世界の王室と日本の皇室-象徴天皇と生前退位を考える【憲法】

世界の王室と日本の皇室-象徴天皇と生前退位を考える


 今年8月に天皇陛下が生前退位の思いを示された「お気持ち」を表明され、象徴天皇としての基本的な問題提起がなされました。明治以降皇位継承は天皇の逝去に伴って行われており、現行の皇室制度を定める皇室典範にも生前退位の規定がありません。象徴天皇と生前退位の問題について考えてみました。

世界の王室と日本の皇室-象徴天皇と生前退位を考える - 象徴の公務についてのお気持ちを表明 -
 8月8日にビデオメッセージで全国民に示された天皇の『お気持ち』では、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではと案じています」と述べられています。
 天皇陛下は今年83歳におなりですが、高齢によって象徴としての務めが十分にできなくなることを危惧されて「生前退位」の意向を示されたのでした。
 憲法では「皇位は、世襲のものであって、国会の議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」(第2条)とありますが、皇室典範には生前退位の規定がなく、皇位の継承は天皇が亡くなられたときに限られています。
世界の王室と日本の皇室-象徴天皇と生前退位を考える - 皇室典範に「生前退位」の規定はない -
 このため生前退位を可能にするには、皇室典範の改正か、皇位制度に関する新たな法整備が必要となります。現行の皇室典範には退位後の天皇の呼称や地位、役割の規定がなく、これらも合わせて検討が必要となります。皇位継承がなされれば「元号」も変わります。
 憲法は「天皇は日本国の象徴であり、日本国民統合の象徴であって、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」(第1条)と規定しています。
 天皇が重い病などで、象徴天皇としての公務(国事行為)を全うできなくなったとき、現行の皇室典範では天皇の位は維持したまま皇位継承順位の最も高い後継者が一時的に代行する「摂政」を置けることになっています。
 かつて昭和天皇が大正天皇の摂政を務められたことがありますが、天皇が望まれている生前退位は天皇の位そのものを生前に引き継ぐもので、摂政とは異なります。

- 求められる象徴天皇の新たな制度設計 -
 歴代政府や宮内庁は生前の退位や譲位に否定的な見解を示してきました。その理由として①歴史上に見られた上皇や法王といった存在が出て弊害を生ずる恐れがある②天皇の自由意思に基づかない退位の強制があり得る可能性がある③天皇が恣意的に退位できると皇位の安定性を脅かすなどを挙げています。
 その上で摂政や国事行為の臨時代行の制度で十分対処できるとしてきました。しかし、今回の「お気持ち」では、現在の憲法や皇室典範による皇室の制度を基本から見直して、高齢社会にふさわしい象徴天皇の新たな制度設計を求められたといえます。

- 世界の王室で相次ぐ「生前退位」 -
 世界には英国、オランダ、デンマーク、スエーデンなど27の王室が存在します。近年高齢などを理由に国王らの生前退位が相次いでいます。
 スペインでは2014年に前国王のファン・カルロスⅠ世が高齢を理由に法改正して退位し、フェリペ皇太子がフェリペ6世として王位に付きました。前年の13年にはベルギーの前国王のアルベール2世が、またオランダのベアトリックス前女王が75歳の誕生日を前に退位しました。
 前ローマ法王のベネディクト16世も高齢を理由に、法王としては約600年ぶりに生前退位して現法王のフランシスコが就任しました。06年にはブータンでも国王が生前退位して26歳だった皇太子が即位しています。

- 今後、議論を重ねた法整備が注目される -
 ただ、90歳と高齢の英国のエリザベス女王は、制度上生前退位が認められていますが国民の人気が高く議論にのぼっていません。
 在位期間70年を超えるタイのプミポン国王は今年10月に88歳で死去しました。2014年以来、大半を病院で過ごしていましたが、国民にカリスマ的人気があり、国の政情不安もあって、「生前退位」の議論はタブー視されていました。
 このように海外の王室でも高齢による生前退位は国情によって様々です。今後、天皇の生前退位の「お気持ち」をどういう形で受け止め、過去の皇室制度、象徴天皇の在り方を検証しつつ、どのように法整備を行っていくかが注目されます。

「多忙な天皇のお仕事」
世界の王室と日本の皇室-象徴天皇と生前退位を考える - 全国500カ所を巡り公式行事は約230回 -
 天皇は内閣の助言と承認によって、内閣総理大臣や最高裁判所長官の任命、国務大臣などの任免の承認、国会の召集や法律・条約の交付など、憲法に定められた国事行為を行います。宮内庁によりますと、2015年に約1060件の書類に署名・押印されたとのことです。
 憲法には定められていませんが、公人として約230回(15年)に及ぶ天皇皇后両陛下主催の会見や晩さん会。国際親善の公式晩餐や午餐、茶会などが開催されます。外国元首とのご親書、ご親電の数は約610件にのぼります。全国戦没者追悼式や各種学会、障害者福祉施設の訪問などは全国500カ所以上に及びます。さらに大震災や大規模災害時には被災地の慰問に回られます。
 このほか「私的行為」として皇室が伝統的に行ってきた宮中での儀式である「宮中祭祀」があります。また日本神道の神官の長である宗教者としての仕事があります。
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