来年4月から消費税は10%に【社会】

来年4月から消費税は10%に


 来年4月から消費税が10%に引き上げられる予定です。食料品や新聞代は、消費者の負担を軽くするため、通常より低い税率の「軽減税率」を適用して現在の8%に据え置かれます。軽減税率は世界各国で広く導入されていますが日本では初めてです。消費税増税と軽減税率を巡る問題を探ってみました。

来年4月から消費税は10%に 消費税は代表的な間接税
 消費税はモノを購入したり、サービスを受けた際の料金にかかる税金で、代表的な間接税です。税金を支払う人(消費者)と、税金を納める人(お店や事業者)が異なる場合の税金が間接税で、酒税やたばこ税、揮発油税(ガソリン税)などがあります。
 これに対して、個人や会社が直接税務署に納める税金を直接税といいます。所得税や法人税、住民税などがそうです。
 消費税は世界のほとんどの国で実施され、日本では1989年(平成元年)4月に初めて導入されました。最初は3%でしたが、9年後の1997年4月から5%となり、2年前の2014年4月から現在の8%に引き上げられました。そして2017年4月から10%に引き上げられる予定です。
来年4月から消費税は10%に 税収のトップ(17.8%)を占める消費税
 矢継ぎ早やともいえる消費税増税ですが、厳しさを増す国の財政を補てんする窮余の一策といえます。ところで現在8%の消費税は国の歳入(収入)全体に占める割合はどの程度でしょうか。
 国の財政規模は96兆3420億円(2015年度一般会計当初予算)ですが、それをまかなう歳入(収入)の38.3%が国債を発行して得た公債金といわれる民間からの借金です。歳入の不足分を補うために発行する国債を「赤字国債」と呼び、こうした財政状態を「赤字財政」といいます。
 本来、国の財政のすべてをまかなうべき税収は約54兆5250億円で、歳入全体の56.6%にとどまっています。(他に国有財産売却が5.1%)
 そして税収のトップ(17.8%)を占めるのが消費税で、次いで所得税(17.1%)、法人税(11.4%)、揮発油税(2.6%)などと続きます。
来年4月から消費税は10%に 財政支出の約4分の1は借金返済
 一方の歳出(支出)のトップは社会保障関係費の31兆5297億円で、全体の32.7%を占めています。次いで多いのが国債の利払いや償還(返済)に充てる国債費の23兆4507億円で24.3%を占めます。
 国の歳出全体に占める国債費の比率は、1975年は5%に過ぎませんでしたが、今では4分の1近くにも膨れ上がりました。つまり国の財政支出の約4分の1が借金返済で占められているのです。
 そして近年高齢化の進展と共に、年金や医療費、介護費などの社会保障費は毎年1兆円規模で膨らんでいます。景気が良くなって法人税や所得税が増えない限り、国の財政をますます圧迫していきます。政府は来年4月から予定している消費税の増税分は、すべて増大する社会保障費に充てるとしています。

新聞や学校給食にも軽減税率
 来年4月に消費税増税と同時に導入される軽減税率は、酒類と外食を除く飲食料品と新聞に適用され、消費税は8%に据え置かれます。学校給食や老人ホームの食事なども、外食の定義から除いて軽減税率が適用されます。
 軽減税率は消費税増税に伴って低所得者層の「痛税感」をやわらげるために導入するもので、日本では最も生活に身近な食料品を対象としています。
 欧米では日本の消費税に当たる付加価値税の一般的な税率(標準税率)は、10%台後半から20%を超える国が多く、日本よりはるかに高い水準にあります。ところが食料品を例にした軽減税率では、イギリス(標準税率20%)やアイルランド(同23%)ではゼロ、フランス(同20%)は5.5%、ドイツ(同19%)は7%となっています。
 欧州以外でもオーストラリア(同10%)やカナダ(同5%)、メキシコ(同16%)では食料品の消費税はゼロで、庶民の生活に最も密接な食料品の税負担を少なくしています。

軽減税額の恩恵が大きい高所得者
 消費税は国民一人ひとりが所得に関係なく、消費するモノに対して一律に課税されるため、所得が少ない人ほど税負担が重くなるという「逆進性」が避けられません。そこで少しでも税負担をやわらげようというのが軽減税率です。
 低所得層ほど家計の支出の中で食料品の占める割合(エンゲル係数)が高くなるので、日本ではまず食料品を対象に軽減税率を設けました。ところがエンゲル係数は、あくまでも支出に占める食料品の「割合」を示すもので、絶対額でいえば高所得世帯の方が多く消費します。
 財務省の試算によると、軽減税率を実施した場合年収200万円未満の世帯で1年間の軽減額は8372円です。しかし、年収1500万円以上の世帯の軽減額は倍以上の1万7762円となります。軽減税率は高所得世帯ほど金額的に恩恵が多く、格差の緩和にはなりません。

