「共感」で資金を募る、クラウドファンディング【社会】

「共感」で資金を募る、クラウドファンディング


【誰もがチャレンジできる、資金調達の新たな仕組み】
 クラウドファンディングは、インターネットを使って不特定多数の人から資金調達ができる仕組みです。アイデアとやる気さえあれば、企業や自治体、起業家などでなくても利用することができ、これまでに個人で億単位の資金調達に成功した事例もあります。銀行からの借入やベンチャーキャピタルによる出資といった従来の資金調達とは性質が大きく異なり、多くの人に共感してもらうことで少額の資金を広く集めていくクラウドファンディングの魅力や仕組みについて考えました。

「共感」で資金を募る、クラウドファンディング 【誰にでも門戸が開かれている、インターネット経由の資金調達方法】
- クラウドファンディングの市場規模が急速に成長 -
 クラウドファンディングは、「Crowd(群衆)」と「Funding(資金調達)」という言葉を組み合わせた造語です。この言葉の意味から推測できるように、クラウドファンディングとは、企業や自治体、個人がインターネットを使って不特定多数の人から資金を調達する仕組みを指します。
 クラウドファンディングの市場規模は年々拡大しており、世界市場では2019年に6兆9千億円に達すると見られ、22年までに総額11兆円を越えると予想されています。日本でも14年度は220億円規模だったものが、3年後の17年度には7・7倍となる1700億円規模に拡大しました。18年度には2044億円規模になるだろうという調査結果が発表されています。

「共感」で資金を募る、クラウドファンディング - アイデア次第で高額の資金調達も可能 -
 クラウドファンディングでは、起案者が企業が運営するプラットフォームに、どのようなアイデアを実現するかというプロジェクトを掲載して資金を募ります。資金が調達できたら、起案者はアイデアを実行し、支援者にリターン(お礼)を提供します。
 クラウドファンディングの魅力は、誰にでも門戸が開かれていることです。銀行や投資機関から資金を得るのが難しい場合でも、アイデアがよければインターネットを通じてたくさんの人から直接資金を得ることができます。海外では数十億円もの資金調達に成功した事例があります。日本でも、2019年に東京大学の院生が次世代データベースの開発資金を募り、国内最高額となる2億7600万円を集めて話題になりました。
 また起案者は、クラウドファンディングを利用することで、市場に製品が出回る前にユーザーの反応を知ることができ、テストマーケティングの場としても活用できます。支援者も、起案者の活動状況などをプラットフォームに設けられたプロジェクトページやSNSで知ることができるので、通販サービスなどで物品を購入するよりも、より近しい関係のなかで取引をすることができます。
「共感」で資金を募る、クラウドファンディング - 6タイプにわけられるクラウドファンディング -
 現在、クラウドファンディングは、資金調達の方法や支援者へのリターンのあり方によって、購入型、寄付型、融資型、株式型、ファンド型、ふるさと納税型の6つのタイプに分けられています。
 購入型では、支援者はリターンとして、起案者があらかじめ設定しておいた商品やグッズ、サービス等を得ることができます。モノやサービスを購入する感覚に似ているため、購入型という名前が付けられています。このタイプでは、金銭的な見返りがリターンとなることはありません。
 購入型には「Allor Nothing方式(成功時報酬型)」と「AllIn方式(実施確約報酬型)」の2つがあります。前者は、募集期間内に目標金額に達成した場合のみプロジェクトが成立し、達成しなかった場合は、実施されずリターンも発生しません。後者は、目標金額に達しなくても支援者がいればプロジェクトの成立が認められます。このため、AllIn方式は募集開始時点でプロジェクトが実現可能であるものや、リターンが期待できるものが対象になります。
 寄付型は、起案されたプロジェクトに対して支援者は見返りを求めず寄付をします。寄付型は、自治体やNPOが起案者となることが多く、実現したいアイデアも、地方創成や地域活性化など、社会貢献性の強いものが中心になります。
 融資型は、資金運用したい個人投資家から小口の資金を集めて大口化して、借り手となる企業に融資する仕組みです。クラウドファンディングという言葉が広がる前は、「ソーシャルレンディング」という言葉で知られていました。融資型は、銀行が担う機能を個人が果たす取り組みといえます。購入型や寄付型とは異なり、支援者は金銭的なリターンを得ることができます。クラウドファンディングというと、購入型や寄付型のイメージを抱きがちですが、支援額の総額のうち、およそ90%が融資型だといわれています。
 株式型は、企業が起案者となり、個人投資家に未公開株を提供する代わりに資金を募るクラウドファンディングです。借り手企業は年間1億円未満、支援者は1社につき50万円までという制限があります。
 ファンド型は、株式型同様、企業が行う資金調達のためのクラウドファンディングです。支援者は、支援したプロジェクトの売上等の成果や支援額に応じて、金銭的なリターンを受けることができます。また、金銭に加え、その事業でつくられたモノやサービスの割引券などを得るものもあります。
 ふるさと納税型は、近年登場したもので、自治体が抱える課題をプロジェクト化し、ふるさと納税の仕組みを使って行うクラウドファンディングです。ふるさと納税を利用することで、寄付金の控除を受けられることが特徴になります。

