「生物多様性」って知っていますか?【環境】

「生物多様性」って知っていますか?

- はじめに -
 みなさんは、生物多様性という言葉は聞いたことがありますか。
 新聞やテレビの報道で「生物多様性条約COP10が今年の10月18日から開幕した」というニュースで聞いたことがあるかもしれません。〝COP〟とは、〝Conference Of the Parties〟の略で、生物多様性条約に参画している世界の国々が集まる会議のことを指しており、その第10回目の会議だから〝COP10〟と呼ばれています。
 この会議では、世界から、国際機関の人・各国政府の代表者・専門の学者・NGOといった、様々な人たち約8000人が愛知県名古屋市に集まって「生物多様性の保全をどう進めていくか」という問題を話し合っています。
 さて、そんな生物多様性についてですが、言葉が新しすぎるので興味なしでしょうか。それとも、時事問題として試験に出るかもしれないから、興味ありでしょうか。
 いえ、いえ。もう一歩踏み込んで、「私」にとって、生物多様性とはどういうつながりがあるのかを考えてみませんか。その先には、「地球」にとって生物多様性がどういう問題があるのか、考えるきっかけになるかもしれません。
 ということで、お題をひとつ。「生き物が生きていく」とかけまして、「初恋の人に告白する」とときます。そのこころは?

