心と体をむしばむ危険な違法薬物とは【社会】

心と体をむしばむ危険な違法薬物とは


【人生を破綻させる薬物乱用を防止しよう】
 覚醒剤、大麻、コカイン、LSD、危険ドラッグなど、違法薬物を巡る犯罪が後を絶ちません。芸能人では今年2月、合成麻薬「MDMA」の所持で女優の沢尻エリカ被告に懲役1年6ヵ月(執行猶予3年)の有罪判決が下され、今年3月には歌手の槇原敬之被告が覚せい剤取締法違反で東京地検から起訴されました。
 インターネットやSNSの急速な普及で違法薬物の情報に接しやすくなり、薬物乱用に関わる犯罪に巻き込まれる危険性が増しています。とくに近年、若年層による大麻と危険ドラッグの薬物乱用による検挙数が増えています。心身を蝕む危険な薬物乱用を防ぐにはどうすればいいのでしょうか。健康と暮らしを破綻させる違法薬物について考えてみました。

心と体をむしばむ危険な違法薬物とは - 麻薬を規制する2つの国際条例 -
 世界ではさまざまな薬物が条約や法律で規制されています。国では法律によってどの薬物が違法か合法かを決めていますが、その法律の根拠となるのが薬物に関する国連の2つの国際条約です。
 一つは「麻薬に関する単一条約」です。乱立していた薬物に関する条約を一本化したもので、主に植物由来の伝統的な薬物を規制しています。ケシの樹脂から作られるアヘン。それを精製したもの、化学的に合成したモルヒネやヘロイン、大麻やコカインなどが代表的な薬物です。
 もう一つは「向精神薬に関する条約」で、化学的に合成された比較的新しい薬物を規制しています。覚せい剤、LSD、MDMAなどが含まれます。覚せい剤は日本で最も多く乱用されている違法薬物で、検挙者は年間1万人を超え薬物事犯の8割近くを占めています。
心と体をむしばむ危険な違法薬物とは - 日本では薬事法で2363の物質が指定薬物に -
 世界で最も多く乱用されている薬物は大麻です。世界中に自生して栽培が容易なためで、国連の調査によると世界で約1億9000万人が乱用しているといわれます。
 2番目に乱用が多いのが覚せい剤で、世界で乱用人口は3400万人と推計されています。比較的入手しやすい化学物質から容易に密造することができます。1990年代以前はほぼ日本でしか乱用されていませんでしたが、その後アジア、オセアニア、西ヨーロッパ、アメリカなどに一気に広がっていきました。
 日本では薬事法によって、脳の中枢神経に影響を及ぼして保健衛生上の危害が発生する恐れのある2363物質(2017年11月現在)を指定薬物とし、医療などの用途以外では製造、輸入、販売、所持、譲渡、購入などが禁止されています。
心と体をむしばむ危険な違法薬物とは - 薬物作用は抑制系と刺激系に分けられる -
 こうした薬物は作用の違いによって、脳や神経の中枢抑制作用と中枢刺激作用の2つに分類されます。俗に抑制作用が働くものを「ダウナー」、刺激作用のあるものは「アッパー」と呼ばれます。
 抑制系の薬物を摂取すると覚醒レベルが下がり、知覚が変化して集中力が無くなります。乱用を続けると何もやる気がしない状態(無動機症候群)や、知的機能が低下して社会生活に適応できなくなります。代表的なものがヘロインや大麻です。
 一方の刺激系の薬物は、覚醒作用が働いて気持ちがシャキッとしハイな気分になります。しかしそれは一時的なもので、その後激しい脱力感、疲労感、倦怠感に襲われます。
 乱用を続けると幻覚や妄想が現れて中毒精神病になりやすく、大量に摂取すると死に至ることがあります。これには覚せい剤やコカイン、LSD、MDMAなどが含まれます。

- 薬物依存からの回復は生涯の課題となる -
 薬物を乱用すると脳の「報酬系」と呼ばれる神経系に影響を与え、ドーパミンという神経伝達物質を大量に分泌します。このため快感を生み出し幸福感に浸ることができます。
 例えば覚せい剤を摂取すると自然なドーパミン分泌量の数十倍から100倍近い量が一気に分泌され、強烈な快感に見舞われます。ドーパミン効果が切れると、枯渇状態になって薬物を探し回り、大きな不安、抑うつ、焦燥感、イライラ、疲労感に苛まれます。いわゆる禁断症状です。
 さらに乱用を続けることで依存性が強まり、同じ摂取量では効かない「耐性」が形成されて、使用量や回数が増える悪循環(依存症サイクル)に陥ります。薬物乱用の怖さはこうした依存性が形成されることで、薬物依存からの回復は生涯の課題となります。