【古くから社会に根付いていたクラウドファンディングの思想】
- 歴史的プロジェクトを支えたクラウドファンディング -
 近年、大きく成長してきたクラウドファンディングですが、仕組み自体は古くからありました。原型となったのは、17世紀初頭に活躍したイギリスの書籍編集者ジョン・テイラーが、書籍の印刷費を寄付で募り、その見返りに寄付者の名前を書籍に掲載する権利を提供したのが始まりといわれています。
 「自由の女神」もクラウドファンディングの事例として有名です。アメリカ合衆国の独立100周年を記念してフランスから贈呈された「自由の女神」ですが、1884年に「自由の女神像製作委員会」は設置する台座の建設資金を使い果たしてしまいました。そこで新聞発行者で、ジャーナリストでもあるジョーゼフ・ピューリツァーは、自身が経営する新聞「ニューヨーク・ワールド」の紙面で、広く一般市民に台座建設のための資金を募りました。ピューリツァーは、優れたジャーナリズム、文学、音楽に授与される「ピューリツァー賞」のもととなった人物としても知られています。
 ピューリツァーが呼びかけた結果、およそ6か月の間に10万ドル近い寄付が集まりました。この金額は100万人以上の人が1ドル以下の小額寄付をしたことによって達成されました。これはインターネットの代わりに新聞を用いた、大規模な寄付型クラウドファンディングのプロジェクトだといえます。
 またフランスでは、古くから芸術分野に対して寄付を募る取り組みがありました。ルーヴル美術館では、国の予算だけでなく、市民の力によって文化資産を維持しようと、2010年から「『誰でもメセナ!』キャンペーン」を開催しています。メセナとは、芸術・文化支援を意味するフランス語です。この取り組みで芸術作品の購入や修復のために寄付を広く一般市民から募り、集めた資金をもとにルーカス・クラナッハの「三美神」の購入や、「サモトラケのニケ」の修復などを行っています。
 日本にも古くから「勧進(かんじん)」という言葉があり、もとは仏の道を説く行為と、寺院・仏像などを新造、修復、再建するために一般から広く寄付を募る行為を指していました。中世以降、寄付を募る意味で使うのが一般的になりました。この行為もまた、寄付型クラウドファンディングの一種だといえます。
「共感」で資金を募る、クラウドファンディング - 東日本大震災を機に日本に浸透した仕組み -
 現在、社会に広く普及しているインターネット経由のクラウドファンディングは、企業が運営するプラットフォームを介して、起案者と支援者とがつながり資金調達を行います。この仲介サービスの最初のものは、2001年にアメリカではじまった「ArtistShare」だといわれています。その後、クリエイティブなプロジェクト向けのプラットフォームが次々と設立され、08年に「Indiegogo」、09年に「Kickstarter」といった世界最大規模のプラットフォームが誕生しました。
 日本では、2011年の東日本大震災を機に、復興支援を目的とした寄付型のクラウドファンディングが一気に広がったといわれています。日本最初のプラットフォーム「READYFOR」や、国内1位のプロジェクト掲載数、閲覧数を誇るプラットフォーム「CAMPFIRE」の運営がはじまったのも同年です。
 その後、14年に投資型クラウドファンディングの利用促進を目的にした、金融商品取引法の改正案が可決成立したことによって、クラウドファンディングはさらに注目されるようになりました。投資型のクラウドファンディングには、クラウドファンディングの6タイプのうち融資型、株式型、ファンド型が該当します。
 クラウドファンディングは、誰もが夢やアイデアの実現に向けて挑戦できる資金調達の仕組みです。それは誰もが誰かの夢やアイデアを少額から直接応援できるための仕組みだともいえます。日本の家計における現金預金は2019年末に1000兆円を越え、過去最高額となりました。この現金預金を社会の活力に変えるための新しいお金の流れとして、クラウドファンディングは今後さらに意味を持っていくのではないでしょうか。
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