あなたも加害者になるかも?【交通】

あなたも加害者になるかも?

 2015年6月1日、道路交通法が改正されました。自転車による事故が急増して、自転車にひかれて亡くなったり大けがをしたりする人が増えているからです。みなさんの多くも、自転車を利用して学校やアルバイトに通っているでしょう。自転車も「軽車両」のひとつなので、乗る人も交通ルールを守る必要があります。道路交通法の改正内容を知り、人と自転車、そして自動車が共生する社会のあり方を考えてみましょう。

あなたも加害者になるかも? - 自転車事故の急増[歩行者が被害者に] -
 2013年7月、神戸地方裁判所で出された自転車事故の判決は、多くの人々に驚きとショックをもって受け止められました。11歳の男子小学生が乗った自転車が歩行中の62歳の女性に正面衝突して、女性は意識が戻らない状態になってしまった事故の裁判で、男子小学生の親に約9500万円の賠償金を支払うよう命じる判決が出されたのです。事故が起きたとき、男子小学生は坂を猛スピードのまま自転車で下っており、そのスピードは時速30キロ近くだったといいます。
 それまでにも、自転車が歩行者をはねて死亡させたり後遺症が残る大けがをさせたりといった事件はありましたが、この判決は、賠償金が高額であった点と、自転車に乗る際の正しい交通ルールを教えていなかったとして男子小学生の親の責任を厳しく問うた点で、自転車事故に対する人々の関心を高めることになったのです。
 グラフを見ると、平成10年から平成20年までの10年間で、自動車による交通事故の件数は微減している一方、自転車と歩行者の間で起きた交通事故の件数は4・5倍に激増していることがわかります。なぜこのように自転車と歩行者の間の事故が増えたのでしょうか。
 その理由の多くは、自転車に乗る 人の交通マナーの悪化にあります。歩道を歩いていて、脇を猛スピードですり抜けていく自転車に怖い思いをしたことのある人も多いのではないでしょうか。とくに近年、昔ながらの「ママチャリ」にかわり、競技用のおしゃれな自転車に乗った人が高速で街中を走ることが増えています。
 しかも、高齢化が進むなか、60歳以上の歩行者が自転車にひかれて亡くなる事件が増え続けています。自転車と歩行者の事故でけがを負う人の多くが10代ですが、亡くなる人の8割近くは、60歳以上の人たちです。このような事態を重く見た政府は、自転車の交通マナー向上と自転車と歩行者の事故を減らすために、道路交通法の改正に乗り出したのです。
あなたも加害者になるかも? - 改正道路交通法の内容[いつもやっていることは危険?] -
 道路交通法の内容はどのように改正されたのでしょうか。まずは、今回の改正で、危険行為として取締りの対象となった乗り方を以下に示しておきます。
(1)信号無視
(2)通行禁止違反(自転車通行禁止の道路標識があるところを走ること)
(3)歩行者用道路での徐行違反(スピードを出して歩行者用の道路を走ること)
(4)通行区分違反(自転車専用レーンがあるのにその外を通ること)
(5)路側帯通行時の歩行者の通行妨害
(6)遮断機が下りた踏切への進入
(7)交差点での安全進行義務違反(高速で交差点に進入するなど、安全に配慮しないまま交差点に進入すること)
(8)交差点での優先車妨害(優先権のある直進車や左折車を妨げるかたちで交差点を右折すること)
(9)環状交差点での安全進行義務違反(一方通行のロータリーを逆走すること)
(10)指定場所での
(11)一時不停止
(12)歩道通行時の
(13)歩行者妨害
(14)ブレーキ不良の
(15)自転車の運転
(15)酒酔い運転
(16)安全運転義務違反(前方不注意など)
 具体的には、どのような乗り方が違反になるでしょう。最も目につく違反は、3や11にあげた歩道での自転車の通行でしょう。ベルを鳴らして歩行者をさけながら歩道を走り抜ける自転車は多いですが、歩道は歩行者が最優先されます。ベルを鳴らして歩行者をさけて通行することは、絶対にやってはいけない行為なのです。
 次に多いのは、14にあげた安全運転義務違反にあたる、傘をさしての自転車の通行でしょう。小雨が降る日などついついやってしまいがちですが、傘をさして自転車に乗ることは危険行為にほかなりません。自転車に傘をくくりつける道具も販売されていますが、それを使うことも本当は禁止されており、雨の日に自転車に乗る際には、レインコートを着用すべきなのです。 そもそも、雨の日に自転車に乗ることは危険と隣り合わせの行為です。筆者は昔、小雨のなか自転車に乗っていて路面でスリップして転び、大けがをしたことがあります。ほとんど通行人がいなかったため、他人を巻き込まなかったのは幸いでしたが、その日以来、雨の日に自転車に乗ることは、自分の命も他人の命も危険にさらす行為だと自らを戒めています。
 この安全運転義務違反には、みなさんが日常的にやってしまいがちな行為も多く含まれています。スマートフォンなどを操作しながら自転車に乗っていませんか?車の運転中にスマートフォンなどの操作をすることが禁止されているように、自転車でもスマートフォンを操作することは危険行為として禁止されています。ラインなどをしながら自転車に乗ることは、たとえ「チラ見」であってもやってはいけません。また、ヘッドホンやイヤホンをつけて音楽などを聴きながら自転車に乗ることも、危険行為として禁止されています。もちろん、自転車の2人乗りなどをすることはもってのほかです。
