西アフリカで猛威をふるう「エボラ出血熱」【医療】

西アフリカで猛威をふるう「エボラ出血熱」


【10月15日現在、8,994人が感染し死者は4,492人に 致死率が最高90%に達することも】
 西アフリカでエボラウイルスによる「エボラ出血熱」が猛威をふるい、過去最大の規模で感染が広がっています。今年8月、WHOは感染が広がる西アフリカだけではなく、全世界に対してエボラ出血熱に対する対策の強化を呼びかけました。エボラ出血熱を引き起こすエボラウイルスの正体とは?感染拡大の原因は?そして、現地での拡大防止の様子などを紹介していきます。

西アフリカで猛威をふるう「エボラ出血熱」 - WHO、エボラ出血熱で「緊急事態宣言」 -
 エボラ出血熱(Ebola virus disease:EVD)とは、エボラウイルスによる感染症です。エボラウイルスの大きな特徴は、致死率が最高90%にも達する恐ろしい病気で、これまで発見されたウイルスのうちで最も危険なウイルスの一つだとされています。エボラ出血熱は、1976年にアフリカ中央部で初めて発生が確認され、それ以降、10数回にわたってアフリカで突発的に発生・流行してきました。
 今年3月に西アフリカのギニアで集団発生したエボラ出血熱は、隣国のリベリアやシエラレオネ、セネガル、そして少し離れたナイジェリアへと感染を拡大させています。WHOの報告によると10月15日現在、これらの国々で8994人が感染し、死者は4492人と過去最悪の規模となっています。さらに、感染はアメリカやスペインなどに広がりを見せています。
 WHOは8月8日、「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態」として、関係各国に対策の強化を強く求めています。

西アフリカで猛威をふるう「エボラ出血熱」 - 1976年にエボラ出血熱を確認 -
 エボラ出血熱は1976年、ザイール(現在のコンゴ民主共和国)のエボラ川流域と、スーダン南部(現在の南スーダン)のヌビアで同時期に集団感染が確認されました。エボラ出血熱という疾患名は、この時のエボラ川の名前にちなんで名付けられました。
 エボラ出血熱を引き起こすエボラウイルスには5つの種(ザイール、スーダン、ブンディブジョ、タイフォレスト、レストン)があり、ザイール、スーダン、ブンディブジョの3種は、これまで度々アフリカで大きな流行を起こしてきました。レストンエボラウイルスは、フィリピンで飼育されたカニクイザルで発見されていますが、これまでのところヒトの発症例や死亡者は報告されていません。 
 エボラ出血熱による致死率は、ウイルスの種類によって異なりますが、25%〜90%と非常に高いことに変わりありません。エボラウイルスの5つの種の中で、ザイールエボラウイルスが最も強い病原性を示すとされています。
 現在、西アフリカで感染を拡大させているエボラウイルスは、以前コンゴ民主共和国で発生したザイールエボラウイルスに極めて近いエボラウイルスと見られています。ただ、アフリカ中央部から西アフリカへいつ頃、どのような経路で移動したかは判明していません。

- エボラウイルスの感染経路 -
 エボラ出血熱は、エボラウイルスに感染した動物の血液、分泌液、臓器、その他の体液に接触することで感染します。ヒトへの感染は、アフリカでエボラウイルスに感染して発症または死亡した野生動物(オオコウモリ、チンパンジー、ゴリラ、ヤマアラシなど)に、ヒトが触れたことによって感染したという事例が報告されています。
その後、感染したヒトの体液(血液、分泌物、吐物、排泄物など)や、体液で汚染された物質(注射器、マスク、ガーゼなど)に触れた時、ウイルスが傷口や粘膜から侵入することで、ヒトからヒトへと感染を拡大させていきます。
 アフリカでは、死者を弔うために遺体に直接触れるという習慣があり、これが感染拡大の要因になっているのではと指摘する声もあります。ウイルスは死の直前に最も感染力を増すとされ、遺体に触れることは感染のリスクを高めることになります。
 さらに、WHOは患者と接する機会の多い医療従事者、患者の家族・近親者、動物の死体に触れる狩猟者なども感染のリスクが高く、注意を払うように呼びかけています。

- エボラ出血熱の症状 -
 エボラウイルスは体液を通じて感染し、空気感染はしません。このため、咳やくしゃみなどで空気感染するインフルエンザなどと異なり、病気に関するしっかりした知識や、対策を施すことで感染を防止することができます。
 エボラウイルスに感染すると、2〜21日の潜伏期間の後、高熱、頭痛、筋肉痛、喉頭痛などといった症状を示します。初期の症状は、他の病気と似ている点が多いために診断が困難なことがあります。次いで、嘔吐、下痢、胸部痛、多臓器不全などがみられ、吐血や血性下痢、皮下出血など体の複数の場所で大規模な出血が現れることもあります。
 こうした症状が現れると、他への感染を避けるために患者を隔離し、確定診断のために医療機関で数種類の検査を受けることが必要です。
西アフリカで猛威をふるう「エボラ出血熱」 - エボラ出血熱を治療するのは -
 現在、エボラ出血熱に対する有効な治療薬や予防ワクチンはありません。このため、脱水症状を起こしている患者への点滴、合併症を避けるための抗生物質の投与、栄養補助食やビタミン剤の投与といった対処療法を施します。こうして時間を稼ぐ間に、患者の免疫システムがエボラウイルスに打ち勝つのを待ちます。患者がエボラウイルスを克服した場合は、感染したウイルスの型に対して免疫を持つことになります。
 エボラ出血熱の患者には、こうした受け身ともいえる対処療法にとどまっているのが現状です。WHOでは感染の深刻な拡大を受け、賛否両論があるなか、研究段階にある未承認薬の投与について検討を進めています。

