規制緩和は働き方をどう変えるか【社会】

規制緩和は働き方をどう変えるか


【垣根のなくなる未来の職場】
 理容師と美容師、保育士と幼稚園教諭は、仕事の内容はよく似ていますが、従事できる仕事の範囲が法律によってそれぞれ決められ、働き方や働く場所に制限が設けられてきました。しかし、近年の規制緩和で、こうした制限は緩和されてきており、働き方の自由度が増してきています。規制緩和がわたしたちの将来の働き方に及ぼす影響について調べてみました。

規制緩和は働き方をどう変えるか 【理容師と美容師】
- 理容は男性、美容は女性? -
 2013年の調査によると、20歳から34歳の男性の6割が美容室で髪を切っています。若い男性が美容室に行くことはごく当たり前のことになっていますが、2015年までは男性が美容室で髪を切ることは、厳密には法律に違反する行為でした。
 もともと日本では、理容師と美容師の業務は区別されていませんでした。しかし、1947年に理容師法が、1957年には美容師法が制定され、理容師の業務は「頭髪の刈込、顔そり等の方法により、容姿を整えること」、美容師の業務は「パーマネントウェーブ、結髪、化粧等の方法により、容姿を美しくすること」と決められました。
 1978年に厚生省環境衛生局長(当時)名で出された通達「理容師法及び美容師法の運用について」では、美容師が男性の髪を切るのは、パーマを同時に行う場合のみ許されると定め、美容師が行う業務を対象者=顧客の性別により規定しました。この通達により、男性が美容室で髪を切ることは、事実上の法律違反とされました。地域によっては、男性が美容室で髪を切っていないか、監督官庁による抜き打ち検査が行われることもありました。
 2015年、政府の規制改革会議による第3次答申は、「利用者が男性か女性かの性別に着目してサービス内容を定めている『理容師法及び美容師法の運用について』の通達を改め、性別による職務範囲の規制を撤廃」して、美容室での男性カットを法律のうえでも可能にしました。この改正は、すでに美容室で多くの男性カットが行われている現状を、法的に追認するものでした。
規制緩和は働き方をどう変えるか - 理容師と美容師はいっしょに働けない? -
 理容師は理容室でしか、また美容師は美容室でしか働いてはならないことが法律で明記されています。理容師が美容室で働くことも、美容師が理容室で働くことも法律違反になり、ひとつの店舗が理容室と美容室を兼ねることも許されていません。
 このような規制があるのは、理容師法と美容師法が、それぞれの業務範囲を細かく規定しているためです。たとえば、顔そりは理容師しか行うことができない業務です。厚生労働省は、美容師と理容師が同じ店舗で混在して働いたら、美容師が顔そりを行うなど「資格外の行為を助長する」ことになるとして、理容師と美容師が同じ店舗で働けるようにすることには、消極的立場をとり続けています。
 規制改革会議の第3次答申は、理容師と美容師の両方の資格を持つ人だけが経営する店舗に限って、理容師と美容師が同じ店舗で働くことを容認しました。しかし、理容師の資格しか持たない人と、美容師の資格しか持たない人が同じ店舗で働けるようにすることは、今後の検討課題としました。
 このため、現状では理容師の資格しか持たない人と、美容師の資格しか持たない人が共同で店舗を持とうとすれば、理容室の部分と美容室の部分を区別する仕切りを設けなければならず、理容室のメニューと美容室のメニューも完全に分ける必要があります。1000円カットの全国チェーン店は、理容師だけが働く店舗と、美容師だけが働く店舗に分かれて営業しています。
 将来的には、理容師と美容師の資格の一本化も考えられていますが、理美容の業界団体は「消費者に混乱を与える」と一本化に消極的立場をとっています。
規制緩和は働き方をどう変えるか 【幼稚園と保育所】
- 管轄が文部科学省と厚生労働省 -
 就学前の子どもがはじめて集団生活を行う場として重要な幼稚園・保育所には、5歳児の96%が通っています。しかし、幼稚園と保育所は、法律上はまったく性格の異なる施設です。学校教育法により設置される幼稚園は、文部科学省が管轄する学校教育施設と位置づけられ、児童福祉法によって設置される保育所は、厚生労働省が管轄する児童福祉施設と位置づけられています。