 また、12であげた「ブレーキのない自転車運転」には、最近はやっているピスト自転車(競技用自転車でありブレーキがついていない)に乗ることも含まれています。数年前にある芸能人がピスト自転車を運転していて道路交通法違反で違反切符を切られた事件もこれにあたります。ブレーキがついていない自転車で、不特定多数の人が通行する公道を走ることがどれほど危険な行為か、容易に想像がつくはずです。
 そもそも、自転車は道路交通法において「軽車両」と規定されています。運転免許をとる必要がなく、誰でも手軽に利用できる交通手段ですが、先にも見たように、一つ間違えると他人の命を奪ってしまうこともある危険な乗り物でもあるのです。多くの人が、電動アシスト自転車で買い物などに行くようになりましたが、電動アシスト自転車は、運転者が思っている以上にスピードが出ます。便利な反面、より危険でもあるということを自覚して利用したいものです。
 また、改正道路交通法では、これまでは比較的ゆるやかであった自転車の違反についての罰則・罰金の規定が、違反の回数によって段階的に厳しくなりました。3年間のうち1回の違反であれば、取締だけですみますが、3年間で2回違反をすると、安全講習への参加命令が出され、講習の受講と講習手数料5700円の支払いが義務づけられました。この安全講習への参加命令を無視した場合には、裁判所に呼び出されて5万円以下の罰金を支払うことになります。 たとえ未成年であっても、この罰則を逃れることはできません。自転車に乗るには、自動車と同じく正しい交通ルールを身につける必要があるのです。
あなたも加害者になるかも? - 歩行者と自転車の共生[ヨーロッパの事例] -
 それでも自転車を利用する人は都市部を中心に増え続けています。自動車の交通渋滞を横目にさっそうと走る自転車は、自動車のようにガスを排出しないため、環境に優しい乗り物ですし、自動車や公共交通機関を利用するよりも自転車を利用した方が、人々の健康管理にもよいからです。長い目で見ると、国民の健康が保たれて、増え続ける医療費の削減にも効果があると考えられています。
 また、若い世代の間では、高い維持費をかけてマイカーを持つより、自転車で身軽に移動するという新たなライフスタイルが定着しつつあります。
 しかし、日本で自転車が自由に通行できる環境はまだまだ整っていません。基本的に自転車は車道を走ることが義務づけられていますが、先日も、車道の端を自転車で走っていた男子小学生が転倒して、後続のトラックにはねられて亡くなるという痛ましい事故が起きました。歩道を我が物顔で疾走する自転車も問題ですが、自転車が車道を走ることにも危険が伴うのです。
 自転車先進国として知られるヨーロッパでは、自転車は最も普及した通勤・通学手段となっており、自転車専用道も設置されています。日本で都市部に自転車専用道が設置されている例はほとんどなく、歩道を走るか、車道の端を走るほかないことと比べると、驚くほどの充実ぶりです。また、日本では地方の私鉄を中心に自転車を鉄道に乗せて移動するサービスを推進していますが、ヨーロッパでは当たり前のことになっています。
 とくに、国土のほとんどが平坦なオランダでは、自転車での通勤を政府が推奨しており、自転車通勤をはじめるときに、政府から749ユーロ(2015年9月末の為替レートで約10万円)の自転車購入補助金が支給されます。また、勤務先の会社には汗を流すためのシャワールームや着替えのためのロッカールームも設置されています。オランダで自転車が普及したきっかけは、自動車による交通事故の激増に加え、1973年のオイル・ショックでガソリンの価格が高騰したことで、それまでの自動車中心のライフスタイルを見直したことにあります。
 日本も同じ年にオイル・ショックを経験しましたが、日本はオイル・ショックを経ても自動車の増産を続け、自動車産業は1980年代以降の日本経済を牽引する役割を果たしました。自動車産業の発達を優先するあまり、自転車で移動しやすい環境の整備を怠ってきた日本でも、ようやく自転車の利用が注目されてきています。改正道路交通法に定められた危険行為を行うことなく、楽しくそして安全に自転車を利用していきましょう。
バナー
デジタル新聞

企画特集

注目の職業特集

  • 歯科技工士
    歯科技工士 歯科技工士はこんな人 歯の治療に使う義歯などを作ったり加工や修理な
  • 歯科衛生士
    歯科衛生士 歯科衛生士はこんな人 歯科医師の診療の補助や歯科保険指導をする仕事
  • 診療放射線技師
    診療放射線技師 診療放射線技師はこんな人 治療やレントゲン撮影など医療目的の放射線
  • 臨床工学技士
    臨床工学技士 臨床工学技士はこんな人 病院で使われる高度な医療機器の操作や点検・

[PR] イチオシ情報

媒体資料・広告掲載について