脳の仕組みや働きを考える【医療】

脳の仕組みや働きを考える


【人のやる気や能力はどこから生まれる】
 勉強やスポーツでやる気や能率アップに脳はどのように関わっているのでしょうか。脳の仕組みや働きを研究する脳科学は「人類最後のフロンティア」ともいわれ、医療や先端技術の分野で大きな期待が寄せられています。心と体を支える脳について考えてみましょう。


脳の仕組みや働きを考える - 脳のしくみを知って生活に生かそう -
 私たちが見たり、聞いたり、物を考えたりできるのは、脳が働いて信号を送っているからです。脳は心臓の動きや呼吸、消化といった生命活動を維持し、心と体の動きをコントロールする重要な器官です。
 人が人であるための大切な脳が、いつも健康で元気に働けるようにするにはどうすればいいのでしょうか。
 脳の仕組みや役割を理解することで、脳を活性化させ勉強やスポーツなどでより高い能力を発揮することができるようになるでしょう。

- 脳の大部分を占める大脳は左右に分かれる -
 まず、脳の大まかな構造を見てみましょう。
 脳は大きく、大脳、小脳、脳幹の3つに分かれます。大脳は脳の大部分を占めていて、中心の溝で左右2つの半球(左脳と右脳)に分かれています。小脳は大脳の下方にあり、大脳や小脳と脊髄を結んでいるのが脳幹です。
 大脳の表面は、神経細胞の集まりである俗に「脳のしわ」といわれる大脳皮質(灰白質)で覆われています。
 そして、大脳は顔に近い部分から順に、前頭葉、頭頂葉、後頭葉に分かれ、側面を側頭葉といいます。

- 前頭葉、頭頂葉、後頭葉の働き -
 前頭葉は思考や言語、感情、創造力などをつかさどっています。言葉を覚えて話したり、意思を持って行動し、何かを作り出すなど知的で人間らしい高度な活動をコントロールしています。
 頭頂葉は体のすみずみから送られる様々な情報を分析して、熱い、冷たい、痛いなどの感覚や触覚、左右や空間認識などの感覚をつかさどっています。
 さらに、後頭葉は目で見た映像を認識する視覚中枢があり、側頭葉は聴覚と臭覚、聞いた言葉の意味を理解する働きがあります。
脳の仕組みや働きを考える - 脳は神経細胞の巨大なネットワーク -
 脳の働きで私たちは感動し、決断して行動します。経験から学び、知識を蓄え、言葉を発したりモノを考えることができます。つまり脳があっての人間です。しかし、脳は一体どんな仕組みになっているのでしょうか。
 脳を構成する主役は神経細胞で、その数は千数百億個にのぼります。神経細胞は電気信号を発して情報をやり取りする特殊な細胞です。
 一つの神経細胞から長い「軸索」や木の枝のように分岐した短い「樹状突起」が伸びていて、これらの突起が別の神経細胞とつながり合って複雑なネットワーク「神経回路」を形成しています。
 複雑で巨大なネットワークを電気信号が駆け巡って、脳は高度で多様な働きをしているのです。

- 脳の神経回路の長さは100万㎞ -
 神経細胞は、細胞体とそこから出ている軸索や樹状突起などの突起を合わせて一つの単位としてとらえ、ニューロン(神経単位)とも呼ばれています。
 大脳には、1立方ミリに10万個もの神経細胞が詰まっていて、脳全体の神経細胞から出ている軸索や樹状突起などの突起をすべてつなげると100万㎞もの長さになります。
 複雑に枝分かれしている樹状突起が、受信アンテナとなって他の神経細胞からの電気信号(情報)を受け取り、軸索が出力装置となって他の神経細胞に伝達します。

- 神経細胞の10倍のグリア細胞が注目 -
 神経細胞と共に脳を構成しているもう一つの細胞をグリア細胞といいます。ヒトのグリア細胞の数は神経細胞の10倍もあり、神経細胞を支えたり、栄養を補給したりして神経細胞の働きを助けています。
 最近の研究で、グリア細胞は神経細胞の成長因子や栄養因子を分泌して、神経細胞の維持や再生に非常に重要な働きをしていることが分かってきました。また、記憶や学習という脳の高度な機能も、グリア細胞に支えられていると見られています。
 理化学研究所では、今後アルツハイマー病などの記憶障害に対し、グリア細胞の活動をターゲットにした全く新しい治療法の開発が期待できるとしています。
脳の仕組みや働きを考える - 「短期記憶」と「長期記憶」 -
 脳の働きの中で、私たちが最も関心のある記憶や学習について考えて見ましょう。ヒトの記憶には大きく二つあります。しばらくすると忘れてしまう「短期記憶」と、いつまでも覚えている「長期記憶」です。
 すべての情報はいったん脳の奥にある海馬という場所に保存されます。この状態を「短期記憶」といいます。
 脳は一時保管した情報を仕分けして、必要と判断された情報だけを大脳皮質に送って長期保管します。いわば脳のハードディスクで、これを「長期記憶」といい、ほぼ永久的に覚えています。
 脳の海馬では、「生命の存続に役立つかどうか」を判断基準として情報の仕分けを行っています。

