日本にキャッシュレス社会は訪れるか【社会】

日本にキャッシュレス社会は訪れるか


 【QRコード決済が牽引する新しい社会】
 世界では電子決済で代金を支払うキャッシュレス社会に移行していますが、日本では依然として現金で支払う現金決済が主流となっています。キャッシュレス化は、インバウンドの拡大や人手不足解消につながる有効なシステムです。日本政府は、2025年にキャッシュレス決済比率を、現在のおよそ倍の40%に引き上げることを目標に掲げ、積極的に推進しています。なかでも、新しい電子決済方法であるQRコード決済は、キャッシュレス化の起爆剤になると注目されています。

日本にキャッシュレス社会は訪れるか - 他国より遅れている日本のキャッシュレス -
 2015年の段階で、日本のキャッシュレス決済比率は18.4%でした。同年のアメリカのキャッシュレス決済比率は45%、中国は60%、韓国は89.1%であり、日本はこれらの国々の半分にも達していません。他国に比べて日本のキャッシュレス化が進まなかったのは、日本の治安の良さが関係しています。日本では現金を持ち歩いても窃盗等に遭うことがほとんどなく、偽札が出回ることもありません。さらに、ATMが襲撃されることがほとんどないため、全国いたるところにATMがあります。コンビニエンスストアには24時間利用できるATMが設置されています。気軽に現金を持ち歩ける環境が整っていることで、日本のキャッシュレス化はあまり進んでいません。
 この状況を受けて、2017年6月に内閣府は、27年までにキャッシュレス決済比率を40%にまで引き上げるという目標を掲げました。翌年4月には、経済産業省が策定した「キャッシュレス・ビジョン」のなかで、この目標の達成時期を大阪・関西万博が開催される2025年に早めることを明記しました。このように日本のキャッシュレス化は、国の積極的な後押しのもとに推進されています。
日本にキャッシュレス社会は訪れるか - キャッシュレスを推進する理由 -
 政府がキャッシュレス化を推進する理由として、訪日外国人旅行者が年々増えていることがあげられます。外国人旅行者にとって、現金しか使えない場所が多いのは非常に不便です。2020年に東京オリンピック、25年に大阪・関西万博が開催されることで、さらにインバウンドが増えることが予想されます。インバウンド向けビジネスの機会損失を未然に防ぐために、キャッシュレス化は必要不可欠だと考えられています。
 もう一つの理由は、日本の少子高齢化です。日本の労働人口は年々減少し、慢性的な人手不足に陥っています。少ない労働人口で生産性を向上させるために、人手のかからないキャッシュレス化が有効な手立てになると期待されています。
 これらに加え、現金決済のインフラを維持するためには、年間1.5兆円という莫大なコストがかかっています。全国にあるATMの維持管理、現金の輸送や保管、貨幣や紙幣の製造、銀行や小売店での窓口業務など、キャッシュレス化を推進することで、これらの作業や費用を削減できることも、政府や企業がキャッシュレス化に力を入れる理由です。
日本にキャッシュレス社会は訪れるか - 注目される新しい決済方法 -
 キャッシュレス決済の支払い方法には、前払い、即時払い、後払いの3通りがあります。決済方法についても3通りあり、プラスチックカードを専用端末に触れさせる接触型の決済、ICカードによる非接触型の決済、2017年頃から急激に増えてきているQRコードやバーコードを使った決済です。複数あるキャッシュレス決済のなかで、キャッシュレス化の起爆剤になると注目されているのがQRコードを用いた決済です。
 QRコード決済は、スマートフォンを活用した新しい決済手段になります。買い物をする際に、消費者が店舗にあるQRコードを自分のスマートフォンで読み込む、もしくは消費者が自分のスマートフォンにQRコードを表示して店舗側の機器で読み込んでもらうことで決済が完了します。
日本にキャッシュレス社会は訪れるか - QRコード決済の導入メリット -
 店舗がクレジットカードや電子マネーによる決済を導入するには、専用の決済端末やネットワーク回線が必要となり、数十万円のコストがかかります。加えて売り上げの3〜5%ほどを、加盟店決済手数料としてカード事業会社等に支払わなければなりません。
 一方、QRコード決済は、QRコードを印刷した紙やシールを店頭に用意するだけで決済が可能になります。データのやりとりも専用回線ではなく、通常のインターネット回線を使用します。このため、初期費用も加盟店決済手数料もクレジットカードや電子マネーに比べると格段に安く済みます。これに加えてQRコード決済サービスに参入する各企業は、自社サービスを普及させたいため、店舗側の負担をさらに削減する方向で動いています。
 LINEが展開する「LINE Pay」では、2018年6月にQRコード決済に限り、初期費用、加盟店決済手数料を8月から3年間0円にすると発表しました。ソフトバンクとヤフーが展開する「PayPay」も3年間0円です。競合他社もこの動きに合わせざるえないため、最終的に店舗側の負担は実質0円になっていくと考えられます。
 コスト面からクレジットカードや電子マネーでの決済サービスを導入していなかった中小・零細規模の事業者も、QRコード決済を取り入れる可能性が高く、これによって一気にキャッシュレス化が加速すると予想されます。

