変わる高校の英語教育 オールイングリッシュを目指して【社会】

変わる高校の英語教育 オールイングリッシュを目指して


 2009年12月22日に文部科学省が新しく定めた高等学校学習指導要領案が、今年4月から施行され、高等学校の英語の授業は英語で行うことが基本となりました。いま、日本の英語教育が大きく変わろうとしています。この英語教育への新たな試みは、日本の将来にどのように実を結んでいくのでしょうか。

変わる高校の英語教育 オールイングリッシュを目指して - 時代のグローバル化を受け高まる英語力の重要性 -
 近年の社会のグローバル化にともない、ファーストリテイリングや楽天などの企業に見られるように、英語を社内の公用語としたり、海外進出に向けて英語教育に力を入れたりと「英語力」を重視する日本企業が増えています。こうした中、高等学校の英語の授業も、グローバル化に対応できる人材の育成に向けて舵を切りました。
 今年4月から、新1年生の英語について「英語の授業は英語で行うことを基本とする」ルールが適用され、新しい教科書からは日本語の記述が大幅に減少しました。授業内容はスピーチやディベートなどを通してコミュニケーション能力を向上させるスタイルへと変化しています。
 さらに、高等学校3年間を通して学ぶ英単語は1300語から1800語へと増加しています。

- 「覚える」英語から「使って覚える」英語へ -
 文部科学省が定めた新しい指導要領と従来の指導要領とを比べてみると、新指導要領では「積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図る」という点が重視されています。
 日本人はこれまで、中学・高校を通して6年間英語を学んでいるのにも関わらず、英語ができないと言われ続けてきました。これに関して、アメリカの国務省が「英語から最も遠い言語が日本語である」という調査結果を出しているように、日本語と英語とは語順や発音の違いが大きく、単純に難易度が高い言語であることなどが理由とされています。
 もう一つ特徴的なのが、日本の英語教育は、単語や文法などを重視した「知識伝達型」であるということです。実社会で会話や文書で英語を使うためには、文法など言語の構造知識が欠かせないといわれるものの、先生が生徒に対して一方的な解説を行うだけでは、実践的な英語が身につきにくいことも事実です。
 このため、政府はこれまでの「覚える」英語から、「使って覚える」英語へと方向転換することで、英語教育の活性化を図ろうと考えました。とりわけ、初等中等教育レベルの仕上げ段階に位置する高等学校では、コミュニケーション能力をしっかり養うことによって、国際的に活躍できる人材の育成につなげる狙いがあるようです。

- コミュニケーション能力とは「英会話を話せる」ことではない -
 コミュニケーション能力を育成するとは、いわゆる〝英会話〟だけを学校で学ぶことではありません。文部科学省が目的とするコミュニケーション能力の育成とは、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4技能を総合的に育てることであり、これが今回の大きな改善の方針となっています。
 この総合的というのもポイントの一つで、「聞く」と「話す」や「読む」「書く」「話す」などの2つ以上の技能を絡め、受信から発信へと繋がる言語活動を行うことが大切だとされています。

- 独自の教材作成など創意工夫で英語をより身近に -
 現在、各高等学校では〝オールイングリッシュ〟の授業の実施に向けて、地域ごとでさまざまな取り組みが行われています。
 福井県教育委員会では、語学番組などを制作する会社と協力して独自の教材を作製し、今年度から全県立高等学校の1年生にテキストとDVDを配布しました。教材では地元の特産物のような生徒たちにとって身近なものを題材に使用するなど、興味を惹く工夫が凝らされています。福井の特産物や観光地など、福井のことを生徒が英語で発信し、アピールできればということです。
 また、大阪府教育委員会では、今年4月に英語教育改革プロジェクトチームを設置しました。小・中・高を通じた英語力の強化に取り組むため、今年9月頃から米国などで有名な発音の学習法「フォニックス」を活用した、独自の学習法を大阪市で導入する予定です。
変わる高校の英語教育 オールイングリッシュを目指して - 既に小学校では英語力の強化に向けた取り組みを開始 -
 高等学校に先駆けて、小学校では2011年度から、中学校では2012年度から新しい学習指導要領が全面的に実施されています。小学校高学年では、週一回の「外国語活動」が必修となりました。中学校での本格的な英語教育が始まる前に英語でコミュニケーションを取れるようにしようという狙いがあるようです。
 大阪市では本年度から3年間の教育目標を定めた「市教育振興基本計画案」で、小学校1年生から英語教育を行うことを明らかにしました。小学校卒業時に英検3級、中学卒業時には英検準1級程度の英語力をめざします。
 さらに現在、未就学児や小学校低学年への英語教育の関心も高まっています。公益財団法人「日本英語検定協会」によると、英検の総志願者数は少子化の影響などで減少傾向にある一方、未就学児や小学生の受検者はここ10年間でおよそ倍の志願者数を記録しているようです。