- 学習を繰り返して記憶を呼び起す -
 学校で学ぶ勉強はどうでしょうか。「将来生きていくために不可欠な情報」ではありますが、当面の生命活動に不可欠な情報とはいえません。
 このため、脳のハードディスクに長期保存してくれないので「勉強してもなかなか頭に入らない」ということになります。脳に「どうしても必要な情報だ」と思わせるには、何度も書いたり、声に出したりして復習することが効果的だといわれます。
 覚えた英語の単語や漢字などは完全に脳から消えてしまうわけではなく、思い出せないだけで無意識の世界に保存されています。
 無意識の保存期間は1か月程度で、この間に学習を繰り返すことで記憶を呼び起し、以前よりしっかり覚えられるといいます。

- やる気や達成感に関係するドーパミン -
 休日明けの月曜日の朝、「何だか学校に行きたくないなあ」とやる気の失せた、憂うつな気分に襲われたことはありませんか。
 やる気やモチベーションは本能や感情をつかさどる大脳辺縁系という場所が大いに関わっています。脳のほぼ真ん中にある側坐核(そくざかく)と呼ばれる部分から分泌されるドーパミンという神経伝達物質が作用して、やる気や陶酔感、達成感などが生まれます。
 ドーパミンは快楽物質とも呼ばれますが、人体への影響は、やる気、記憶、行動と認識、注意、睡眠、気分、学習など広範囲に及びます。快楽に通じる働きはそのうちのひとつです。

- 脳をほめてやる気を引き出す -
 脳は訓練次第で、経験からやりがいという報酬を得てドーパミンを放出し、それを糧として活性化することができます。やる気や学習効果を上げるには、ドーパミンが出るように工夫することが大切です。その方法の一つに小刻みな目標の設定というのがあります。
 比較的達成しやすい小さな目標をいくつも設定し、達成するごとにドーパミンが脳を駆け巡り、モチベーションを高めて行きます。
 いつもやる気満々の状態で次の目標に向かっていくことができます。いわば、脳をほめてやる気を引き出すのです。
「左脳と右脳」左右の脳が刺激し合って能力アップ
  全体で球のような形をしている大脳は、左右の半球に分かれています。脳半球の左側を左脳、右側を右脳といいます。
 左脳は「言語脳」ともいわれ、身体の右半分の運動や知覚をはじめ、言葉や会話、知識、計算や声、音を感知し論理的な思考などをつかさどります。
 右脳は「イメージ脳」ともいわれ、身体の左半分の運動や知覚をはじめ、イメージ、図形、空間の把握や音楽、表情を読み取り、視覚的な感覚、直感などをつかさどります。
 直感的なひらめき、将棋やサッカー、野球などの天才的なプレーや、芸術的な才能などは右脳の働きによります。
 ひらめきや天才的な才能は、左脳に蓄積された知識や経験から、右脳が必要とする情報を瞬間的に引き出して処理することで初めて可能となります。
 脳の働きは右脳と左脳が頻繁に交流し、刺激し合ってより活性化します。年を取るにつれて左脳だけを酷使して右脳を使わなくなると、頭の老化が進むとも言われています。

「日、米、欧で脳マップ作成」脳の機能を解明する大型プロジェクト
 脳の研究はまだまだ未知のことが多く、脳のしくみや機能を科学的に解明する脳科学は、21世紀の巨大プロジェクトの一つで、「人類最後のフロンティア」ともいわれています。
 脳科学の研究は、脳の老化防止、うつ病などの心の病気、アルツハイマー病をはじめとした脳神経系の病気の克服や、脳の原理を生かした人工知能の開発など、医学や技術の画期的な発展につながると期待されています。
 昨年から文部科学省では、ヒトの全遺伝子情報(ゲノム)の解読に続く大型プロジェクトとして、ヒトの脳の働きと場所を示す詳細な「脳の地図」作成の研究計画をスタートさせました。
 5年後に大まかな地図を作成して、うつ病などヒトの脳の病気と関わりそうな神経回路の位置などを地図上で示します。10年後には脳の重要な部分の詳しい地図を作って、脳の診断や治療法の開発に役立てる計画です。
 アメリカではオバマ大統領が、昨年からヒトの脳機能の解明に迫る「ブレインイニシアティブ計画」をスタートさせました。EUでも昨年、脳の詳細なシミュレーションモデルを作る「ヒューマン・ブレイン・プロジェクト」が発足し、日本の理化学研究所などが参画しています。
 いずれも約10年をかけて、脳が膨大な情報をどこでどのように記憶、処理、検索しているかを解明する脳マップの作成を目指しています。
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