「緑の原油」とは?【環境】

「緑の原油」とは?


 日本が産油国になる?そんな夢のような話が近い将来現実のものになるかも知れません。
 今、大学や民間企業、国の研究機関が一生懸命開発に取り組んでいる「緑の原油」がそれです。湖や海辺で無限に繁殖する海藻やアオコ、ミドリムシといった藻の仲間(藻類)から油を取り出して、自動車や航空機の燃料に利用するもので、数年後にも実用化の見通しです。
 日本のエネルギー問題が解決するのでは―と期待を集めている「緑の原油」を探ってみましょう。

「緑の原油」とは? - 「緑の原油」はマイクロメートル単位の微細藻類から採れる -
 みなさん、藻類といえば食卓に出るコンブやワカメ、青ノリ、モズクなどの海藻類を思い浮かべるでしょう。これら海に生息する藻類は海藻と呼ばれています。
 海岸の岩場を歩くと、緑や茶、赤など色とりどりの海藻を見かけますが、この海藻は体の色によって緑藻、褐藻、紅藻の三つに分けられます。
 よく食べるコンブやワカメは褐藻。寒天になるテングサや海藻サラダによく出るトサカノリは紅藻。そしてクロレラやアオノリは緑藻の仲間です。
 藻類は海だけでなく陸上の池や湖などの淡水の中にもたくさんいます。池や田んぼの水底をのぞくと、緑色をした毛のような藻を見ることができますが、この淡水にいる藻を淡水藻といいます。
 こうした藻類の大きさは、長さが20メートルにもなるコンブの仲間から、1センチにも満たない小さなものまでさまざまですが、肉眼では見えない大きさが数マイクロメートル(1マイクロは1000分の1ミリ)の、顕微鏡でしか見ることのできない微細藻類があります。
 そして、今回取り上げる「緑の原油」は、こうした肉眼では見えない、微細藻類の細胞の中にある油分から採れるのです。

- 私たちのごく身近には、無限の埋蔵量を持つ『油田』がある -
 一口に微細藻類といっても、その種類は10万種類にものぼります。このうち、アオコやミドリムシをはじめ、バイノス、ユーグレナ、ポトリオコッカスといった、舌を噛みそうな名前の微細藻類から「緑の原油」を採取しようとしています。
 湖や海に生育する微細藻類は、約30億年も前に、生命のスープといわれた海の中に出現しました。単細胞のもっとも原始的な初期の生物のひとつです。
 地球は太陽系とともに約46億年前に誕生しました。生まれたばかりの太古の地球は大気中に酸素が少なく、とても生物が存在できる環境ではありませんでした。
 地球の大気に酸素を供給して地球上に生物が生まれる環境を作り、多種多様な生物を繁殖させる原動力となったのが微細藻類なのです。
 微細藻類は植物プランクトンとも呼ばれ、海の中で光合成を行なうことで二酸化炭素を吸収し、酸素を大気中に放出していったのでした。
 地球の大気が、酸素を多く含んで今のようになったのは20数億年前といいます。不毛の惑星だった地球を、生命があふれるみずみずしい惑星に変えていったのは、海中の微細藻類、別名植物プランクトンだったのです。
 微細藻類は、二酸化炭素を吸収して酸素を出す光合成能力にすぐれ、単位面積当たりでトウモロコシの100倍以上もあります。
 なかでも、アオコ、ミドリムシ、ユーグレナなどは、とりわけ二酸化炭素の吸収能力にすぐれ、重油や軽油などと同じような成分を持つ「緑の原油」を合成します。
 微細藻類は、私たちの身近に無限に存在する『油田』なのです。
「緑の原油」とは? - 「化石燃料社会」にサヨナラして「低炭素社会」を目指そう! -
 現在の私たちの社会は、電気の大半を作る火力発電や自動車、航空機、船舶などの動力源、さらに冷暖房や給湯などエネルギー源の多くを石炭、石油、天然ガスに頼っています。
 これらの燃料は何千万年、何億年も前に死滅した動植物の死骸や残骸が、海底の地層に堆積してできたため、「化石燃料」と呼ばれます。
 この化石燃料は、燃やせば二酸化炭素をはじめとした温室効果ガスや、硫黄酸化物、窒素酸化物などの有害物資を排出して、地球温暖化や大気汚染の原因となっています。
 このため、化石燃料の使用には厳しい条件や制限が加えられています。さらに近い将来、石油に依存する社会から二酸化炭素の排出量を大幅に削減したクリーンなエネルギーによる「低炭素社会」を目指しています。
 政府は、2020年までに二酸化炭素の排出量を、1990年当時に比べて25%削減することを世界に約束しています。また、日本やアメリカなど先進8カ国は、2050年までに世界の二酸化炭素の排出量を半分にしようと、声を揃えて訴えています。
 近い将来自動車は、ガソリンエンジンとバッテリーモーターを併用したハイブリッドカーやガソリンを全く使用しない電気自動車が主流となるでしょう。
 家庭で必要とする電気は太陽光発電でまかなうようになり、水素を電気分解して電気を発生する燃料電池が広く普及するでしょう。
「緑の原油」とは? - なぜ今、藻類から作る「緑の原油」が注目されるのか? -
 二酸化炭素を排出しない水力発電や原子力発電、自然エネルギーの太陽光発電、風力発電などが、地球温暖化防止にふさわしい次の世代を支えるクリーンエネルギーとして脚光を集めています。
 しかし、化石燃料の次の時代を担うと期待されている原子力発電も、原料にウランやプルトニウムといった危険な放射性物質を使用しているため、安全性について不安がつきまといます。
 とくに、使用後に発生する不要となった放射性廃棄物の最終的な処理技術がまだ確立されていません。大半がコンクリート詰めにして土中深く埋設しており、将来にわたる安全性については、この問題をクリアしない限りメーンのエネルギーにはならないでしょう。
 安全でクリーンな風力発電や太陽光発電も、まだまだ発電量が少なく、エネルギー効率も低くて発電に伴うコスト(経費)が非常に高くついています。メーンのエネルギー源となるには、まだかなりの期間が必要といえます。
 そこで、湖や海に無限に生息する身近な藻類を原料とした「緑の原油」が、エネルギー問題から日本を救う『21世紀の救い主』として、大きな期待と関心を集めているのです。