- 小中高大の連携を考えた段階的な学習が必要 -
 近年、大学でも留学プログラムの充実を図るなど、国際的に活躍できるグローバル人材の育成に向けた取り組みが盛んです。
 京都大学では、本年度より国立大初の試みとして、5年間のうちに欧米などの外国人教員を約100人に増やし、主に1、2年生が学ぶ教養科目の講義の半分を英語で行うことになりました。京都大学は、2008年に福田元首相が提唱した「留学生30万人計画」にもとづき、国際化拠点整備事業(グローバル30)に採択された13大学の一つです。
 しかし、グローバル化に向けて刻々と教育方針が変化する中で、大学入試はどのように対応していくのでしょうか。小・中・高・大のそれぞれの連携を考えた段階的な学習と、英語教育の方針の一本化が待たれています。

【英語は日本人に必要か?】
- 英語教育の変革による「日本語で話す力」への影響は -
 世界に通用する人材の育成をめざして、コミュニケーション重視の英語教育改革が進められるなか、「日本語の力をつけるのが先ではないのか」という声も少なくありません。
 特に小学校では、英語の前に日本語で論理的に話せる会話力を身に付けるのが先ではないか、という声もよく耳にします。日本で暮らしていると実際に英語と接する機会が少ないため、英語でのコミュニケーション能力を育てるためには、基礎となる日本語でのコミュニケーション能力が大切だといえます。
 しかし、現代のような多文化社会を生きていくには、母国語以外の言語や文化に対する関心を育むことで視野を広げ、豊かな感性を育てることも必要だといえるでしょう。

- 「英語で英語の授業を行う」ことは目的ではなく通過点 -
 英語で英語の授業を行うことは、英語学習を活性化させるための通過点です。グローバル化が進む中で、実用的な英語力を身につけることは大切です。しかし、学校教育で行われる英語教育とはあくまで「教育」であって、「訓練」ではありません。学校での英語教育は、「英語の世界を開く扉」といえるでしょう。
 この上で、単なる知識の習得だけでなく、英語を通して自分で考え、判断し、発言し、行動する力を養うための取り組みを続けることが大切なのです。
【利用者増える「TOFEL」と「TOEIC」】
 TOFELとはTest of English as a Foreign Languageの略で、米国の非営利団体ETSが開発した英語が母語でない人の英語能力を判定する試験のことです。120点満点で「読む」「聴く」「話す」「書く」の4技能をはかり、内容については欧米の文化や社会への理解を前提とした問題なども多く、幅広い教養が必要とされます。約130カ国8500以上の大学などで留学生の入試の判定に使われているほか、最近では日本企業の採用試験でも用いられています。以前は筆記試験とリスニングでしたが、現在はコンピュータを使ってのiBTという方式が主流です。
 これに対してTOEIC(Test of English for International communication)は、国際コミュニケーション英語能力テストのことです。ビジネス英語のコミュニケーション能力を問うもので、主に企業が入社志望の学生や社員を評価する時に使われています。どちらも民間企業などではすでに、社員の語学力の向上を目的として、こうした英語試験を活用する動きが広がっています。
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