深刻化する看護師不足【医療】

深刻化する看護師不足


【高い離職率が最大の要因】
 高齢化社会に入り、医療従事者への期待は高まるばかりです。しかし、以前から医療分野で医師とともに大きな役割を占めてきた看護師が不足し続けています。歯科医師はすでに飽和状態に達し、薬剤師も近い将来には過剰時代になると予想される中、なぜ看護師がこれほど不足しているのでしょうか。

深刻化する看護師不足 - 看護師不足は戦後すぐから -
 現在の看護師の基礎を築いたのは、イギリスのフローレンス・ナイチンゲールです。1854年のクリミア戦争では、野戦病院で精力的に兵士の看護にあたったことでよく知られています。帰国後はロンドンの聖トマス病院に看護学校を設立するなど、近代看護教育の生みの親とも呼ばれています。
 日本では、明治政府が西洋医学を導入するまで病院という施設が存在しなかったため、看護を担う専門家としての職業看護師は存在しませんでした。
 日本で看護師という職業が確立したのは、1948年の「保健師助産師看護師法」の制定以降のことです。1950年に第1回看護師国家試験が行われ、翌1951年には看護師を補佐するための準看護師制度が制定されました。このように、戦後間もない頃から看護師は不足していたのです。
深刻化する看護師不足 - 看護師不足の現状 -
 毎年2月に行われる看護師の国家試験で、毎年約5万人が合格し、その多くが医療現場で働いているにも関わらず、看護師不足が指摘され社会問題化しています。
 実際に看護師はどのくらい不足しているのでしょう。厚生労働者がまとめた看護師の需給見通しでは、2011年は5万6,000人、2012年は5万1,500人、2013年は4万2,400人、2014年は2万9,500人不足し、来年は1万4,900人不足すると予測しています。そして、2025年には最大約20万人が不足すると推定されています。
 その大きな要因は、看護師の過酷な労働環境と厳しくなる病院経営に起因しているとみられています。
深刻化する看護師不足 - ハードな仕事が高い離職率の原因に -
 日本看護協会の調査では、2011年の看護師の離職率は常勤で10.9%、新卒で7.5%となっています。 離職率が高い原因は、看護師の仕事は「きつい、汚い、危険」の3Kといわれるように、仕事がハードであることが挙げられます。看護師の仕事は、定期的に回ってくる夜勤、シフト制による不規則な生活、看護師不足による激務、長時間労働などが重なります。さらに女性が多い職場なので、結婚や出産・育児などの問題、また家族の健康問題などで現場を離れる看護師が後を絶ちません。こうした結果、看護師が疲れきって辞めるという悪循環が高い離職率を生み出しているのです。
 現在、看護師として働いている人は全国で約150万人いますが、看護師の国家資格を持ちながら働いていない看護師は約60万人もいると推定されています。看護師不足を解消するには、潜在看護師に復職してもらうのが一番の近道ですが、看護師を辞める原因となった労働環境や待遇を改善しなければ潜在看護師の復職は難しいようです。
深刻化する看護師不足 - 診療報酬の改訂も看護師不足に拍車? -
 もう一つの理由として、質の高い医療をめざして2006年に診療報酬の改訂が行われたことです。これは「7対1の看護基準」というもので、患者さん7人に対して看護師1人を配置する医療機関は、より多くの報酬を貰えるというものです。
 例えば、患者さん一人が1日入院した場合、「7対1」の病院で得られる入院基本料は15,550円なのに対し、看護師の少ない「15対1」の病院では9,340円で、その差は6,210円もあります。このため、各病院とも経営を安定させるために看護師の確保に取り組みます。この結果、もともと看護師が不足していたにもかかわらず、2006年以降はさらに看護師不足に拍車をかけることになったのです。
 看護師の採用では、大学病院や有名病院、看護師に優しい勤務形態や福利厚生、最新の医療機器などを備えている病院が有利になりました。一方、経営基盤の弱い中小病院などは看護師の採用が思うに任せず、深刻な看護師不足に陥ることになりました。

- 注目を集める男性看護師 -
 女性の職場とされてきた看護現場に、男性看護師の増加が目立っています。厚生労働省の調べでは、2010年の男性看護師数は5万3814人で、10年前の2万2189人に比べて2.4倍も増加しています。
 男性看護師は絶対数が少なく、しかも一般病棟ではなくICUや透析室などへの配置が多いため、これまであまり目立った存在ではありませんでした。男性看護師が目立ち始めたのは、1985年に成立した「男女雇用機会均等法」以降のことです。そして、最近の医療技術の高度化に伴う4年制の看護大学や看護学部の新増設、雇用情勢の悪化、医療への関心の高まりなどが影響して看護師をめざす男性が増え続けています。しかし、男性看護師は看護師全体の約6%に止まっているのが現状です。
 男性看護師は女性では困難な力仕事や複雑な機械操作、さらに夜勤や長時間勤務といった過酷な仕事にも順応しやすく、その存在感は今後さらに増していくものと期待されています。

- 看護師不足を解消するために -
 看護師不足は、大都市部の中小規模の病院で目立っています。反面、短時間雇用制度や新卒看護師の教育制度が整う病院では離職率が少なくなっています。このため、国は2010年からは新卒看護師の早期離職を防止するために、職業人としての基本姿勢や態度、また基本技術を確実に習得できるように臨床研修制度を導入しています。
 また、国や地方自治体・医療機関が中心になって、潜在看護師の復職を支援するために看護スキルの実践を取り入れた復職支援の講習会や、研修会を開催するなど官民挙げての対策がなされています。
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