- 水と太陽の光さえあれば、どこでも簡単に微細藻類を培養できる -
 藻類を原料とする「緑の原油」は、生物資源をルーツとしているため、バイオマス、またはバイオエネルギーのひとつに数えられます。
 みなさんは、バイオマスやバイオエネルギーという言葉を聞いたことがあると思います。
 例えばアメリカやブラジルでは、トウモロコシやサトウキビなどの食料資源を蒸してエタノールを精製し、自動車を走らせています。
 食料を原料とするバイオ燃料は「第1世代」と呼ばれます。また、草木や廃材、藻類など非食料を原料とするバイオ燃料を「第2世代」といいます。
 エネルギーの自給率が4%。食料自給率も40%と先進国の中でいずれも最低の日本にとって、一番期待されているのが「第2世代」の、それも藻類を原料とした「緑の原油」なのです。
 この「緑の原油」をたくさん採取するには、原料となる微細藻類を人工的に繁殖させて増やさなければなりません。つまり原料となる藻類の培養です。
 基本的には水と太陽の光がふんだんにあれば微細藻類はどんなところでも簡単に増やすことができます。
 ある試算によりますと、年間1ヘクタール当たりのバイオ燃料生産量は、大豆が1900リットル、パーム油(ヤシ油)が5950リットルに対して、藻類は一桁違う9万8500リットルです。
 4500万ヘクタールの培養池があれば、藻類から採れる「緑の原油」で世界の燃料需要をまかなうことができるともいわれます。
 将来、日本が産油国になることも夢ではないのです。

