発明やデザイン、音楽などの知的財産とは【文化】

発明やデザイン、音楽などの知的財産とは


【特許権、意匠権、著作権はどう保護される】
2020年東京五輪エンブレムの盗用疑惑を機に、知的財産の問題が改めてクローズアップされました。知的財産とは発明やアイデア、デザイン、小説や音楽など人間の知恵から生まれた財産のことですが、それらは権利として法的に守られています。知的財産はどういう形で保護されているのでしょうか。知的財産権について考えて見ましょう。

発明やデザイン、音楽などの知的財産とは - 知的財産は人間の知恵から生まれた創作物 -
 私たちの暮らしはスマ ホやパソコン、DVD、エアコンなどさまざまな発明によって便利になり、音楽や動画を楽しみ、書物やネットからさまざまな情報や知識を得ることができます。日々新たに生み出される技術やアイデアなど、人間の知恵から生まれた創作物を「知的財産」と言います。
 またロゴマークやブランド(商標)、日頃親しんでいる商品名(ネーミング)や会社名(屋号)などのように、長年使用して信用という価値が備わっているものも知的財産に含まれます。
 知的財産にはいろいろな種類があります。新しい機能を備えたスマホやパソコンの開発、製造方法などの技術は「発明」と呼ばれ、身の回りの生活用品のちょっとした改良工夫などを「考案」といいます。
 機能を追求した工業デザインや、ファッション性や装飾性をアピールしたインテリアや商業デザインは「意匠」と呼びます。
 さらに商品の名前(ネーミング)や、SONY、TOYOTAといったブランド。クロネコヤマトやマクドナルドなどのロゴマークは「商標」で、映画や音楽、小説、アニメ、絵画などは「著作物」と言います。
発明やデザイン、音楽などの知的財産とは - 創作者の権利を守る知的財産権制度 -
 知的財産はいずれもかけがえのないものですが、隠しておくことが難しいため他人に真似されやすい性質があります。
 多くの資金や時間をかけ、苦労して生み出したアイデアや技術を、他人に勝手に真似されたのでは新しいものを作ろうとする意欲を失ってしまいます。
 モノマネやパクリ、コピーなどの行為を放置すれば、作者の創作意欲を失わせるだけでなく、斬新な技術開発や独創的な文化の発展を損なうことになります。
 このため、アイデアや技術、さまざまな発明品や創作物を「知的財産」として認定し、創作者に無断で真似たり盗用を防ぐためのルールとして「知的財産権制度」を設けて権利を保護しています。

- 特許権の保護期間は申請から20年 -
 知的財産の中で「発明」は特許法で特許権として保護されています。「考案」は実用新案権として、また「意匠」は意匠権、「商標」は商標権、「著作物」は著作権としてそれぞれ創作者(開発者)の知的財産が守られています。
 このうち特許権、実用新案権、意匠権、商標権の4つを産業財産権(工業所有権)といい、産業の発展を図るための権利として、特許庁で扱っています。また、著作権は文化の発展を目的とする権利で、文化庁が管轄しています。
 まず特許制度は、発明した人に自分の発明を一定期間(特許出願から20年間)独占的に使える特許権を与えています。発明者の権利を保護することによって発明意欲を高めているのです。
 また「発明の公開」といって、特許出願された発明の内容を一定期間が過ぎると公開し、第三者がそれをヒントに新たな発明に取り組んだり、発明者から許可をもらってその発明を利用することができるようにしています。
発明やデザイン、音楽などの知的財産とは - 音程や色彩、ロゴの動きも商標の対象に -
 企業のマークや商品の名前、ロゴ字体やロゴマーク、ブランド名など、他人のモノと区別するために使用するマークや名称などを「商標」と言います。
 私たちがよく目にするクロネコヤマトやマクドナルド、スターバックスやマックスバリュー、トヨタやホンダのマークなどがそうです。
 商標は、企業が長年培ってきた消費者の信頼の証とも言われるもので、私たちは「商標」を一つの目印として商品を選んだりサービスを利用したりします。
 今年4月から改正商標法が施行され、これまで文字や図形、記号、立方体など形のあるものに限られていた商標の対象に、音や色彩、動きなどが新たに加わりました。
 商標法の改正で商標の定義が変更されたのは18年ぶりで、CMで流れる商品名や企業名の音程やロゴマークの色彩や動きなども保護されます。
 例えば、久光製薬のCM効果音の「♪ヒ・サ・ミ・ツ」や、大幸薬品のCMで流れる「正露丸のラッパのメロディ」。色彩ではトンボ鉛筆のMONO消しゴムの「青・白・黒の三色柄」などが商標出願されています。
発明やデザイン、音楽などの知的財産とは - 著作権は作品の誕生とともに自動的に発生 -
 特許権、商標権、意匠権が「産業財産権」と呼ばれるように、産業経済の発展を目的とした知的財産権なのに対し、著作権は文化の発展を目的とした知的財産権です。
 音楽や絵画をはじめ小説、漫画、映像、コンピュータープログラムなどが対象です。
 著作権は登録する必要が無く、作品を創作した時点で自動的に権利が発生し、著作者の死後50年間保護されます。
 著作権法の大きな特徴は、独自に創作したものには著作権が及ばないことです。他者の著作物の真似や複製は許されませんが、自分が独自に製作したものが結果として他者の著作物と似たものになった場合は著作権侵害とはなりません。
 一度決まった東京五輪の公式エンブレムが、ベルギーの劇場ロゴに酷似していることが発端となって白紙撤回されました。商標権や著作権を侵害したのか、たまたま類似のデザインだったのか議論の分かれるところですが、知的財産の保護のシビアさを物語っています。
 著作権と関連して「著作隣接権」というのがあります。音楽の場合、作詞家や作曲家の他に、音楽を普及する役割を担った歌手や演奏者、レコード会社や放送会社、有線会社などの権利を保護しています。

