地方に活力を与える「ふるさと納税」の役割と課題【社会】

地方に活力を与える「ふるさと納税」の役割と課題


【新制度施行を機に、ふるさと納税制度を考える】
 「ふるさと納税」は、ふるさとや縁のある地方を応援できる寄付制度として、2008年に誕生しました。寄付の見返りに地場産品など、魅力的な返礼品がもらえることで人気を呼び、今では多くの人が利用しています。一方、自治体のなかには過度な返礼品を用意して、ふるさと納税を集めるところがあらわれて問題になっています。総務省は、こうした状況を是正しようと19年6月1日に、新たなふるさと納税指定制度を施行しました。しかし、この制度から除外された泉佐野市は、総務省と全面的に争う姿勢を示しています。

地方に活力を与える「ふるさと納税」の役割と課題 - 地方を応援するための寄付制度 -
 「ふるさと納税」は、地方で生まれ育ち都会に出てきた人たちが、ふるさとに恩返しできる仕組みとして2008年に生まれた制度です。「納税」と名付けられていますが、実態は「寄付」にあたります。
 自分の選んだ自治体にふるさと納税として寄付をした場合、寄付額のうち2000円を越える部分については、税額控除範囲内の金額であれば税金より全額控除されます。なお、寄付する自治体は、自分が生まれた自治体でなくても、好きな自治体や応援したい自治体など、自由に選ぶことが可能です。
 ふるさと納税が生まれた背景には、2000年代に小泉純一郎内閣が提唱した「三位一体の改革」が大きく関わっています。三位一体の改革とは、国が地方に支出する国庫補助負担金の廃止・縮減、地方交付税交付金の見直し、国から地方への税源移譲を行うことで地方分権を図るとともに、国と地方の財政赤字の再建を進めることが狙いでした。
 しかし、地方の自治体は東京都など大都市とは異なり、地方交付税交付金に頼ってきたところが大きく、財源不足に陥っています。ふるさと納税は、こうした都市と地方の税収の格差を是正する手段の一つとして生まれたという側面があります。
地方に活力を与える「ふるさと納税」の役割と課題 - 急成長の鍵となった多彩な返礼品 -
 ふるさと納税の制度がはじまった2008年度の受入額は81億円、受入件数は5万件でした。18年度になると、受入額は5127億円に、受入件数は2322万件にまで増えました。
 ふるさと納税が、多くの人に受け入れられた理由として「返礼品」の存在があげられます。これは寄付をしてくれた人にお礼として、自治体が地域の特産品などをプレゼントするというものです。ふるさと納税の利用者は、先に述べたように寄付額のうち2000円を越える部分は税金控除されるので、実質2000円でこれら返礼品を受け取ることができます。
 また、ふるさと納税では、寄付者が寄付金を何に使って欲しいかを選べる場合が多く、これもこの制度の魅力です。19年時点で、ふるさと納税の使途を選択できる団体は1708団体あり、これは全体の95・5%にあたります。使途は災害復興や子育て支援、環境保全、伝統芸能の保護、定住促進など自治体ごとに多様です。
地方に活力を与える「ふるさと納税」の役割と課題 - 新制度の導入でさらに使いやすく -
 ふるさと納税の情報は、各自治体のウェブサイト上にページを設けているほか、総務省の「ふるさと納税ポータルサイト」や民間のポータルサイトがあり、そこから得ることができます。寄付をしたい自治体を見つけたら、所定の方法で寄付金を払います。その後、寄付をした自治体から、寄付金を受け取った証明となる「受領書」と、返礼品を選んでいた場合は品物が送付されます。返礼品は、農作物であれば収穫後に送られたりするため、届くまでに時間がかかることがあります。
 15年度までは、ふるさと納税の寄付金控除を受けるためには、寄付者本人が各自治体から送られてきた受領書を集めて確定申告する必要がありました。この場合、控除は所得税と個人住民税からされます。所得税分は申告してから1~2か月後に指定の口座に振り込まれ、住民税分は申告した年の6月から翌年5月までの給与の個人住民税から控除分が減額されます。
 15年度からは、新たに「ワンストップ特例制度」が導入され、給与取得者で年間の寄付先が5自治体以下などの条件に当てはまれば、確定申告なしで控除が受けられるようになりました。この場合、寄付をする際に「申告特例申請書」を寄付先に提出すると、翌年の個人住民税から控除分が減額されます。
 ワンストップ特例制度の導入とあわせて、税額控除の上限額がこれまでの約2倍になりました。結果、14年度は388億円だったふるさと納税の受入額が、15年度に1652億円に急増し、受入件数も191万件から726万件に拡大しました。
地方に活力を与える「ふるさと納税」の役割と課題 - 過度な返礼品を贈る地方自治体が出現 -
 ふるさと納税の利用者が、増加することによって問題も起きています。自治体によっては、巨額な税金が流出しているのです。東京都世田谷区は、2019年度のふるさと納税による区民税の減収額が53億円にのぼる見込みだと発表しています。神奈川県川崎市も56億円の市税が流出する見込みだと発表しており、行政サービスに影響が出る恐れがあるといわれています。これは自治体間の競争が激化し、過度な返礼品を用意して、ふるさと納税を集める自治体が出てきていることと深く関わっています。
 ふるさと納税では、寄付額に対する返礼品の金額の割合(返礼率)が高いほど、「お得感」があり、寄付が集まる傾向にあります。総務省は「お得感」で寄付を集める手法は好ましくないとし、17年4月に「返礼割合を寄付額の3割以下」にする大臣通知を全自治体に出しました。さらに、ギフト券や家電など、寄付を受け入れる自治体と関連しないものを返礼品とすることも好ましくないとし、18年4月に返礼品を「地場産品」とするように大臣通知を出しました。しかし、これら通知は法的拘束力がない助言になるため、是正しない自治体が出ました。
 こうした状況のなかで、とくに問題視されるようになったのが大阪府泉佐野市です。泉佐野市は、返礼品にアマゾンギフト券や他県の名産品なども扱うことで、17年度から全自治体トップの受入額、受入件数となりました。泉佐野市の18年度の総受入額が約497億円、受入件数が約250万件で、これは全国の約1割を占める額・件数になります。なお、18年度の2位は静岡県小山町で、受入額が約251億円、受入件数が約30万件でした。3位は和歌山県高野町で約196億円と約14万件、4位は佐賀県みやき町で約168億円と約23万件でした。