- アオコの細胞からガソリンと同等の「緑の原油」採取に成功 -
 それでは微細藻類を原料にした「緑の原油」の研究はどこまで進んでいるのでしょうか?
 「緑の原油」というのは、微細藻類の細胞にある油分を指しますが、財団法人電力中央研究所は、微細藻類の仲間であるアオコの細胞から、油分である「緑の原油」を効率よく取り出すことに成功しました。
 そしてアオコから取り出した「緑の原油」は、ガソリンと同等の発熱量を持つことが確認されました。
 自動車用品メーカーのデンソーは、2008年から慶応大学(先端生命科学研究所)と共同で「緑の原油」の研究を進めています。
 ここで対象にしている微細藻類は、池や温泉に生息しているシュードコリシスチスと呼ばれる新種の藻です。大きさは5マイクロメートル(200分の1ミリ)です。
 この新種の藻は、光合成活動によってディーゼルエンジンで使用できる軽油と同じ成分を含んだ油を作ることができるといわれます。
 もともと藻類は樹木に比べて二酸化炭素の吸収率が高く、藻類を育てる培養池は森林の10倍の二酸化炭素を吸収する能力があります。
 このため、この新種の藻から軽油と同じ成分の「緑の原油」を取り出すと共に、工場などから排出される二酸化炭素を藻に吸収させ、封じ込める(固定化といいます)ことで、CO2排出量の削減に役立てようとしています。
「緑の原油」とは? - 微細藻類のボツリオコッカスから軽油と同成分の「緑の原油」 -
 微細藻類から「緑の原油」を取り出す研究では、筑波大学が早くから取り組んできました。100種類以上の藻類を比較検討して、油の生産量が多いボトリオコッカスという種類の藻にたどり着きました。
 昨年6月に筑波大学の渡邉信教授らが発起人となって、微細藻類の研究を産業に役立てようと、出光興産やキッコーマンなどの民間企業40社と大学や研究機関などが集まって「藻類産業創成コンソーシアム」という組織が発足しました。
 微細藻類のすぐれた二酸化炭素の吸収能力や、藻類の油分である「緑の原油」を、本格的に産業活動で役立てようというものです。
 このほか、東京ガスと東京大学もボトリオコッカスの藻から、ディーゼルエンジンの燃料に使用できる軽油と同等の「緑の油」を取り出す研究を進めています。
 さらに、「緑の原油」を取り出した後のしぼりカスを、メタン発酵させてバイオガスを取り出します。東京ガスでは、このバイオガスを都市ガスに混ぜて利用することを検討しています。

- ミドリムシからジェット航空燃料。二酸化炭素の吸収にも威力 -
 このほか、微細藻類のなかのミドリムシの細胞から軽油と同等の成分を持つ油を取り出して、ジェット機の燃料に利用しようという研究が進められています。
 大手の資源エネルギー会社であるJX日鉱日石エネルギーと、東京大学で生まれたバイオベンチャーのユーグレナが共同で行なっているもので、2018年に実用化を目指しています。
 ミドリムシは、光合成によって二酸化炭素を吸収する量が杉の約20倍もあります。
 このため、東大発ベンチャーのユーグレナでは、火力発電所の排出ガスによってミドリムシを培養して、二酸化炭素の排出量を削減する研究も進めています。
 このベンチヤー企業は、すでに5年前から沖縄の石垣島でミドリムシの大量培養を行なっており、将来的には航空機のジェット燃料のほか、家畜の飼料としての利用も検討しています。
「緑の原油」とは? 《化石燃料時代から光合成燃料(緑の原油)時代へ》
 今私たちの文明社会は、何億年も前に死滅した動物や植物の化石からできた石炭や石油などの「化石燃料」が支えています。
 その化石燃料も近い将来枯渇して採れなくなってしまいます。それよりも地球の温暖化を防ぐため、これ以上化石燃料は使用できなくなります。
 化石燃料に代わる、地球にやさしい未来のエネルギーとして期待を集める究極のバイオ燃料が、かつて地球に生命を生み出した藻類が作る「緑の原油」なのです。
 人類の最初の文明を「石器文明」といいます。日本では縄文人による狩猟社会に当たります。やがて青銅器文明を経て「鉄器文明」の時代がやってきます。これによって、弥生人は米作を中心とした農耕社会を誕生させ、大きく発展させていきました。
 古代、中世、近世を経て、イギリスの産業革命で始まった明治以降の近代社会は、「化石燃料文明」の時代といえるでしょう。そして、化石燃料の次に来る私たちの今後の社会は何と呼ぶことになるのでしょうか?
 原子力の時代でしょうか、太陽光の時代でしょうか。それは、かつて地球に生物を誕生させた微細藻類による「光合成燃料」の時代と呼ばれるのではないでしょうか?
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