ハラスメント被害を考える【社会】

ハラスメント被害を考える


【ハラスメントとは?】
 連日のように、有名人によるセクハラ・パワハラ事件が報じられていますが、みなさんは他人事のように思っていませんか?「ハラスメント」=「嫌がらせ」は誰にでも起こりうる出来事です。被害者になったときどうしたらいいのか、どのようなことをすれば加害者になってしまうのか、身近なハラスメントの実態を調べてみました。

ハラスメント被害を考える - ハラスメントの定義 -
 ハラスメント(Harassment)とは、「悩ます、悩まされる、嫌がらせ」を意味する言葉で、現在では「嫌がらせ、いじめ」を総称する言葉になっています。
 他人に嫌な思いをさせようとする意図がある「いじめ」に対して、ハラスメントは、他人に対する発言や行動が本人の意図とは関係なく、相手に不快な気持ちや恐怖心を抱かせたり、自身の尊厳を傷つけられたと感じさせたりすることを指します。
 職場や学校など制限された人間関係のなかで、上司と部下、教師と児童・生徒のように、立場上の上下関係がある場合、ハラスメントが起こりやすくなります。

- さまざまなハラスメント -
 現在問題となっているハラスメントのうち、みなさんの身近でも起こりうるハラスメントの定義を示しておきます。

①セクシャル・ハラスメント(セクハラ):本人が意図する、しないにかかわらず、自らの立場の優位性を利用して、相手が不快に思い、自身の尊厳を傷つけられたと感じるような性的な発言や行動をすること。
②パワー・ハラスメント(パワハラ):同じ職場で働く人に対して、自らの立場の優位性を利用して業務の適正な範囲をこえた精神的・身体的苦痛を与えたり、職場環境を悪化させたりすること。
③モラル・ハラスメント(モラハラ):言葉や態度で他者に圧力をかけて、精神的・肉体的に傷を追わせて、職場環境や家庭生活を悪化させること。
④アカデミック・ハラスメント(アカハラ):大学などの研究機関で、教員などが自らの立場の優位性を利用して嫌がらせを行うこと。
⑤アルコール・ハラスメント(アルハラ):他人への飲酒の強要、一気飲みの強要、酔い潰し、酔ったうえで迷惑行為を行うこと。

 セクハラという言葉は、今から30年近く前の1989年の新語・流行語大賞に選ばれたように、決して新しい言葉ではありません。1985年に男女雇用機会均等法が制定されて、性別による採用差別や昇進差別が違法とされました。これを機に女性の社会進出が急激に進み、職場などでの女性に対する性的な発言や行動がセクハラにあたることが、広く社会に認知されていきました。
 しかし、セクハラは男性から女性への性的発言や行動だけに限定されるものではありません。女性から男性へ、同性から同性へ、LGBTやセクシャル・マイノリティへの発言・行為も、すべてセクハラであることに変わりありません。2017年にテレビのバラエティ番組にセクシャル・マイノリティの男性を揶揄する扮装をして出演した男性芸人に対しては、当事者から抗議の声があがりました。
 近年では、職場や学校、家庭内でのパワハラ・モラハラの訴えが増えています。厚生労働省による「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」の結果、3人に1人が職場でパワハラを受けていることがわかりました。また、夫から妻、妻から夫へのモラハラを理由とする離婚も増加しています。
 このようにハラスメントは、誰もが被害者あるいは加害者となる可能性のある、言葉や行動の暴力です。たとえ加害者の側に、被害者を傷つけるような意図がなかったとしても、加害者の言葉や行動によって被害者が不快感を抱いたなら、ハラスメントになるのです。

ハラスメント被害を考える 【スクール・ハラスメント】
- スクール・ハラスメントの問題化 -
 さまざまなハラスメントのなかでも、学校内で上下関係と結びついて行われるハラスメントが、スクール・ハラスメント(スクハラ)として問題になっています。スクハラのほとんどが、学校内で絶対的な存在である教師や部活動の指導者が、抵抗できない児童・生徒に一方的に行った性的な発言や行動(セクハラ)です。その被害の事例を紹介しておきます。


◎身体検査という名目で身体をむやみに触る
◎部活動中に「レギュラーになりたかったら裸になれ」と命令する
◎「AちゃんよりBちゃんの方がかわいい」などと容姿をけなす
◎男子児童に対して「男のくせにできないのか」と叱る
◎生徒にLINE交換を強要して、性的なメッセージを一方的に送りつける
◎一方的に生徒を叱り、生徒が泣き出すと急に抱きしめキスをする
◎生徒に性行為を強要する

