の厳守④以上の原則のいずれかが満たされない場合の撤収⑤要員の生命保護のための必要最小限度の武器使用の5つの原則を定めています。
 また、PKO活動中の自衛隊が、離れた場所にいる他国の部隊が襲われた場合、助けに駆けつける「駆けつけ警護」が出来るようになります。この場合武器使用基準が緩和されますが、憲法で禁じている海外での武力行使につながる恐れがあります。

- 懸念される自衛隊員のリスク増加 -
 1950年8月に発足した警察予備隊を前身として54年7月に設立された自衛隊は、現在総定員が陸・海・空合わせて約25万人。国是である「専守防衛」の下、災害派遣での殉職者を除いて、今まで戦闘で亡くなった隊員は一人もいません。
 91年に初めての海外任務として湾岸戦争後に海上自衛隊がペルシャ湾で機雷掃海活動を行いました。新安保法制では、米国をはじめとした同盟国、友好国と共に、平時から有事まで今後予想されるあらゆる事態に備えた切れ目ない対応を目指しています。
 海洋進出を強める中国の軍事的脅威の高まりや、北朝鮮の核・ミサイル脅威、国境を越えて暗躍する国際テロ活動の広がりなど、近年日本をめぐる安全保障環境は大きく変化しています。新安保法制はこうした事態に対応した法整備としていますが、これによって自衛隊の活動領域は飛躍的に拡大し、自衛隊員のリスクの増大が懸念されます。
「新平和安全法制」を検証する - 【主な賛成派主張】 現実対応 -
抑止効果を高め戦争を防ぐ
 日本を取り巻く安全保障環境は急変しつつあり、あらゆる不測の事態に対応できる「隙間の無い」法的枠組みを整備して抑止力を高め戦争を未然に防ぐ。
 新平和安全法制の柱である集団的自衛権の行使容認には厳しい条件が課せられ、「正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求」(憲法第9条第1項)する国民の願いに合致するもので憲法の許容範囲内で合憲。
 北朝鮮の核ミサイルの脅威、イスラム国(IS)やシリア、イラクを含む中東湾岸情勢の深刻化、ロシアのウクライナ併合や、強大な軍事力を背景にした中国の海洋進出など国際法を無視した力による現状変更が、国際社会の緊張を高め不安定感を増している。
 ロシアや中国が拒否権を持つ国連が的確に機能せず米国の軍事的影響力が相対的に低下している現在、日本は現実を直視して米国との同盟強化に努めて一層戦争の抑止効果を高めなければならない。  国際社会の平和と安定のために活動する各国軍隊に必要な後方支援を行って、世界中の友好国と信頼関係を深めることが急務だ。

- 【主な反対派主張】 憲法違反 -
他国の戦争に巻き込まれる
 戦後日本の発展と平和、国際的地位の確立は憲法第9条を持つ平和憲法によって達成された。集団的自衛権の行使容認は憲法で規定された「専守防衛」を大きく踏み出し、他国の戦争に加担する行為で明らかに憲法第9条に違反している。
 新平和安全法制では、日本が攻撃を受けていなくても他国が攻撃を受けて、政府が「存立危機事態」と判断すれば武力行使が可能となり、自衛隊が他国の戦争に巻き込まれる恐れがある。  自衛隊の活動範囲は世界中に広がり、後方支援は戦闘地域から離れた場所に限るとはいえ、戦闘時は正面と後方は一体で区別がつきにくい。このため、戦争相手国の攻撃の対象になりやすく、日本が戦争当事国となる可能性も否定できない。
 戦後日本は①国連主義②日米同盟③アジアの一員として協調するという3点を安全保障の基本方針としてきた。まず緊張が高まる中国との関係修復に向けた外交努力が急務だ。
 安倍政権が安全保障環境の激変で集団的自衛権が不可欠と判断するなら、堂々と憲法改正から手を付けるべきだ。違憲の疑いの強い新安保法制は、すべての法律、統治は憲法tにvよって律せられるという立憲主義を否定するものだ。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について