【西アフリカの感染地域の現状は!!】
西アフリカで猛威をふるう「エボラ出血熱」 - 不足する医療施設や医療スタッフ -
 エボラ出血熱のエボラウイルスは、患者を完全に隔離することで感染の拡大を防止することが可能です。しかし、今年3月にギニアで始まったエボラ出血熱の流行は、隣国を巻き込んで患者は増え続けています。WHOは、このまま放置すれば感染者が最終的に2万人を超える恐れがあると想定しています。
 この原因として、まず現地の医療体制のぜい弱さがあげられます。今回エボラ出血熱の感染が広がった西アフリカの国々は貧しく、先進国のような感染対策を十分に行うことは困難です。病院などの医療施設、医師・看護師などの医療スタッフは大幅に不足し、増え続ける感染者を病院に収容しきれていません。このため、外国の支援などで急遽設置された仮設の一時受け入れ施設に収容し、病院のベッドが空くまで移送を待っているというのが現状のようです。

- 人口密集地から感染が広がった -
 エボラ出血熱は、これまでアフリカ中央部で度々発生しましたが、これほど深刻な感染拡大にはなっていません。それは、小さな集落での発生であったため、一定の期間を経て自然に収束したとみられます。
 しかし、今回の感染は人口密集地を中心に感染が広がり、国境を越えて隣国へと拡大していきました。さらに、西アフリカ4カ国と国境を接していないナイジェリアでも感染が確認されています。
 ナイジェリアは、人口約1億7000万人というアフリカの大国です。近年、経済成長も著しく、国際交流も盛んに行われています。ナイジェリアで感染が拡大すれば、飛行機などによる移動手段が発達している今日、短時間で全世界に感染が広がることが考えられます。WHOがエボラ出血熱の感染拡大を受けて、非常事態宣言を出したのは世界的流行を防止するためです。

- 十分に伝わらない感染防止の知識 -
 西アフリカの感染地域では、日本をはじめ世界各国の医療スタッフ、WHOの職員、国境なき医師団などが治療活動を続けています。
 海外からの医療スタッフは、全身を覆う防護服や手袋やマスク、ブーツを着用して患者からの感染防止に備えています。しかし、現地の医療従事者には、感染防止のための知識が不足し、防護対策を十分に取らないまま患者に接したためにエボラウイルスに感染し死亡した人も数多くいます。
 このため、医療支援スタッフは、ぜい弱な医療体制にも拘らず懸命の医療活動を展開するとともに、現地の医療スタッフや住民にエボラ出血熱に関する正しい知識を広く伝える取り組みも本格化させています。
 しかし、国内外の医療スタッフには、熱帯気候による猛烈な暑さ、感染への緊張やストレス、注意力の欠如などで感染のリスクが心配されます。WHOはこうした現状を受け、全世界に医療スタッフの派遣を呼び掛けています。

【1971年に設立した「国境なき医師団」とは】
 国境なき医師団(MedecinsSans Frontieres:MSF)は、中立・独立・公平な立場で医療・人道援助活動を行うために1971年に設立された民間の非営利国際団体です。現在では世界各地に28の事務局を設置しています。日本には1992年に事務局が設置されました。
 2013年には、3万6000人以上の海外スタッフ・現地スタッフが、アフリカ、アジア、南アメリカなどの途上国約70カ国と地域で人道援助活動を行いました。MSF日本からも、71人のスタッフが約24カ国と地域に延べ96回派遣されています。
 今回のエボラ出血熱の感染拡大防止には、ナイジェリアを除くギニア、シエラレオネ、リベリアの3カ国で医療活動、保健衛生教育活動、地元の保健省など幅広い支援活動を行っています。

- 1999年にノーベル平和賞を受賞 -
 国境なき医師団は1999年にノーベル平和賞を受賞しています。ボランティア精神に深く基づく人道援助活動が高く評価されました。
 例えば、ボスニア・ヘルツェゴビナの人権侵害、ルワンダやザイールでの大虐殺などを放置せず、医療活動を通じて政治の怠慢、不正などを証言し、政治責任を強く求めてきました。ロシアのチェチェン紛争では、市民を巻き込む無差別爆撃を避けるように要請しました。こうした政治問題だけでなく、社会から締め出されたストリート・チルドレンやヨーロッパに居住しながら滞在許可証を持たない人々の救済にも取り組んできました。
 国境なき医師団の、開発途上国や紛争地域での活動や、医療援助を必要とする人々に直接向かい合うという公平な人道支援が受賞の対象となったのです。
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