- 被害は氷山の一角―隠蔽される被害 -
 2017年12月に文部科学省が発表した「わいせつ行為等に係る懲戒処分等の状況(教育職員)」によると、2016年度にわいせつ行為で処分を受けた人数は226人、そのうち懲戒免職処分となったのが129人と、いずれも過去最多となりました。被害者の半数近くが自校の児童・生徒で、処分の対象となった行為は、「体を触る」(89人)、「性交」(44人)、「盗撮・のぞき」(40人)などです。私立学校に関しては、実態調査すらなされていないのが現状です。
 しかし、このように被害が発覚する例は、あまり多くはありません。被害者の児童・生徒の多くは、性的な話題を大人に話すのは恥ずかしいと考えがちですし、加害者の教師から口止めを強要されていることもあります。また、これまで信頼してきた教師や指導者からセクハラ被害を受けたことに大きなショックを受けて、被害者となってしまった自分を逆に責めて、被害を訴えようとしなくなることもあります。とくに部活動で起きたスクハラ被害では、内申書の点数や選手の選出に響くと考えて抵抗できないまま被害にあい、泣き寝入りする例も多いようです。
 2018年4月には、私立高校の強豪部活を指導するボランティアの指導者が、男女の部員に対してセクハラを行い、女子部員がショックで休部・退部に追い込まれたという報道もありました。深刻な被害を受けた児童・生徒ほど、「親が悲しむから」と被害を訴え出ることができなくなっているとも言われています。
 スクハラのほとんどを占めるセクハラの被害を告発することには、大人であっても相当な勇気を必要とするうえ、被害を訴え出ることには大きなリスクが伴うのが現実です。2018年4月に官僚からのセクハラ被害を告発したテレビ局の女性記者に対しては、女性記者がセクハラを誘発したかのような発言をした政治家もいます。このように被害を訴え出たことで、加害者や関係のない他者から中傷を受ける「二次被害」は、被害者の心をさらに傷つけ、被害者を沈黙に追い込んでしまいます。とくにSNSなどで相次ぐ被害者への中傷は、相手の顔が見えないだけにエスカレートしがちです。
 スクハラにより自尊心を傷つけられた被害者のなかには、のちのちまで心の傷に苦しむ人もいます。心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症したり、過食症や拒食症になったりする深刻なケースもあり、大人になってから被害の記憶がよみがえって苦しむ被害者も多いのです。

- ハラスメントに遭ったらどうすればいい? -
 被害にあったら、まずは証拠の確保を最優先に行いましょう。スクハラ被害を手がける弁護士は、①親や友だちといった第三者に被害にあったことを伝えるLINEやメールを送り、記録として残すこと、②できる限り早く警察に「被害届」を提出することを勧めています。公立の学校で起きた被害であれば、弁護士が被害者に事実関係を確認して、所轄の教育委員会に被害を訴える内容証明郵便を送ることができます。
 信頼できる他の教師やスクールカウンセラーに話をすることも有効かもしれません。文部科学省は、未成年者専用の相談窓口として、「24時間子供SOS」ダイヤルを設置しています。また、民間のNPO法人「スクール・セクシュアル・ハラスメント防止全国ネットワーク」(SSHP)が、被害者からの相談を受け付けています。SSHPへの被害相談の20件に1件が、男子児童・生徒のセクハラ被害です。男性も、女性も、セクシャル・マイノリティも、誰もがセクハラの被害者になり得るのです。

【ひろがる「#MeToo運動」】

 2017年10月、アメリカの映画産業の中心地・ハリウッドの大物映画プロデューサーが、女優・関係者へ何十年にもわたってセクハラを行ってきた疑惑が報じられました。この報道をきっかけに、ハリウッドの有名女優たちが、自らが業界のなかで受けてきたセクハラ被害の実態を相次いで告発しました。その後、「もしセクハラや性暴力を受けたことがあるならMeToo(私も)とつぶやいて」というメッセージがツイッターに投稿され、「#MeToo」のハッシュタグでセクハラを告発する運動が生まれます。「#MeToo」は最初の1週間で180万回ツイートされ、著名人から一般人まで多くの女性がSNS上で被害を告発していきました。
 「#MeToo」運動のひろがりは、セクハラや性暴力などの被害が、個人間の問題ではなく、わたしたちの社会が共有すべき問題であることを社会に突きつけました。セクハラ疑惑を報じたアメリカのニューヨーク・タイムズ紙とニューヨーカー誌は、2018年4月に、アメリカの報道界最高の栄誉とされるピュリツァー賞を受賞しました。

ハラスメント被害を考える 【「女性活躍」と「セクハラ」ジェンダーギャップ指数とは?】
 政府は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(女性活躍推進法)を制定して、女性の社会進出を国家戦略として推し進めているのに、なぜ仕事の現場では女性へのセクハラが相次いでいるのでしょうか。2016年に厚生労働省が行った調査では、女性の正社員の35%が、職場でセクハラ被害にあっています。日本では、議員や総合職などの高い社会的地位につく女性が少ないために、とくにエリート社会のなかでセクハラ被害の実態が理解されにくいと指摘されています。
 国際機関「世界経済フォーラム」は、「ジェンダーギャップ(男女格差)指数」を発表しています。これは「経済活動への参加と機会」(経済参画)、「政治への参加と権限」(政治参画)、「教育の到達度」(教育)、「健康と生存率」(健康)の4分野で、男女平等の度合いを指数化して順位を決めるものです。指数が「1」に近づくほど平等で、「0」に近づくほど格差が開いていると評価されます。2017年の「ジェンダーギャップ指数」で、日本は調査対象の144か国中114位でした。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について