- 多彩な特典で利用者を増やす -
 QRコード決済サービスに参入する各企業は、QRコード決済を消費者に定着させるために利用者特典を充実させています。楽天が提供する「楽天ペイ」は、200円利用するごとに1ポイント1円で使える楽天スーパーポイントを1ポイント与え、楽天カード登録者であれば100円利用ごとに、さらに1ポイント加算します。「LINE Pay」は使えば使うほど還元率が高まるポイントプログラムを導入しています。ITベンチャー企業Origamiの「Origami Pay」は、利用時に数%即時割引されるサービスを展開しています。
 参入企業はポイント還元のキャンペーンにも力を入れています。なかでも話題になったのが、「PayPay」が2018年12月4日に開始した「100億円あげちゃうキャンペーン」です。同キャンペーンでは、合計金額が100億円に到達するまで「Pay Pay」を使って購入した金額のうち20%をポイントとして還元するというものです。開催期間を19年3月末までとしていましたが、わずか10日間で上限金額に達してキャンペーンが終了し、多くのメディアに取り上げられました。「ペイペイ」では同キャンペーンの第二弾を19年2月12日から始めています。
日本にキャッシュレス社会は訪れるか - 金融サービスの主導権争い -
 2017年から18年にかけて、LINEの「LINEpay」、楽天の「楽天pay」、NTTドコモの「d払い」、ヤフーとソフトバンクの「PayPay」、Origamiの「Origami Pay」など、さまざまな企業がQRコード決済サービスに参入しました。19年には、メルカリによる「メルペイ」や、三菱UFJ、三井住友、みずほの3大メガバンクでQRコードの規格を統一させた「BankPay」もはじまる予定です。ネット環境とアプリさえあれば利用できる決済方法のため、銀行・クレジット業界でなくても参入しやすいため、多くのIT関連企業が参入しています。
 多くの企業がQRコード決済サービスに取り組むのは、キャッシュレス化した次世代社会で、金融サービス部門で主導権を握りたいという思惑があるためです。それと共に、電子決済では、現金決済ではわからなかった購買データを収集することができます。市場でシェアを確保することは、それだけ多くの顧客データを収集することにつながります。このビッグデータの集積も参入企業を増やす要因になっています。

- 規格統一がさらなる前進の鍵 -
 現在、日本でQRコード決済サービスを手がける事業者は15を越えており、それぞれが独自のQRコードを採用しています。店舗側が複数のQRコード決済サービスに対応するには、導入するサービスの数だけQRコードを用意する必要があります。
 タイでは、すでにQRコードの規格統一を実現しており、「スタンダードQRコード」を読み込むだけで、20近くの企業のQRコード決済サービスを利用できます。日本でも2018年7月に経済産業省主導で発足した「キャッシュレス推進協議会」が中心となり、QRコードの規格統一に向けて動き出しています。各企業は莫大なコストを掛けて自社のQRコード決済サービスの勢力圏を開拓してきたため、調整が難航するのは必至です。しかし、規格統一が実現すると、日本社会のキャッシュレス化がさらに前進すると注目されています。


【世界のキャッシュレス事情】

- 《韓国》 政府が主導してキャッシュレス化 -
 韓国のキャッシュレス決済比率はおよそ90%で、世界トップレベルです。1997年の東南アジア通貨危機を機に、店舗等の脱税防止や消費活性化を目的に政府主導でクレジットカードの利用促進策を実施したことが要因だと考えられています。
 利用促進施策として取り組んだのは、まず30万円を上限として年間クレジットカード利用額の20%を所得控除にしたことです。次いで1000円以上クレジットカードを利用すると賞金1億8000万円の宝くじの参加券が付与され、さらに年商240万円以上の店舗を対象に、クレジットカード決済サービスの取り扱いを義務づけたことです。
 2017年4月からは、コインレスに向けたパイロットプログラムを開始しています。これは消費者が現金で買い物をした際のおつりを電子マネーとして渡すことで、つり銭が出ないようにする方策です。韓国では2015年の段階で、年間の通貨発行コストが540億ウォン(約54億円)に上り、古い硬貨の廃棄に22億ウォン(約2・2億円)がかかっています。コインレス社会を実現することで、コイン使用にともなうコストの削減をめざしています。
 一方、キャッシュレス化による弊害もあります。2018年11月、ソウル中心部で通信最大手KTの通信ケーブルが焼ける火事があり、3日間にわたって同社の携帯電話やインターネットが使えなくなりました。カード決済ができなくなったことで市内のレストランや商店の多くが臨時休業に追い込まれ、ATMには長蛇の列ができました。また、韓国では若者を中心にカード破産者が増加しており、これも問題視されています。

- 《中国》 2つの世界的大企業がQRコード決済を牽引 -
 中国のキャッシュレス決済比率は60%で、日本を大きく上回っています。中国は以前から偽札問題や脱税問題、現金の印刷コストなどの問題があり、現金社会からの脱却が望まれていました。2002年に中国国内の80以上の金融機関が共同で「銀聯」を設立し、中国の決済システムやルールを統一したことでキャッシュレス化に向けて大きく前進しました。
 現在はECサイト最大手のアリババが提供する「アリペイ」と、オンラインゲームとSNSの最大手であるテンセントが提供する「ウィーチャット」という2つのQRコード決済サービスが中国で最も高いシェアを持っています。2017年段階で、これら2つの利用者を合算すると5億185万人にものぼります。
 「アリペイ」は、15年に芝麻信用(セサミ・クレジット)というサービスをはじめました。これはアリババグループの取引記録や公共料金の支払い記録などをAIで格付けし、スコア化するものです。スコアが高いと各種サービス等で優遇措置が受けられるほか、お見合いサイトにもスコアが表示されます。中国では売買取引だけでなく、生活全般にQRコード決済が関わっているのです。
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