軽減税率で煩雑になる経理事務
 軽減税率の導入によって消費税は10%と8%の2種類になり、消費税を納める事業者は複数の税率を扱うため経理作業が煩雑となります。
 現在の消費税は一律8%で、請求書には「食料品」「衣料品」「文房具」などの項目ごとに税込の売上総額が記入されています。これを「請求書等保存方式」といいます。
 ところが消費税が2段構えとなると、異なる税率の商品を区別して記入しないと正確な経理ができません。
 経理方式が急に変わって事業者が混乱しないように、軽減税率の導入から4年間は、従来の請求書に税率が8%の商品にはしるしをつけて処理するようにします。これを「簡易な経理方式」といいます。2021年4月からは、項目ごとに税率や税額、事業者番号の明記が義務付けられます。こうした請求書をインボイス(税額票)と呼び、インボイスを用いる経理を「適格請求書等保存方式」と呼びます。

中小・零細業者を対象に事務簡素化
 お店や事業者が税務署に納める消費税の額は、モノを販売する時に消費者から受け取った消費税額から、モノを仕入れた時に支払った消費税額を差し引いて確定します。これを「仕入税額控除制度」といいます。
 個人や会社が直接納める所得税や住民税などに比べ、間接税の消費税は経理事務が煩雑なため、中小や零細事業者には経理処理の優遇措置があります。年間の売り上げが5000万円以下の場合、業種ごとに国が定めた「見なし仕入れ率」を売上総額に掛け算して仕入れ時の税額を推計する仕組みです。現在この仕組みによって経理作業が大幅に簡素化されています。
 消費税が2段構えとなる来年4月から、税率10%と8%のそれぞれの商品について、連続10日の営業日の販売データに基づいて1年間に受け取る消費税額を推計する「みなし特例」が導入されます。これで経理の手間が大幅に省けますが、半面納税額が実態とかけ離れて本来より少なくなる可能性があります。その差額分は「益税」といって事業者の利益となります。

軽減税率で減税分の穴埋めは?
 軽減税率の導入で、税収は当初の目算より年間約1兆円少なくなるといわれます。政府はこのうち4000億円の確保はめどが付いたとしていますが、残りの6000億円の穴埋めが課題となっています。景気が好転して所得税や法人税が大幅に増収し、財政が健全化すれば理想的ですが、現実にはかなり厳しいものがあります。
 安倍政権は将来に付けを回すことになる赤字国債に頼らず、「安定的な恒久財源」を新たに見出して税収減の穴埋めをすると表明しています。その一案としてたばこ税の増税などが検討されています。
来年4月から消費税は10%に 「消費税の歩み」消費税は歴代政治家の「鬼門」
 日本で消費税導入が本格的に動き出したのは大平正芳内閣の時です。1979年1月に閣議決定しましたが、10月の総選挙中に導入を断念し、その総選挙も大幅に議席を減らして敗北しました。以降、政治家にとって消費税を口にすることは「鬼門」とされるようになりました。
 約10年後、中曽根康弘内閣が1987年2月に「売上税」法案を国会に提出しました。これに対し、全国で猛烈な反対運動が巻き起こり、この年春の統一地方選挙で敗北して5月に廃案となりました。
 最初の消費税(3%)は1989年4月から竹下登内閣で実施されました。しかし、その直後にリクルート事件が表面化し、竹下首相は退陣に追い込まれました。その後、バブル崩壊後の景気低迷で税収が減り、財政立て直しのため1997年4月に橋本龍太郎内閣が消費税を5%に引き上げました。
 2008年9月、「消費税は4年間上げない」と公約した民主党が総選挙で勝利して政権交代が実現しました。しかし、同じ民主党の菅直人内閣が参院選直前の2010年6月に消費税10%を訴えて選挙で大敗しました。その後2012年6月に野田佳彦内閣が消費税を14年に8%、15年に10%に引き上げる法案を提出して可決成立しましたが、その年の衆議院選挙で惨敗し、自民党が政権を奪還して安倍晋三内閣が成立しました。
 安倍内閣は野田政権の政策を受け継いで14年4月に消費税を8%に引き上げ、15年秋に予定していた消費税10%を1年半先延ばしして17年4月から実施することにしました。今年7月の参議院選挙が大いに注目されます。
来年4月から消費税は10%に 「世界の軽減税率」食料品、医療費、光熱費などは低い
 1954年に世界で初めて消費税(付加価値税)を導入して「消費税の国」と呼ばれるフランスの消費税(標準税率)は20%です。軽減税率の適用で食品や図書、水道・ガス・電気料金などは5.5%、医薬品や新聞・雑誌は2.1%と低くなっています。医療費や金融・保険、不動産売買などは無税です。
 イギリスも標準税率は20%ですが、電気料金や家庭用燃料費は7%、食料品や水道料金、医薬品、新聞・雑誌などは無税です。また標準税率22%のイタリアでは、食料品や新聞などは4%と低く設定され、医薬品は10%となっています。消費税の標準税率が5%と低いカナダでは、主要な食料品や医薬品、医療機器は無税です。
 欧州などに比べて日本の消費税は低いと思われがちですが、社会保障制度が基本的に異なるので、数字だけで国民の税負担を容易に比較できません。
 例えば欧州の教育費は日本に比べて非常に安く、イギリスやドイツ、フランス、スウェーデンなどでは高校終了まで授業料や学用品、給食費など一切の教育費は無料です。北欧諸国の多くは大学も無料となっています。イギリスやフランス、デンマーク、カナダなどは医療費が無料です。
 日本は社会保障の財源として消費税が位置づけられていますが、改めて「税と社会保障」の問題を考えて見ましょう。
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