〝静かな有事〟人口減少と日本社会の将来【社会】

〝静かな有事〟人口減少と日本社会の将来


【地域社会、経済活動、雇用環境はどうなる】
 昨年、国内で生まれた赤ちゃんは86万4000人で、明治32年(1899年)の統計開始以来最低を記録し、初めて90万人を割り込みました。また、死亡者数から出生数を差し引いた人口の自然減は昨年50万人の大台を超え、わずか1年で鳥取県が消滅するほどの人口減となりました。このまま人口減少が続けば機能不全に陥った地方自治体が消滅し、人手不足による産業の衰退、社会保障の破綻、日本経済全体の崩壊という悪夢のシナリオが想定されます。
 国家存続の危機を招きかねない人口減少は〝静かな有事〟ともいわれます。人口が減っても豊かさを享受できる社会をいかに構築することができるか。将来を託された若い皆さん一人ひとりが、国や社会の在り方を真剣に考える時代が来たといえます。

〝静かな有事〟人口減少と日本社会の将来 - 昨年1年間の人口の自然減は51万人超で戦後最多 -
 厚生労働省の人口動態統計によりますと、昨年1年間に国内で86万4000人が生まれ、137万6000人が亡くなりました。死亡者数は高齢化によって10年連続で増加し、人口の自然減は戦後最多の51万2000人となりました。
 年間出生数が初めて100万人を割ったのは2016年の97万6979人で、女性1人が生涯に産む子供の推定人数を示す「合計特殊出生率」は、16年から下降傾向にあり、18年は前年比0・01ポイント減の1・42でした。
 出生数の減少は出産適齢期(25~39歳)の女性が減っていることが影響しています。18年10月時点の人口推計では、40歳代の日本人女性が907万人に対して30歳代は23%少ない696万人。20歳代は36%少ない578万人となっています。
 出産期の女性が減少する傾向は今後も続く見通しで、今年中にも女性の2人に1人が50歳以上になると推計され、出生数回復の兆しは見えません。
〝静かな有事〟人口減少と日本社会の将来 - 人口減少は8年連続。65歳以上の高齢化率は28.1% -
 出生数の低下は、女性の晩婚化や未婚者の増加、ライフスタイルの変化や低収入などによる将来への不安が背景にあるようです。とくに女性の場合、育児休暇を取りにくい職場環境だったり、産後職場に戻ってもキャリアアップが望めなかったりすることも大きく、出産に二の足を踏むことが考えられます。
 若い世代が結婚・出産に踏み込める賃金・待遇面での就労環境を整えるとともに、出産や育児に関する手当や環境を整備しなければ、出生数の減少ペースはさらに加速すると考えられます。
 わが国の総人口は2018年10月現在1億2644万3000人で、前年比26万3000人の減で8年連続の減少となりました。年齢区分別に見ますと、15歳未満人口が1541万5000人で比率は12・2%、15~64歳の生産労働人口は7545万1000人で、同59・7%。65歳以上の高齢者人口は3577万8000人で同28・1%(うち75歳以上の後期高齢者の比率は14・2%)となっています。
〝静かな有事〟人口減少と日本社会の将来 - 毎年働く意欲のある労働人口が55万人減少 -
 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、人口減少をこのまま放置すると2055年には日本の総人口は1億を切って9744万人に、さらに65年には9000万を切って8808万人になると予測しています。また、15歳未満の人口は898万人に減少し、その人口比率は2018年の12・2%から10・2%に減少するとしています。
 人口減少の結果、一体どういうことが起きるのでしょうか。出生数の低下に伴う人口減少は単に人の数が減るというものではなく、国の経済活動を支える生産労働人口の減少を意味します。
 すでに人手不足がテレビや新聞などで連日のように報道されています。総務省の就業者数の見通しでは2015年に6376万人だったものが、このまま放置すれば20年には6046万人、30年には5561万人まで減少すると予測しています。15歳から64歳までの生産労働人口で見ると、毎年55万人近い人口が減っていくことを意味し、事態は極めて深刻です。

- 高齢者が住民の半数以上を占める「限界集落」は2万349カ所 -
 労働人口が減少すれば企業の生産力が低下し、自ら収入を生み出せず年金などに生活を頼る高齢者が増えることで、モノやサービスの売れ行きが悪化し経済は停滞します。
 さらに経済の縮小や人手不足による倒産、後継者不足による廃業のリスクが高まります。人手不足は企業の現場作業員だけでなく、医師や看護師、消防士など人命の救援・救護、被災地の復旧・支援に当たる職種にもおよびます。
 国土交通省によりますと、2050年に人口が2010年時点の半分以下になる地域が現在の6割以上になると予測し、2割の地域が「無居住地化」すると指摘しています。
 さらに総務省と国交省の調査によれば、過疎地域で65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占める「限界集落」は2019年4月時点で2万349カ所あり、15年から約6000カ所増えています。
 