- 総務省と泉佐野市の対立が表面化 -
 総務省は、19年6月1日に、新たなふるさと納税指定制度を施行し、総務大臣による指定を受けていない自治体に対する寄付は、ふるさと納税の対象外となるようにしました。これにより、返礼品を「寄付金の調達額の3割以下の地場産品」としていない自治体を、ふるさと納税から除外しました。総務省は新制度の施行前からこの基準を自治体に伝えており、6月1日時点で従っていなかったことなどを理由に、全国上位4市町となる泉佐野市、小山町、高野町、みやき町を新制度から除外しました。
 泉佐野市はこれを不服とし、19年6月10日に、総務省の決定について国地方係争処理委員会に審査を申し出ました。泉佐野市の主な主張は、19年6月以前の法的拘束力のない「技術的助言」に過ぎない通知に従わなかったことを理由に、新制度から除外されるのは総務省の裁量権から逸脱しており、泉佐野市の不利益につながるというものです。地方自治法では、国の助言に従わない自治体への不利な取り扱いを禁じています。
 国地方係争処理委員会は同年9月に、総務省の決定は地方自治法に抵触する可能性があると指摘し、除外決定の再検討を勧告しました。国地方係争処理委員会とは、国が行った処分について、不服のある自治体からの申し出を受けて審査する総務省の第三者機関です。
 総務省は適法として判断を変えませんでした。千代松大耕・泉佐野市長は、同年11月1日に高市早苗総務相を相手取り、決定の取り消しを求める訴訟を大阪高裁に起こしました。国地方係争処理委員会の勧告が出た後に、自治体が国を提訴するのは初めてとなります。

- ふるさと納税の在り方を再考する時期に -
 泉佐野市のふるさと納税の本来の趣旨から逸脱して寄付を集めたやり方に疑問の声があがる一方で、国と地方は対等であるという地方自治の理念がありながら、強制力のない通知をもとに法規制した総務省のやり方にも批判の声があがっています。また、地方を応援することより返礼品に目を奪われて寄付を行う人が増えてしまったことも、この問題の一因だと考えられます。
 ふるさと納税は、納税者が自分の意志で、応援する自治体や取り組みを支援する制度です。今一度、本来の趣旨に立ち返り、魅力的な地方をつくるための施策として、どのように運営されるべきかを、国、自治体、納税者が考える時期にさしかかったのかもしれません。
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