「生物多様性」って知っていますか? - 「生物多様性という言葉なんて、知らない」 -
 「生物多様性」という言葉は、2つの単語からできています。
 〈生物〉は、もちろん、生きている物。私たち人間や野鳥などの動物、米や野菜、森の樹木などの植物、目に見えない乳酸菌やバクテリアといった小さなものたちのことです。〈多様性〉は、いろいろと種類の違ったものがある状態のことです。
 この2つの言葉を組み合わせて、動物・植物・菌類などといった様々な生き物が、食べたり食べられたりしながら、そこかしこに棲んでいるという状態を「生物多様性」と表現しています。これは、生き物のにぎわいなどといいかえてもよいかもしれません。
 世界には、どれほどの種類の生き物がいるのか。タヌキで1種、スズメで1種、ニホンミツバチで1種、イロハモミジで1種…と数えていって、人間が発見しているだけで約174万種の生き物が確認されており、まだ発見されていない種類を含めると、3000万種以上いるのではないかと推定されています。
 生物が多様であるためには、これらの生き物がお互いに複雑に関わり合っている(有機的につながっている)ことが重要です。この生き物同士の有機的なつながりを「生態系」といいます。
 さて、問題は、生物多様性が自分にとってどういう意味があるのか、さっぱりイメージできないことでしょうか。生き物が身の回りにわんさかいたところで、「私」に何の関係があるのかと。
 生物多様性という言葉を知らないというのは、「私」に限った話ではないかもしれません。上のグラフを見てください。
 「生物多様性」という言葉を知っているかどうかを尋ねた平成21年のアンケート調査の結果によると、この言葉の意味を知らないという人は8割を超えていました。
 「生物多様性」という言葉を知らないこと自体は、恥ずかしいことではなさそうです。「じゃあ、これからも知らなくていいや」。おっと、それでは、若干もったいない。知らないということを知ったからには、ちょっとは知ってみよう。そう思っていただけたら、次に進んでみましょう。
「生物多様性」って知っていますか? - 「私」にとっての生物多様性 -
 生態系サービスという難しい言葉があります。私たち人間は、自然から様々な恩恵を受けて暮らしている、つまり、生活をするのに必要なサービスを生態系からもらっているという意味です。
 朝起きて、陽が差して、顔を水で洗って、朝食にパンと卵焼きを食べる。電気で動く列車に乗って学校へ行き、紙の教科書を開いて、大きなあくびで酸素を肺に取り込んで二酸化炭素をはき出す。夜は、眠いのにコーヒーをすすりながら宿題をこなしつつ、木製の机の上で居眠りすると、親が肩に綿の入った布団をかけてくれる。
 「私」の日常生活のどこを切り取っても、自然エネルギーや生物由来の資源を使わない瞬間はありません。
 食べるもの、着るもの、身の回りで生産されているあらゆるものは、資源の採取から製造・流通・販売されて、私たちの手に渡って捨てられるまで、自然資源やエネルギーを消費し、二酸化炭素や廃棄物を排出しています。
 ところが、できあがった製品を普段の生活の中で使っている限りは、これらの様子を見ることができません。
 そこで、これを見えるようにしたものが次の図です。製品の製造から廃棄までの流れと生態系との関係を示したものが図3、食品が加工されてから廃棄物として捨てられるまでの流れとその廃棄物量を示したものが図4です。
 これを見ると、製品の製造・流通・販売・廃棄の各過程で環境に様々な負荷を与えていることがわかります。また、食料として使われたもしくは加工された9100万トンの食品から1900万トンのゴミが出ているが、そのうち500~900万トンは食べられるはずの食べ残しや売れ残りだとわかります。その中には、昨日の夕飯で食べずに捨てた、「私」の食べ残しが含まれているかもしれません。
 このような、普段は見えない問題だが、それを見やすいようにすることを「見える化」と呼んでいます。
 生態系サービスから受けている恩恵や、私たちが生態系に与えている負荷を「見える化」する努力は、あちこちでなされています。生態系サービスの「見える化」は、私たちと自然の有機的なつながりを確認する、つまり、私たち人類も生態系の一員であることをしっかり認識することでもあります。
 「私」にとっての生物多様性を理解するには、「私」が生物資源からどのようなサービスを受けているのか、自分で「見える化」してみるところから始めるとよいかもしれません。
「生物多様性」って知っていますか? - 自然のめぐみを実感する -
 生態系サービスとは、昔ながらの日本の言葉でいうと、自然のめぐみです。その自然のめぐみを見えるようにすることを「見える化」だといいました。しかし、それは、誰かの体験を図や表や数字にしたものであって、「私」の実体験ではありません。
 その自然のめぐみを、言葉でなく実体験として理解するにはどうしたらいいか。一番よいのは〈現場に見に行くこと〉でしょう。
 幸いなことに、日本には、世界遺産条約に基づく世界自然遺産のリストに掲載されている屋久島、白神山地及び知床をはじめとして、世界に誇れる自然の姿をあちこちに見ることができます。
 たとえば、屋久島の森を歩いて、永い年月を経てうねるように倒れているスギの巨木を見るだけで、その森を支えてきた命がどういうものだったかを実感することができるでしょう。
 このような、生態系の豊かな地域を保護し、かつ、様々な体験ができるように整備されている場所として、全国各地に自然公園法に基づく国立公園や国定公園が全部で85箇所あります。是非一度訪れて、山の中を散策し、温泉でくつろぐなどしてみてください。

- 日々の暮らしから世界を見る -
 最後に、我が国がリーダーシップを発揮して、国際的に取り組みを強化しようとしている「SATOYAMA」イニシアティブを紹介します。
 SATOYAMAは「里山」のことで、農林業などを営む人々の暮らしの中で維持されてきた昔ながらの自然風景。手つかずの原生的な自然とは区別して、「二次的な自然」ともいい、人と自然がともに暮らしてきた証でもあります。
 世界各地にこのような二次的な自然環境があり、いずれも、急激な都市化や地域の高齢化など様々な事情で存続が危ぶまれています。
 我が国は、この二次的な自然の保全を世界的に進めるため、国際的な連携の強化を呼びかけています。私たちの日常は、世界にもつながっています。
 COP10を機会にして、「私」の暮らしと、自然と、世界との有機的なつながりを見つめ直してみてはいかがでしょうか。
 さて、最初のお題の答えです。「生き物が生きていく」とかけまして、「初恋の人に告白する」とときます。そのこころは、「どちらも、ゆうき(有機、勇気)がいりますね」。…失礼しました。
澤 邦之
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