9年目を迎える裁判員制度を検証【憲法】

9年目を迎える裁判員制度を検証


 日本の司法制度は、戦後新しい憲法の下でスタートしました。しかし、年月の経過とともに裁判期間の長さ、多大な費用、法曹界の閉鎖性などの問題が指摘されるようになりました。このため、1999年以降、「国民の視点、感覚を裁判に反映させる」ことを目指して司法制度改革が進められてきました。裁判員制度は、この改革の大きな柱となっています。2009年5月21日にスタートした裁判員制度が、現在までどのように推移してきたかを検証してみました。

9年目を迎える裁判員制度を検証 【国民が裁判に参加する「裁判員制度」】
- 国民の視点、感覚を裁判の場に -
 日本の裁判は、法曹三者と呼ばれる裁判官や検察官、弁護士など法律の専門家によって行われてきました。しかし、専門性を重視するあまり、国民には審議の内容や判決が理解しにくいと指摘されてきました。
 このため、1999年7月に内閣に司法制度改革審議会が設置され、2001年11月に司法制度改革推進法が成立しました。司法制度改革では、裁判の迅速化、法曹人口の拡大と養成制度の改革、国民の司法への参加を改革の中心に据えています。具体的には、「裁判員制度」の導入、「法科大学院」の設置、そして国民が利用しやすい「法テラス」などが開設されました。
 裁判員制度とは、無作為に選ばれた国民が裁判員として裁判に参加する制度です。国民が裁判に参加することで、国民の視点や感覚を裁判の内容に反映することが出来ます。この結果、国民にとって裁判が身近なものになり、司法に対する理解や信頼が深まると期待されています。
9年目を迎える裁判員制度を検証 - 裁判員制度の仕組み -
 日本の裁判は三審制を採用しています。裁判員制度の対象になるのは、地方裁判所で行われる第一審で、殺人や強盗致死傷、放火、身代金目的の誘拐、危険運転致死、覚せい剤取締り法違反など国民の関心の高い刑事事件に限られます。このため、第一審での判断が上級審で覆ったり、量刑が変わることがあります。
 裁判員裁判の裁判員は、選挙権のある人の中から選ばれます。2016年6月の公職選挙法の一部改正で、選挙権年齢が18歳以上に引き下げられましたが、裁判員は当分の間、20歳以上の選挙権のある人から選ばれます。
 裁判員の選定は、地方裁判所ごとに管内の市町村の選挙管理委員会が、くじで選んで作成した名簿に基づいて裁判員候補者名簿を作成します。裁判員候補者には、裁判所から名簿に登録されたことが通知され、客観的な辞退理由に該当するかを問う調査票が送付されます。
 裁判員はこの候補者名簿の中から、一つの事件ごとにくじで無作為に選ばれます。裁判員候補者は、裁判所から呼び出しを受けると、指定された日に裁判所に出向きます。そこで、裁判長から不公平な判断をしないか、辞退を希望するかなどの質問を受け、最終的にくじで6人の裁判員が選ばれます。

- 裁判員の仕事や役割 -
 裁判員に選ばれると、裁判官と一緒に刑事事件の審理(公判)に出席します。裁判官3人と裁判員6人で行われる公判では、提出された証拠品や、証人や被告人に対する質問が行われます。証拠調べなどが終ると、検察官の意見陳述(論告)、弁護人の意見陳述(弁論)が行われ、審理は終了となります。
 公判が終わると、裁判員は裁判官と対等に証拠に基づいて被告人が有罪か無罪、有罪であればどんな刑罰にすべきかを論議(評議)し、決定(評決)します。全員一致の結論が得られない時は多数決で評決します。ただし、有罪であると判断するには、裁判官と裁判員のそれぞれ1名以上を含む過半数の賛成が必要です。
 評決内容が決まると、法廷で裁判長が判決の宣言をします。判決の宣言で裁判員としての仕事は全て終了します。しかし、裁判員には評議・評決の内容について守秘義務が課せられています。後で評議や評決内容が明らかになると、判断に対する批判などを恐れて裁判員が自由で率直な意見を述べにくくなるからです。

