「中央省庁の地方移転」で地方創生【社会】

「中央省庁の地方移転」で地方創生


【人口減を食い止め、地方の活性化をめざす】
 日本は2008年から人口減少が始まり、今後、加速度的に進むと予測されています。なかでも地方の人口減はハイペースで進み、人口減少による消費・経済力の低下によって日本の社会に深刻な影響を及ぼすと懸念されています。このため、政府は東京一極集中を是正し、地方を活性化させて人口の減少を食い止めるさまざまな政策を打ち出しています。その一環として、中央省庁の地方移転が計画され、すでに実施に向けて動き始めています。中央省庁の地方移転に伴う諸問題について考えてみました。

「中央省庁の地方移転」で地方創生 - 消滅可能性都市が出現する? -
 増田寛也元総務大臣を座長とする「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会は2014年5月、2010年の国勢調査をもとに試算した結果、2040年までに全国約1800市町村の49.8%の自治体が消滅する可能性があると発表しました。そして、20~39歳の女性人口が半減する自治体を「消滅可能性都市」とし、具体的な市町村名も公表したため、該当する自治体に大きな衝撃を与えました。
 これを受け、政府は2015年を初年度とする今後5か年の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をまとめました。総合戦略では、人口減少時代が到来したという基本的認識に立ち、このまま東京一極集中が続けば、日本の人口減少が止まらず、地方は疲弊して国全体の活力が低下してしまうと結論付けています。このため、2020年までに東京一極集中を是正し、若い世代の就労・結婚・子育ての実現、地域への新しい人の流れの促進など、諸施策の実現を目指しています。

- 東京圏から地方への転出入の均衡 -
 政府は東京一極集中を是正するため、東京圏から地方への転出を4万人増加させ、地方からの転入を6万人減少させて東京圏と地方との転出入の均衡を目指します。具体的には地方移住の斡旋や希望者への支援強化、民間企業の本社移転や一部機能移転による雇用の促進、地方大学の活性化による自県大学への進学者増や、県内就職者の増加などといった政策を掲げています。
 今回の中央省庁の地方移転は、こうした政策の延長上にあります。石破地方創生大臣は、「民間に本社移転などをお願いしている以上、国も自ら動かないことには説得力がない」として、国が率先して東京にある中央省庁や首都圏にある研究機関などの地方への移転を進める姿勢を示しています。中央省庁や関連機関が移転することで、そこで働く人はもとより関係する企業や団体などが地方に移り、地方が活性化すると期待されています。
「中央省庁の地方移転」で地方創生 - 42の都道府県がラブコール -
 政府は昨年3月、首都圏の東京・神奈川・埼玉・千葉を除く43の道府県に、誘致したい中央省庁や関係機関を募集しました。募集締め切りの昨年8月末までに、鹿児島を除く42道府県から69機関の誘致の要望が寄せられました。
 政府は「移転が地域活性化につながるのか」、「国の機関として機能を維持出来るか」などを検討し、昨年末に検討対象機関を約半分の34機関に絞り込みました。移転検討対象に残った34機関の内訳は、消費者庁や観光庁など7つの中央省庁と国民生活センター、国立文化財機構、統計センターなど6つの関連機関。さらに研究機関・研修機関では、理化学研究所、宇宙航空研究開発機構、国立がん研究センターなど21機関となっています。
「中央省庁の地方移転」で地方創生 - 全面移転に根強い慎重論 -
 候補に挙がった7つの中央省庁では、首都圏で培われた人材やネットワークなどが地方でも可能なのか? また、他省庁との連携や国会対応に支障がでるなどの理由で、移転には慎重論が出ています。これに加えて、移転費用や職員の生活環境の変化などの問題も指摘されています。
 研修機関・研究機関では、組織全体の移転を検討しているのは国立健康・栄養研究所だけで、他の機関は組織の一部を地方に移転する計画です。一部を移転することで、地方に連携拠点の設置、研究者の地方大学併任、地元企業との共同研究などを行い、地域活性化に貢献しようというものです。
「中央省庁の地方移転」で地方創生 - 文化庁が数年以内に京都に移転 -
 こうした経緯を経て今年3月、中央省庁の移転計画の基本方針がまとまりました。
 京都府が誘致を提案した文化庁は、外交や国会対応部門などを除き、数年以内に京都府へ全面移転されます。徳島県が誘致を目指して「テスト移転」を行った消費者庁と、和歌山県が誘致を働きかけている総務省統計局は、さらにICTの活用の実証実験などを行った上で8月末までに結論を出すことになりました。
 大阪府と長野県が提案した特許庁は、関係機関の工業所有権情報・研修館の拠点を近畿地方に整備します。また、大阪府は中小企業庁も誘致しましたが、中小企業の問題は全国的な視野が求められるとして見送られました。北海道と兵庫県が提案した観光庁は、外国人観光客誘致の司令機能が重視されて対象から外されました。三重県が誘致をめざした気象庁は、大規模災害時の危機管理という点で東京が不可欠と判断されました。
 研究機関・研修機関では、国立健康・栄養研究所が大阪府に移転されることになり、酒類総合研究所はすでに広島県に移転されています。他の機関については、地元との連携強化による地域活性化策が盛り込まれています。
 現在、東京一極集中の是正、地方創生の取り組みが始まったばかりです。今後、どのように推移していくか見守りたいと思います。
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