動き出すプルサーマル計画【環境】

動き出すプルサーマル計画


【エネルギー自給率わずかに4%、原発を含めても19%】
 エネルギー資源の実に96%を海外からの輸入に頼っている日本にとって、将来にわたってエネルギーの安定供給を確保していくためには資源のリサイクルシステムを確立する必要があります。クリーンなエネルギーである原子力発電の燃料であるウラン資源を有効に活用してエネルギーのリサイクル社会を構築する上で、プルサーマル、つまり原発燃料のリサイクルは極めて重要な技術といえます。

動き出すプルサーマル計画  プルサーマルの必要性は、1972年の原子力開発利用長期計画で明記され、その後1990年代後半からプルサーマルを本格的に実施する計画が打ち出されました。電力各社はこの計画に基づいて2010年度までに16~18基の原子力発電所でプルサーマルの実施を目指して取り組んでいます。電力各社は、実施に必要な輸入燃料体の検査や、プルサーマルへの原子炉設置変更許可を相次いで国に申請しており、地元自治体も受け入れに前向きな姿勢を示しています。
動き出すプルサーマル計画 【電力各社、プルサーマル2010年度実施に向け拍車がかかる】
 最近の電力各社のプルサーマル計画の動きを追ってみましょう。まず、関西電力は福井県高浜町の高浜原発3号、4号(いずれも定格出力87万キロワット)で行なうプルサーマル計画に使用するウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料を製造するため、昨年11月に経済産業省に対して輸入燃料体検査の申請を行いました。関西電力は高浜原発3、4号で使用するMOX燃料16体をフランスのメロックス社の工場で今年から製造の運びとなっています。
 一方、中部電力は2008年3月に静岡県御前崎市の浜岡原子力発電所4号機(定格出力113.7万キロワット)で予定しているプルサーマル発電用MOX燃料の輸入燃料体検査申請を行い、フランスのメロックス社の工場で製造を始めています。中国電力も昨年10月末、島根県松江市の島根原子力発電所2号機(定格出力82万キロワット)でMOX燃料を使用するプルサーマル発電への原子炉設置変更申請が経済産業大臣から許可されました。
 さらに四国電力は、愛媛県西宇和島郡伊方町の伊方原子力発電所3号機(定格出力89万キロワット)のプルサーマルで使用するMOX燃料を昨年4月からフランスのメロックス社の工場で製造しています。このように九州電力、四国電力、中部電力の3社はすでにMOX燃料の製造に着手しており、2010年度までのプルサーマル実施に意欲を燃やしています。
 このほか、北海道古宇郡泊村の泊原子力発電所3号機(定格出力91.2万キロワット)で北海道電力がプルサーマルを予定していますが、これについて昨年11月16日に有識者会議が「安全性は確保できる」とする最終報告の素案をまとめて実施へ一歩前進しました。
 この泊原発3号機は、2003年に着工、2009年12月に運転開始の予定で、3号機が稼動する時点で1号機、2号機、3号機を合わせると、北海道の電力需要の40%以上が原子力エネルギーでまかなわれることになります。
 また、東北電力も昨年11月、宮城県牡鹿郡女川町の女川原子力発電所3号機(定格出力82.5万キロワット)でプルサーマル計画実施のため、宮城県などに安全協定に基づく事前協議を申し入れると共に、国に対してプルサーマルのための原子炉設置変更許可を申請するなど、実現の方向に動き出しています。
動き出すプルサーマル計画 【話題を集める世界初のプルサーマル専用Jパワー・大間原発】
 一連のプルサーマル計画の中でもとくに注目されているのがJパワー(電源開発)が青森県下北郡大間町に建設中の大間原子力発電所(定格出力138.3万キロワット)です。使用済み核燃料から作るウラン・プルトニウム混合酸化物燃料(MOX燃料)だけで動く世界初のプルサーマル専用の原発で、政府の原子燃料リサイクル政策の中核を担うものです。
 地元大間町はじめ周辺3町村が一貫して誘致を支持して昨年5月着工にこぎつけたのでした。原発立地が難航している昨今、極めて異例の珍しいケースといえます。大間原発は2014年11月完成予定で燃料は濃縮ウラン燃料、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料のMOX燃料です。
 ところでこのMOX燃料とは一体どういうものなのでしょうか。正式にはウランとプルトニウムを酸化物の形で混合した燃料(MOX=Mixed Oxide...ウラン・プルトニウムコング酸化物燃料)といいます。
 従来の原発はウラン燃料(燃えやすいウラン235が約4%と、燃えにくいウラン238が約96%)を使用しています。これに対してプルサーマルで使用するMOX燃料は、使用済み燃料から取り出したプルトニウム約10%と、燃えにくいウランなど約90%からなっています。
 このようにリサイクルが可能なウランとプルトニウムをプルサーマルで再利用することによって天然ウラン資源を約25%節約することが可能といわれています。さらに使用済み燃料を再処理すると、再利用できるプルトニウムやウランと、再利用できない廃棄物に分別することができます。
 分別された高レベルの放射性廃棄物は、ガラスと混ぜて専用容器に封入されますが、もし使用済み燃料を再処理しなければ、すべての使用済み燃料が長期間の保管・管理が必要な高レベルの放射性廃棄物となってしまいます。再処理によって使用済み燃料をプルサーマルに再利用することで高レベル放射性廃棄物を半分以下に減らすことができるのも、プルサーマルの大きなメリットといえます。
動き出すプルサーマル計画 【使用済み放射性廃棄物の再利用はどう進められるのか】
 ところで原発の使用済み核燃料の再処理工場としては、茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の再処理工場(最大処理能力は年間ウラン210トン)がありますが、1993年から約2兆1990円の巨費を投じて日本原燃が青森県上北郡六ヶ所村に六ヶ所再処理工場を建設しています。現在わが国の商用原子炉は全国17ヶ所の原子力発電所で、55基ありますが、日本全国の原子力発電所で燃やされた使用済み核燃料を集め、その中から核燃料のウランとプルトニウムを取り出す再処理工場なのです。
 最大処理能力は年間ウラン800トン。使用済み燃料貯蔵容量はウラン3000トン。昨年2月から本稼動に向け、アクティブ試験という試運転を行なっています。
 このアクティブ試験では17ヶ月をかけて本物の使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、施設の安全性や環境への影響、放出される放射線物質の量の確認などを行なうもので、430トンを再処理して4トン程度のプルトニウムを取り出すとしています。
 日本原燃ではまた、ウラン再処理工場の建設に続いて、ここから取り出される再処理燃料であるウランとプルトニウムからMOX燃料の加工工場を建設する計画です。この加工工場では二酸化プルトニウムの粉末と二酸化ウランの粉末を混合してセラミック状に焼き固め、金属の管に密封して燃料棒を作ります。そしてこの燃料棒を束ねて燃料集合体とし、プルサーマル用に原発に出荷するのです。
 日本原燃が計画しているわが国初のMOX燃料加工工場は青森県六ヶ所村の再処理工場の近接地に建設。2012年内に操業予定で、年間130トン―HMのMOX燃料製造能力を持つとされています。

