急がれる公務員制度改革【社会】

急がれる公務員制度改革


 参議院選挙が終わりましたが、各党は選挙戦を通じて明日の日本の在り方を訴えてきました。なかでも、逼迫する財政再建の一つの手段として「消費税」の引き上げなどが大きな争点になりました。そうした中、日本の「公務員制度」、とりわけ「官僚制度」の在り方も大きな関心を集め、激しい論争が繰り広げられました。
 巨大な国家組織を運営するため、官僚と呼ばれる国家公務員は必要不可欠な存在です。「官僚制度」は明治時代にスタートし、今日まで国家の運営にあたってきました。この「官僚制度」に、いま何が起こっているのでしょうか?

急がれる公務員制度改革 - 官僚制度がスタートしたのは明治時代 -
 近代国家をめざした明治政府は、1888(明治21)年にドイツの公務員試験を参考に、研修制度と採用制度を併せ持った試補制度をスタートさせました。当時の帝国大学は、国家という巨大組織を運営する人材育成を目的に開設されていたため、無試験で採用されました。しかし、各方面から批判の声が寄せられ、1894年に高等文官試験と呼ばれる現在の国家公務員Ⅰ種試験に似た試験が行われるようになりました。合格者は高等官と呼ばれ、現在のキャリア官僚以上のスピードで昇進して行きました。
 第二次大戦後、GHQの意向を受けて公務員制度の改革が行われ、高等文官試験は国家公務員Ⅰ種試験と名称を変えました。しかし、名称が変わったものの内容に大幅な変化はなく、採用制度や昇進制度などはそのまま引き継がれることになりました。

- 「官僚」と呼ばれる人はどんな人? -
 現在、「官僚」あるいは「官僚制度」といった言葉をよく目や耳にします。しかし、「官僚」という言葉についての明確な定義はなく、一般には中央省庁の中で一定以上の地位にある国家公務員のことをいいます。このため、地方公務員にはこうした呼び方はありません。
 国家公務員になるには、国家公務員採用試験に合格しなければなりません。この試験にはⅠ種試験、Ⅱ種及びⅢ種の試験があり、試験のレベルによって分けられています。なかでも、国家公務員Ⅰ種試験は司法試験などと並ぶ最難関の国家試験とされ、Ⅰ種試験に合格したか、Ⅱ種試験だったかで将来の登用、昇進のスピードが大きく異なります。
 このような制度をキャリアシステムと呼び、採用時にⅠ種試験に合格した幹部候補生は、キャリア官僚として一律に人事管理され、中央省庁の主要なポストをほぼ独占します。それ以外の職員はノンキャリアと呼び、どんなに優秀な人材であっても多くは課長補佐止まり、課長に昇進する人はごく一部に過ぎません。
急がれる公務員制度改革 - キャリア官僚の仕事と昇進レース -
 中央省庁にキャリア官僚として採用されると、物凄いスピードで昇進し、課長補佐か課長くらいまでは必ず横並びで昇進できます。ただ、法務関係など責任の重い仕事を担当することが多く、夜遅くまで仕事に打ち込み、時には徹夜も珍しくありません。
 課長に昇進以降、キャリア官僚のトップである事務次官をめざして激しい競争を繰り広げます。事務次官になれるのは、同じ年次に採用されたキャリア官僚の中でただ一人。しかも数年在籍しますので、事務次官をめざすレースは熾烈を極めます。事務次官にとって、自分より年次の上の人や、同期の人がいると仕事がやりづらく途中で間引いていきます。この結果、官僚組織というピラミッドが出来上がります。
 出世レースから脱落したキャリア官僚は、地方公共団体や外郭団体などに幹部職員として出向したり、民間企業への就職、中には政治家に転職する人もいます。このように、途中で転職する人たちに、十分なケアがなされているのが官僚制度の特徴です。
 これが日本の中央省庁の人事制度・官僚制度の仕組みで、長い歴史を背景に築きあげられた制度であるため、簡単に打ち破れないのが現実の姿です。

- 問題視される「天下り」「渡り」の仕組み -
 昇進レースの過程で後れを取り、退官するキャリア官僚に対して、所属した省庁は手厚いケアを行い、再就職の道が開かれてます。
 関連団体や企業に、好条件で受け入れるように働きかけ、関連団体や企業は省庁からの意向を受けて退官するキャリア官僚を受け入れます。こうした関係を「天下り」といいます。「天下り」は、官僚制度と表裏一体の関係にあるといっても過言ではないでしょう。問題は、好条件で受け入れる関連団体や企業が、見返りを期待することなく無条件で受け入れることは考えにくいという事です。
 さらに、退官するキャリア官僚は毎年のように続くということです。すでに天下った旧キャリア官僚は、自分が天下ったポストを新しい人に回し、新たに以前自分が所属した省庁が用意した次の天下り先に移ります。これを「渡り」と呼ばれています。
 多い人は数年で天下り先を変わり、その都度、莫大な退職金を受け取っていることが報告されています。

- 官・民の癒着体質を助長する「天下り」 -
 「天下り」や「渡り」によって、監督官庁と監督される企業との間で癒着が起こり、時には贈収賄といった社会問題にまで発展することがあります。天下りを送り込んだ省庁は、高額な人件費を必要とする受け入れた企業に、国の仕事を優先的に発注します。契約主体の省庁が、始めから相手先を決め、話し合って契約するもので随意契約といいます。各企業が知恵を絞って安価で入札する競争入札制度に比べて、随意契約では高い金額で発注することがよくあります。
 国民の貴重な税金を天下り先が儲かるように無駄遣いし、その儲け分で天下りを受け入れさせようという事があってはなりません。

- 制度としての官僚制度の問題点 -
 現代の国家は、巨大な官僚制度によって構築され、諸問題の発見、政策の立案、実行など国の重要な仕事を行なっています。整備された官僚制度と、専門的知識や技術を持つ官僚は、近代国家には不可欠な存在になっています。反面、官僚組織が巨大化し、力を持てば持つほど、政治によるコントロールが困難になるという皮肉な側面も持っています。
 本来、国家のグランドデザインを描くのは国会議員の仕事であり、それを実現させるため法律の整備や新しい法律を作っていきます。こうした非常に責任の重い仕事を担うため、国会議員は選挙によって選ばれています。仕事内容について次の選挙で国民の審判を仰ぐという厳しい立場で仕事をしなければなりません。官僚の仕事は、国会議員が描いたグランドデザインに基づいて具体化することです。
 ところが、日本では以前から官僚がグランドデザインを描き、政治家がそれを追従するような形で推移してきました。こうした流れの中で、官僚組織は肥大化し、強固になってさまざまな問題を引き起こしています。今後、どのように推移していくのかを見守り続けていきたいと思います。
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