江戸時代から続く古紙のリサイクル【環境】

江戸時代から続く古紙のリサイクル


- 「静脈産業」とも呼ばれる再生資源業 -
 江戸時代の紙くず拾いをルーツに持つ古紙回収は、樽や俵などの容器の回収業から発展した空きビン回収業と同様に長い歴史を持っています。
 明治時代になって近代的な製紙産業が導入されると、古紙のリサイクルは民間の回収ルートを通じて集められ、製紙原料として揺るぎない地位を獲得しました。都市部を中心に大量に発生する古紙は、「街の森林資源」とも呼ばれ、パルプの不足を補う副原料として大きなウエイトを占め、現在でも製紙原料として欠かせないものとなっています。
 このため、製品の製造・販売を行なう商工業を「動脈産業」と呼ぶのに対し、これら資源回収業を「静脈産業」と呼ぶこともあります。


- 古紙の回収ルート -
 伝統的な古紙の再資源化ルートは、「建場」と呼ばれる古紙回収業者、工場などから大量に排出される古紙の回収を扱う「坪上」と呼ばれる業者、それに集められた古紙を受け取り、製紙原料化する古紙問屋の三者によって支えられてきました。
 つまり、一般家庭や町内あるいは学校で集められた古紙は、古紙回収業者が収集し、製紙原料問屋に納められます。一方、工場などで排出される大量に発生する古紙は坪上回収業者が引き取り、製紙原料問屋に製紙原料として運ばれます。市中古紙と産業古紙の関係は、一般廃棄物と産業廃棄物の関係に近いといえます。
 製紙原料問屋は、市場のバランスを考えながら古紙の在庫の増減を調整して行きます。そして、回収された古紙を選別して品質の安定化を図り、それらを圧縮・梱包して製紙原料として製紙会社に納入します。
 現在は、古紙の収集制度の多様化や分別収集の普及などで、三者の関係は以前ほど明確ではなく兼業するケースが目立っているようです。

江戸時代から続く古紙のリサイクル - 毎年増加する古紙回収率・利用率 -
 平成21年度の紙製品の生産量は約2689万トンで、そのほとんどが国内で消費されています。一方、古紙回収率・利用率も毎年高まり、平成21年度の古紙回収量は約2183万トン、古紙利用量は約1720万トンになっています。これを製紙原料全体に占める古紙の割合でみると、回収率は78・8%、古紙利用率は62・7%に達しています。回収された古紙のうち、段ボール古紙、新聞古紙、雑誌古紙で全体の80%を占めています。
 資源有効利用促進法で紙製造業は特定再利用業種指定され、古紙利用率を平成27年度までに64%にするように定められました。この目標を達成するには、古紙のリサイクルを一層推進するため、製紙会社では古紙利用技術の向上、消費者にとっては古紙利用商品に対する深い理解と排出時の徹底した分別が求められています。

【古紙回収は3R(Reduce・Reuse・Recycle)の原点】
- 地球環境にも優しい古紙回収 -
 地球の森林資源が伐採などで深刻な危機が叫ばれていますが、未だ抜本的な解決方法が見つかっていません。そうした中、木材を原料とする紙のリサイクルは非常に有効な環境保護対策といえるでしょう。また、地球温暖化問題に対しても古紙のリサイクルは大きく貢献しています。新しいパルプから紙を作る場合と古紙のリサイクルでは、CO2の排出量が大きく異なります。古紙の再生利用は、CO2排出量削減にも重要な役割を果たしているのです。
 企業でも裏紙の利用などさまざまな取り組みを強化し、紙屑の発生を抑制しています。また、名刺や封筒・便せんなどに再生紙を積極的に使用し、企業のイメージアップを図っています。さらに、特定の古紙回収業者と契約を交わすことで、機密文書などをシュレッダーにかけることなく溶解処理することで機密保持を図っています。
 そして、古紙のリサイクルで安価な紙が流通し、大きな経済効果が期待できるというメリットがあります。資源再生市場では、他の生産財と同様に処女原料を使用した場合の製造コストより安価になるように価格設定がなされているためです。

江戸時代から続く古紙のリサイクル - 利用率は限界に、輸出や多分野での利用に期待 -
 資源有効利用促進法で、古紙の利用率を平成27年度までに64%にまで高めるように求められていますが、現実はトイレットペーパーやラミネート紙を除く大半の紙は回収されています。段ボールやボール紙といった板紙はすでに90%に達しており、新聞や印刷情報用紙などは使用分野が限られているので利用率は限界に達していると見られています。
 このため、他産業の協力で古紙から固形燃料や建築用断熱材、パルプモールドなどの緩衝材などに活かす方法が考えられ、全体の1%強が使用されています。また、近年古紙の輸出が東南アジアを中心に急拡大し、平成21年度には487万トンもの古紙が輸出されています。
 江戸時代から日本国内で行なわれてきた古紙のリサイクルは、急成長するアジア経済を背景として輸出に大きくシフトするようになりました。反面、資源として海外に流出した古紙は、比較的人件費の安い国で製品化され、再び日本に輸入されることになります。こうした途上国の輸入紙製品を利用すればするほど、日本の製紙産業は赤字に転落する危険性をはらんでいます。
 古紙業界は、これまで国内でのリサイクルの受け皿として機能し、最近では輸出の拡大で活性化の傾向を見せています。しかし、この傾向が進めば進むほど国内産業が痛手を被るという二律背反状態が心配されます。
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