【プルサーマルは核燃料資源節約と放射性廃棄物削減の切り札】
 世界の原子力発電所では、1960年代からプルサーマルの実施が始まり、とくにフランス、ドイツ、ベルギーなどヨーロッパを中心に、これまでに約60基の原子炉で、5000体以上のMOX燃料が利用されています。
 わが国でも関西電力美浜原電1号機と、日本原子力発電・敦賀原発1号機でMOX燃料の実証試験を行って燃料の賢税制が確認されています。また日本が独自に開発した新型転換炉「ふげん」で燃料の7割程度までMOX燃料の使用実績があり、1979年から2003年3月の運転終了までに772体のMOX燃料を使用しています。
 政府が2005年に閣議決定した「原子力政策大綱」によりますと、2050年ごろから夢のエネルギー源といわれる高速増殖炉の商業ベースでの導入を目指しています。しかし少なくとも高速増殖炉が導入されるまではウラン資源、プルトニウム資源を節約し、有効活用する観点からも、原発燃料をリサイクル使用するプルサーマルが極めて必要な技術ということになります。
 それは政府の原子力政策大綱でも「わが国においては、使用済み燃料を再処理し、回収されるプルトニウム、ウラン等を有効活用するという基本的方針を踏まえ、当面、プルサーマルを着実に推進することとする」と明示されています。
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