- 2040年には896の自治体が消滅の恐れ -
 地方都市から大都市への人口流出や限界集落の増加などで、2040年には1800の地方自治体のうち896が消滅の恐れがあるといわれます。農水省によりますと2018年の農業就業人口は175万人で、1990年の482万人から約3分の1に急減しました。農業就業人口の減少によって耕作放置面積は増大し、90年に21万7000ヘクタールが2015年に42万7000ヘクタールに倍増し、将来的に日本の農業崩壊が懸念されます。
 さらに道路や橋梁、上下水道などのインフラ整備が人手不足と国や地方自治体の財源不足から滞り、将来的に人口減少によって地方自治体が運営している水道事業が成立しなくなるというシミュレーションが出ています。
 大規模な修繕が必要な50年を過ぎた「橋梁」なども、2017年の23%から27年には48%に達します。国内の橋の半分が耐用年数を超えてくることになります。
 人材確保に悩む自衛隊や警察、消防。社会インフラの整備といった公共面でのコスト増も深刻な事態となります。年金や医療保険などの社会保障費の増大。さらに人口減による税収不足から国や自治体の財政ひっ迫が加速するなど、人口減少による将来社会はまさに四面楚歌の状況ともいえます。
〝静かな有事〟人口減少と日本社会の将来 - 超高齢社会突入で社会的変化を来す「2025問題」 -
 人口減少に加えて超高齢社会の到来というもう一つの課題が切迫しています。
 戦後間もない1947年~49年に生まれた団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、65歳以上の高齢者は全人口の約30%の3657万人に、75歳以上の後期高齢者は約18%の2179万人なると推計されます。
 つまり2025年に日本は超高齢社会に突入するわけで、社会的変化の分岐点となる意味で「2025年問題」と呼ばれます。
 その目安の一つが増え続ける社会保障給付金です。65歳を過ぎると年金受給が始まり、75歳を過ぎると介護サービスなどの需要も増えます。年金や医療、介護、福祉といった社会保障は高齢者が増えれば増えるほど増加し、社会保障給付金の総額はこの20年で2倍以上となりました。この先さらに増え続け、将来世代への負担も増え続けることになります。

- 全ての人が能力を生かせる「1億総活躍社会」 -
 政府が策定した2040年までのシミュレーションによりますと、年金、医療、介護、子育てといった将来の社会保障費の合計は、18年度121兆3000億円(国内総生産〈GDP〉比21・5%)に対し、25年度には140兆4000億円から140兆8000億円、40年度には約190兆円(同約24%)となる見込みです。
 高齢者人口は2042年に約3935万人でピークを迎えますが、一方で15〜64歳の生産労働人口はこれから40年までに約1500万人減少すると予測され、人材、財源の確保はさらに深刻となります。
 高齢化社会の進展に伴って社会保障費の急増は避けられませんが、こうしたコストを処理しながらいかにして景気の安定や安全保障、橋梁、道路といったインフラ整備を賄うことができるのでしょうか。
 安倍首相は、女性、高齢者、障害者らを含め全ての人が持てる能力を生かせる「1億総活躍社会」の実現を唱え、「全世代型社会保障改革検討会議」を設けて現役世代の急速な減少に耐え得る、全世代型の社会保障制度の構築に向けた議論を深めるとしています。

【世界の人口問題】
韓国や香港、台湾が日本以上の少子化に悩む
 国連の「世界人口推計2019年版」によると、現在の世界人口は約77億人ですが、2050年には約97億人に達します。その後は人口増加率が鈍化し、2100年に109億人程度となって頭打ちになる見通しです。専門家の一部では、発展途上国で多くの人々が教育を受けられるようになれば、国連推計よりも少子化が進み、2060年頃に人口膨張が止まるという見方があります。
 19世紀後半から20世紀にかけて「人口爆発」を経て、21世紀は世界の人口膨張が止まり、やがて少子化が進むだろうといわれます。世界で1人の女性が生涯に出産する子供の数の推計値は、2019年の2.5から2100年には1.9にまで低下する見通しです。
 少子化とともに多くの国で高齢化が進み、世界人口における65歳以上は、現在11人に1人ですが、2050年には6人に1人になると予測されています。こうした流れは少子高齢化と人口減少に悩む日本の姿そのままで、多くの国が「課題先進国」といわれる日本に追随する動きを見せています。
 日本をはじめ55の国と地域が2050年にかけて人口が1%以上減少し、このうち26の国と地域では10%以上の減少になる可能性があるとしています。国別では中国が3140万人(減少率2.2%)減少し、2027年頃にインドが「世界人口1位」の座を占めることになります。インドもやがて人口減少に転じますが、2100年時点で両国を比較すると、中国が10億6000万人まで減少するのに対し、インドは14億5000万人でその差はかなり大きいようです。
 近年著しい経済成長を遂げた韓国や香港、台湾が日本以上の少子化に悩み始めています。女性1人が生涯に産む子供の推定人数を示す「合計特殊出生率」で見ると、日本の1・43に対して台湾1・13、香港1・13、韓国1・05、シンガポール1・16となっています。

【人口減少の処方箋】
50年後も1億の人口を維持する目標を設定
 2016年6月にあらゆる場所で誰もが活躍できる、全員参加型の社会を目指すための「ニッポン一億総活プラン」が閣議決定されました。政府が少子高齢化の問題に真正面から取り組む処方箋で、人生100年時代を見据えた経済社会の在り方を構想しています。基本的なスタンスは子育て支援や社会保障の基盤を強化し、成長と分配の好循環で経済を強くしようというものです。
 その大きな柱が「働き方改革」で、同一労働同一賃金の実現、長時間労働の是正、高齢者の就労促進などが骨子となっています。さらに「子育ての環境整備」で、保育の受け皿整備や保育士の処遇改善、多様な保育士の確保・育成、放課後児童クラブの整備などをうたっています。このほか介護の環境整備やすべての子供が希望する教育を受けられる環境の整備、奨学金制度の拡充などが打ち出されました。
 特に少子化対策では、1人の女性が生涯に出産する子供の推定数値で「希望出生率1.8」を掲げ、50年後も1億の人口を維持する目標を設定しています。今日少子化対策と並行して人口減少時代に対応した社会構造の変革が求められています。人口減は避けられない前提として考え、国や社会の在り方を根本から変える斬新な発想やアイデアが今、私たちに求められているといえます。
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