深刻化する医師不足、その対策は!!【医療】

深刻化する医師不足、その対策は!!


 急病人が救急車で病院に運ばれたが、担当医がいないことや、ベッドが埋まっていることなどで断られ、たらい回しの末に命を落としたといったニュースをよく耳にします。また、地方の病院を中心に多くの病院で医師不足や病院経営難が原因で、診療科の一部を閉鎖する病院や、病院同士の統廃合といったニュースも流れています。
 最難関とされる医学部に入学し、厳しい勉強や研修を経て、毎年3500~4000人ほどの医師が誕生しているのに、なぜ医師不足が社会問題になっているのでしょうか?


〓 本当にお医者さんが足りないの? 〓
【日本の「医師制度」の歴史を振り返る】
- いつから「医師」と呼ばれるようになった? -
 「お医者さんの正式名称は?」と問われると、どのように答えますか。一般に、「お医者さん」「医者」「先生」「ドクター」などと呼ばれていますが、正式名称は「医師」。明治維新の後、各種制度改革が実施され、漢方医であっても西洋医学を学ぶことが義務付けられ、名称も「医師」と呼ばれるようになりました。
 欧米では、医師は「Physician」と呼ばれますが、担当分野ごとに内科医(Physician)と、外科医(Surgeon)と分けて呼ぶこともあるようです。これは中世の名残で、当時内科医が診察診断を担当し、外科医の仕事は現在の理学療法士などのような医療補助的な仕事を担当したことから、伝統的に別の名称で呼ばれることもあるようです。


- 日本の「医師」はこうして誕生する -
 医師は国家資格で、医師になるには、大学の医学部や医科大学(6年課程)を修了し、医師の国家試験に合格しなければなりません。さらに、臨床医として活躍するには、病院などで2年以上の臨床研修が義務付けられています。この間の医師は、研修医と呼ばれています。
 一般に、医師といえば病院や医院で医療行為を行う臨床医を思い浮かべますが、法医学者や基礎研究医、産業医、社会医学者など、直接医療行為を行わない医師もいます。これらの医師は、原則として臨床研修の義務はありません。
 現在、日本の医師は約28万人(歯科医を除く)いるといわれます。そして、毎年、新たに4000人近い医師が誕生しています。しかし、医師不足が叫ばれ、大きな社会問題になっている原因を考えていくことにしましょう。


【医師不足を招いた背景と現状を考える】
- 医療費削減が医師の増加にストップ! -
 医学部や医学科の設置や定員を決めるのは国の仕事です。国家試験の合格率は、平均して90%程度と高く、医学部の定員が医師の数に大きく関係しています。
 1970年代に、各県ごとに一つの医科大という構想が打ち出され、実現に向けてスタートしました。一方、私立大学でも医科大学や医学部の開設が目立ち、医学部の入学定員が大幅に増加することになりました。当時の厚生省(厚生労働省)は、このままでは医師が増えすぎることを危惧し、1984年以降、医学部の定員を最大時より約7%減少させました。
 こうした背景は、厚生省が医師過剰によって医療費が膨らむことを心配したからです。また、医師や病院間で過当競争が起こることも予想され、日本医師会もこのような国の取り組みに同調しました。
 今日、社会問題にもなっている「肥大化する医療費の削減」という問題が当時から懸念されていたのです。2006年には、診療報酬の引き下げが行われ、経営が苦しくなる病院も増え、医師の採用を手控えるところも出てきました。


- 医師養成の増加に向けての流れが本格化 -
 2000年代に入ると、医師不足が各方面で指摘され、大きな社会問題に発展してきました。さらに、2004年にスタートした新臨床研修制度で、これまで主として出身大学の附属病院で研修を受けていた研修医が、自由に研修先を選べるようになりました。このため、都市部の病院に集中し、研修後も地元に戻る医師は少なく、地域医療の崩壊に拍車をかける結果となりました。また、勤務医からも過酷な勤務による弊害の指摘や、診療分野別に医師の需給の不均衡などの問題が取り上げられるようになりました。
 厚生労働省でも、こうした声を受け「医師不足が原因ではなく、医師の偏在が問題」というこれまでの方針を転換し、医師の増加に向けて取り組むことになりました。そして昨年6月、舛添厚生労働大臣は「安心と希望の医療確保ビジョン」を打ち出し、医学部の定員削減見直しを行うことになりました。さらに、臨床研修制度についても、医師不足や地域医療に配慮した特別プログラムの実施や、期間短縮を視野に入れた計画を打ち出しています。

深刻化する医師不足、その対策は!! 〓 地方での医師不足は深刻化する一方 〓
【医師不足の実態を具体例で検証してみると!】
- 世界に比べて医師の絶対数が不足 -
 現在、日本にはおよそ28万人の医師がいます。しかし、この数字は医師免許を持っている人の総数で、実際に医療現場で診療にあたっているのは、21万人前後と見られています。この数字を、人口千人あたりでみると、世界平均を大きく下回り、OECD(経済協力開発機構)加盟諸国の中でみると、60位後半に位置し、その絶対数の不足がよくわかります。
 また、女性医師が増加し、現在では全医師のうちの16.5%を占めています。なかでも、小児科や婦人科では女性医師が多く、20歳代の女性医師は5割を上回っているのです。ところが、結婚や子育てなど、医療と家庭を両立させる環境が整っていない場合が多く、結果として復職することなく家庭に入ってしまう例も多く、現場の医師数の減少に拍車をかけることになっています。