 幼稚園の目的は、「幼児を保育し、適当な環境を与えてその心身の発達を助長すること」(学校教育法第77条)にあり、小学校就学前の教育に重点をおいています。そのため、人気の高い幼稚園では、幼稚園独自の入園試験などを実施して、入園者を選ぶこともあります。
 保育所の目的は、「日々保護者の委託を受けて、保育に欠けるその乳児又は幼児を保育すること」(児童福祉法第39条)にあり、入所に際しては、保護者の仕事や病気などの理由で子どもが「保育に欠ける」実態を、事前に自治体に認定してもらう必要があります。
 幼稚園の先生は幼稚園教諭の免許が必要で、保育士は保育士の資格が必要です。幼稚園教諭の免許を取得するには、幼稚園教諭養成課程のある大学・短大・専門学校に進学し、所定の課程を修了しなければなりません。保育士資格を取得するためには、大学・短大・専門学校などの指定保育士養成施設に進学し、所定の課程を修了する方法と、毎年1回行われる保育士試験を受験して合格する方法があります。ただし保育士試験の合格率は10%~20%の間を推移し、簡単には合格できません。
 幼稚園教諭も保育士も、どちらも子どもの成長に携わる重要な仕事ですが、幼稚園教諭が保育所で働くことはできず、保育士が幼稚園で働くこともできその乳児又は幼児を保育すること」(児童福祉法第39条)にあり、入所に際しては、保護者の仕事や病気などの理由で子どもが「保育に欠ける」実態を、事前に自治体に認定してもらう必要があります。
 幼稚園の先生は幼稚園教諭の免許が必要で、保育士は保育士の資格が必要です。幼稚園教諭の免許を取得するには、幼稚園教諭養成課程のある大学・短大・専門学校に進学し、所定の課程を修了しなければなりません。保育士資格を取得するためには、大学・短大・専門学校などの指定保育士養成施設に進学し、所定の課程を修了する方法と、毎年1回行われる保育士試験を受験して合格する方法があります。ただし保育士試験の合格率は10%~20%の間を推移し、簡単には合格できません。
 幼稚園教諭も保育士も、どちらも子どもの成長に携わる重要な仕事ですが、幼稚園教諭が保育所で働くことはできず、保育士が幼稚園で働くこともできません。近年では、保育士としての実務経験を持つ人が幼稚園教諭の免許を取得したり、逆に幼稚園教諭としての実務経験を持つ人が保育士資格を取得したりする例が増えています。2010年の調査では、保育所に勤める保育士で幼稚園教諭免許を持つ人は76%、幼稚園に勤務する幼稚園教諭で保育士資格を持つ人は75%と、4人に3人が両方の資格を持っています。
規制緩和は働き方をどう変えるか - 幼保一元化へ -
 働く女性が増えるなかで、とくに都市部では「保活」という新しい言葉が生まれたように、保育所への入所は非常に難しくなってきています。保育所への入所の順番を待つ「待機児童」の数は毎年増え続けています。一方、短時間しか子どもを預けることができない幼稚園は、保護者のニーズと合わなくなってきているため、幼稚園の定員割れや廃園が相次いでいます。同じ地域でも、保育所は定員をオーバーしているのに、幼稚園によっては定員割れが続いているといった状態を見直す必要に迫られています。
 このため、政府は幼稚園と保育園の一元化=幼保一元化を実現して、幼稚園で保育所の待機児童の受け入れを行おうとしています。
規制緩和は働き方をどう変えるか - 認定こども園とは -
 政府が進める幼保一元化の目玉政策が、「認定こども園」という新しい施設の設置です。認定こども園を管轄しているのは、文部科学省でも厚生労働省でもなく、少子化対策をはじめとする内閣主導の重要政策の実行にあたる内閣府です。政府にとって認定こども園の設置は、少子化への対応を併せ持つ重要な政策であることがわかります。
 認定こども園の最大の特徴は、保護者の就労にかかわらず、就学前の子どもに対する保育・教育、そして保護者への子育て支援を包括的に行おうとする点にあります。認定こども園は、運営形態により、①幼保連携型、②幼稚園型、③保育所型、④地方裁量型の4つの種類にわけられます。それぞれの違いを表に示しました。
 幼保連携型認定こども園で働くためには、幼稚園教諭と保育士資格の両方を持つ保育教諭になる必要があります。政府は、幼保連携型認定こども園を増やすため、保育所や幼稚園での実務経験を評価して、もう一方の免許・資格取得に必要な単位数を軽減するという特例を設けて、保育教諭の数を増やそうとしています。
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