- 今年は特許制度が導入されて130年 -
 日本に特許制度が導入されて今年で130年になります。1885年(明治18年)に現在の特許法の前身である「専売特許条例」が、初代特許庁長官を務めた高橋是清らによって公布されました。以来約520万件の特許権が生まれました。
 意匠制度は3年後の1888年(明治21年)に導入され、これまでに約150万件の意匠権が生まれました。日本は今年5月に意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定に米国と共に加盟しました。これによって一つの国際出願によって、加盟64カ国の中から希望する複数の国に意匠の保護を一括して登録できるようになりました。
 一方、商標制度は特許制度が始まる1年前の1884年に導入されました。商標権は更新することができ、現在約180万件の商標が登録されています。
 ちなみに日本の特許第1号は1885年に東京の堀田瑞松が出願した「堀田式錆び止め塗料とその製法」です。商標の第1号は同じ年に京都の平井祐喜の売薬店の商標で、意匠の第1号は1889年に登録した栃木県足利の須永由兵衛による織物縞の意匠です。

【特許の歴史】
- 近代特許法の始まりは17世紀イギリス -
 世界で最初の特許法は1474年にヴェネチア共和国で誕生した「発明者条例」と言われます。ルネッサンス期を代表する芸術家、博学家であるレオナルド・ダ・ビンチは、ヘリコプターや回転距離計などを次々発明して「万物の天才」とうたわれました。
 また温度計、望遠鏡、比例コンパスなどを発明して「近代科学の父」とよばれたガリレオ・ガリレイは、「揚水機」のアイデアを独り占めするため1594年に特許権を取得しました。
 近代特許法の始まりは、英国が1624年に制定した「専売条例」です。発明者や最初に事業化した創業者に特許状を発行して、14年間の特許権が与えられました。この専売条例の下で、ジェームスワットの蒸気機関や、リチャード・アークライトの紡績機などが次々開発されて産業革命の原動力となりました。
 英国から独立したアメリカが1788年に公布した合衆国憲法第1条には、特許権に関する条文が記されています。1790年に「連邦特許法」が成立し、浅瀬を航行する船の構造で特許権を取得したリンカーン大統領を始め、歴代大統領はプロパテント(特許重視)の政策を打ち出しました。
 このおかげでエジソンやグラハム、フォード、イーストマン・コダックなど偉大な発明家を多数輩出しました。

【TPP交渉と著作権問題】
- 非親告罪化で誰もが著作権侵害を提訴可能 -
 非関税取引をはじめ、高度な貿易自由化を目指したTPP(環太平洋経済連携協定)交渉が、米国をはじめとした交渉12カ国で今年10月に大筋合意に達しました。このTPP交渉では著作権を巡って激しいやり取りが行われました。
 米国を中心に著作権侵害の「非親告罪化」を主張する声が強く、著作権の保護期間も著作者の死後70年(日本の現行法は死後50年)となる見通しです。
 現在、わが国では著作権の侵害に対しては、権利を侵害された著作者が訴える「親告罪」となっています。これが「非親告罪化」すると、権利を持つ著作者が訴えなくても第三者が告発でき、基本的に刑事事件として警察が捜査することができます。
 著作権侵害の「非親告罪化」は、映画やコンテンツ輸出が主産業となっている米国が、海賊版対策として強く導入を進めており、ドイツやオーストラリアなども非親告罪となっています。
 原作の改変や変更、原作をモチーフにしたパロディーやカバー曲、既存の作品を利用したリメーク作品、フィギュア、イラストなどの「二次創作」が大きく規制されることになります。
 第三者や警察が告発して刑事責任を問われれば賠償を迫られため、著作権の「非親告罪化」は、これまでの二次創作文化が衰退してしまう恐れがあるとも言われます。
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