- 薬物乱用で犯罪の誘発、家庭崩壊、生活破綻を招く -
 私たちの脳は20歳ごろまで成長するといわれます。とくに小・中・高校の時期は心身ともに急速に発達し、この時期に薬物を乱用すると脳や身体の成長がストップします。
 そして感情のコントロールができなくなり、あらゆる事柄に対して意欲が減退し、怒りっぽくなるなど心身の発達が損なわれます。やがて家族や友達とのコミュニケーションが取れなくなり、健全な社会生活が維持できなくなってしまいます。
 一度ダメージを受けた脳は元の状態に戻ることはなく、その障害は一生ついて回ることになります。さらに乱用する薬物を手に入れるために詐欺、窃盗、強盗、殺人などの犯罪を誘発し、家庭の崩壊、社会生活の破綻につながっていきます。

- 幻覚作用や知的機能の低下を引き起こす大麻 -
 近年、若者の間で広がり、検挙数が増えているものに大麻があります。20代の検挙数は2018年に初めて覚せい剤を上回りました。
 「大麻は依存性がなく身体への悪影響がない」という誤った情報が流布されて心理的なハードルが低く、さまざまな違法薬物の入り口となる「ゲートウェイ・ドラッグ」といわれています。実際、大麻は危険性が高く脳の知的機能に悪影響を及ぼし、さまざまな不具合を引き起こします。
 大麻には乾燥大麻(マリファナ)と大麻樹脂(ハシッシュ)があります。通常は乾燥した葉などをキセルやパイプなどを使用して吸煙しますが、そのまま食べたり養液として飲むこともあります。
 乱用すれば知覚が変化して集中力がなくなり、情緒が不安定になります。乱用を続ければ幻覚作用を生じて何もやる気がなくなり、知的機能の低下や大麻精神病などを引き起こし、社会に適用できなくなる恐れがあります。

- ネット上で偽装販売される危険ドラッグ -
 覚せい剤や大麻などに、化学構造を似せて合成された物質を添加した薬物が危険ドラッグです。かつては合法ドラッグや脱法ドラッグと呼ばれていました。
 危険ドラッグは、インターネット上の薬物専門のホームページなどで、ハーブ、お香、アロマオイル、アロマリキッド、バスソルトと名を変えて、危険な薬物ではないように装って販売されています。
 危険ドラッグに添加されている物質は、体にどんな影響を及ぼすのか分かっていない場合がほとんどで、中には覚せい剤や大麻などよりも危険な物質が含まれていることもあります。

- 薬物依存の昂進で傷害事件や交通事故を招く -
 違法薬物の摂取によって破壊された脳の回路はもとには戻らないといわれます。薬物の乱用でひとたび幻覚や妄想などの精神病の症状が生じると、治療によって表面上は回復しているかに見えても、これらの症状が再び起こりやすい下地が残るといわれています。
 薬物の乱用をやめて普通の生活に戻ったと思われても、ささいなストレスなどによって突然幻覚や妄想が再発することがあります。これをフラッシュバック(再燃)現象といいます。
 薬物依存が昂進すると薬物乱用が生活のすべてに優先し、薬物を得るため人を騙したり、暴力を振るうなど正常な判断ができなくなってしまいます。さらに運動機能がおかしくなり、傷害事件を起こしたり交通事故で他人を傷つけてしまうことにもなります。

- 違法薬物への誘いをきっぱり断る勇気を -
 違法薬物に手を染めるきっかけの多くは、友人などから勧められたことによります。覚せい剤は「シャブ、エス、スピード、アイス」など、大麻は「ハッパ、クサ、チョコ」、コカインは「コーク、スノウ、クラック」、そしてLSDは「エル、アシッド」といったように隠語を使って販売されることがあります。
 日本で出回っているほぼすべての違法薬物は、海外マフィアから暴力団が仕入れたものです。それが現役組員から元組員や半グレ、友人、知人らを経由してばら撒かれています。
 「1回だけなら平気」、「痩せられる」、「イライラが取れてすっきりする」、「最高の気分が味わえる」といった薬物乱用への甘い誘いに対して、きっぱり断ることが肝心です。こうした薬物を勧められたり見聞きしたときは、断固拒否する勇気と危険を避ける行動力が大切です。
心と体をむしばむ危険な違法薬物とは 【違法薬物の取り締まり】
- 昨年過去最高の2・5トン超の覚せい剤を押収 -
 日本の違法薬物で最も多いのが覚せい剤です。強い高揚感がある一方、繰り返し使うことで幻覚・妄想状態に陥ります。覚せい剤取締法によって2019年には過去最高の約2・5トン超が押収されました。
 覚せい剤に次いで多いのが大麻です。大麻取締法による19年の検挙数は4321人で6年連続の増加となりました。
 一方、沢尻エリカ被告が所持していたMDMAは別名「エクスタシー」と呼ばれ、精神錯乱や記憶障害を引き起こします。合成麻薬の一種であるLSDは違法薬物の中でも最も強力とされ、高揚感や不眠状態が続いて幻覚症状に見舞われます。
 またコカの実を原料とするコカインは幻覚、妄想に加えて全身けいれんを生じ、ケシから作られるヘロインは全身の痛み、悪寒、失神が生じます。いずれも「麻薬及び向精神薬取締法」の規制対象となっています。
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