- 地域病院を中心に、必要医師数が不足 -
 新しい臨床研修制度についてすでに紹介しましたが、この制度によって地方病院を中心に医師の絶対数が不足するという深刻な問題が起こっています。新制度によって、大学病院などの特定の病院だけでなく、一般の民間病院でも研修が可能になりました。このため、研修医は大学病院の医学部(医局)の意向に関係なく、薄給で下働きが多いとされる大学病院や地方病院を避け、多彩な症例を経験できる病院や、待遇など諸条件に恵まれた病院で臨床研修を受けるようになったのです。当然、臨床研修後も出身地域の大学病院や民間病院に戻る医師は少数になります。
 このため、大学病院や地方病院は深刻な医師不足に陥ることになりました。大学病院では、高水準の医療を維持するため、地方の病院に派遣していた医師を引き上げることで対応する例が目立ちます。こうした動きによって、地域の民間の総合病院などから医師が引き抜かれ、医師の補充できない診療科は、閉鎖に追い込まれるなど大きな影響を及ぼしています。
深刻化する医師不足、その対策は!! - 診療科ごとに需要の不均衡が拡大 -
 臨床研修期間中に、研修医はさまざまな診療科を経験します。その結果、当初の希望ではなく、他の科を選ぶ研修医が増えているようです。緊急を要するとともに、生命に直結する外科・麻酔科、小児科・産科を避ける傾向が顕著になってきています。これらの科では、時間を問わず患者さんが飛び込んでくるだけでなく、容態の変化も激しいため、過酷な勤務が強いられます。さらに、医師が一番恐れる医療事故が発生する可能性が高く、これらの科を志望する新人医師が大幅に減少しているのが現状です。
 また病院勤務も厳しく、泊り込みで夜から朝まで診察する「当直勤務」をこなして、翌日も通常通り夕方まで診察することもめずらしくありません。こうしたことが相まって、病院が開設している診療科ごとに、医師の需要の不均衡が顕著になってきています。
 反面、救急患者が少なく勤務条件に恵まれる眼科や皮膚科、精神科といった科を選択する傾向が目立つようになって来ました。医師不足だから、医師を増やせばいいというだけでは解決しない多くの問題を医療現場は抱えているのです。
深刻化する医師不足、その対策は!! 〓 医師不足解消に向け、
       さまざまな角度から急ピッチで進む対策 〓

【医師不足解消への試みがスタートした】
- 大学医学部の定員増加を決定、地元枠を設置する大学も -
 政府は医師不足対策の一環として、「医学部定員削減」の閣議決定を見直し、国公私立大学の入学定員を増やすことにしました。その結果、昨年度から全国の11大学で、医学部の定員を10人増加させたのです。
 さらに、地方の県が積極的に関わる形で、地元高校生を推薦入学させる大学の医学部も目立つようになってきました。医学部に地元の高校生のための推薦枠を設け、この推薦枠で入学した地元の高校生は、医師の国家試験合格後も決められた期間地元にとどまることが条件になっています。地方の医師不足を解消する狙いであることはいうまでもありません。

- 奨学金で医師を目指す高校生を支援 -
 医師一人を養成するには、数千万円のお金が必要といわれます。私立大学の医学部の学費は、数百万円から一千万円を超える大学もめずらしくありません。また、6年間にわたって授業や実習で埋め尽くされ、アルバイトなど考えられないのが実情です。このため、各国公私立大学では、公的な奨学金の他、大学独自の奨学金制度を導入して医学生の支援を行っています。なかには、卒業後、地元の病院で働くことを条件に支援する大学もあり、経済負担の軽減と地方の医師不足を兼ね備えた支援体制をとる大学もあります。
 HPなどで紹介されているので、調べてみることも必要です。

- 女性医師が働きやすい職場の環境整備 -
 小児科や産科で女性医師が増加していますが、医療と家庭・育児の問題が両立可能な勤務形態が求められています。しかし、現実には困難な問題が多く、現場復帰をあきらめる女性医師や、担当する診療科目を変更する医師も少なくありません。
 政府は、昨年発表した緊急医師確保対策の中で、「女性医師の復職のための研修等を実施する病院等への支援や女性バンクの体制を充実する」と強い決意を示しています。医療現場を直ちに改善し、女性医師が働きやすい環境を整備するにはまだ時間がかかりそうですが、決して見逃すわけにはいかない問題です。

- コ・メディカルの活用で対処 -
 医師の業務は、本来の診療とともに多様な業務に時間を取られます。この一部を看護師・検査技師・事務員などが代行できるような制度改革が検討されています。また、開業医などと連携し、地域全体でネットワークを構築し、患者のケアと治療を行う制度を検討している地域も増えてきています。
 さらに、医師や看護師を途上国から招致しようという動きも見られ、看護師の招致は現実に行われています。しかし、日本での医師免許の取得や、語学力や異文化の理解、給与水準の相違など解決しなければならない問題が多く、看護師など一部を除いて実現は困難だと見られています。
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