【裁判員制度の実施状況】
- 2014年末までに7262人に判決 -
 裁判員制度は2009年にスタートし、今年で9年目を迎えます。この間、裁判員制度はどのように推移してきたのでしょうか。
 最高裁判所の調査(統計データ・裁判員経験者等のアンケート)によると、2009年5月に裁判員制度が始まってから2014年末までの間に、裁判員裁判で7262人の被告人に判決が言い渡されました。罪名別判決人員では、強盗致傷事件(1614人22・2%)、殺人事件(1597人22・0%)、傷害致死事件(715人9.8%)、現住建造物等放火事件(670人 9.2%)の順になっています。これら地方裁判所の一審の判決を不服とし、約35%の人が二審に控訴しています。
 裁判員裁判に選ばれた裁判員は4万1834人です。性別では男性が54・9%、女性が43・3%、無回答1.8%となっており、年齢も各年代からまんべんなく選ばれています。職業についても、会社員、パート・アルバイト、専業主婦・主夫、自営・自由業など各分野に及んでいます。

- 裁判員裁判に参加した日数は約5.3日 -
 裁判員の選任手続きは、1事件あたりの裁判員候補者約92人が選ばれ、このうち60・2%の人の辞退が認められました。辞退の理由として、年齢70歳以上(69・4%)が一番多く、次いで重い病気やけが(27・0%)、学生または生徒(3.5%)などとなっています。また、事前に辞退が認められた人を除いた人のうち、76・5%にあたる約29人が裁判所で行われる選任手続きに出席し、この中からくじで6人の裁判員が選ばれています。
 裁判員が裁判手続きに参加した日数は約5.3日となっています。また、判決の内容を決める評議の時間は約9.8時間でした。

【裁判員制度が抱える重い課題】
- 裁判員をためらう人が増加 -
 最高裁判所の調査によると、裁判員に選ばれる前は「あまりやりたくなかった」という人が約半数でしたが、裁判員を経験した人の大半は「良い経験をした」と答えています。こうしたことから、裁判員制度は順調に推移してきたといえるでしょう。
 しかし、目を辞退率に転じると、裁判員制度が抱える問題点が伺えます。裁判員制度では、法令で定められた理由や病気、高齢などの理由で辞退することが出来ます。裁判員制度がスタートした2009年の辞退率は53・1%でしたが、それ以降毎年上昇し、2015年には64・9%に達しています。逆に出席率は年々低下しています。裁判員候補者は、裁判所から呼び出しを受けると、裁判員を選ぶ手続きに出席しなければなりません。正当な理由がなく欠席すれば、10万円以下の過料が科せられます。それにも拘らず2009年に83・9%だった出席率が、2015年には67・5%にまで低下しています。

- 裁判員裁判に参加する不安 -
 なぜ辞退率が高まり、出席率が低下しているのでしょう。最高裁判所の調査では、出席をためらう理由として、自分が被告人の運命を決める、素人が行う判決に不安、逆恨みの心配、遺体など証拠品との接触、仕事への支障、守秘義務などが挙げられています。
 昨年5月、北九州市で裁判員に元暴力団員が声をかけて脅したという事件がありました。元暴力団員は裁判員法違反で逮捕・起訴されました。この事件で裁判員4人と補充裁判員1人が辞退し、裁判員を除外して裁判官だけで審理し、実刑判決が言い渡されました。このような事件が続くと、裁判員裁判への不安が高まり、国民の司法への参加が遠のくことが心配されます。

- 国民参加という理念を確立するために -
 裁判員制度は、国民が司法に参加し、国民の素直な視点、感覚を司法の場に生かそうという理念でスタートしました。このため、国民が安心して参加できる制度の構築が急がれています。
 2015年6月に裁判員法が一部改正され、審理期間が長期にわたる事件は裁判官だけで審判を行うことになりました。また、災害で被害を受けた時は辞退できるなど物理的負担の軽減が図られました。
 しかし、精神的負担が大きい死刑などを判断する事件については今後の議論に委ねられています。裁判員の守秘義務も大きな負担です。裁判員の守秘義務と裁判員裁判の貴重な体験談の公表とをどう折り合わせるか考える必要がありそうです。不安を抱きながら裁判員を経験した人の多くは、貴重な経験をしたと振り返っています。これらの人々の経験談を聞くことで、これから裁判員になる人の不安が少しでも解消できるかも知れません。
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